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メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1768件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.33 7点 透明人間- 浦賀和宏 2021/02/23 22:39
孤独に絶望し、自殺未遂を繰り返していた理美に、10年前に不審死を遂げた父の秘密が明かされる!?自宅地下に隠されていた広大な研究所。遺された実験データの探索中に起こる連続密室殺人。閉じ込められた飯島と理美。亡き父の研究とは?透明人間以外にこの犯行は可能なのか!?名探偵安藤直樹の推理が真相に迫る。
『BOOK』データベースより。

明後日2月25日浦賀和宏の命日を控え、一周忌の供養の代わりに勝手に本作を読ませていただきました。
安藤直樹シリーズ最後の作品。800枚の大作。但しそれに見合った内容とは言えません。それは前半のヒロイン理美の一人語りの部分が大半を占めている為です。死にたいけれど死にきれない、そんな理美の内面を執拗にねちっこく描いています。しかしだからこそそこに浦賀らしさの一端を垣間見ることが出来る訳で、一ファンとしてはああまたやってるよってなります。そしてある種懐かしさすら覚えます。又、冒頭に配された日記と手書きの「わたしの町マップ」が涙を誘います・・・。

一転後半は目まぐるしく物語が動き、どんどん人が死んでいきます。
理美が目の当たりにした、透明人間の仕業としか考えられない父の死と、地下室での惨劇。この双方を安藤直樹が解き明かしますが、一方で理美が考えた推理も全くの絵空事とは思えないので、どちらを選択するかは読者に委ねられます。いずれにしてもシリーズ髄一のダイナミックなトリックを堪能できるのは間違いありません。
唐突に打ち切られた安藤直樹シリーズ、その後に書かれたシーズン2の萩原重化学工業シリーズ。その間に何があったのかは不明のままで、出来る事なら天国の浦賀に訊いてみたいものではあります。

No.32 7点 世界でいちばん醜い子供- 浦賀和宏 2020/11/29 22:15
幸せだった純菜を、孤独な日々へと突き落とした“彼”との別れ。繋がりを失い、塞ぎ込んでいた彼女のもとへ一通の手紙が届けられる。その差出人こそ、2年前に巻き込まれた呪わしき轢き逃げ事件の関係者だった!恨み続けた犯人への手掛かりを掴んだ純菜は復讐を誓うが、同時に彼女の命は何者かの存在によって脅かされる。松浦純菜、絶体絶命の大ピンチ。
『BOOK』データベースより。

松浦純菜・八木剛士シリーズの番外編的な作品だと思っていたら、大間違いでした。まず純菜の一人称で語られるのが意外な点です。しかも八木は語られるだけで登場しません。終始「彼」という表現で出てきます。けれどそれで物足りない感覚は一切ありません。そこは純菜の内面が存分に描かれていることで十分補填されているからだと思います。そして多分彼女の身体の秘密が初めて語られた貴重な作品でもあります。私の中ではもっと早く、と言うか順番通り読みたかったなという思いはありますが、今回遅まきながら読んで心から良かったと思える一作でした。

正直、この話は純菜が八木を差し置いてロックバンド・メグローズのボーカルといちゃつく恋愛物だと勘違いしていました。ところがこれは立派な青春ミステリであり、本格ミステリだと断言して間違いないことに今更気づきました。評価は分かれるものと思われますが、個人的には大満足です。純菜の過去に何があったのか、本人の口から語られるとあって、流石に生々しさと彼女のやや歪んだ人間性なども垣間見られ、浦賀ファンとしては大きな収穫だったと言っても過言ではありませんでした。

No.31 7点 殺人都市川崎- 浦賀和宏 2020/08/09 22:21
治安が悪く、地獄のような街で地べたを這いずって暮らしていると考えていた俺は間違っていた。出会ったら命がないと言われる、伝説の殺人鬼・奈良邦彦。本当の地獄は、あいつとの出会いから始まった。彼女を、そして両親を殺された俺は、それからも執拗に奈良に狙われ続け……。41歳の若さで急逝した天才作家・浦賀和宏氏最大の問題作、最期の挑発&最後の小説。
裏表紙より。

