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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1926 5点 私の嫌いな探偵- 東川篤哉 2013/06/10 12:56
烏賊川市シリーズの2作目の短編集。今作では助手の流平くんはチョイ役の登場で、鵜飼と探偵事務所ビルのオーナー朱美とのコンビによる5つの事件簿です。

ぬるいギャグと奇抜なトリックのコラボは健在で、”ターザンごっこ”とかパラパラ漫画といった脱力的なガシェットが作者らしい。ただ、前作と比べるとロジック展開にキレがないものが多いように思えた。
収録作のなかでは、アナログすぎる決め手が笑える「探偵が撮ってしまった画」が個人的ベストかな。

No.1925 6点 黒い壁の秘密- グリン・カー 2013/05/19 12:20
アマチュア登山家にしてシェークスピア俳優のアバーグロンビー・リューカーを探偵役にしたシリーズ第6作。

雄大な山岳風景を舞台背景にクリスティ風の端正な本格ミステリになっていて非常に好感がもてる作風です。リューカーと妻のジョージーのコージー風のユーモラスなやり取りも良です。真犯人の動機つながる伏線の張られ方が丁寧すぎるので途中で真相を察することができましたが。
また、シリーズ全作を解題するために原書すべて再読したという森英俊さんの文庫解説がすごいです。これだけされたら創元社もシリーズの続刊を出さざるをえないでしょう。

No.1924 6点 ライダーは闇に消えた- 皆川博子 2013/05/19 11:59
バイク仲間内で連続して発生する不審死を瑞々しい文章で描いた青春ミステリ。
序盤から多数の若者たちが登場し、特定の主人公を配置しない群像劇ですが、それぞれの造形が巧みに書き分けられています。ただ、明かされる真犯人の犯行動機はすんなりと理解できるものではありませんでした。メカニックなトリックもやや専門的すぎるきらいがあります。

本書は、もともと江戸川乱歩賞に応募するために書かれた作品で、他のルートで作家デビューとなったため応募は見送られた最初期の青春ミステリとのこと。
もし応募されていたら、「ミステリとしては弱い部分があるが、若者たちの生態を描いた文章は見るべきものがある」ぐらいの評価で最終候補作どまりかな(笑)。

No.1923 6点 約束- フリードリヒ・デュレンマット 2013/05/19 11:38
昨年「失脚/巫女の死」で注目を集めたスイス出身の劇作家デュレンマットの50年代に書かれた長編ミステリ。

スイスの森の中で惨殺された少女。その被害者の母親との「必ず犯人を逮捕します」という約束に縛られたように、栄転話を捨て警察の職までなげうって、ひたすら犯人に罠を張り続ける元警部の執念は鬼気迫るものがあります。
しかし、本書は副題に「推理小説へのレクイエム」とあり、また小説の語り手が冒頭に示唆しているように、作者はミステリ読みが期待する真相を用意していません。
この苦すぎる結末は評価が分かれそうで、一種のアンチ・ミステリといえます。

No.1922 6点 天狗 大坪砂男全集2- 大坪砂男 2013/05/12 12:03
薔薇十字社版を増補した創元推理文庫版の大坪砂男全集第2弾。本書は奇想編と時代編に分けられている。

大坪砂男といえば、世評が高いデビュー作の「天狗」一作で知られる作家という一般的な評価があるようで、たしかにこの主人公の奇想天外な殺人トリックと偏執狂的な人物造形は異様でありながら、ブラックユーモアも感じさせる奇妙で記憶に残る作品。
ただ、他の作品は奇想という点では前巻ほどの派手さはなく、「盲妹」や「花束(ブーケ)」など、男女の微妙なひだを描いた心理小説が多い印象を受けた。
時代編では、山風忍法帖を思わせる「密偵の顔」が面白い。

