皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.1186 | 6点 | ストラング先生の謎解き講義- ウィリアム・ブリテン | 2010/09/27 18:07 |
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短編パズラーの書き手として、エドワード・ホックと並んでEQMMの常連作家であったブリテンの看板シリーズ、高校の化学教師ストラング先生もの14編が収録された連作短編集。
ほとんどの作品が、パズラーの王道をいく不可能犯罪ものですが、作者の律義な性格の表れか、トリックに捻りが不足していて真相が分かりやすいものが多かったのは少々残念。 しかし、あまり読まれないであろうマニアックな作品を次々出版し続ける論創社の編集方針に対して、採点にプラス1点を献上。 |
No.1185 | 7点 | 細い赤い糸- 飛鳥高 | 2010/09/27 17:43 |
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全く繋がりがないような4つの殺人のエピソードが4つの章ごとに描かれ、最後に予想外の構図が浮かび上がるというミッシングリンクもののサスペンス・ミステリ。
4つの事件の流れにある技巧を凝らすなど、書かれた時代を考慮すれば斬新なプロットで、派手さはないですが丁寧な人物描写と程良い伏線の張り具合も好感が持てた。ちょっと、ウールリッチの諸作を髣髴させるところがありました。 |
No.1184 | 6点 | 殺し屋- ローレンス・ブロック | 2010/09/26 18:01 |
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殺し屋ケラーを主人公にした連作短編集の第1弾。
泥棒バーニイやマット・スカダーのシリーズほど、洒落た会話が散りばめられてはいません。主人公である殺し屋の日常や趣味、仕事内容までも淡々と描かれている。 過度にハードボイルドに奔るでもなく、ウエットでもないケラーの造形は、どこにでもいる会社員と変わらないように見えるが、その人物がヒットマンであることで不思議なリアリティを醸し出しているように思えた。 流れるような文章はやはり職人芸の域で、各編とも読み心地がよかった。 |
No.1183 | 4点 | 保瀬警部最大の冒険- 芦辺拓 | 2010/09/26 17:33 |
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楽しんで書いたであろう作者ほどは、楽しめなかった。
古今東西の映画、探偵小説、SFなどのマニアックな蘊蓄をばらまきながら、スーパーマン的警部の活躍を描いたパロディ・アクション小説ですが、唐突で状況が分かりずらい場面転換と、ひとりよがりの文章で、読者を置き去りにしていると思う。 |
No.1182 | 8点 | 緋色の記憶- トマス・H・クック | 2010/09/25 18:20 |
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邦訳は本書が先ですが、前作「夏草の記憶」の基本プロットを踏襲したような、老境に入った主人公が少年時代に身辺で発生したある事件を回想するという形態をとっています。
冒頭の、新任女性教師がバスからチャタムの街に降り立つ映像的なシーンから、終幕の、事件関係者であったある女性のもとに主人公が訪れる現在の場面まで、文芸的な香りが横溢する文章で、引き込まれるように読みました。 読後は、瑞々しい少年時代の思い出と、独身のまま年老いた現在との対比で、じわじわと哀切感が込み上げてきます。 |
No.1181 | 5点 | 密会の宿- 佐野洋 | 2010/09/25 17:39 |
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連れ込み旅館を経営する未亡人と同居人の久保を探偵役にした連作ミステリ。主人公の名前を変えているが、初期の長編「高すぎた代償」の設定をそのまま活かした軽妙な短編集になっています。森本レオ主演で何作かテレビ映像化された。
マンネリ化を嫌いシリーズ探偵を否定してきた著者には珍しく、本書を含め当シリーズは4冊でています。その都筑道夫との名探偵論争の持論を自ら立証するように、後半の作品はマンネリそのものですが。 |
No.1180 | 6点 | 王者のゲーム- ネルソン・デミル | 2010/09/24 18:10 |
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偏見かもしれないが、同じ作者の作品でも他の出版社で出ているものは非常に面白いのに、講談社文庫になるととたんにつまらなくなってしまう気がする。ゴダード、コナリーしかりで、このデミルの作品もそう感じた。
