皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.30 | 4点 | マイクロスパイ・アンサンブル- 伊坂幸太郎 | 2024/04/29 13:26 |
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~付き合っていた彼女に振られた社会人一年生、どこにも居場所がないいじめられっ子、いつも謝ってばかりの頼りない上司・・・。でも、今見えていることだけが世界の全てじゃない。優しさと驚きに満ちたエンタメ小説。猪苗代湖の音楽フェス「オハラ☆ブレイク」でしか手に入らなかった連作短編がついに書籍化!~
ということで、いわゆる「タイアップ」である。単行本は2022年の発表。 ①「一年目」=キーワードは”グライダー”? そう、エンジンを積んでない飛行機である。グライダーをめぐって「失恋」と「失言」、そして「逃げる」男が登場。 ②「二年目」=①の三人のその後が描かれる二年目。それぞれに進展しているような、いないような・・・。そして、突然湖面に湧き上がる「スポンジマン」、じゃないっ! ③「三年目」=今度は“カゲロウ”である。 あーあ、もうこの辺で細かいことはどうでもよくなってきた! 以下、四年目から七年目まで物語は続いていく(最後にボーナストラック的な締めもあり)。 本作は、2015年より猪苗代湖を舞台とした音楽とアートを融合したイベント“オハラ・ブレイク”で、小説とのコラボを依頼され、作者が手掛けてきたもの。 そういう制約(?)のためか、いつもほどの自由な発想は見られない。 連作のなかで並行して語られる二つの物語がやがて奇跡のような邂逅を果たし、そしてそれぞれのあるべきところへ収まる・・・ 伊坂の筆致で書くと、何だかうまく言いくるめられた気になるけれど、プロットとして目新しさはない。 まぁ、有り体に言えば、「童話」或いは「ファンダジー」である。こういうのが好きならばどうぞ! 私は・・・それほどは・・・ (結局、あのマグカップはどうなったのか? 若干気になる) |
No.29 | 5点 | 逆ソクラテス- 伊坂幸太郎 | 2022/09/11 14:27 |
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本作はすべて子供を主人公に書かれた内容となっている。
単行本の作者あとがきで、作者自身が子供を主人公とするのは難しくて、こういう作品ができたことが自分の作家としての経験値の賜物というような表現をされている。そういやー今までなかったかなぁ? 2020年の発表。 ①「逆ソクラテス」=確かに! 声の大きい人の評価に引っ張られやすいのが俗世間というもの。それに反する奴はエライ! ②「スロウではない」=運動オンチの大抵が嫌いなもの。それは運動会! 分かるやつは分かる。 ③「非オプティマス」=トランスフォーマーのことだよ! 先生も大変だわ! ④「アンスポーツマンライク」=これが本作ベストだな。再度登場する「磯憲」がまるで安西先生のように見える! ⑤「逆ワシントン」=最後の場面でニヤッ!っとさせられる。こいつは絶対にアイツだ!因みに、この「ワシントン」は偉人の方です。 以上5編。 冒頭で「子供主役ってなかったかなぁ?」って書いたけど、今までも伊坂作品にはよく「親子」、特に「父子」が登場していて、実際ふたりの息子を持つ身にとっては実に身につまされる場面に出くわしたりする。 本作もそうだった。 別に「こうありたい」とかいうんじゃないけれど、父-子ってこうだよな、とか、こういうことってあったなぁーっていう何だか懐かしい気分にさせてくれる。 大人は当然大人目線で子供を見るけど、子供は子供なりに十分考えてるんだ、というのが今更ながら分かる(思い出される?)本作。 きっと、読者のなかでも過去の自分自身の姿を投影したりするんだろう。 いつもの伊坂作品ほど緻密な伏線やら、軽快な会話群はないけれど、それはそれで実に味わいのある作品ではあった。 |
No.28 | 6点 | 火星に住むつもりかい?- 伊坂幸太郎 | 2022/07/11 13:10 |
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またもや作者の独特の世界観が披露されることとなる作品。
次から次へとよくもまぁ、こんなこと考えられるよなぁーって素直に思います。 2015年の発表。 ~「安全地区」に指定された仙台を取り締まる「平和警察」。その管理下、住人の監視と密告によって「危険人物」と認められた者は衆人環視の中で処刑されてしまう。不条理渦巻く世界で窮地に陥った人々を救うのは、全身黒ずくめの「正義の味方」。ただひとりディストピアに迸るユーモアとアイロニー。伊坂ワールドの醍醐味が余すところなく詰め込まれたジャンルの枠を超越する傑作~ これまでも他の誰もが真似できないような、様々な世界観を創造してきた作者。人はそれを「伊坂ワールド」と呼ぶ(↑紹介文でも書いてるしね) ここまでくると、何だか、「伊坂ワールド」っていうテーマパークができてもおかしくない気がする。「オーデュポンの祈り」ワールドや「陽気なギャング」ワールド、「殺し屋シリーズ」ワールド・・・etc きっと楽しいアトラクションなんかができそうだ。「ゴールデンスランバー」ばりに逃げ回るアトラクションとか、「死神」とシンクロしながら館内を回っていくアトラクションとか・・・ でも、そんな非現実的な世界観のはずなのに、今回も場所は「仙台」という作者のホームタウンに設定されている。しかも、話の中心となるのは「ある床屋」っていう実に庶民的な場所。 このリアルと非リアルがいい塩梅に混ぜ合わさったとき、傑作が生まれるんだろうなと感じる。 そこで本筋に入るわけだが、今作で登場する世界。