遺作、或いは最後の小説。『デルタの悲劇』が先だったのか後だったのかを私は知りません。しかし、いずれにしてもこれより先はもう浦賀和宏の新作を読むことは誰にもできません。
さて、この小説は浦賀らしさが随所に出た、彼の作品の中でも異色の部類に入るのではないかと思っています。スプラッターが目立つのは新味と捉えるべきでしょう。新シリーズとして発進した本作なので、どこかしら未完に終わっているのではないかとの危惧もありましたが、それは杞憂に終わりました。
殺人鬼奈良邦彦がシリーズを通して出現するという設定だったらしいのです。それが毎回同じ人物なのか、そうでないのかを知るすべはありません。問題作と言えば、そうなのでしょう。しかし、浦賀の作品は問題作だらけなので、ひと際目立つ存在だとは思いません。それでも最後の作品に相応しい小説に仕上がっていると私は感じます。気を付けたいのは、川崎へのディスり方が半端ないってことです。

どこか自身の某作品に似て、ラストは世界がでんぐり返しを起こし、足元が崩れ落ちる感覚を体験できます。それはある既視感に近いものがあり、私自身には好ましく感じられましたが、大方の読者はそれまでの話は何だったんだ、と思う事でしょう。これが浦賀ですよ。おそらく誰も7点以上は付けないでしょうが、私は胸を張ってこの点数を献上したいと思います。この世界の片隅に蹲る一ファンとして。

No.30 6点 デルタの悲劇- 浦賀和宏 2020/04/24 22:10
ひと気のない公園の池で10歳の少年の溺死体が発見された。少年をイジメていたクラスメイトの悪童3人組は事件への関与を疑われることを恐れたが、真相は曖昧なまま事故として処理される。ところが10年後、少年の幼なじみを名乗る男が3人の前に現れ罪の告白を迫ってきた。次第に壊れゆく3人の日常。果たして少年を殺したのは誰なのか。人間の本性を暴き出し、二転三転しながら迎える衝撃の結末。予測不能の神業ミステリ!
『BOOK』データベースより。

これは二度読みしないとスッキリしないですね。ストーリーとしては決して複雑ではないものの、仕掛けは巧妙で最後まで読まないと何がしたかったのか理解できないと思います。
八木剛とか桑原銀次郎の名前を聞いてあれっと思わない浦賀ファンはいないでしょうが、なんと作中には作者自身の名前も登場します。相変わらずやってくれますね。よくここまで捻ったものだと感心します。

虐められて溺死した少年の死が果たして殺人だったのか事故だったのか、そもそもそこから謎が出発するのですが、そんなことは最終的には付け足しのようなものに成り下がって、読んでいてそれどころではなくなります。なんだかあっけない物語だったなと思っていたら、必ず足を掬われますね。そして頭が混乱すること必至です。良し悪し、好悪は別にしてなかなかできない読書体験をすることになると思います。
真っ当なミステリとは思いませんが、こういうのもあるんだと知って欲しいという気持ちはありますね。

No.29 7点 学園祭の悪魔- 浦賀和宏 2020/03/04 22:57
あの日から、世界は壊れはじめていたのかもしれない。首なし死体、連続猟奇殺人事件、そして…。私の周りに“死”が堆積していく。学園祭で出会った笑わない“名探偵”安藤直樹は、すべてを解決してくれるのだろうか?凄惨!壮絶!明かされる事件の真相!日常の意味が消失する浦賀エンタテインメント最新作。
『BOOK』データベースより。

一体浦賀和宏は安藤直樹をどうしたかったのでしょうか。安藤直樹シリーズで最大の衝撃を受けました。しかしホラーはないでしょう、青春小説ですよ。ラストのショッキングな事実がなければね。物語は主人公の女子高生幸の一人称で語られますが、やはり一人称という形式には、身構えて掛からなければいけない訳で、だからと言って安易な叙述トリックではありませんよ。そんな生易しいものではありません。
言ってしまえば名探偵の宿命が、捻じれた形で表現されているのかも知れないですね。逆説的な名探偵論にもある意味納得です。他の作家は絶対やらない禁忌に触れていますし、シリーズ全体のあり様を作者自ら破壊しようとしています。