小説以上に興味深かったのは、弟子だった都筑道夫のエッセイで、大坪が柴田錬三郎にプロットを売っていたというエピソード。「幽霊紳士」はともかく「眠狂四郎」もだったとは・・・・。

No.1921 7点 列車に御用心- エドマンド・クリスピン 2013/05/12 11:25
「クイーンの定員」にも選出されているクリスピンの第1短編集。
このミス”我が社の隠し玉”で予告されてから、だいぶ待たされましたけれど期待以上の好短編集でした。

ジャーヴァス・フィン教授もの14編は、人間消失、アリバイ、密室トリック、意外な手がかりなど、短い枚数ながらパズラーの王道を往く端正でロジカルな本格編。なかでは、「喪には黒」「ペンキ缶」「窓の名前」などがよかった。
それらのパズラー以上に印象に残ったのが非シリーズものの「デッドロック」で、クックの記憶シリーズを思わせる抒情性豊かな青春小説として秀逸な作品。

No.1920 6点 螺旋の底- 深木章子 2013/05/12 11:02
北フランス小村の丘に建つ古い館を舞台に、共に秘密を抱えた新婚夫婦の思惑を交互に描くサスペンス小説。

三階から地下室までつづく螺旋階段という舞台設定や前妻の影など、ゴシック小説の雰囲気を漂わせ、前2作とちょっと作風が違いますが、作品全体の構成に仕掛けを施し、最後にサプライズを演出する手法は同じです。トリックに既視感はあるもののなかなか巧妙に騙られていると思います
ただ、物語に膨らみがないので、読み応えという点では物足りない感じを受ける。

No.1919 7点 暗殺者グレイマン- マーク・グリーニー 2013/05/11 12:43
目立たないことで”グレイマン”の異名をもつ凄腕の暗殺者を主人公にした冒険小説。この手の活劇小説では「極大射程」以来久々に最後の最後まで興奮させられた。

死の罠が待ち受ける北フランスの古城を目指してヨーロッパ横断を敢行するグレイマンを標的に、12か国の特殊部隊チームが次々と襲撃を仕掛けてくる、息つく暇のないスリリングな展開の連続がすごい。たしかに、御都合主義的な援護者の登場など欠点もあるけれど、ここまで面白ければ問題ないw
続編もあるようなのでそのうち読んでみたい。

No.1918 6点 六花の勇者 3- 山形石雄 2013/05/11 12:17
”剣と魔法”の異世界を舞台にした冒険ファンタジーの第3弾。
今回の主役はナッシュタニア姫の忠臣の騎士ゴルドフで、全編を貫く怒涛の戦闘活劇がすごい。
ミステリ的な仕掛けはやや減退しているものの、三つの派閥に分離した凶魔側と六花の勇者との間で、それぞれの策謀が複雑に交錯する構図は今回も健在で、誰が敵で誰が味方か、誰が最終的に騙されているのか分からないコンゲーム風の仕掛けが滅法面白い。

No.1917 5点 悪魔と警視庁- E・C・R・ロラック 2013/05/11 12:01
濃霧のロンドン、仮装舞踏会の夜の雰囲気、マクドナルド警部の車の中から悪魔メフィストフェレスに扮した死体の出現、とつづく発端は魅力的で引きつけられるものがありましたが、舞踏会関係者への聞き込みシーンがつづく中盤以降は展開がやや平坦かなと思う。
中国文化に詳しい女性のある行動の意味が分かれば真相が見えてくるという伏線に作者の工夫を感じましたが、メイントリックが陳腐に感じられ、読後感は微妙。期待値が高すぎた。

No.1916 5点 ビブリア古書堂の事件手帖4- 三上延 2013/05/11 11:37
シリーズ初の長編、ネタが江戸川乱歩ということでミステリ作家が取り上げられるのもシリーズ初という本書ですが、月9ドラマ版を先に見ていたこともあり、前三作ほどの面白味を感じなかった。
二銭銅貨の暗号、名前のアナグラム、変身願望、人間椅子など、乱歩へのオマージュを散りばめて、プロットも乱歩の通俗探偵小説を意識したものになっていますが、無理やりネタを詰め込んだ感じを受けた。やはり、このシリーズは短編がいいと思う。
(原作が2月発売で、ドラマ化が3月というのはちょっと早すぎないか?)

