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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.266 6点 聖夜の越境者- 多島斗志之 2010/05/05 19:13
初期の国際謀略小説。
ソ連のアフガン侵攻を絡めた米ソの謀略戦に日本人考古学者が巻き込まれるというストーリー。
なぜソ連はアフガン侵攻を企てたのか、その謎ひとつで壮大なホラ話を構築してます。「一粒の小麦」がもたらす真実に関しては、よくそんな発想が出てくるなあと感心しますが、あまり一般受けする話ではないです。

No.265 6点 死者たちの夜- 結城昌治 2010/05/05 18:47
紺野弁護士ものの連作短編集第1弾。
著者の硬軟取り揃えた私立探偵を主人公にしたハードボイルドは70年代に入ってほぼ姿を消してしまいましたが、私立探偵・真木のシリーズの作風を受け継いだのが、紺野弁護士シリーズだと思います。
職業柄、題材は失踪に限りませんが、愛と欲望の人間関係をシリアスに描いていて抒情的筆致は読ませます。
この第1作品集では、「汚れた月」「風の鳴咽」が印象に残りました。

No.264 5点 柘榴館- 山崎洋子 2010/05/05 18:20
風俗嬢を狙う猟奇連続殺人犯の手掛かりを求めて、風俗嬢の主人公が「柘榴館」と言われる医者一家に潜入するという話。
横浜が舞台といい、デビュー作の「花園の迷宮」を現代版にしたような設定ですが、サイコサスペンス風の味付けがより強くなっています。真相は救いようのないものですが、今読むと既読感をぬぐえません。

No.263 7点 風よ、緑よ、故郷よ- 岩崎正吾 2010/05/05 18:07
父親の死の謎に向き合うため教職を辞して、故郷に帰ってきた主人公を中心に描く田園派の本格ミステリ。
田舎が舞台ですが土俗的な陰湿感はなく、登場人物も個性的で爽やかな青春ミステリのような雰囲気なので、読後感は非常によかったです。さりげない伏線の張り具合といい、作者の作品のなかでは比較的完成度の高い本格編だと思います。

No.262 6点 事件は場所を選ばない- 海渡英祐 2010/05/05 14:00
ノンシリーズのミステリ短編集。
これは意外と良質の本格ミステリ集で、軽妙な物語のなかに考えられたトリックが施されています。
エレベーター内の不可能殺人「殺しもあるでよ」や、捻ったアリバイトリックもの「臭い仲」などが印象に残りました。

No.261 7点 神州日月変- 栗本薫 2010/05/05 13:41
巨漢の八丁堀同心・古河雷四郎を主人公にしたスーパー伝奇時代小説。
ストーリーを簡単に言えば桃太郎の鬼退治というところでしょうか、道中物の連続活劇で一種のRPGですね。とにかく、登場人物が敵も味方も魅力的なんですが、やはり妖術使いの老人・乱月斎が一番かな。
正統派の伝奇もので終わらないところが作者の面目躍如で、最後にとんでもない結末が待っています。スーパー伝奇の「スーパー」とはそういう意味だったのかと最後に分かった次第です。

No.260 6点 北の廃坑- 草野唯雄 2010/05/05 13:15
お得意の炭鉱を舞台にしたサスペンス・ミステリ。
ある鉱山の不正疑惑を解明するために、会社から潜入捜査を命じられた主人公の危難の連続をサスペンシフルに描いていて、同じ炭鉱ものの長編「影の斜抗」とは異なり、本格ミステリの趣向はあまり見られません。その分、ストレートなスリラーとしてまずまず楽しめました。

No.259 6点 大臣の殺人- 梶龍雄 2010/05/05 13:04
明治初期、創設まもない警視庁の密偵を主人公にした時代ミステリ。
黒田清隆(当時、北海道開拓使長官)自身の妻殺し疑惑を中心に据えた謀略ミステリの様相で物語が進行していくところは、山風の明治ものを彷彿とさせますが、後半は本格ミステリになっています。
意外性がないことはないですが、全体的に作風が地味でリーダビリティに欠ける感じがしました。