本作は全体がプロローグのようなものであり、本編は小説が終わってから始まるのです。次回作『透明人間』を読まなければ分かりませんが、おそらくその後の物語は永遠に書かれることはないと思いますね。
惜しいですね、安藤直樹シリーズがあと一作で読み終わってしまうのは。それにしてもなんだか久しぶりに安藤直樹が前面に出ていたと思ったらこれだから、浦賀は油断できません。世評の低さも理解できますが、個人的には気に入っています。と思ったら読書メーターでは割と評価されていました。

No.28 6点 浦賀和宏殺人事件- 浦賀和宏 2020/01/26 22:28
ミステリ作家浦賀和宏は悩んでいた。次作のテーマは「密室」。執筆が難航するなか、浦賀ファンの女子大生が全裸惨殺死体で発見される。彼女が最後に会っていたのは浦賀和宏!?そして…その裏にはもうひとつの事件が?愕然の結末!永遠のテーマ「密室トリック」に挑む講談社ノベルス20周年書き下ろし。
『BOOK』データベースより。

講談社ノベルス20周年記念企画袋綴じ『密室本』の一冊。
密室と言えるのは、ほぼ全編YМO塗れのページ数にして僅か16ページの作中作(真相はかなりショボい)であり、他は浦賀らしさが存分に感じられる本格ミステリです。まさにタイトル通りの内容ではありますが、そこはそれ作者らしく捻くれまくっています。初めてこの作家の作品を読む人は、浦賀和宏ってこんな嫌な奴なのだろうかと、真剣に思い悩むかも知れませんね。それこそが作者の狙いであり、術中に嵌ったってことになります。いずれにしてもファン必読の書であるのは間違いないと思います。

御手洗潔や二階堂蘭子、法月綸太郎、鹿谷門実らを揶揄する場面があったり、自作の名探偵マルコシを出してきたり、まあ色々とやってくれます。メタな要素をも取り入れ、禁断の一発芸を披露するなどサービス満点の内容となっています。
個人的には『密室本』の中では舞城王太郎の『世界は密室でできている。』の次に良く書けている作品だと思います。派手さはないけれど、後からジワジワ来ますね。

No.27 6点 記号を喰う魔女- 浦賀和宏 2019/12/11 22:38
「僕が死んだ時、居合わせた人間達を僕が生まれたあの島に向かわせてください」そう遺言を残し中学生が自殺した。孤島を訪れた5人の同級生を襲う殺戮劇。死体には、全て「逆さV」の記号が残されていた。犯人は、そして生き残れるのは誰?最終ページまで気を抜くことを許さぬ、狂気の連続と逆転する真相。
『BOOK』データベースより。

この作品は孤島、カニバリズム、難解熟語に要約され、それ以上でもそれ以下でもないと思います。ミステリですから殺人は起きますし、二つの死体には胸が逆Vの字に切り裂かれていますし、電話線も切断されます。他にもどんどん死人が出ます。一見典型的な孤島物に見まがうかもしれませんが、そうではありません。では本質は奈辺にあるのか、それはカニバリズムそのものなんですね。ネタバレになってしまうかも知れませんが、中盤でカニバリズムに対する論考が語られるので、ギリギリセーフでしょう。

安藤直樹シリーズ第五弾なわけですが、直樹は登場しません。もっと時代は前ですし、言わば番外編になろうかと思います。では本作の安藤とは誰か、小林は誰なのか、それはシリーズを通して読んでいる人は多分分かるでしょう。
本格ミステリのようで本格ミステリじゃない、なかなかにジャンル分けが難しい作品です。読後はスッキリはしませんが、印象深いのは間違いないと思いますよ。