No.1915 5点 闇に葬れ- ジョン・ブラックバーン 2013/04/21 12:43
天才とも狂人とも称される十八世紀の芸術家の遺骸が収められた納骨堂の封印を200年ぶりに破った時、内部から不気味な哄笑が高らかに響いてきて....といった幕開けの、モンスター・ホラー&伝奇ミステリ。

本書は、レギュラー主人公のカーク将軍が登場しない単発作品でしたが、発端のオカルト現象から終盤は怒涛のSFパニック小説に変転するお馴染みのジャンル混合型ミステリです。まあ、小説版「ウルトラQ」ですね。
”それ”の正体を隠蔽したまま終盤近くまで引っ張っているのでサスペンスは強烈ですが、明かされたネタが「またかよ」という側面があるのも事実。
小説技巧のうまさとネタのチープさが混在する作者らしさ全開のエンタテイメント小説でした。

No.1914 5点 私を知らないで- 白河三兎 2013/04/18 21:09
中学生の男女3人を主軸に展開される抒情性のある青春恋愛ミステリ。
最初のうちヤングアダルト向けの軽妙な作品と思って読んでいたら、中学生にとっては重いテーマを扱っていたので、戸惑うところもあった。
クールに装う主人公の「僕」、熱血漢で直情型の高野、貧しい家庭で育ちクラスから無視される美少女「キヨコ」の三人。ともに陰の部分を持ち、物語が進むにつれそれぞれの印象が変わっていくところが巧く書けていると思う。
ただ、ミステリとしては謎そのものが薄味でインパクトに欠けるので、この程度の評価にしておきます。

No.1913 7点 遮断地区- ミネット・ウォルターズ 2013/04/17 13:14
低所得者層が集まる団地を舞台に、前科のある小児性愛者が移住してきたことを契機にして、排除デモが制御不能の大暴動に発展していくというパニック小説。

「氷の家」や「女彫刻家」などの初期の暗くて重い作風とは異なり、本書は比較的ライトなキャラ立ての登場人物たちによるドキュメンタリー風の群像劇で、テンポのいい緊迫のサスペンスでした。
並行して描かれる少女失踪事件に警察小説風の謎解きの要素はあるものの、本筋との絡みがやや中途半端な感じで、大暴動と監禁された女性医師の危機的状況の行方が最大の読ませどころでしょう。
500ページを超える分量を、あっという間に読み終えることが出来た。

No.1912 5点 ノックス・マシン- 法月綸太郎 2013/04/14 11:22
海外古典探偵小説に関する有名なネタを主題にしたSF?短編集。

「ノックス・マシン」とその続編風の「論理蒸発」は、”ノックスの十戒”に中国人ルールがあるのはなぜか?、”シャム双子の謎”に読者への挑戦が挿入されていない理由は?といったネタを、双方向タイムトラベルなどのSFガジェットを駆使して解き明かす奇想譚ですが、ハードSFっぽい論理展開がミステリ読みにはついていくのが少々きつい。
「引き立て役倶楽部の陰謀」は、ホームズ=ワトソン形式の古典探偵小説の伝統を守るために、有名なワトソン役たちが集まって、”危険思想”の持ち主であるアガサ・クリステイを抹殺しようと協議する話で、クラシック・ミステリの薀蓄が満載なメタ&パロディ趣向が楽しい。たしかに彼らにとって「アクロイド殺し」なんかを書かれたらたまらないだろうね。