物語は、JFK空港に着いた航空機乗客全員の惨事から、主人公とテロリストとの対決と、序盤はこの種のサスペンスの水準をクリアしていると思いますが、下巻に入ってから間延びした展開が続き、集中して読み続けるのが少々苦しかった。 主人公ジョン・コーリーの皮肉混じりのユーモラスな会話は前作同様さえていて楽しいが、物語から浮いた感じもしました。 |
No.1179 | 5点 | アリバイの唄- 笹沢左保 | 2010/09/24 17:39 |
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元警視庁捜査一課刑事のタクシー運転手・夜明日出夫シリーズの第1作。
このシリーズは、毎回トンデモ系のアリバイ・トリックを見せてくれますが、アリバイ・トリックのために何億円も支出するという犯人は前代未聞だろう、しかも、あの程度の殺人動機で。費用対効果を考えるとバカミスと言っていい作品。 探偵役のニヒルでストイックな造形は作者の定番ながら、木枯し紋次郎がタクシー運転手をやっているように思えて笑える。 |
No.1178 | 7点 | 完璧な絵画- レジナルド・ヒル | 2010/09/23 17:15 |
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英国ミステリ教養派の伝統を継ぐレジナルド・ヒルのダルジール警視シリーズ第13作。
ヨークシャー地区の片田舎エンスクーム村という魅力的な舞台設定を得て、古典パズラーでいう田園ミステリのテイストが全開で楽しく読めた。 今作は、醜悪顔でゲイという部下のウィールド部長刑事が主役を張って、個性をいかんなく発揮してくれています。多視点で語られていくバラバラの村のエピソードがまとまって、最後にどんな構図の絵になるか、それは読んでのお楽しみということで。 |
No.1177 | 8点 | グランド・ミステリー- 奥泉光 | 2010/09/23 16:45 |
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真珠湾攻撃さなかの、着艦戦闘機内という不可能状況での飛行士の変死から始まる壮大な物語は、太平洋戦争を背景にした歴史ミステリ。
主人公の眼を通してリアリティのある戦記ものの物語が展開していきますが、予言者や謎めいた研究所が登場してから徐々に様相が変貌し、伝奇ロマン風から最後はなんと歴史改変SFになっています。 ”二つの現実”と過去と現在が並行して描かれるなど、読者を混乱させるプロットはやや難解と思わせるところもありますが、文学性の高い異色のジャンルミックス・エンタテイメント小説で不思議な読書体験をさせてもらった。 |
No.1176 | 7点 | 裁くのは誰か?- ビル・プロンジーニ | 2010/09/22 17:58 |
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改選を控えた米国大統領の側近が次々と謎の死を遂げていくというポリティカル風のサスペンス、なんですが最後に明らかになる卓袱台返し的な仕掛けによって、毀誉褒貶入り乱れる怪作になっています。
この叙述方法がフェアかアン・フェアかと聞かれれば、アン・フェアと断言できますが、どんな手を使ってでも読者を驚かしてやろうという作者の意気込みは買えます。 せめて、複数の視点人物のうちジャスティス警護官とハーパー補佐官の部分を一人称記述にしていれば....などと、思わず作者を擁護したくなる。 |
No.1175 | 5点 | 三つの部屋の九つの謎- 海渡英祐 | 2010/09/22 17:30 |
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3つのシリーズ探偵ものの短編9編収録されているのがタイトルの由来。1つのシリーズものでは1冊が賄えない作品数のため、このような形になったものだろう。
怪盗スーハーは、海外作品によくある軽妙な泥棒探偵もので、設定、トリックとも目新しさのない連作でした。後半はバーネット探偵社の模倣になっている。 女性カメラマンを探偵役にしたシリーズでは「引伸した真実」が、男女探偵コンビものの定型を外した結末が意表を突く。 テレビのご対面番組でタレントの思い出の人を捜すという「探し屋」探偵が、私立探偵小説を捻った設定で面白かった。アリバイ崩しや密室もののトリックを入れたハードボイルド・タッチの作風で、2編で終えるのは惜しいと思わせる内容でした。 |
No.1174 | 5点 | 殺人混成曲- マリオン・マナリング | 2010/09/21 18:31 |
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大西洋航路の豪華客船上の殺人を扱った本格ミステリ。と書いても本書の特徴をなんら表現していない。
