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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2475件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1535 7点 メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 2011/06/08 18:58
とかく”挑戦的な作品集”とか”問題作!”という煽りの紹介文は眉唾ものだと思っていましたが、本書はまさに本格ミステリに対して挑戦的な作品が揃っていました。

なかでも「答えのない絵本」が極北でしょう。非常にロジカルな消去法による容疑者絞り込みの末の真相が、コレかよ!という脱力感がなんとも(笑)。好みでいえば「九州旅行」のトボケた味も捨てがたい。
不条理な事件が、メルの不条理な解答で収束される話ばかりなので、結末にカタルシスを求める方には壁本相当かも。

No.1534 6点 魔術師を探せ!- ランドル・ギャレット 2011/06/07 19:46
科学の代わりに魔術が発達したパラレル・ヨーロッパを舞台背景にした本格パズラー、主任捜査官ダーシー卿&魔術マスター・ショーンの活躍を描く連作中短編集。米澤穂信「折れた竜骨」の流れで再読してみました。

「その眼は見た」は、城館内の殺人の犯人は?というオーソドックスなフーダニット。被害者の網膜に残った犯人の映像という手掛かりにヒネリを加えていて扱いが非常にユニーク。
「シュルブールの呪い」は、英仏帝国VSポーランド王国というシリーズを通した構図を背景にしたスパイ謀略戦が楽しめる作品。船上の活劇などのテイストは「折れた竜骨」を髣髴させます。
「藍色の死体」は、死体全体を染色した理由の謎が魅力的なホワイダニットの力作中編で、完成度では編中のベストでしょう。

No.1533 5点 片思いレシピ- 樋口有介 2011/06/06 18:16
”せつない探偵”柚木草平の愛娘・加奈子を主人公にしたシリーズの番外編。
父娘の電話のやり取りで笑わせてくれますが、いくらませているといっても小学6年生の娘が使うとは思えない言葉を連発させるので気になってしょうがなかった。語彙が豊富すぎるでしょう。
塾講師殺しの事件のほうは、探偵団を組む友達の柚子ちゃん一家の濃いすぎるキャラクターに圧倒されて、主人公があまり活きていないように思えた。

No.1532 6点 凍てついた7月- ジョー・R・ランズデール 2011/06/05 22:25
忍び込んだ強盗を正当防衛で射殺した主人公が、逆恨みで強盗の父親から家族を狙われることになるという序盤の展開までは、よくある正統サスペンスかと思っていたら、突如ストーリーが変な方向に急展開して引き込まれた。
文体も最初はシリアス一辺倒な感じだったのが、構図が変わると共にハップ&レナードものを思わせるくだけた語調になってくるのが面白い。
文庫で250ページほどなので読み応えという面では物足りないけれど、毛色の変わったサスペンスを求める人にはお薦め。

No.1531 6点 私たちが星座を盗んだ理由- 北山猛邦 2011/06/04 21:39
ノンシリーズのミステリ短編集。
初期作のような物理トリックを用いたものはなく、最後の一撃でサプライズを演出した作品が多い。
以下、察しのいい人にはネタバレぎみですが、

メルヘンチックな語りとラスト一行で明かされる真相との落差に唖然とさせられる「妖精の学校」が素晴らしい。”その場所は何処にも属さない!”という紙片の存在がなかなか効果的。これは物理ではなく地理トリックというべきでしょうか。
あと、「少年検閲官」に通じるような異世界本格「終の童話」も印象に残った。
「嘘つき紳士」は凡作だが、他の現実的な設定のミステリ「恋煩い」や表題作も水準以上の出来だと思う。

No.1530 6点 ハリウッド・ボウルの殺人- ラウル・ホイットフィールド 2011/06/02 22:20
短い期間ながら’20~30年代半ばまでの約10年間、当時の有名なパルプ雑誌「ブラック・マスク」でダシール・ハメットと並ぶ人気作家だったホイットフィールドの私立探偵小説。
文庫解説によると、短編は多数同誌で発表しているものの、ハードボイルド長編は3作のみ、しかも私立探偵を主人公にしたものは本書だけらしい。

ハリウッド・ボウル(野外の円形劇場)での衆人環視下の殺人を発端とする本書、読後の第一印象は意外と謎解きの骨格が整ったフーダニット・ミステリだというもの。また、トーキーに移行した映画業界の変貌や、禁酒法によるギャングの横行をミスディレクションにするなど、この時代の背景がプロットにうまく溶け込んでいるように思える。ただ、主人公のベン・ジャーディンの人物造形がちょっと把握しずらいのが難点か。
書誌的な興味で読んでみたけれど、思っていた以上に面白く読めた一冊。

No.1529 5点 麒麟の翼- 東野圭吾 2011/05/31 18:49
ヒューマン・ドラマとしてはありがちのストーリー。
データが後出しなので謎解きミステリを読むという楽しみもあまりなかったが、加賀恭一郎の観察眼の鋭さは今作も健在で、そこは面白かった。