「平和警察」に監視され、国家に都合の悪い人々は公開処刑されいくという世界。 読む人は当然、昨今の強権国家、中国、北朝鮮、ロシア・・・を思い浮かべることになる。本作の発表は7,8年前だから、今のロシア情勢なんて想像つかなかったはずで、作者の慧眼には頭が下がるけど、かの国々はこんな状況で日々暮らしているのだろうか? 本作で作者は「偽善者」という単語を登場人物を通じて何度も語らせている。「ロシアは酷い」「プーチンは狂っている」などと繰り返すマスコミや評論家を見ていると、どうしてもそういう言葉を出したくなる・・・ いやいやあまり政治的な話はよそう。そういうわけで本作のエンタメ的な要素は他作品に比べると薄い。タイトルは多分に逆説的で、こんな(監視下の)地球でも住みたいでしょ、そうじゃなかったら「火星にでも住むかい?」っていうことかな? それでも地球に住むしかない人類。「国」規模で考えるんじゃなくて、「地球」規模で考える人間でありたい。なんてことを考えたんだけど。毎日しようもないことで悩んでいる一庶民です。それもやむなし(かな?)。 |
No.27 | 5点 | ホワイトラビット- 伊坂幸太郎 | 2020/11/29 18:20 |
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”伊坂幸太郎20th”か・・・もう二十年になるんだねぇー
個人的にかなりの伊坂作品を読み込んだつもりだが、今回はどんなマジックか? どんな目くるめく展開なのか? 2017年の発表。 ~兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊SATを突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。誰も知らない結末に向けて。驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端~ 今回は「兎」と「オリオン座」と「ジャン・ヴァル・ジャン」である。 そして久しぶりの登場となる、新潮社の伊坂作品にはお馴染みの、愛すべき泥棒キャラ「黒澤」。 つまりは、「黒澤」が「兎」と「オリオン座」と「ジャン・ヴァル・ジャン」をうまいこと使って立てこもり事件、そしてその裏に隠された誘拐事件をうまいこと解決する・・・そんな話。 なんのこっちゃ、って思う? そう。今回も伊坂の腕で何となくうまく丸め込まれた感じ。 本作は、今までにない書き方というか、物語の全体を俯瞰している「神」のような視点が、まるで作品を支配するように、時間軸を行ったり来たりさせる。 コイツが曲者。読者は最初に目にするシーンが、実は裏側はこういうことでした、というのを後で「神」から告げられることになる。 ただ、これが旨く嵌まっているかどうかは正直微妙なところ。ウルサイと感じる読者も結構いそうだ。 個人的には、あくまでこれまでの作者の佳作との比較でいうなら、一枚も二枚も落ちる印象。 作品のテイストでいれば「ゴールデンスランバー」が似ているんだけど、もうひとつ突き抜ける爽快感というか、ヤラレタ感がなかったなぁー。(オリオン座の話もイマイチだし) 前評判は高いと聞いてたので、やや看板倒れに思えた。 まあ良い。次読む作品に期待しよう。 |
No.26 | 10点 | AX- 伊坂幸太郎 | 2020/05/06 15:02 |
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「グラスホッパー」「マリアビートル」に続く、『殺し屋』シリーズの最新刊。
今回はシリーズ初の連作短編形式で、主人公は「超」恐妻家の殺し屋「兜」。 2017年の発表。 ①「AX」=AXはずばり「斧」、具体的にいうとカマキリが意地で繰り出す「斧」のこと。で、これが実は・・・最後になって効いてくる。 ②「BEE」=BEEはずばり「ハチ」。これは・・・もう爆笑モノ。庭にできたスズメバチの巣を撃退するため、誰もが寝静まった未明、まるで宇宙服のような奇妙な防護服で一人ハチの撃退に向かう・・・。 ③「Crayon」=これは子供を持つ親には深く刺さるのではないか。そして、「兜」にやっとできた友人=松田さんの身に突如訪れるアクシデント。人生ってねぇ・・・ ④「EXIT」=例のお笑い第七世代のコンビ・・・ではない。物語が急展開する第四編。今度も「兜」と仲良くなる気弱な警備員・奈野村さんが事件に大きくかかわることになる。 ⑤「FINE」=④のラストで突然突き付けられる事実・・・。それから10年後の世界が語られるのが本編。主人公は「兜」の息子「克巳」。克巳は「兜」の跡を追うことに・・・。そしてサプライズと何とも温かいラストが訪れる。 以上5編。 これは個人的に伊坂史上最高傑作ではないかと思う。 「なぜ」と問われると明確には答えられないのだけど、日本中に閉塞感が漂い暗澹とした日々を過ごす昨今、夢中になって本作を読了できた。それだけで、理屈ではない、魅力のつまった作品ということ。 伊坂作品には、外見上は普通の人間と変わらないけど、実は普通でない主人公がよく登場する。 本シリーズの「殺し屋」然り、「死神」シリーズの「死神」然り、「陽気なギャング」シリーズのギャングたち然り・・・ 彼らは外見は普通の人間だから、一般人(?)たちと普通に触れ合い、会話する。でも、中身は普通じゃないから、我々の常識とはかけ離れた言葉を発したり、行動をしたりする。 この「ズレ」こそが作者の狙いなのだと思う。「ズレ」てるからこそ、そこに不変の「価値観」や「大切なもの」が存在するのだと再認識させてくれる。(当然笑いも・・・) デビュー作「オーデュポンの祈り」から20年。ここまでコンスタントに、多くの読者に読み継がれる作者は決して多くない。決して「熱い」わけではない。それどころか「飄々」として、別の世界の話のような雰囲気を纏っている。そんな作品が読者の心を打ち、極上のエンターテイメントを提供する。実にスゴイことだ。 本作の裏テーマは「父と子」、そして「恐妻」…。もうどうしても自分自身とシンクロさせてしまった。私も語り合いたい。いかに怒らせないように対処していくかを! 大ラスの終章。これはやはり二人の出会いの場面かな? だとしたら、何とも粋で素敵なラスト。父も昔は子供だったし、子供もいずれは父になる。当たり前だけど、この「当たり前」こそが何よりも大切なことだと気付かせる。うーん、これはミステリーの書評ではないな。評価はもう最高点。 |
