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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1486 7点 冷戦交換ゲーム- ロス・トーマス 2011/04/02 18:20
まだ「マックの店」が西ドイツのボンにあった60年代の東西冷戦時代を背景にしたスパイ冒険小説。パディロ&マコークル・シリーズの第1作で、作者のデビュー作です。
本筋は、米国の亡命数学者たちを東ベルリンから脱出させるというエスピオナージュではあるものの、謀略冒険ものの面白さと同時に、主役コンビの友情、ハードボイルド的な軽口のやり取りが印象に残る作品。いまどき流行らないジャンルかもしれませんが、嗜好のど真ん中で当時はけっこう嵌りました。

(補足追記)
「マックの店」というのは、マコークルが経営するカフェ・バーの名前です。決してハンバーガー店のことではありません(笑)。

No.1485 6点 恐ろしき四月馬鹿- 横溝正史 2011/04/01 19:04
最初期のミステリ短編集(角川文庫版)。
単行本で出た「恐ろしき四月馬鹿」を文庫化に際して2巻に分かち、1巻目の本書には大正期に発表された14編が収録されています。(もう一冊の「山名耕作の不思議な生活」には昭和初期の作品を収録)。
表題作は、大正10年(1921年)に「新青年」の懸賞に応募・入選した作者のデビュー作品で、短編というより掌編小説に近い枚数ながら、洒落たドンデン返しの好編です。エイプリル・フールは戦後のお遊びかと思っていたら、大正時代から一般化していたとは知らなかった。
ほかに、本邦初と言われる色盲トリック(赤緑色盲に関し事実誤認がある)を使った「深紅の秘密」など、総じてユーモアとペーソスを基調とした軽妙な作品が多い。

No.1484 6点 検察側の証人- アガサ・クリスティー 2011/03/31 18:28
戯曲版は初読。傑作ミステリ劇としてあまりにも有名なため、このプロット&トリックに新鮮なサプライズを味わえなかったのは残念ですが、よく出来た法廷ミステリには違いありません。
ただ、古典ミステリで頻繁に使われる変装トリックが好きでないのと、アレが簡単に証拠採用される点に若干違和感を感じたのでこの採点です。

No.1483 4点 小樽・カムイの鎮魂歌- 鯨統一郎 2011/03/30 18:54
作家・六波羅一輝の推理シリーズ第4弾。
日本各地の伝説に絡めた(この作者にしては)まともな本格ミステリシリーズですが、アイヌの秘宝や義経北行伝説については、まったくの付けたし。看板に偽りありで、ごく平凡なトラベル・ミステリでした。探偵役が北海道まで飛んで事件に関わる経緯を考えると、この真相は納得いきません。

No.1482 6点 日本で別れた女- リチャード・ニーリィ 2011/03/29 18:41
叙述の技巧を駆使し、サプライズ・エンディングを用意したミステリにとことん拘った作者の作品のなかでは、「心ひき裂かれて」と並ぶトリッキィな作品だと思います。折原一の諸作を髣髴させるものがあります。
序盤に挿入された、終戦直後の日本を舞台にした”私小説”が巧妙なミスディレクションになっており、ダミーの真相に続くどんでん返しと、余韻を残すラストの処理も絶妙。
別題を付けるとしたら、「ジャパネスク症候群」がピッタリでしょう。

No.1481 6点 メビウスの殺人- 我孫子武丸 2011/03/28 18:03
速水三兄弟妹シリーズの3作目を再読。
ミッシングリンクの真相はゲームに関するものと察せられるが、「し●と●」と「●●並べ」というのには脱力。
シリアルキラーの名前・椎名俊夫を最初から明示しているところは、バカミス版「殺戮にいたる病」という感じでしょうか。

No.1480 6点 土曜を逃げろ- チャールズ・ウィリアムズ 2011/03/27 10:17
鴨撃ち場での殺人事件で保安官から事情聴取され、帰宅すると今度は妻の死体を発見し容疑者になってしまう「私」。
小品の作品ではありますが、60年代に書かれたものとしては登場人物の造形がしっかりしており、展開もスピーディで楽しめた。
「私」の秘書バーバラの機転の利いた行動が読みどころかなと思いますが、そのぶん、主人公一人の逃亡サスペンスという味わいを減じている感じもする。