No.1911 6点 夏を殺す少女- アンドレアス・グルーバー 2013/04/11 21:58
精神病院で不審死した少女の事件に係るドイツのベテラン警部と、オーストリアで名士の連続事故死に疑問を持った女性弁護士が、個別に調査するうちに過去の忌まわしい事件背景が浮かび上がってくるといったストーリー。

非英語圏(オーストリア)のミステリゆえの憶えずらい人名というハンデがあっても、序盤からグイグイと読者を引っ張っていく力強いリーダビリティが本書の持ち味でしょう。
ダブル主人公の調査過程が交互に語られ、2人の軌跡がいつどういう形で出合うのかという興味で読ませます。
事件の構図自体は早い段階で想像がつくもので、謎解きモノとしては少し物足りないですが、終盤のサスペンスが良です。

No.1910 7点 美人薄命- 深水黎一郎 2013/04/09 20:34
独居老人宅を回って弁当を配達するボランティアの大学生と、戦時中の悲恋を語る老婆との交情を中心に描いた物語。

とぼけたギャグを連発しつつ、時には予言めいたことを告げるこのカエ婆さんに不思議な存在感があり、謎らしき謎もないまま物語が進行しても充分に面白く読めますが、作者が「一般小説に擬態した本格ミステリ」というように、カエ婆さんが前に登場した「ジークフリートの剣」同様に、途中に張られた伏線が終盤で回収され、隠された事実が立ち現れる様は今回も見事です。(帯の煽り文句は少々オーバーだとは思いますが)
哀切でありながらも爽やかな真相が涙腺を刺激して心地いい読後感でした。

No.1909 5点 人形パズル- パトリック・クェンティン 2013/04/07 13:31
海軍中尉のピーターは、妻で女優のアイリスとサンフランシスコで久方ぶりに夫婦水入らずの休暇を取るつもりが、何者かに殺人容疑者に仕立て上げられ逃避行&探偵活動をするはめに....、といったダルース夫妻の呪われた週末を描くパズル・シリーズの第3弾。
本書は、前2作の限られた容疑者集団内のフーダニットとは趣を変えて、ドタバタ劇風の軽快なスリラーになっています。
クライマックスの公演中のサーカス会場での象のエドウィナの活躍など、それなりに楽しいのですが、本格モノを期待するとやや物足りないかもしれません。最後の最後でタイトルが暗示するどんでん返しがあって一応の面目躍如とはなっていますが。
事件の背景を説明する終盤近くの長々とした犯罪論文の引用は退屈で蛇足の感がありました。

なお、パズル・シリーズ全6冊を読んでの私的相対評価は、
俳優>巡礼者>悪女>迷走>人形>悪魔、の順としておきます。

No.1908 6点 ロスト・ケア- 葉真中顕 2013/04/06 12:55
読者を一瞬思考停止に陥らせるようなサプライズが終盤にあって、そういった新本格風のミステリ趣向も面白いことは間違いないのですが、本書の本質は高齢者介護という今日的題材を扱った社会派の要素だと思う。

”そういう立場の人々”をキリスト教の教義に絡めて、”救済”の真の意義を問う、<彼>の行動原理には考えさせられるものがありました。

No.1907 6点 スケアクロウ- マイクル・コナリー 2013/04/05 13:45
LAタイムズの記者ジャック・マカヴォイとFBI女性捜査官レイチェルが、「ザ・ポエット」事件以来12年ぶりにコンビを組んで、再びシリアルキラーに対峙するといったストーリー。

インターネットを使って個人情報を改竄・工作するサイコパス”案山子”という犯人像は、ディーヴァーの「ソウル・コレクター」など幾つか書かれていて二番煎じ感は否めないが、敵の”農場”での攻防をはじめとする終盤のスリリングな展開は、さすがコナリーと思わせる。
ただ、”ブン屋もの”としては、デジタル・ジャーナリズムの影響を受け、新聞社の人員整理の対象となった記者マカヴォイの矜持の描き方は中途半端で消化不良の感がある。

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