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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2460件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1640 5点 定吉七は丁稚の番号- 東郷隆 2011/11/23 17:53
殺人許可書をもつ丁稚、なにわの秘密諜報部員・定吉七シリーズの第1作。
タイトルは言うまでもなく007シリーズ映画化第1弾「007は殺しの番号」(原題「ドクター・ノオ」)のモジリで、本書の第1話「ドクター・不好」は、舞台をジャマイカから湘南に変えたスパイ・アクションもののパロディになってます。元ネタの見せ場の一つである人喰い蟹襲来のシーンが、カニ道楽の看板になっているのが笑える。
007のパロディをやりながら当時の世相を風刺しているのですが、そっちはさすがに今読むとピンとこない。

No.1639 6点 007 白紙委任状- ジェフリー・ディーヴァー 2011/11/21 22:33
現代によみがえる007シリーズ、ということで、ジェームズ・ボンドがスマートフォンのアプリを駆使しながら、世界各国を駆け巡ってます。
車と拳銃、酒と美女(いわゆるボンド・ガール)というシリーズ定番のガシェットを織り込みながらも、ボンドの内面描写が多く入り、映画のイメージとはだいぶ違う感じも受けました。
終盤の展開はやはりディーヴァーで、たたみ掛けるどんでん返しは今作も健在です。”活動的なリンカーン・ライム”とは言い得て妙。

No.1638 6点 味なしクッキー- 岸田るり子 2011/11/19 10:59
タイトルは”味なし”ですが、収録作品はいずれも毒入りでブラックな味わいの短編集。
パリに住む男を訪れた女の目論みとは?男女の立ち位置が二転三転する「パリの壁」、冒頭の不可思議な謎とラストの構図の反転によるサプライズの表題作「味なしクッキー」。この2作はともに連城ミステリを思わせるプロットでなかなかの佳作。間違い電話を利用したアリバイ・トリックもの2作「愚かな決断」と「生命の電話」は、アイデアはいいがミステリの出来としては普通かな。
「決して忘れられない夜」を筆頭に、収録6編に共通するテーマは、”オンナの怖さ”と”オトコの愚かさ”ですかね。

No.1637 6点 ローラ・フェイとの最後の会話- トマス・H・クック 2011/11/17 17:37
主人公である冴えない歴史学者ルーカスと、20年前の殺人事件の中核にいた女性ローラ・フェイとの、男女二人の会話場面のみでポケミス2段組み300ページというユニークな構成ですが、ルーカスの回想が自然な形で挿入され、過去の人間関係の絡み合った糸が徐々に解かれていくプロットは、版元が変わっても、やはり90年代に書かれた”記憶シリーズ”の延長線上の作品という印象です。
ただ最後は、こういった構成のミステリから予想できる結末をあえて外しているのは意外でした。これは、あまりクックらしい終り方ではないように思う。

No.1636 6点 黒猫の遊歩あるいは美学講義- 森晶麿 2011/11/14 19:08
第1回アガサ・クリスティー賞受賞作品。
天才若手美学教授と女子大学院生のホームズ&ワトソン役コンビが日常の謎を解く連作ミステリ。と書くと、早川書房というより東京創元社の専売特許のようで食傷気味な感じですが、叙述方法と言うか、語り手の人称の処理に工夫があり、名前が表記されない主人公たちのキャラクターも立っていて楽しめました。
6編ともエドガー・アラン・ポオの有名作品をモチーフにし、それらの新解釈を織り込みながら、直面している謎とリンクさせる構成が凝っている。ただ、美学講義とあるように、探偵役「黒猫」教授による謎解きが哲学的・衒学的すぎるきらいがあって、ストンと頭に入ってこないので、ミステリとしては弱いかなと思う。