No.25 | 5点 | サブマリン- 伊坂幸太郎 | 2019/12/17 19:59 |
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「チルドレン」(2004年)の続編。前作は連作短編形式だったが、今回は長編。
“変な男”陣内を中心に、今回も伊坂ワールドが展開される・・・のか? 2016年の発表。 ~家庭裁判所調査官の武藤は貧乏くじを引くタイプ。無免許運転事故を起こした十九歳は、近親者がみな、死亡事故に遭っていたと判明。また十五歳のパソコン少年は、「ネット上の犯行予告の真偽を見破れる!」と言い出す。だが一番の問題ははた迷惑な上司・陣内の存在だった。読み終えた瞬間。今よりも世界が輝いて見える大切な物語~ 『サブマリン』とは・・・①耐圧構造の船体を有し、水中で活動可能な船舶(要は潜水艦だな)、②野球における投法のひとつ(要はアンダースローだな)、とある(by ウィキペディア) 本作のタイトルは一体どういう意味なんだろう? これが読後にまず思ったこと。 ネット上にある本作の特設サイトを閲覧しても、タイトルの意味に言及した部分はなかった。 うーん。よく分からん。 本作のテーマはずばり犯罪。もっと言えば少年犯罪。 途中、陣内と武藤の会話の中にも出てくるが、やむにやまれず犯罪を犯してしまった者と悪意満載だけど、たまたま犯罪までに至らなかった者。いったいどちらが責められるべきなのか? テーマの本質は非常に重いもの。 こんなテーマを薬丸岳なんかが書いたら、心の奥までズンと来るような重い物語を書くに違いない。 でも、そこは伊坂。筆致はフワフワしていて軽く感じるし、独特の会話や言い回しでクイクイと読まされてしまう。 特に本シリーズは、はた迷惑な男・陣内のキャラクターが大きい。 伊坂のシリーズものにはアクの強い名物キャラがよく出てくるけど、陣内もその中のひとりに昇格した感じだ。 (でも、こんな奴、本当に職場にいたら邪魔だろうな・・・) 作者が12年の歳月を超えて続編を出したくらいだから、思い入れもあるのだろう。 ただ、他の佳作に比べてどうかというと、そこは・・・あまり・・・っていう評価かな。 ちょっとフワフワし過ぎ。 |
No.24 | 6点 | 陽気なギャングは三つ数えろ - 伊坂幸太郎 | 2018/12/10 22:08 |
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前作からはや九年、奴らが帰ってきた!!
「・・・地球を回す」「・・・日常と襲撃」に続く『陽気なギャング』シリーズの第三弾。 2015年の発表。文庫化に当たって読了。 ~陽気なギャング一味の天才スリ師久遠は、ひょんなことからハイエナ記者火尻を暴漢から救うが、その正体に気付かれてしまう。直後からギャングたちの身辺で当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器・成瀬ら面々は追い詰められた! 必死に火尻の急所を探る四人組だが、やがて絶体絶命のカウントダウンが!~ 理屈抜きに面白い! 雑念抜きで楽しめる! やはり本シリーズは極上のエンターテイメントと言っていい。 成瀬(人間嘘発見器)、久遠(天才スリ師)、雪子(人間体内時計)、そして響野・・・(演説と邪魔の天才?)の四人が巻き込まれる事件の数々と訳の分からないうちに解決してしまうストーリーには、九年振りとは思えない、妙な安心感を覚えてしまった。 今回のプロットは「カチカチ山」か「サルカニ合戦」がモチーフなのだろうか? いわゆる「復讐劇」が下敷きになっている。 こんなこと書くと、シリアスで悲劇的な話?などと想像してしまうけど、本シリーズでそんなことは有り得ない。 最後は、サルが臼にのしかかられて観念したように、タヌキが泥の船で溺れさせられたように・・・因果応報的なラストが待ち受けている。 (強いて言えば、今回は「亀」だな。) 作者の作品の書評では何回も書いてるけど、やはり只者ではないよ、伊坂幸太郎は。 結構なハイペースで作品を上梓し続けているはずなのに、駄作は数える程しかないというのは才能ということなんだろう。 こういう作品なら誰でも(作家ならば)書けそうなんだけど、誰も書けないということが作者の力量を証明している。 作者が生み出した数々のキャラクターを、コンダクターのように作品世界の中で生き生きと活躍させる想像力と筆力。 やはり、今回も伊坂には脱帽(?)という感じだな。 |
No.23 | 6点 | アイネクライネナハトムジーク- 伊坂幸太郎 | 2017/11/18 10:54 |
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~情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短篇集~