No.1528 6点 スリー・パインズ村の不思議な事件- ルイーズ・ペニー 2011/05/30 17:44
カナダ・ケベック州のスリー・パインズという片田舎の小村を舞台にした本格ミステリ、ガマシュ警部シリーズの第1作。

アガサ賞作家だから何となく”お茶とケーキ”派のミステリかと思っていましたが、ガマシュを中心とした捜査チームの警察小説的な味わいもあります。自己主張の強い上昇志向の新米女性刑事が問題児でいいアクセントになっている。
森の中で元教師の老女が狩猟弓矢で殺された事件の物語のほうは、複数の村人たちの内面描写が頻繁に挿入され、なかなかストーリーが進展しないので終盤近くまで乗り切れなかった。次作に期待しよう。

No.1527 6点 三題噺 示現流幽霊- 愛川晶 2011/05/28 16:43
落語ミステリ、神田紅梅亭寄席物帳シリーズの4作目。

「多賀谷」「三題噺 示現流幽霊」とつづく二話は、ともに落語ネタとシンクロする現実の事件を、機転を利かせて福の助が高座で謎解くというシリーズ定番のプロットで、相変わらず安定した内容でした。
連作ミステリらしい仕掛けが炸裂する「鍋屋敷の怪」が異色作ながら出色の出来だと思う。吹雪のクローズド・サークル風の発端から、終盤の構図の逆転はなかなか圧巻で、落語ネタで見立てた”犯人”の動機に関する伏線も鮮やか。

No.1526 6点 ムーンライト・マイル- デニス・ルヘイン 2011/05/25 22:10
私立探偵パトリック&アンジー・シリーズ、11年ぶりの最新作にして最終巻。物語も現実世界と同様の年月を経過しており、パトリックも40過ぎの中年のオジサンというのがなんとも寂しい。
本作は「愛しき者はすべて去りゆく」の続編というか後日譚で、当時誘拐された幼女で16歳になったアマンダが中核となって、前回と相似形のような事件にパトリックが巻き込まれていくというストーリー。
正直、事件を収める手法は終盤グダグダになってしまった感じがするが、パトリック&アンジー、そして幼馴染のブッバの三人+アルファのラストシーンは悪くない。

No.1525 6点 追憶のカシュガル- 島田荘司 2011/05/24 18:27
御手洗潔シリーズの中短編集。
といっても、奇想天外な謎や大技トリックが出て来ないどころか、御手洗が推理する場面もありません。70年代に世界を放浪した御手洗が各地で出会った人物から聞いたエピソードを回想し語るという構成で、社会的弱者への差別と奇蹟の物語が中心になっています。
中編の2作が印象に残った。ともに、戦争を背景に花(曼珠沙華と桜)をモチーフにした、ある人物の悲哀あふれる生き様を描いている。とくに「戻り橋と悲願花」のラストシーンの奇蹟は感動的。いつまでも余韻が残る名作でしょう。

No.1524 6点 ファーガスン事件- ロス・マクドナルド 2011/05/23 18:58
ロス・マクといえば私立探偵リュウ・アーチャーですが、本書は、50年代後期に”家庭の悲劇”をテーマとするスタイルを確立して以降の作品のなかで、唯一アーチャーが登場しない長編です。

石油成金ファーガスン大佐の妻で元女優のホリーが誘拐された事件に関わることになる弁護士ガナースンの捜査方法は、事件関係者と会い、”質問者”となって彼らの虚飾を剥いでいくというアーチャーの探偵法と同じです。
ただ、彼には家庭があり、妻とまもなく誕生する子供についてたびたび言及されるなど、あまりハードボイルドっぽくないですね。このあたりが一般的に評価が高くない理由かもしれませんが、複雑なプロットとどんでん返しというロス・マクの特徴は本書も健在です。

No.1523 6点 科学捜査官- 島田一男 2011/05/22 12:15
円城寺警部を中心とした科捜研のメンバーが取り組むのは、奥多摩の雑木林で発見された女の白骨死体の身元割り出し。

40年近く前に書かれた科学捜査だから、もう時代遅れの内容だろうと思っていましたが、いま読んでも充分面白い。
頭蓋骨に肉付けして復顔する名人の技官、陰毛分析にとことん執着する技官、嘘発見器のエキスパートの女性技官など、円城寺をとりまく科捜研の面々が個性的で、集団捜査小説のエキスを堪能できます。
真相はミエミエというところもありますが、そこに至るまでの捜査のプロセスを楽しむタイプのミステリで、本書を契機に当時人気シリーズになったのもよくわかる出来栄え。