No.1635 6点 殺し屋 最後の仕事- ローレンス・ブロック 2011/11/12 22:11
殺し屋ケラー・シリーズの最新作(最終作かどうかは秘密)。
このシリーズ、前3作まではサスペンス性やストーリー展開には重点が置かれておらず、ケラーのどうってことない思索や、元締めの女性・ドットとの軽口のやり取りなど、まったりした語り口を楽しんでいましたが、本作は、”州知事射殺犯の濡れ衣を着せられたケラーの逃亡劇と復讐劇”となっており一般受けも狙えそうです。序盤の、ケラーが捜査側の行動をロジカルに予測し、裏をかいて逃亡するところなどなかなかのシーンだと思います。

解説は、”殺し屋”つながりで伊坂幸太郎氏ですが、たしかに”要人暗殺犯の濡れ衣を着せられた殺し屋の逃避行”という設定は、「グラスホッパー」+「ゴールデンスランバー」と言えるかもしれません。

No.1634 6点 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 2011/11/10 19:04
元エリートの中年警備員が、スーパーの万引き娘を捕まえるところから始まる物語には、謎らしい謎の提示もなく、自分の娘をひき逃げで亡くした中年男の心情と、生活苦の娘への施しと交情を淡々と展開させているだけなのですが。

そこは作者のこと、”ラスト5ページで世界が反転する”。
大どんでん返しと言うほどのインパクトはないんだけど(なにせ、帯にネタバレぎみに「反転」と謳われている)、物語のテーマと仕掛けが綺麗に合致しているように感じた。
小粒ながら無難にまとめ上げた佳作といったところでしょうか。

No.1633 8点 ベルリン・レクイエム- フィリップ・カー 2011/11/09 18:25
ベルリンの私立探偵グンター・シリーズ3作目。
終戦の2年後、ベルリンと同様に米ソ英仏の4か国が共同統治しているオーストリアの首都ウィーンを舞台に、ナチス幹部の生残り組織が絡む米ソ両国の諜報戦にグンターが巻き込まれるというストーリー。

「偽りの街」はチャンドラー風のハードボイルド私立探偵小説でしたが、本書は、グレアム・グリーンを意識したエスピオナージュになっています。
旧友の求めに応じてウィーンに赴く主人公という設定や、プラター公園の大観覧車のシーン、民俗楽器のチターなど、母国英国の文豪原作の映画へのオマージュがちりばめられているのがしゃれている。物語の脇筋で、その映画らしきロケ・シーンもあって、「オーソン・ウェルズは本当に出演するのかしら」みたいな端役女優の会話にはニヤリとさせられた。

舞台はほぼウィーンに限られるので、「ベルリン・レクイエム」(原題"A German Requiem")というタイトルに疑問が残った。翻訳者・東江一紀氏の丁寧な解説にもその点は触れられていない。

No.1632 6点 探偵映画- 我孫子武丸 2011/11/08 18:15
「探偵映画」というタイトルの探偵映画を巡るメタ・ミステリ。
これ、最初の方の、映画の撮影技術のウンチクと叙述トリックの映像化に触れた会話で、仕掛けを大胆に暗示してたのか。再読するまで気付きませんでした。
叙述トリックもののミステリ小説、たとえば本書で例示されているビル・バリンジャーの某作に限らず、「ハサミ男」や「消失!」などのタイプは、まず映像化不可能ながら、確かにこういう使い方なら可能で面白いアイデアです。

No.1631 5点 議会に死体- ヘンリー・ウエイド 2011/11/07 18:36
地味だけど滋味な英国の古典ミステリ。
こんな内容。市政の不正疑惑を追及していた議員が議場で刺殺される。問題となるのは、犯行の機会とダイイング・メッセージで、地元の警視やロンドン警視庁のロット警部らの地道な捜査と推理合戦風のやりとりが繰り広げられ.....。

フーダニットとして作者のやりたかったことは分かるのだけど、直感的に犯人が分かってしまうというか、あまりインパクトは感じない。最後の一撃的に明かされるダイイング・メッセージの真相も、英語圏の読者にはわかりやすくても、大半の日本の読者にはピンとこないのでは?