ということで、本作もやはり「伊坂らしい」作品に仕上がっております! 2014年の発表。 ①「アイネクライネ」=ミュージシャン斉藤和義の依頼がきっかけとなり書かれた第一編であるとともに、本作が生まれるきっかけとなった作品。誰もがうらやむ美女とくっつく男って案外こういう奴が多いのはフィクションの中だけのような気がする。現実はそうはいかない! ②「ライトヘビー」=本作の鍵となる人物~“小野”が登場する第二編。途中でオチは想像がついたんだけど・・・ ③「ドクメンタ」=突如最愛の妻に別れを告げられた不幸な男・藤間。お気の毒に・・・。でも通帳をこんなことに使わないで欲しい! ④「ルックスライク」=顔がオヤジにそっくりって、そんなに嫌かなぁ? まっ、確かに嫌だよね。 ⑤「メイクアップ」=昔いじめられた相手に今さら遭遇してしまう! そんな偶然絶対に嫌だ! ⑥「ナハトムジーク」=すべてがつながる最終譚。時代設定がつぎつぎ入れ替わるので頭の整理がたいへん。 以上6編。 今回は作者には珍しく「恋愛小説」比率の高い作品。 織田一真など、いかにも伊坂っていうキャラクターは登場するけど、殺し屋や泥棒、超能力者などといったトリッキーな方々は出てこない。 それが新鮮でもあり、物足りなくもありといったところ。 前にも書いたような気がするけど、作品の平均値高いよなぁー、伊坂は。 今回は多少毛色が違うとはいえ、やっぱりいつもの伊坂らしさは十分に備えた作品なんだけど、飽きないんだよねぇ・・・ 評論家的にその理由を考えるなんてことはしないんだけど、何となく思うのは、“緩さの中の芯”っていうのか、とにかくいつも間にか伊坂ワールドに引き込まれ、あれやこれや接待を受けるうちに何となく契約させられる気弱な人間になったようなっていうのか・・・ 多分、次作も手に取らされ、また接待を受けていい気分にさせられるんだろうね 実に床上手な作家ということかな。 (意味不明な書評) |
No.22 | 6点 | 死神の浮力- 伊坂幸太郎 | 2017/07/21 22:00 |
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“死神”の千葉を主人公としたシリーズ二作目。
2005年に発表された「死神の精度」は連作短篇だったが、今回は長編での再登板となった。 本作は2013年の発表。 ~最愛の娘を殺された山野辺夫妻は、逮捕されながら無罪判決を受けた犯人の本城への復讐を計画していた。そこへ人間の死の可否を判定する“死神”の千葉がやってきた。千葉は夫妻とともに本城を追うことに・・・。展開の読めないエンターテイメントでありながら、死に対峙した人間の弱さと強さを浮き彫りにする傑作長編~ 久しぶりの続編で、かなりワクワクしながら読み進めた。 前作(「死神の精度」)はよくできた連作だっただけに、当然に期待は高まることに・・・ その結果は後に置いとくとして、伊坂作品には強烈なインパクトを与える人物(人ではないケースもよくあるが)がたびたび登場する。 「ラッシュライフ」他に登場する黒澤、「陽気なギャング」シリーズの響野や久遠、「グラスホッパー」の鈴木、etc そして、本シリーズの千葉も負けず劣らずの強烈な個性! 飄々としながらも、人間離れした(死神だから当たり前?)能力を発揮し、人間の常識に囚われない反応を示す・・・ 伊坂らしい世界観や台詞まわしに最適なキャラクターだ。 今回のテーマはやはり「死」と「運命」ということなのだろう。 サイコパス・本城とのせめぎあいを通じながら、人間の逃れられない「運命」としての「死」を問いかけてる・・・そんな気はした。 誰にでも「死」は訪れる。それが早いか遅いかの違いだけで、「死」から免れる人間はいない。 「そんなこと当たり前だろ!」ということなのだが、誰もが「運命」を感じ、背負いながら日々を過ごしている・・・。 山野辺夫妻の「その後」の場面を敢えてラストに持ってきたのが、作者らしい実に憎らしい演出。 「死」という厳粛な結果が出たはずなのに、そこには何と言えないほのぼのした空間すら感じてしまう。 それこそが人間の強さということなのだろうと勝手に解釈した。 ただし、期待したとおりだったのかというと、「期待したほどではないかな」というのが正直な感想。 途中かなり冗長な展開が続くし、もう少し「構成の妙」が欲しかったかなと思った次第。 でもまぁ、さすがのエンタメ小説とは言える。続編にも期待。 |
No.21 | 5点 | 首折り男のための協奏曲- 伊坂幸太郎 | 2017/02/19 21:32 |
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2014年発表。
もともと独立していた七編を「首折り男」や「黒沢」など、緩やかに繋がった世界観が垣間見える連作短篇集、とでも言えばいいだろうか。 ①「首折り男の周辺」=本作のタイトルとは裏腹に、「首折り男」のことが唯一細かに書かれているのが本編。『疑う夫婦』と『間違われた男』、『いじめられている少年』の三つの視点から語られ、徐々にクロスしていく作者お得意の手法。 ②「濡れ衣の話』=ここでも「首折り男」は登場する。ただし、時間軸が微妙にずらされているところがミソか? ③「僕の舟」=個人的にはこれがNO.1かもしれない。まぁベタといえばベタかもしれないが・・・。こういう「天然系」の女性って実は本質を鋭く付いているケースがあるから要注意だ! でもやるな! 若林夫! ④「人間らしく」=いじめとクワガタが主な話題(?!)となる一編なのだが・・・。クワガタの薀蓄はなかなか面白かった。 ⑤「月曜日から逃げろ」=どんなに書いてもネタバレになりそうな話。ちょっと分かりにくいけどね。 ⑥「相談役の話」=伊達政宗の部下でお目付け役として宇和島へ行かされた男と、現代の本当の「相談役」がシンクロしていく話だったのだが、途中から心霊写真の話がクローズアップ。 ⑦「合コンの話」=これは旨いね。さすが! でも久し振りに合コンしたくなってきた(無理だろうけど・・・)。おしぼりの話ってあるあるなんだろうか? 以上7編。 伊坂らしいといえば伊坂らしいのだが、他の佳作に比べるとワンランク落ちるかなという読後感。 緩やかに、っていうか無理矢理つなげただけなので、連作らしい仕掛けもないし、これなら純粋に独立した短編集と銘打つ方が潔い。 「ラッシュライフ」以来たびたび登場する「黒沢」が今回再登板しているのは、ファンにとってはうれしい限りだろう。 ただまあ、あまり褒めるところが見当たらないのは事実。 「箸休め」的な作品という位置付けかな。 (ベストは上記のとおり③。⑦も世評どおり面白い) |