No.1479 5点 夏油温泉殺人事件- 中町信 2011/03/27 09:49
推理小説作家・氏家周一郎シリーズ(旧題「不倫の代償」)。
温泉旅行中のマイクロバス転落事故の最中の殺人事件を、妻の早苗とともに真相究明に乗り出すが・・・・。温泉旅行に目撃者の記憶喪失、連続殺人にダイイングメッセージという例によって大いなるワンパターンです。
プロローグにある、関係者の独白が頭に残っていると逆に騙されます。

No.1478 5点 俺はレッド・ダイアモンド- マーク・ショア 2011/03/25 17:38
パルプマガジンの蒐集が趣味で唯一の生甲斐であるタクシー運転手サイモン。女房にその蔵書をすべて処分されたことで、人格に異変が起こり、ブラック・マスク誌の架空のハードボイルド探偵になりきってしまうというストーリー。
リュウ・アーチャーやサム・スペードが活躍する同じ世界で、B級ハードボイルドを展開していますが、ハチャメチャなドタバタ・ハードボイルドだと思っていたのに、内容自体は意外とまともなタフガイもので、やや拍子抜けの感があった。

No.1477 5点 0の殺人- 我孫子武丸 2011/03/25 17:38
速水三兄弟妹シリーズの2作目を再読。
結構凝ったアイデアの仕掛けがある作品なのに、まったく内容を憶えていなかった。こういう真相は半分肩透かしと感じてしまうからかもしれない。
タイトルを素直に読めば真相そのものズバリですが、前作「8の殺人」の存在がミスディレクションになっているように思う。

No.1476 6点 巨匠を笑え- ジョン・L・ブリーン 2011/03/24 18:23
パロディ・ミステリ短編集。原書から日本で馴染みのない作家の2編を除いて、20編収録されています。

個人的ベストは、アシモフ風「白い出戻り男の会」。”黒後家蜘蛛の会”をパロるとともに、ロボット工学三原則の裏をつくトリックまで設定していて一応本格ミステリになっている。

他には、独特の美文調と街を擬人化した文章のエド・マクベイン風「混みあった街」と、数行ごとに出て来るしゃれた比喩表現と複雑な家族関係を描いたロス・マク風「魔の角氷」の2編は、その文体模写ぶりを笑え。
ディック・フランシス風の「重傷」はタイトルを笑え。
ディクスン・カー風「甲高い囁きの館」は、密室トリックのバカミスぶりを笑え。

その他の、クイーン、クリスティ、ハメット、エドワード・ホック等はいまいち笑えなかった。翻訳は三人の訳者で分担していますが、翻訳ミステリのパロディの良否は、どうしても翻訳者の技量に左右されるようだ。

No.1475 6点 もろこし紅游録- 秋梨惟喬 2011/03/23 18:42
中国を舞台にした歴史ミステリ連作中短編集、通称”銀牌侠”伝説シリーズの第2弾。
本シリーズは、金庸の武侠小説や山風の忍法帖を髣髴とさせる世界観で謎解きが行われるというユニークな本格ミステリで、銀牌という共通するアイテムはあるものの、時代(紀元前の春秋戦国時代から清朝末期まで)も主人公も異なる4編が収録されています。なかでは、武侠小説とホワイダニット・パズラーの融合という点で「殷帝之宝剣」が秀逸だと思う。
風水師の弟子になるラノベ風少女のキャラが魅力的で、物語性豊かな中編「風刃水撃」も捨てがたい味がある。是非とも彼らを主人公にした続編を出してもらいたい。

No.1474 6点 夜の来訪者- プリーストリー 2011/03/22 18:39
岩波文庫で160ページほどの戯曲版ですが、濃厚なサスペンスと余韻の残る結末を備えたミステリ劇の佳品でした。
裕福な実業家一家4人と娘の婚約者が同席するディナーの途中に、突如訪れたグール警部と名乗る男が、自殺した女性と彼ら5人との深い関わりを暴き次々と告発していくというストーリー。
解説によると、時代設定が第一次大戦前になっているのは、根底に作者の社会派寄りのメッセージを込めるためのようで、また、グールという警部の名前にも深い意味があるようですが、最後のどんでん返しといい純粋にミステリとして楽しめます。

No.1473 7点 犬神家の一族- 横溝正史 2011/03/10 18:39
メディア・ミックスのハシリとも言える角川商法のキャッチ・コピー「観てから読むか、読んでから観るか」に乗せられて、市川崑監督の映画を先に見たためか、原作の方の印象は意外と薄いです(映画の映像美の印象が強すぎるというべきか)。自分は”読んでから観る”派なんでしょう、たぶん。
本作は、遺産相続がらみの連続殺人という、ある意味ベタな本格ミステリの定型を創り上げたという点で作者の代表作とひとつと言っていいかもしれません。しかし、佐兵衛翁の遺言はつくづく理不尽で、ミステリ的に都合のいい内容だなあ(笑)。