No.26 5点 生まれ来る子供たちのために- 浦賀和宏 2019/11/03 22:23
世界で一番醜く、孤独な男―八木剛士。剛士を唯一支えてきた少女―松浦純菜。だが、剛士の非道な行いにより二人の関係は崩壊し、彼の最後の拠り所であった、最愛の妹にまで悲劇が!!運命に翻弄される剛士は、最後の復讐を開始する…。すべての絶望が向かう先には一体何が―!?ついに明かされる、剛士の出生の秘密!松浦純菜シリーズ、堂々の最終巻。
『BOOK』データベースより。

シリーズ最終巻、漸く終わったかという気持ちが強いです。本作には正直始めからあまり期待していませんでしたが、やはり想像通り尻すぼみで完結してしまったとしか言いようがありません。
八木、純菜、南部の視点から過去を振り返りますが、似たような事柄が過去の作品に何度も書かれており、くどいです。果たしてこれだけ読んだ人がどれだけ理解できるのか疑問に思います。第一作から順番に読むことを義務付けるようなやり方は、言ってみればあざといです。最後に純菜を持ってきたのは正解でしょう、でも最後まで八木は醜く、心までも汚れてしまっているし、純菜は八木を憎み結末がどうにもスッキリしないまま終わった感じがして仕方ありません。ただ、剛士の秘密が明らかにされただけでも良かったのかなとは思います。しかし、それも今一つ納得がいかない部分があり、不満が残ります。

何となくメタに逃げたようなところは、らしいと言えばらしいですが、黒浦賀をずっと読まされてきたように思えてなりません。思えば、三作目以降はミステリからどんどん離れていってしまい、ここまで引っ張るような大したシリーズではなかったとの結論に個人的には達しました。一作目は良かったんですけどねえ、せいぜい四作くらいで完結させていればもっと密度の濃いものになったのではないかと思わざるを得ません。

No.25 7点 とらわれびと- 浦賀和宏 2019/10/03 22:47
大学構内で発生した連続殺人。被害者はみな男性で、腹を切り裂かれて殺されていた。犯人を捜していた被害者の姉は、「妊娠」した男が次々と失踪するという奇妙な事件に出くわす。非日常の犯罪は「笑わない男」の指摘で予想もせぬ真相を明らかにする。圧倒的眩暈感!鬼才、浦賀がついに恐るべき真の姿を現した。
『BOOK』データベースより。

これですよ、これこれ、私が浦賀和宏に求めていたものは。誰も扱わないような案件をミステリとして昇華しようとする姿勢は流石だと思います。しかし、好みが分かれるだろうなあ。私の様に諸手を挙げて喜ぶ者もいれば、何これ?と足蹴にする方もおられるでしょう。本格ミステリだけど半分は壊れた人々の物語ですからね、後味も宜しくないですし。でもそれが作家浦賀和宏だから仕方ないです。

もう冒頭から萩原良二を登場させた時点で、期待度マックスですわ。内容はそれに見合った異様な事件の連続で、しかも安藤直樹の周りの人間が関わっているため興味は尽きません。ただ、ツッコミどころを論えばいくらでも出来るのですが、そんな些細なことを気にしなければ、きっと誰もが楽しめると思います。まあ、シリーズを順に読んでいる方がより満喫できますけどね。
一番瑕疵となりそうなのは安藤、金田、飯島の三人の父親に関する記述で曖昧な部分があったことですね。あと、安藤直樹はほとんど出てきません。しかし、そこはそれキッチリと役割は果たしますよ。しかし作家という職業に人は色々考えますね。ちょっとごちゃごちゃした感じは否めませんが、らしさはよく顕れていて出色の出来だと思います。

No.24 7点 松浦純菜の静かな世界- 浦賀和宏 2019/07/08 22:31
大けがを負い、療養生活をおくっていた松浦純菜が2年ぶりに自宅に戻ってくると、親友の貴子が行方不明になっていた。市内では連続女子高生殺人事件が発生。被害者は身体の一部を持ち去られていた!大強運で超不幸な“奇跡の男”八木剛士と真相を追ううちに2人の心の闇が少しずつ重なり合う新ミステリ。
『BOOK』データベースより。