No.20 | 5点 | 残り全部バケーション- 伊坂幸太郎 | 2016/06/19 18:03 |
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2008年以降、段階的に発表されてきた物語に書き下ろしを加えて発表された作品。
溝口と岡田という魅力的な“裏稼業コンビ”が大活躍(?)する連作短篇集。 ①「残り全部バケーション」=離婚が決定した夫婦と娘の元にもたらされた一通のメール。それが風変わりなドライブの始まりだった・・・ということで、すでに読者は伊坂ワールドへ誘われることになる。 ②「タキオン作戦」=二番目にして連作中最も重要(かもしれない)エピソードが描かれる本編。父親に虐待されている少年を助けるために岡田の取った行動と、それに纏わる溝口やら他の面々のエトセトラ、etc・・・。タイムマシーンの話題も登場して何となくSFっぽい作りにはなっている。 ③「検問」=冒頭からまずは「おやぁ?」という疑問が浮かぶ展開。溝口のパートナーが岡田から謎の男“太田”にチェンジされている! でもそこのところの説明は一切なく、物語は進んでいく。警官が検問で見逃した理由は結局なんだったの? ④「小さな兵隊」=一転して岡田の少年時代が描かれる本編。岡田の友人である「ボク」視点で物語は進行していくのだが、岡田よりもボクの周辺の人物の方が面白いのはどうか? ⑤「飛べても8分」=単行本化に当たって書き下ろされた一編。ということは、連作のオチがつけられるのだろうと思いながら読み進めていくわけなのだが・・・。溝口の“謀ごと”はかなり大雑把だし、ラストも唐突に終了。 以上5編。 相変わらずの“伊坂ワールド”で、安定感抜群という感じだ。 溝口&岡田のキャラもなかなか良い。 本作はちょっと不満かな・・・ もちろん旨いのだが、ちょっと小手先が目立つというか、締め切りに追われて脱稿しました感が強い。 悪く言えば、これまで出てきたキャラクターを焼き直して、プロットを若干いじって登場させました・・・とも思えるし、「ラッシュライフ」やら「グラスホッパー」やら「陽気なギャング・・・」なんかのエッセンスを混ぜましたという印象が拭えないのだ。 (あくまでも印象ですが・・・) 確かに軽~い読書には適しているかもしれないが、あまり期待すると裏切られるよ。 でもまぁ繰り返し書くけど、この人天才だと思う。 |
No.19 | 7点 | ジャイロスコープ- 伊坂幸太郎 | 2015/08/23 21:06 |
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何と、これが初の文庫オリジナルの短篇集。
デビュー以来休むことなく秀作を発表し続ける作者はとにかくスゴイのひとこと! 今回も“伊坂らしい”洒脱でどこかホッとさせられる台詞まわしを期待。 ①「浜田青年ホントスカ」=創元推理文庫のアンソロジー挿入ということで、本作で一番ミステリーっぽい一編。いかにも伊坂ワールドに登場しそうな主役級二人が織り成す不思議なドラマと意外性のある展開。「稲垣さん」の放つ台詞もいかにも・・・って感じだ。「ホントスカ」が口癖という浜田青年が実は・・・(ネタバレだから言わない) ②「ギア」=作者本人が「あとがき」で「たまには起承転結のない短篇を・・・」ということで書いた作品。確かにラストは唐突に終わるのだが、要は謎の生物(「セミンゴ」)を書きたかっただけなんだろ! なんだ「セミンゴ」って?? ③「二月下旬から三月上旬」=何だか歳時記のようなタイトルなのだが、SF的要素を盛り込んだ一編。時系列をいじっているので、読んでいるうちに何がなんだか分からなくなる感じが好きかどうか・・・ということだろう。 ④「if」=まさにタイトルどおり。「もし(過去)・・・だったら」という作品。短い分量なのだが、読みながら「分かる分かる」って思ってしまった。 ⑤「一人では無理がある」=何を書いてもネタバレになりそうな一編。最初は「いったい何の話?」って思うのだが、その謎はすぐに判明する。(「作者あとがき」を読むと、最初はラストにネタばらしをするつもりだったとのことだが・・・) ⑥「彗星さんたち」=一時マスコミでよく取り上げられた、新幹線の清掃チームを下敷きとした話。とにかく「いい話」で、読んでいるうちに何だが泣きたくなるのだが、実は“洒落た”趣向が凝らされていることが途中明らかにされる。(さすがだね) ⑦「後ろの声がうるさい」=本作発表に当たって、新たに書き下ろされた一編。要は連作短篇風な「まとめ」を意識した作品なのだが、こういうことを無難にこなしてしまうのが作者の腕という奴かな。 以上7編。 とにかく「さすが」のひと言。以上書評終わり・・・でもいいのだけど、もう少しだけ。 今回はあとがきでの「作者インタビュー」を興味深く読ませていただいた。 最後に長編と短編の違いに触れているのだが、短編の方が読者の期待に堪えるべく「面白い仕掛け」を考えているとのこと・・・ なるほどねぇ・・・ 比較的短い期間でこれだけ佳作を量産できる作者って、もはやバケモノですなぁー もう尊敬するしかないって感じ。 (一番の好みは⑥かな。①も結構面白いよ!) |
No.18 | 8点 | PK- 伊坂幸太郎 | 2015/02/19 23:17 |