本書のウリは、ポアロ、クイーン、ピーター卿、ネロ・ウルフ、ペリイ・メイスン、マイク・ハマーなど、偶然9名の有名な現役名探偵が乗り合わせて、協調して事件を解決するプロットで、パスティーシュの大判振る舞いです。 しかし、この設定でこれだけ面白くないミステリになるとは思わなかった。ようするに探偵役が多すぎて、推理合戦ではなく、リレー形式で部分的に捜査に関与するだけなので、消化不良という感じです。 翻訳は都筑道夫他となっていて、9名の探偵パートで9名の翻訳者(マイク・ハマーは田中小実昌ね)を割り当てるなど、編集者は涙ぐましい趣向を凝らしているんですが、肝心の中身が伴っていませんでした。 |
No.1173 | 8点 | ガダラの豚- 中島らも | 2010/09/21 18:00 |
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超能力と新興宗教にアフリカの呪術、怪しげなアイテムを次々と繰り出して、読者を躁状態のまま最後まで引っ張っていく、この筆力はすごい。宗教・民俗学的な記述も多いが全く退屈と感じなかった。
超常現象の仕掛けを暴くトリック小説であり、アフリカに舞台を移した秘境冒険小説であり、オカルト紛いの呪術師との対峙によるホラー要素もある。超大作ながら途中で本を置くことが出来なかった、まさに総合エンタテイメント小説の傑作。 |
No.1172 | 6点 | 嘲笑う闇夜- ビル・プロンジーニ | 2010/09/20 16:19 |
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片田舎の女性連続切裂き魔を扱ったサイコ・サスペンス。マルツバーグとの合作第1弾。
文庫解説の折原一が書いているが「木製のジェット・コースター」という形容がピッタリで、カーブの毎にガタピシ揺れてゴールまで壊れずに到着できるのかという危うさが見え隠れするプロットでした。 後の「裁くのは誰か?」同様に、切裂き魔を含む複数の人物の多視点でそれぞれの内面描写を入れながら、場面転換を多用したスピード感ある展開で楽しめた。新聞の見出し記事で終えるエンディングはなかなか衝撃的だ。 |
No.1171 | 6点 | 死の命題- 門前典之 | 2010/09/20 15:58 |
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閉された雪の山荘を舞台にした「そして誰もいなくなった」型の本格ミステリ。
トンデモ系の個々のトリック、プロット全体の大仕掛け、カブト虫の亡霊の爆裂真相と、バカミス本格パズラーの王道を行く怪作でした。改稿があったにしても、後の鮎川賞「建築屍材」より数段出来がいいし面白かった。 |
No.1170 | 6点 | 俺たちには今日がある- トニー・ケンリック | 2010/09/19 15:33 |
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初期のスラプスティック・コメデイの一冊。余命1か月を宣告された男女2人が、怖いものなしの強みで暗黒街のボスに対峙するというストーリー。
素人が玄人集団に対して戦いを挑むというプロットは「バーニーよ銃をとれ」に通じるところがありますが、爆笑度は作者の作品のなかでもトップ・クラスだと思います。 また、毎度各作品に懐かしの名画をもじって、プロットに応じたしゃれた邦訳タイトルを付ける上田公子さんにも拍手。 |
No.1169 | 5点 | 夜宴―美少女代理探偵の殺人ファイル- 愛川晶 | 2010/09/19 15:11 |
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美少女代理探偵・根津愛シリーズの長編第1作。
扼殺死体が運転する車が高速道路から墜落。比較的長尺の物語をこの一つの不可能状況のみで引っ張っているのは結構キツイものがあります。ノベルズ版では解決編の部分を袋とじにしていますが、パズラーの趣向というより図解が読者の目に入らない配慮のようです。力技のトリックに対して、実際の事例を提示しての説明がくどいのは逆効果のような気がします。 |
No.1168 | 5点 | ミスター・ディアボロ- アントニー・レジェーン | 2010/09/18 16:51 |
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シルクハットにマントの謎の怪人、閉鎖空間からの人間消失に密室殺人と、前半部で立て続けにカーもどきの派手な展開を見せてくれますが、中盤以降は失速ぎみで、真相も分かりやすくやや拍子抜けでした。
しかし、よくこんなマニアックな本格ミステリを捜してくるなあと、扶桑社文庫には感心。よって採点にプラス1点。 |
No.1167 | 5点 | シェルター終末の殺人- 三津田信三 | 2010/09/18 16:32 |
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三津田信三シリーズの番外編。
核爆発と同時に核シェルターに閉じ込められた作家の三津田ら見学者6名内に発生する連続殺人、そして・・・誰もいなくなった。 途中までサスペンス・ミステリとして面白く読めたが、もともとメタ・ミステリと分かっていても、この結末には壁本扱いされてもしょうがないでしょう。 |