あるルートから入手。やっと読めました。
やはり浦賀はこうでなければいけません。シリーズ第一弾ということで、結構力が入っている感じがします。八木は相変わらずですが、純菜のキャラが掴みどころがなく、女性の心理を描くのが下手なのかと思いました。もう少し掘り下げるとか、何とかならなかったものかと。故意に不透明さを押し出しているのかもしれませんが、シリーズを通してこんな感じなので、何とも言えません。

しかし、青春ミステリのような雰囲気を醸していますが、骨格はコテコテの本格物ですよ。二作目は良いとして、それ以降もこの路線で行って欲しかったですねえ。途中からミステリを放り投げて、明後日の方向に向いてしまって、それが悔やまれてなりません。
これまで私自身モヤモヤしていた純菜の秘密に関して明らかにされていたので、その点は溜飲が下がる思いでした。ただ細かいところで瑕疵が目立ちますし、終盤謎解きが早足過ぎて勿体なかった気がします。動機も弱いというか説明不足ではないかと思います。その辺りを差し引いてもこの点数、なかなかの作品ではないでしょうか。

No.23 6点 ifの悲劇- 浦賀和宏 2019/05/31 22:42
【ネタバレ注意 既読の方もしくは、今後本作を絶対読まないという方限定】

小説家の加納は、愛する妹の自殺に疑惑を感じていた。やがて妹の婚約者だった奥津の浮気が原因だと突き止め、奥津を呼び出して殺害。しかし偽装工作を終え戻る途中、加納の運転する車の目の前に男性が現れて…。ここから物語はふたつに分岐していく。A.男性を轢き殺してしまった場合、B.間一髪、男性を轢かずに済んだ場合。ふたつのパラレルワールドが鮮やかにひとつに結びつくとき、予測不能な衝撃の真実が明らかになる!
『BOOK』データベースより。

まさに想像の斜め上を行く、と言うより想像の真上を行く絶妙な仕掛け。これにはさすがに騙されました。
意外に単純なストーリーだと思いながら読んでいましたが、実はとんでもない食わせ者で、かなり複雑に入り組んだ話なので、読者はそれを覚悟の上で慎重に読み進めなければなりません。ただし、それ程面白い訳ではなく、なんとなく読み流していると後で後悔する羽目になるかもしれません。途中で違和感を覚え、それらを頼りに真相に迫ろうとし、そして作者の企みを見抜こうとする勇敢な読者にはハッとするような天啓が訪れる瞬間がやってくるかもしれませんね。

それにしても、誰もが「そっちかい」と思わず唸るようなエピローグには、それは違うんじゃないかとか、やり方が汚いとの意見も上がりそうですが、もう一度最初から読み直してみると、作者がいかに巧妙に騙しのテクニックを駆使しているかに気付くと思います。○○トリックや××トリックを上手い具合に仕込んだ、浦賀らしい(らしからぬ?)一篇ではないでしょうか。
読後腹を立てる人もいるかもしれませんが、個人的には満足しています、騙されたことに、そして見事な着地を見せた作者に対して。

No.22 4点 地球人類最後の事件- 浦賀和宏 2019/04/30 22:22
世界中から見捨てられ、愛してくれる人などいない。孤独な高校生・八木剛士が持つ唯一の武器―それは敵弾にも倒れない不死身の力だった。この力をきっかけに出会った謎の美少女・松浦純菜へ抱いた初めての恋心。しかし彼の激しい被害妄想によって二人の絆は修復不可能に…。不幸のどん底に落とされた剛士を襲う、さらなる事件とは。
『BOOK』データベースより。

どうなんですかね、これ。流石に水増し感が半端ないと言いますか。リフレインと堂々巡り。正直くどいです。特に八木の己の容貌の醜さと、女に対する感情、どうしようもないリビドーなどが繰り返し綴られ、シリーズの他作品と同じ心理描写が食傷気味です。
一方、スナイパーに関する内情や組織は提示されますが、肝心の「なぜ八木が狙われるのか」が未だ判然とせずすっきりしません。ダラダラとした展開でいい加減うんざりしているところ、最後に話が急変します。次作が最終巻となるわけですが、一体どのような結末を迎えるのか、不安しかありません。