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2012年発表。
連作形式を取っているが、世界観は緩やかにつながっており長編として捉えることも可能な作品に仕上がっている。 ①「PK」=タイトルはもちろんサッカーの“ペナルティ・キック”の意味で、主役のひとりとしてサッカー日本代表のストライカーが登場する。しかし、話中には複数の異なった時代のストーリーが並行して書かれており、読者は惑わされること必至。他にも視点人物として、若き大臣やその秘書官、謎の作家なども登場し、彼ら(彼女ら)が一体どのような関係なのかにも頭を捻ることに・・・ ②「超人」=スーパーマン(米映画のあのヒーローね)登場シーンから始まる作品。いったいどういう展開?って思ってると、ある超能力を持ったひとりの男が登場する。男の携帯メールに未来の犯罪者のプロフィールが送られてくるというのだが、それは本当なのか? ①で登場した人物や場面が挿入される場面もあり、①⇔②がどういう関係を持っているのかにも惹かれるのだが・・・ ③「密使」=『私』の章と『僕』の章が交互に語られる展開。『私』は謎の組織に捕らえられ、時空を超えた「密使」の存在を明かされる。そして『僕』はある特殊能力を手に入れ、ある任務のためにこの能力を使うことを強要される・・・。そして唐突に終わるラスト!! 以上3編。 文庫版の帯に書かれた解説者(大森望氏)のことば~『古今東西の小説を見渡しても、似た例がちょっと思い浮かばないくらい、極めて野心的にして大胆不敵。一筋縄ではいかない傑作』~ そのとおりかもしれない。 とにかく作者の才能には改めて脱帽・・・ということで書評終了でもいいのだが、もう少しだけ感想。 ちょうど東北大震災の時期に発表された本作。仙台在住の作者なら、当然それを意識していると思いきや、実は大震災の前には書き上がっていたことが作者あとがきで明らかにされている。 作中では、「ヒーロー」や「勇気」というフレーズも頻繁に登場し、閉塞した時代への作者なりのメッセージが込められていることが想像できる。 それにも増して、作品全体に張り巡らされたこの仕掛けはどうだ! 結局最後まで作者の口(?)から解答は明らかにされないのだが、パラレルワールドなどSF要素も取り入れた本作は、作者の力量・キャパシティを十分に示した作品だと思う。 高評価したい。 |
No.17 | 6点 | オー!ファーザー- 伊坂幸太郎 | 2014/10/01 21:34 |
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2006年に河北新報をはじめとするいくつかの地方紙に新聞連載された作品。
出版年では「ゴールデンスランバー」よりも後になってしまったが、作者自らが自身の第一期の最終作品と呼ぶのが本作。 ~父親が四人いる!? 高校生の由紀夫を守る四銃士は、ギャンブル好きに女好き、博学卓識、スポーツ万能。個性あふれる父親×4に囲まれ、息子が遭遇するのは事件、事件、事件・・・。知事選挙、不登校の野球部員、盗まれた鞄と心中の遺体。多声的な会話、思想、行動がひとつの像を結ぶとき、思いもよらぬ物語があまたの眼前に姿を現す。伊坂ワールド第一期を締めくくる長編小説~ これは・・・ズルイなぁー もう伊坂の得意技がこれでもかというほど散りばめられている作品。 まずは父親が四人という設定からして面白い。 しかもひとりひとりのキャラ付けが秀逸。そして、まとめ役となる息子・由紀夫もこれまた伊坂作品にはお馴染みのキャラだ。 いつもどおり、それぞれが軽そうでいて、どこか教示的で胸に響くことばを持っている。 「こんな奴いるわけない!」という存在なのに、最後には何だか隣にでもいるみたいに親近感が湧いてくる・・・ これこそが伊坂ワールドのマジックというやつだろう。 (読者はいつも「伊坂ワールド」というテーマパークに招待されているのだ) 序盤から一見関連性のない事件が複数発生する展開もいつもどおり。 そして、最後にはそれらの伏線が見事に収束されていく豪腕ぶりもいつもどおり。 特に今回の見せ場は実に映像向き! こりゃすぐ映画化されるわけだ。 ということで、初期作品が好きな読者ならばまず安心してお勧めできる作品となっている。 ただなぁ・・・さすがに二番煎じというかマンネリ感は正直ある。 そんな訳で、作者も「ゴールデンスランバー」以降、ちょっと方向性を変えることになったんだろう。 評点としても手放しで高得点は付けにくい。 |
No.16 | 6点 | マリアビートル- 伊坂幸太郎 | 2014/04/27 20:53 |
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2010年発表の長編。
「グラスホッパー」の続編的位置付けの、“殺し屋”たちを主人公とした作品。 ~幼い息子の仇討ちを企てる、酒浸りの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた腕利きの二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する・・・。小説はついにここまでやって来た。エンタメ小説の到達点!~ 結構長かったなぁ・・・ っていうのがまずは感想になるだろうか。 前作「グラスホッパー」と同様、複数の“殺し屋たち”が主人公の本作。しかも今回は東北新幹線「はやて」の車内が主な舞台となる。 この閉鎖空間のなかで、殺し屋たちが血で血を洗う抗争(?)を繰り広げるのが本作の基本プロット。 ただし、そこは伊坂幸太郎。ただでは終わらない。 本作で登場する殺し屋のうち、中心となるのが中学生の「王子」。 コイツがかなりの曲者なのだ。 人を操る術を心得ている「王子」が、大人の殺し屋たちに混じって生き残っていくのだが、最後には人生の大先輩に人としての生き様を教わることになる・・・。 あと、個人的にストライクなのは何でも機関車トーマスのキャラクターに例える殺し屋「檸檬」。 (パーシーやジェイムス、デイーゼルって・・・普通の人分かるか?) 巻末解説でも触れているが、伊坂作品によく出てくる「悪とはなんなのか?」というのが本作のテーマなのだろう。 作者の軽妙な言い回しやぶっ飛んだ展開に乗せ、一流のエンターテインメントに仕立て上げる“腕”はやはりさすがの一言。 ただ個人的には前作の方がまとまってたような気はするけどなぁ・・・ 本作は途中やや冗長に思えたところでやや減点。 |