No.1522 6点 作家の妻の死- ロバート・バーナード 2011/05/20 22:33
生前あまり評価されなかった作家が突如脚光を浴び始め、過去の作品の再販で膨大な版権料が見込まれることから、残された家族たちの間で思惑が入り乱れ緊張が高まるなか先妻が焼死体で発見される、というのがあらすじです。
一癖も二癖もある登場人物の書き分け、人間心理のシニカルな描写など、この単発作品もバーナードの持ち味がよく出ています。とくに、一つ屋根の下に住む先妻と後妻の二人の老未亡人の舌戦の章は絶妙。
大学講師の素人探偵が突き止めた物故作家に関する真相には既読感もありますが、細かく伏線が張られていて好印象の本格ミステリでした。

No.1521 5点 カササギたちの四季- 道尾秀介 2011/05/19 18:31
このところ文芸寄りで暗欝な物語を続けて出してきた作者ですが、本書は一転して軽妙な連作ミステリでした。

小さなリサイクルショップを経営する男二人(ダミーの探偵役と影の探偵役)に女子中学生を加えた3人組が、商売がらみの”日常の謎”に遭遇するというのが共通のパターンで、いずれも親子の絆がテーマになっている。
各話ミステリ的な仕掛けは小粒で真相もサプライズ感がないですが、人の心を解き明かす手法自体は巧いと思う。

No.1520 6点 病める巨犬たちの夜- A.D.G 2011/05/17 18:53
フランスの片田舎の村を舞台にしたノワールなミステリ。
村の休閑地にヒッピー集団が住みついた事を契機に、老譲殺しや墓穴の死体の入れ替りと、次々と発生する事件に対し、酒場に屯する村人たちが喧々諤々と推理を戦わせる序盤の展開は、集団探偵ものの本格ミステリの様相でしたが、途中から変な方向に話がずれていき、非常に流れを把握しずらい小説でした。
語り手である村人の「おれ」の正体が終盤まで明示されないのもストレスがたまる構成でしたが・・・・結末でビックリ。
読みずらい文章が難点ながら、がまんして最後まで読めばちょっとしたサプライズを楽しめます。

No.1519 5点 獅子真鍮の虫- 田中啓文 2011/05/15 18:21
ジャズ・ミステリ連作短編集の第3弾。
日常の謎を解くというより、ジャズ・ミュージシャン仲間のトラブル仲介のような話もあって、ミステリとしては物足りない内容のものが多かった。作者の書きたい事もどちらかというとジャズに関する蘊蓄にあるのでしょうが。
楽器など貴重品の盗難の意外な動機という、同じような趣向がつづくのも工夫がないように思える。

No.1518 6点 砂糖とダイヤモンド- コーネル・ウールリッチ 2011/05/14 19:10
生誕100周年を記念して数年前に白亜書房から出た短編集。1巻目の本書には、’34年から’37年に雑誌掲載されたミステリ作家に転身しての最初期の作品が収められています。

ミステリ作品の第1作「診察室の罠」など、親友や肉親を窮地から救うため主人公がニューヨークの街中を奔走するというような、アイリッシュ十八番のプロットが最初から確立されている。共通するのは軽妙なオチとハッピー・エンドで、いずれも後味がいい。
「夜はあばく」が編中では異色作。妻が連続放火魔だと気付いた消防士を主人公にしたサスペンスで、珍しく予定調和の物語に終わっていない。これが個人的ベスト。

No.1517 6点 柳生十兵衛秘剣考- 高井忍 2011/05/12 17:32
隻眼の剣豪・柳生十兵衛と男装の女武芸者のコンビが、達人達の剣術にまつわる謎を解く連作ミステリ。

本格パズラーとして面白かったのは、第2話の「深甚流”水鏡”」。遠隔殺人+足跡のない殺人ものだが、フーダニットとしても秀逸で編中ダントツのベスト。
最終話の「新陰流”月影”」は十兵衛自身の事件で、連作ミステリならではの騙りで構図の反転をみせてくれる。
他の作品はミステリ的な観点よりも、”武芸帖”風の面白さに重点が置かれているように思えるが、語られる史実がマニアック過ぎるためコアな時代小説ファンでないと楽しめないだろう。

No.1516 7点 リンカーン弁護士- マイクル・コナリー 2011/05/11 18:31
高級車リンカーンの後部座席を事務所代わりにロサンジェルスを駆け巡る刑事弁護士ミッキー・ハラー登場。

コナリーの新シリーズはハードボイルド警察小説ではなくリーガル・サスペンスで、暴行事件の弁護を請け負ったハラーが邪悪なある人物によって窮地に陥るという巻き込まれ型のサスペンスでもある。
冒頭の引用文「無実の人間ほど恐ろしい依頼人はいない」というのは、同じ弁護士だったハラーの父親の言葉で、これが本書のテーマだろう。物語前半は、ハラーを中心とした人間関係や仕事ぶりに筆を費やしていてやや冗長と感じたが、法廷場面から俄然面白くなった。やはり、コナリーは何を書かしても巧い。

シリーズ第2作は、”異母兄弟”であるハリー・ボッシュ刑事との共演らしい。今年中に読めるのだろうか?これも楽しみだ。

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