No.258 7点 金のゆりかご- 北川歩実 2010/05/04 14:56
遺伝子操作など先端科学を題材に複雑な人間関係を絡めたミステリが持ち味の著者ですが、本書は天才幼児育成センターの疑惑を中心とした騙しのテクニックがさえた秀作。
今まで読んだものは、色々な情報を詰め込み過ぎプロットも徒に複雑化するきらいがあり、読後ぐったり感がありましたが、今回は分量が多い割にすらすら読めて、その分終盤のサプライズも効果を上げていると思いました。

No.257 5点 星野君江の事件簿- 小森健太朗 2010/05/04 14:31
デビュー当時からのシリーズ探偵・星野君江の連作短編集。
十代の頃の作品「チベットの密室」から秀作「疑惑の天秤」まで7作収録されていて、自然と作風が変わっているのが面白く感じました。探偵役が無個性的なのはご愛敬。
なかでは、当地の列車事情を逆手にとったアリバイもの「インド・ボンベイ殺人ツアー」、連城×折原のような騙し絵風の「疑惑の天秤」が印象に残りました。

No.256 6点 髑髏検校- 横溝正史 2010/05/04 14:08
「吸血鬼ドラキュラ」を換骨奪胎した伝奇時代小説。
書き出しから伝奇ロマンの香りに満ちています。外房の海岸に打上げられた鯨の体内から発見される瓶詰めの手紙、長崎の孤島で出会う不知火検校という謎の男、やがて江戸の深夜に出没する吸血鬼・・・・。
荒唐無稽とは伝奇小説の場合むしろほめ言葉。吸血鬼の正体も序盤の長崎でのエピソードが伏線になっていて、この辺は探偵小説作家としての面目躍如の感があります。
残念なのは、終盤駆け足になってしまったところ。枚数制限でもあったのか、傑作になりかけていたのに惜しいです。

No.255 6点 スラッシャー廃園の殺人- 三津田信三 2010/05/04 00:38
設定は綾辻の「殺人鬼」風のスプラッタ・ホラー、仕掛けは同じく綾辻の某短編の二番煎じで、共にあまりオリジナリティを感じませんが、刀城言耶シリーズと違って文章が読みやすいのが良。
作者のホラー・ムービィに対する思い入れが強く出すぎていて、物語の流れを悪くしているように思いました。

No.254 7点 笛吹けば人が死ぬ- 角田喜久雄 2010/05/04 00:01
戦後発表されたミステリを収録した短編集。
加賀美捜査課長もの2編の中では、暗闇の中の巧妙な殺人トリックを使った端正な本格編「霊魂の足」、明石良輔ものでは、操りミステリ風で少女の造形が不気味な「笛吹けば人が死ぬ」が印象に残りました。
奇妙な味もしくは怪奇譚では、「沼垂の女」と「悪魔のような女」が古さを感じさせるどころか、新鮮な驚きを感じさせ、むしろこういった作風の方が持ち味ではと思います。

No.253 7点 枯草の根- 陳舜臣 2010/05/03 23:21
集英社文庫版の桃源亭主人・陶展文推理コレクション、表題作のデビュー長編のほか短編4作収録。
「枯草の根」は文字どおり著者のミステリの原点で、中国から訪日する人物によって過去の秘密が炙りだされるという、以降の作品で何度か使われるプロットが懐かしい。トリック自体は陳腐とはいえフェアな伏線の張り具合はさすがと思わせますし、人物造形と心理描写など豊穣な物語を読んだという満足感に浸れます。
しかし、お目当ては短編の方で、単行本未収録だった「縄」シリーズ3作が読めたのが満足。陶展文が意外と稚気溢れるユーモアの持ち主だということが分かる。
集英社は、「弁護側の証人」の復刊といい、なかなか心憎い仕事をしてくれてます。

No.252 5点 白戸修の狼狽- 大倉崇裕 2010/05/03 22:06
「ツール&ストール」(「白戸修の事件簿」)に続く第2弾。巻き込まれ型の軽犯罪ミステリ連作短編集。
お人好しの主人公が連続落書き魔、盗聴事件、イベント妨害事件など、いずれも鬼門の中野駅に絡む事件に巻き込まれます。
ミステリとしての肝は、主人公がなにを根拠に事件の真相に気付いたかでしょうが、事件の設定そのものが興味をひくものでないのでイマイチ楽しめなかったです。

