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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
冷戦交換ゲーム
シリル・マコークル&マイケル・パディロ
ロス・トーマス 出版月: 1968年07月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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早川書房
1968年07月

早川書房
1985年12月

No.2 7点 人並由真 2020/05/02 16:05
(ネタバレなし)
 1960年代半ば。西ドイツのボン。そこで「私」ことアメリカ人のマッコークル(マック)は、かつてこの地で二年間の兵役を務めた縁から、喫茶店バー「マックの店」を開いていた。共同経営者の青年マイケル(マイク)・パディロは、実は六か国語に堪能な米国政府のエージェント。彼は東側を探る自分の表の仕事の顔が欲しいとしてマックの店に押しかけてきたが、当人は平時は店をこまめに切り回し、今はマックとパディロは本心からの親友同士だった。だがとある二人の数学者がアメリカからソ連に亡命し、さらに彼らが同性愛者だったと判明。米国の評価の高い学者がホモという事実が世界に暴露されるとスキャンダルになるため、アメリカの諜報機関はソ連側と交渉。人材的なトレード案を用意し、二人の学者を取り返しにかかる。そしてそのトレード要員として白羽の矢が立てられたのが、各国語に秀でた有能な情報員パディロだった。トレードなど本意でないパディロは、この事態の回避を画策。本来は諜報の世界とも無縁なマックも親友を支援するが、状況は予断を許さなかった。

 1966年のアメリカ作品。MWA賞新人賞受賞作品。
 ようやっと読んだ、マック&パディロものである。トーマス作品そのものも評者はまだ二冊目(先に読んだのはオリバー・ブリーク名義の『強盗心理学』)。
 
 評者にとってトーマスは、トンプスン、レナードあたりと並び、日本では一部にカルト的な人気がある分、なんとなく手を出しにくい(にくかった)作家の一人だが、思い立ってこの処女長編を読んでみると、案ずるより産むが易しで思ったよりもスラスラと楽しめる。先の『強盗心理学』も大好きだし、もう次からのトーマス作品は、物怖じしないで読めることだろう?

 ストーリーは、あらら、こんな話だったのか、という感じだが実際の小説本編では、冒頭からマック一人称視点の別の導入エピソードを、先に用意。本作のキーパーソンのひとりとなるドイツ人フランツ・マースとマックとの接触から、物語が開幕する。
 当人はプロスパイでもなんでもない(少なくとも本作の時点では)マックが、静かな男の友情ゆえに(自分が経営する店のことを考える部分もあるが)パディロたちスパイ紛争の場に分け入っていく図がなかなか染みる。
 たしかトーマスって大沢在昌が好きなんだっけ? わかるよね。だってまんま生島治郎(大沢の兄貴分)の世界だもの。

 文章もところどころで、ハッとなる叙述が散見し、たとえばポケミス版の86ページ。

「彼の死は、たいていの殺人というものがそうであるように、あまりに思いがけなくあっけなかった。しかし、暗い静かな部屋で、薬でも抑えられぬ痛みや、ゴム底の靴で囁きながら行き交う看護婦、家族やいつまでも引き止められて六時半のデイトに間に合わないのではないかと気を揉んでいる友人などに囲まれて死んでいくよりはましであろう。」

 などという辺りに、生粋のハードボイルドなこころを感じたりする。
(ウェストレイクの『その男、キリイ』も良かったけれど、丸本聰明の翻訳は今回もいいねえ。)

 物語のベクトルは割に直球気味(それでもプロットの二転三転はあるが)、一方で細部の書き込みぶりは作者自身が面白い作品を紡ごうとしている気概が満々で、下馬評通りに面白かった。
(要人のホモがスキャンダルになる辺りは、そういう時代だったのだなあ、という素直な感覚だが。)

 これも何十年も前に買ってあった本をようやく読んだけど、ここまでの長い歳月の途中でシリーズの未訳分が埋まったりしている。その辺は誠にもって有難いもんです(笑)。

No.1 7点 kanamori 2011/04/02 18:20
まだ「マックの店」が西ドイツのボンにあった60年代の東西冷戦時代を背景にしたスパイ冒険小説。パディロ&マコークル・シリーズの第1作で、作者のデビュー作です。
本筋は、米国の亡命数学者たちを東ベルリンから脱出させるというエスピオナージュではあるものの、謀略冒険ものの面白さと同時に、主役コンビの友情、ハードボイルド的な軽口のやり取りが印象に残る作品。いまどき流行らないジャンルかもしれませんが、嗜好のど真ん中で当時はけっこう嵌りました。

(補足追記)
「マックの店」というのは、マコークルが経営するカフェ・バーの名前です。決してハンバーガー店のことではありません(笑)。


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