No.15 | 5点 | バイバイ、ブラックバード- 伊坂幸太郎 | 2013/07/25 23:11 |
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星野一彦の最後の願いは何者かに<あのバス>で連れて行かれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」・・・これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美・・・
伊坂といえば実に伊坂らしい、とも言える連作短編集。 ①「Bye Bye Black BirdⅠ」=最初に別れる女性の名は廣瀬あかり。そして、なぜか別れるために一彦が挑戦するハメになったのがラーメンの大食い(○○分で完食すればタダ、って趣向ね)! なぜ?? ②「Bye Bye Black BirdⅡ」=二番目に別れる女性の名は霜月りさ子、子持ちのバツイチ。何といっても、本編で笑うべきポイントは不知火刑事だろう。なにせ白新高校出身!ってドカベン世代じゃないと分からんだろ! ③「Bye Bye Black BirdⅢ」=三番目に別れる女性の名は如月ユミ。こいつが一番ケッタイな女かも。なぜか、夜中にロープをかついで忍び込む部屋を探す、女・・・。付けた異名が「ひとりキャッツアイ」ってこれも古いな。 ④「Bye Bye Black BirdⅣ」=四番目に別れる女性の名は神田那美子、何でも計算してしまう女。乳がんの疑いの濃い彼女に代わり、検査結果を病院へ聞きに・・・という展開だが、なかなか笑える。 ⑤「Bye Bye Black BirdⅤ」=最後に別れる女性の名は有須睦子、美しき大女優。この女性は今までの四人とは「格」が違う、っていう感じ。彼女が大事にしていた子供時代の思い出。その思い出が一彦に重なるとき・・・結構グッときた。 ⑥「Bye Bye Black BirdⅥ」=そして、ついに<あのバス>に乗るために、バス停へ向かう一彦と繭美。だが、途中でなんだかんだと邪魔が入り、ついにバスへ乗り込む一彦。だが、ラストに思わぬことが・・・起こったのかどうか? 以上6編。 「ゆうびん小説」という変わった趣向で発表された本作。 どういうことかというと、連作の一編が書かれるごとに50名の方に、あえて郵便で送って読んでもらう、っていう趣向だったのだ。 まぁそれは置いといて・・・ 作品自体については、正直「どうかなぁ・・・」という感想。 もちろん、他の作家には書けない、いかにも伊坂らしい味わいはあるのだが、ちょっと「キツイ」感覚にはなった。 ラストも余韻はかなり残るが、逆に言えば残尿感がある、ということなのだ。 (好きな人には堪らないかもしれないが・・・) |
No.14 | 7点 | ゴールデンスランバー- 伊坂幸太郎 | 2013/02/16 22:38 |
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2007年発表。映画化もされ、作者の代表作ともいえる作品となった。
ビートルズの名曲「ゴールデン・スランバー」に載せて、作者らしい洒脱な言い回しが冴える大作。 山本周五郎賞受賞作。 ~衆人環視のなか、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。「なぜだ?」 、「何が起こっているんだ?」、「俺はやっていない!」。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走劇。行く手に見え隠れする古い記憶の人物たち・・・。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテイメント巨編~ これは「伊坂らしさ」と「伊坂らしからぬ」が混じりあったような作品、 っていう感じか。 読了後に「文庫版解説」を読むと、作者が本作では今までの作品とは「伏線の回収」という点で趣向を変えている云々との記述があり、これが「らしさ」と「らしからぬ」という相反する感想につながったのだろう(多分)。 「らしさ」で言うなら、相変わらず登場人物に配慮が行き届き、一人一人が見事なまでにキャラ立ちしていること。 本作でも森の声が聞こえる森田や、カズ、そして元カノの樋口とそして樋口の子供まで・・・説教めいているのにどこか洒脱で心に響いてくるフレーズの数々・・・ (でも一番秀逸なのは、青柳父の『痴漢は死ね』か!?) 「らしからぬ」なのは、やっぱりラスト。 今までなら綺麗に伏線が回収されて、「アレとアレがここでつながるのかぁ!」という快感を得られていたのだが、本作では多くの?が回収・解決されないまま残されていく。 ラストこそ薄明かりの見えたシーンで終わっていて後味がいいが、この辺はちょっとむず痒い感覚はどうしても残ってしまう。 (特に、警察側の異様さの謎が最後まで明かされないのが、一番歯痒いのだが・・・) 『物語の風呂敷は、畳む過程がいちばんつまらない』とは、作者の言葉なのだが、ある意味、自身の作品のレベルを一段上げるためにも、本作の「試み」は必要だったのだろう。 ただし、単なる市井の一ミステリーファンとしては、今までの「伊坂マジック」をもう少し味わっていたい、というのが偽らざる気持ちなんだけどなぁ・・・ (「ゴールデンスランバー」聴きたくなった・・・) |