No.1630 6点 仲のいい死体- 結城昌治 2011/11/06 17:36
ひげの郷原部長刑事シリーズの3作目。これまでの東京から、山梨の片田舎の警察に異動していて、奇妙な偽装心中事件を含む連続殺人のミッシングリンクに挑みます。
あまりヤル気のない署長や無能な署員、寺の住職の突飛な行動など、洒脱な文体と独特のブラック・ユーモアで描かれる田舎町の人々が面白い。
事件を複雑にしてしまった真相には、アリンガムの某短編を連想させるものがある。

No.1629 6点 殿下と七つの死体- ピーター・ラヴゼイ 2011/11/05 18:07
ヴィクトリア女王の長男、「わたし」ことエドワード皇太子(通称バーティ)を探偵役?に据えた、文字どおりのヴィクトリア朝ミステリ。
同じヴィクトリア朝ミステリでも、クリッブ&サッカレイ巡査シリーズが当時の庶民の娯楽・風俗を背景にしているのに対し、本シリーズは王室や貴族の生態を描いています。王室をジョークのネタにすることには寛大なお国柄ゆえ、バーティ殿下の恐妻家&猟色家ぶりが一人称で面白可笑しく語られる。
地方領主である若い未亡人が主催する狩猟大会で殿下が取り組む殺人事件は、クリスティ某作へのオマージュを思わせ、シリーズ3作のなかではミステリ度が高いと思う。

No.1628 5点 アリバイ崩し- 鮎川哲也 2011/11/04 20:35
シリーズ探偵が出てこないアリバイ・トリックものを集めた短編集。
5編とも過去の短編集で既読のはずなのに、今回読んでも内容に全く憶えがなく新鮮だったのは、喜んでいいのか悲しんでいいのか、複雑な気分です。
収録作のアリバイトリックの基本は、時間の錯誤、場所の錯誤、人物の錯誤、またはその組み合わせな訳で、トリック自体は大した事ないのだけれど、探偵役の気づきに繋がる小道具の使い方が巧いです。そういう点で「北の女」や「汚点」などが特に印象に残った。
中編の「夜の疑惑」は、トリックそのものは面白味がないが、ノンシリーズならではの結末のつけ方が強烈でした。

No.1627 7点 天使の護衛- ロバート・クレイス 2011/11/03 17:27
ロスの私立探偵エルヴィス・コールの凄腕の相棒、元傭兵の銃器店経営者ジョー・パイクを主人公にしたハードボイルド・活劇小説。主役と相棒の配置を交換した形だが、こういうのもスピン・オフ作品と言うのだろうか。

何者かに命を狙われる富豪の娘の警護という、いわゆる”ボディガードもの”で、あまり新味はないが、専守防衛ではなく、エルヴィスの協力を得て殺し屋集団の正体を突き止めていく過程が緻密で読み応えがあった。
しかし、本書の魅力は、夜もサングラスをし寡黙で決して笑わないストイックな男、主人公ジョー・パイクの造形につきる。ジョークと減らず口の探偵エルヴィスとの対比も巧妙。今後が楽しみなシリーズで、2作目以降に期待して採点はやや甘めに。

No.1626 5点 古書店アゼリアの死体- 若竹七海 2011/11/02 19:04
湘南の架空の街・葉崎を舞台にしたコージー・ミステリの第2弾。
ロマンス小説専門の古書店を中心に、名門一家のゴタゴタと街中の人々の人間関係が絡む殺人事件だが、前作ほど謎解きの魅力が感じられず。
ゴシック・ロマン小説に関する作者のウンチクは微笑ましいものがあるが、ここは”ミステリー専門古書店”にしてほしかった。
まあでも、地方都市の昔ながらの古書店の雰囲気は好きだな。明日は「神田古本まつり」にでも行ってくるか。