No.1472 6点 金曜日ラビは寝坊した- ハリイ・ケメルマン 2011/03/09 20:47
ラビ(ユダヤ教の律法学士)デイヴィッド・スモールが探偵役のシリーズ第1作。久しぶりに再読。
教会の敷地内で見つかった女性の絞殺死体を巡り、ラビ自身も容疑者として事件に巻き込まれる、というのがあらすじです。信徒会のメンバーを中心に、ユダヤ人社会やラビの契約更新問題が随所に描かれていて、作品世界を丁寧に構築しています。
ミステリとしては決して派手さはないものの、車に残されたハンドバックから事件の様相を推理するシーンや、真犯人特定の場面など、名作「九マイルは遠すぎる」に劣らないロジックを披露しています。

No.1471 5点 ダブル・プロット- 岡嶋二人 2011/03/09 20:12
既刊の短編集「記録された殺人」に未収録作品3編を加えた増補版。
そのうちの「こっちむいてエンジェル」と「眠ってサヨナラ」は、女性編集部員を主人公にした連作(シリーズは2編で頓挫)で、死体が出て来る割に軽いノリは、山本山シリーズに似た味わい。第1話に出て来る女性作家のキャラが面白く、そっちが主人公だと思ってしまった。
表題作の「ダブル・プロット」は、岡嶋二人の一人(おそらく井上さん)が探偵役の異色作。”あとがき”の裏話にあるように、これはやっつけ仕事の感があった。

No.1470 7点 大いなる救い- エリザベス・ジョージ 2011/03/08 20:52
伯爵の家系をもつリンリー警部シリーズの1作目。
ハヤカワミステリ文庫の出版順に「ふさわしき復讐」から読んだのが間違いだったのか、以前は”ハーレクイン・ロマンス風味のP・D・ジェイムズ”という感じで合わなかったが、他の書評サイトを見て興味が再燃し読んでみました。
この小説の謎の核心は、被害者の娘で容疑者のボビーに関する”ホワイ”に尽きるのだけど、最後に明かされる真相には本格ミステリの枠に収まらない衝撃と陰惨さがあった。
被害者を巡る人間関係が複雑なのは、ある種ミステリの常道といえますが、捜査側の人間ドラマまでもこれだけ重厚に描いているのは珍しい。リンリーと親友の鑑識担当セント・ジェイムズを軸にした男女の”四角関係”に加え、部下の女性刑事ハヴァーズの出身階層からくるリンリーへの辛辣な反抗心など、少なくともシリーズ初期作は、読み通したくなる魅力がある。

No.1469 5点 月曜日の水玉模様- 加納朋子 2011/03/07 20:44
一般事務職のOLを主人公にした日常の謎系の連作ミステリ。
各編とも、どうってことない謎で、ミステリとしては物足りないのだけど、作者の持ち味である”癒し系”テイストが心地よい読後感を与えてくれた。
陶子の大阪出張編「土曜日の嫁菜寿司」と最終話の「日曜日の雨天決行」がよかった。

No.1468 5点 日曜日は埋葬しない- フレッド・カサック 2011/03/06 17:30
小説家志望の主人公とその恋人、出版代理人の夫婦。主要登場人物がこの4人のいかにもフランス・ミステリらしい構成。
仕事も恋愛も順風満帆だった主人公が、ある人物のひと言によって奈落に落ちていく様を描いたサスペンスですが、バリンジャーの某作とネタが被るラストのサプライズはちょっと微妙かな。
訳文が古くて読みずらい。平岡敦氏などの新訳で読めば、印象も変わってくるかもしれません。

No.1467 5点 A先生の名推理- 津島誠司 2011/03/06 17:03
黒ぶち眼鏡にベレー帽、鎌倉に住むココア好きのA先生が喫茶店で謎解きをする連作ミステリ。
深夜に出没する光る怪人、消えては現れる峠の小屋、隕石に付着したエイリアンによる連続殺人など、提示される謎は奇抜で派手なものばかりですが、真相はいずれも強引で説得力に欠けます。
真っ当な文体がバカミス的トリックと合っていなくてチグハグ感がありました。併録されたノンシリーズの鉄道ミステリが作者本来の持ち味が出ている気がする。

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