No.13 | 6点 | 砂漠- 伊坂幸太郎 | 2012/08/14 21:19 |
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2005年発表の長編作品。
長編とはいえ、各章が春夏秋冬で分かれ、何だか連作短編のような味わいもある。 ~入学した大学で知り合った5人の男女。ボウリング、合コン、マージャン、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、そして超能力対決・・・共に経験した出来事や事件が互いの絆を深め、それぞれを成長させていく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編~ これは全くミステリーじゃないな。 伊坂版「若者群像劇」(表現が昭和・・・)とでも言うべき作品。 普通5人の男女を主人公に、なんていうと、その中でドロドロでもつれ合う恋愛事情・・・っていう展開かと予想してしまうが、そんな要素は全くなし。もちろん、ラブストーリー的要素はあるのだが、全員が非常に「健全な」男女なのだ。 (東堂みたいな超美人がすぐそこにいるのに、終盤の西嶋以外誰も気に掛けないなんてあり得ない!) ミステリー要素は皆無なのだが、仙台市内で頻発する空き巣事件と、西嶋が言うところの「プレジデントマン」事件の2つがストーリーの進行に合わせて一応語られてはいる。 特に空き巣事件の方は「鳥井」の腕の件もあって、もう少しサプライズ感のあるラストを予想してたんだがなぁ・・・ 巻末解説では「西嶋」のキャラクターを絶賛していたが、個人的にはそれ程でもなかった。 (それよりも「鳥瞰型」の北村にシンパシーを感じてしまう。) タイトルの「砂漠」とはどうやら大学生から見た「社会」のことらしいが、肯けるような肯けないような・・・ まっ、確かに「殺風景で乾いている」かもしれないが、それ程悪いものでもないよ。 (東堂みたいな奴がいるキャバクラ行ってみたいねぇ) |
No.12 | 7点 | 陽気なギャングの日常と襲撃- 伊坂幸太郎 | 2012/04/15 12:43 |
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話題作となった「陽気なギャングが地球を回す」の続編。
またもや「あの4人」が復活! ドタバタしているように見えて、決めるところは決める。 ~嘘を見抜く名人は刃物男騒動に、演説の達人は「幻の女」探し、精確な体内時計を持つ女は謎の招待券の真意を追う。そして、天才スリ師は殴打される中年男に遭遇・・・。天才強盗4人組が巻き込まれた4つの奇妙な事件。しかも、華麗な銀行襲撃の裏に「社長令嬢誘拐」がなぜか連鎖する。知的で小粋で贅沢な軽快サスペンス~ 相変わらず面白いなぁー 本作は「陽気なギャング」の続編なのだが、パワーアップしてる。 4人のキャラは最高。特に「響野」。 こんな面白い奴、なかなかいないよ。 本作は当初、4人がそれぞれ主人公として登場する「連作短編」として発表される予定だったものを長編に改編されたのだが、ミステリー的には正解だと思う。 まぁ、そもそも正統なミステリーではないのだが、一見無関係に見える4つの事件が、同じ登場人物や事件の舞台をとおして1つに収斂していくというのは、読んでて気持ちいい。 とにかく「伊坂ワールド」には強い引力があるとしか思えない。 こんな癖のある文章や世界観なのに、いつの間にか作者の世界(舞台か?)に引き込まれてしまう。 これこそが、作家としての力量なんだろう。素直に脱帽。 続編も是非出して欲しい。 (どうでもいいが、大久保が良子さんと無事結婚できたのかが気になる) |
No.11 | 6点 | 陽気なギャングが地球を回す- 伊坂幸太郎 | 2011/12/11 21:34 |
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「オーデュポンの祈り」、「ラッシュライフ」に続く作者の第3長編。
映画化され、続編も発表されたいわゆる「出世作」という位置づけの作品。 ~嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持った女。この4人の天才(?)たちは百発百中の銀行強盗だった・・・はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ。奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。ハイテンポな都会派サスペンス~ さすがに大衆受けはしそうだけど、他の作品よりは若干落ちるかなという読後感。 いつもなら、まさに「伊坂ワールド」とでも言うべき特殊設定下で、作者の気の利いた「台詞まわし」に翻弄されながら、次々とページを捲らされていく・・・という結果になるのだが、今回はそれほどでもなかった。 確かに、銀行強盗の4人は常人にはない「特殊能力」を持っているわけで、そういう意味ではいつもどおりなのだが、プロットそのものは特に「ブッ飛んでる」感はなく、ややノーマルなもの。 終盤~ラストも、ちょっと盛り上がりに欠けるように思えた。 本作は、サントリーミステリー大賞への応募作「悪党たちが目にしみる」を下敷きに「手を入れた」作品であり、その辺りがやや影響しているのかも? ただ、エンタメ小説としては十分に及第点の出来だと思いますので、まぁ誰が読んでも一応の満足感は得られるかと・・・ (本作の舞台はいつもの仙台ではなく「横浜」なのが珍しい。まぁどうでもいいけど。) |