No.1625 7点 エージェント6- トム・ロブ・スミス 2011/11/01 18:46
元KGB捜査官レオ・デミドフを主人公にした謀略冒険小説、三部作の完結編。
本書では、第1作の「チャイルド44」からの一貫したテーマといえる”国家への忠誠と家族の再生との葛藤”に決着をつける内容となっていますが、ソ連の国内外情勢に巻き込まれ翻弄され続けた末の、レオとその家族に用意された終幕は予定調和から大きく外れたもので驚きました。
物語構成のバランスの悪さや、タイトルがあまり内容に則していないなど、いくつか気になる点がありますが、いつまでも心に残りそうなラスト・シーンで難点を払拭してくれる。

No.1624 7点 海を見る人- 小林泰三 2011/10/31 17:56
冒険ファンタジー&恋愛小説作品集。ただし、それぞれの作品世界は、物理的数学的裏付けがある不思議な異世界で、ハードSF短編集でもあります。

このSF作品集がミステリの書評サイトに登録されている意義は、唯一つ、編中の「独裁者の掟」にあって、物語全体に凝らされたミステリ的な技巧が実に鮮やかで強烈。他の作品の”ワンダー”に対してコレは”サプライズ”狙いです。
あと、ハードSFとしては「門」が印象に残った。相対性原理と量子力学に折り合いをつける”量子テレポート”の設定など、時事ネタの”ニュー・トリノの光速超え”を思い起こさせる(笑)。
「時計の中のレンズ」や「天獄と地国」など、その作品世界をイメージすること自体が難しいものもありますが、理系脳の方にはかなり楽しめると思います。

No.1623 7点 ハンマーを持つ人狼- ホイット・マスタスン 2011/10/30 13:06
婦人警官ものの先駆と言える米国'60年代の警察小説。タイトルで損をしているように思うが、本書はかなり密度の濃い正統派の警察小説でした。
”ハンマーを手に女性を襲う凶悪な通り魔を捕まえるための婦人警官のおとり捜査”という粗筋紹介は間違いではないものの、ほんの前振りでしかなく、婦人警官クロヴァーと部長刑事モンティーのコンビの捜査は次々と事件の様相が変化していき、先の展開が読めない面白さがある。動機をミスリードさせるテクニックと伏線も巧みで、たぶん本格ミステリ読みの読者も唸る仕掛けじゃないかな。

作者ホイット・マスタスンは二人の作家の合作ペンネームで、警察小説を書く前は、ウェイド・ミラー名義で「罪ある傍観者」などの私立探偵ものを発表していた。ハードボイルド小説好きには、そちらの名前の方が馴染みがあるかも知れない。

No.1622 4点 空想探偵と密室メイカー- 天祢涼 2011/10/29 16:44
特殊能力というか特異体質をもつ主人公という点では前2作と同様ですが、今回の女子大生の”空想力”は物語の構成上あまり意味がないような気が・・・・。
それはともかく、細かな多くの伏線が後の多重解決に繋がるところはよく考えられていると思えるものの、ところどころで作者の文章表現にひっかかりを覚え、登場人物にも感情移入できないため素直に楽しむことができなかった。
まえがきに「刑事コロンボ」へのオマージュを匂わす記述があるが、最後は”二枚のドガの絵”を意識したものだろうか。

No.1621 6点 納骨堂の多すぎた死体- エリス・ピーターズ 2011/10/28 18:43
”修道士カドフェル”シリーズで有名なエリス・ピーターズの現代ミステリ、フェルス一家シリーズの4作目。当シリーズの中ではMWA賞受賞の「死と陽気な女」が代表作なんでしょうが、都合により(笑)ここでは本作ということで。

本書はフェリス一家が休暇で訪れた村での事件。200年ぶりに開ける納骨堂から現れた二つの死体と、同時に消えた領主の遺骨の謎が重層的に絡まり、意外な犯人像の設定といい、なかなかの本格編です。加えて、探偵役で州警察の警部である父ジョージ・フェルスと息子ドミニックのホンワカした関係も面白い。
当シリーズまだ未訳が10作もあるらしいのですが、ドミニック少年の成長物語という側面もあるようなので、是非とも続けて邦訳してもらいたいものです。12世紀英国の歴史ミステリよりこちらのほうが本格ミステリとしてとっつきやすい。

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