作品の出来不出来の差が激しいと言われる作者ですが、ここに来てあの日古書店でずらりと並んでいた浦賀和宏の名前の誘惑に負けて、本シリーズを置いてあるだけ総て購入したことが正しかったのか間違いだったのか、悩むところです。これまではそれほど悪くは思いませんでしたが、本作だけはちょっといただけませんね。完全にタイトル負けしていますし、内容はともかく次を読まざるを得ないような構造になっているあざとさも悪質と思えてなりません。最終巻に期待するしかありませんね。

No.21 5点 堕ちた天使と金色の悪魔- 浦賀和宏 2019/03/13 22:01
銃撃されても死なない、怪我もしない、傷つかない。この不死身の力を武器に、自分を虐めてきた人間への復讐を果たした“奇跡の男”八木剛士に訪れる、これまでと一変した日常。彼はもう、昔の姿には戻れない…。自分に好意を寄せる、金髪の美少女・マリアと唯一の理解者である松浦純菜の間で揺れ動く剛士。彼が選んだ道は、新たなる悪夢へと繋がっていた。
『BOOK』データベースより。

『どん兵衛天ぷらそば』、いや、この地域では関西圏で出汁がちょっと薄めだから『緑のたぬき』にしよう。封を切り出汁を入れ生卵を割り落とし、天ぷらは後乗せ、ではなくそのまま。お湯を卵の上からそっと流し込む。そして3分待って・・・。作者が他のカップ麺でも色々試した結果、生卵には天そばが一番合うそうなのでそれを信用して、自分も試してみたいと思います。

どうでもいい話をしました。さて本作、これも言わば繋ぎとしての価値しかないと思います。確かに物語は少しだけ進展しますが、それはあくまで八木が純菜とマリアの間で揺れ動く心情を中心に、三角関係(四角関係?)が描かれるもので、事件は起こりません。まるで毛色の変わった恋愛小説の様相を呈しており、ミステリとも言えない感じになってしまっています。まあ八木の進化した姿を目の当たりにすることはできますし、これが青春なんだろうなとも思いますが。
一体どこに向かおうとしているのか、依然全貌が見えてきません。最後に殺人事件らしきものの予告がなされますが、乞うご期待ということで、ラスト二作どう収拾を付けるのかが見ものです。尚、一作とばしていますが、こちらは純菜目線で描かれた前々作の裏側のようなものらしいので、読まなくても支障はありませんでしたね。ちなみにタイトルにやや違和感を覚えますが、何か意味があるのでしょうか。

No.20 6点 さよなら純菜、そして不死の怪物- 浦賀和宏 2019/03/11 22:11
思い出せ、あの日の屈辱を。不登校になるまでに受けたはずかしめの数々を。唯一の心の支えだった愛する純菜。彼女と結ばれることがもはや不可能なら、俺にはこれ以上失うものはないのだ。『この恨みはらさでおくべきかリスト』に載ったすべての連中に復讐の鉄槌をくだすときがきた。
『BOOK』データベースより。

こうしてシリーズ物を立て続けに読むと、内容に既視感を覚えたり、物語の本流があまり変化しないと、どこからどこまでが何巻か不明瞭になったりして、直近の作品でさえ何がどうだったのかはっきり思い出せないことがあります。歳のせいか、私の脳細胞の死滅が速過ぎるせいなのか、まあ言い訳ですけど。

さて気を取り戻して本作ですが、漸く本筋に光が見えてきます。マリアと新たな少女の登場、八木を付け狙うスナイパーとの対決、そのスナイパーの背後に見え隠れする組織の存在、そしてついに覚醒する八木の<力>。これで終末に向かう要素は揃ったと見て良いのではないかと思います。中でもやはり印象的なのはラストの復讐劇ですね、ニュー八木剛士の誕生はこれまでの物語を一新するのでしょうか。
ですが、やはり純菜が出てこないと物足りないですね。確かにマリアは個人的に純菜より好感度は高いですが、南部の部屋で純菜を含めた仲間たちが揃って青春を謳歌するシーンが癒されるだけに、それがないとなんだか詰まらないです。