No.251 7点 幽霊の2/3- ヘレン・マクロイ 2010/05/03 21:47
ベイジル・ウィリング博士が探偵役を務めるシリーズ第11作。
出版業界を舞台背景に人気作家の毒殺事件を描いていて本格ミステリではありますが、意外な犯人像を狙ったものではありませんし、作中の毒殺トリックも平凡です。
作者の狙いは犯人当てより被害者の人気作家の秘密に関わるサプライズにありますが、物語に出てくるゲーム<幽霊の2/3>に二重の意味を持たせたところが巧いと思います。
タイトルのセンスのよさ、伏線の張り方の巧妙さなどいつものマクロイです。

No.250 4点 Xに対する逮捕状- フィリップ・マクドナルド 2010/05/03 21:28
ゲスリン大佐が登場するシリーズの第12作。
劇作家が耳にした犯罪計画をゲスリン大佐が阻止するために少しの手掛かりから推理し追い詰めていくというストーリーで、通俗スリラー色の強いミステリです。
著者の作品の特徴は、冒頭の魅力的な謎の設定の割に、最後が腰砕けに終わるという印象ですが、この後期の作品も推理の妙味はあるものの本格とはいえず、サスペンスによる盛り上げ方も稚拙で中途半端という感じでした。

No.249 7点 ミステリの女王の冒険- エラリイ・クイーン 2010/05/02 00:20
1975年にテレビ放映された犯人当てミステリドラマのシナリオ作品集。
制作総指揮は「刑事コロンボ」のR・レヴィンソン&W・リンク。エラリイ・クイーン原案となっていますが、この時期「エラリイ・クイーン」はハウスネームみたいなものでしょうから本人がどれだけ関与しているかは不明です。
収録5作のなかでは、ライツヴィルものの「黄金のこま犬の冒険」が楽しめた。
火かき棒があるのに何故こま犬の置物で撲殺したのか?という設問はニヤリとさせると共に解答もスマート。また、クイーン警視のコメデイ・タッチのエピソードが笑わせます。
表題作の「ミステリの女王の冒険」は、英国のミステリ小説の女王VSエラリイというクイーン同士の推理合戦。
解答の手掛かりは単純ですが、ダイイングメッセージと多重解決が楽しい。この作品は放映されず、後に「ジェシカおばさんの事件簿」に流用されたようだ。
ほか、エレベータ内の不可能殺人もの、法廷ミステリがらみのものなど設定がバラエテイに富んでいます。
先年邦訳されたラジオドラマシナリオ集2冊と比べ、犯人当てミステリとしては劣る出来だと思いますが、趣向が楽しめる作品集で満足でした。

No.248 6点 レイトン・コートの謎- アントニイ・バークリー 2010/05/01 23:54
迷探偵ロジャー・シェリンガムの初登場作品。
いちおう密室殺人や遺書の偽造トリックなど、ミステリ趣向を凝らしていますが、アンチ名探偵ものを志向しているのはこのデビュー作も変わりません。ワトソン役に指名した友人アレックと悉く意見を対立させているのは、それを際立たせるとともに意外な犯人の設定への伏線でもあるのでしょう。
のちの作品と比べればメタ度は控えめな分、オーソドックスな本格読みにも満足がいく出来だと思います。

No.247 6点 義経はここにいる- 井沢元彦 2010/05/01 18:52
著者お得意の歴史ミステリ、シリーズ探偵・南条圭登場作品。
タイトルから想像するほど、義経北行伝説に関する考察には多く触れられてはいなくて、中尊寺金色堂と藤原氏のミイラの謎が中心ですが、これがなななか面白かった。
現代の殺人事件はアリバイトリックもので、義経の首運搬の逸話と絡めた点は良ですが、伏線が丁寧過ぎて真相がミエミエなところが惜しい。

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