No.19 5点 八木剛士史上最大の事件- 浦賀和宏 2019/03/08 21:40
不死身の“力”を宿す奇跡の男―八木剛士の心にくすぶり続けるのは、デタラメな世界への激しい呪詛。学校では凄まじい虐めを受け、謎のスナイパーには命を狙われるという生き地獄の中で、初めて手に入れた“恋”という名の青春!唯一の救済者・松浦純菜への想いを募らせすぎた妄想は、ついに脳外へ…。そして事態は急展開!急旋回!急降下!?八木剛士に訪れた史上最大の事件とは。
『BOOK』データベースより。

タイトル負けしていますね。もはやミステリとも呼べないですが、次作への繋ぎのようなものでしょうから仕方ないですか。ほぼ全編八木がクラスメイトに虐められる様子と、その都度の八木の内面が描かれていますが、可哀想とはならないです。何故なら八木自身も心の奥に全員ぶっ殺してやるとか、地球上に俺と純菜の二人だけになればいいのにとかという思いがあるから。外見のみならず中身も醜い男、ダーティヒーロー八木。
ただ、次回作が気になって思わず読んでしまう、しかもそれなりに面白いというのが偽らざる心情なのです。サーガですから。しかし、この史上最大の事件、これが問題です。八木がとんでもない事件を起こす訳でもなく、かなり拍子抜け。結局最終巻まで読んでみないと本作の真価は分からないかもしれません。

No.18 6点 上手なミステリの書き方教えます- 浦賀和宏 2019/03/02 22:39
友だちもいない、女にもまったくもてない。唯一仲よくしてくれていた大切な妹は、暴漢に撃たれ、意識不明の重態。心和むのは、自分の部屋でガンプラを作っているときくらい…。不幸の女神に愛された男。八木剛士の前人未到なほど前途多難な人生にやっと訪れた「青春」。結末圧倒的感動必読。
『BOOK』データベースより。

一体自分は何を読まされているのだろうか、というのが率直な感想でした、途中までは。シリーズ三作目にして早くもネタ切れなのか、とも思いました。
八木のパートでは相変わらず屈折したオタクの心情が描写されています。一方重要人物であるエロ小説家松本楽太郎のパートでは、ひたすら徹底してオタクを攻撃する記述が繰り広げられ、あたかもオタク論文の様相を呈しています。事件も一向に起こる気配がなく、先行き非常に不安に。

結局事件は起こり、お馴染みの刑事も登場し、やっとミステリらしさが出てきたと思いきや、またもや思いもよらない方向に向かおうとしています。何なのだろう、この小説は。ここで本作を勝手ながら『本格青春変態オタクメタミステリ』と命名させていただきます。決して人には勧められない、オタク、妹萌え、エロ、ガンダムをこよなく愛する方以外は読まないでいただきたい、とんでもない怪作ですね。ただ、ラストは意外にも清々しい後味で、気分は爽やかになったりします。
個人的には好きですが、とにかく人を選ぶ作品には違いないでしょう。良い子は読まないで。

No.17 5点 火事と密室と、雨男のものがたり- 浦賀和宏 2019/02/27 22:28
“奇跡の男”八木剛士の周辺で何故か頻発する怪事件。女子高生の首吊り死体が発見され、無差別放火事件が連続する。世の中を恨み続けて生きてきた剛士が、唯一出会った理解者・松浦純菜と事件を調べるうちに、ある一人の男に辿りつく。孤独に徹しきれない剛士の心に芽生える複雑な想いを、青春ミステリの先覚者、浦賀和宏が切なく描く。
『BOOK』データベースより。

私のイメージしていた物とは全く違う青春ミステリでした。シリーズ物は本来第一作から読むべきですが、やむを得ない事情により第二作から読み始めたわけですが、やはり所々に?な部分が見られます。一応、これはこれで完結していますので文句を言えるような立場にありませんが。

内容はタイトルが全てを見事に表現しています。まさに名は体を表すというね。火事、密室状況での首吊り死体、そして雨。それらが上手く絡み合い物語は進行します。ミステリとしては凡庸かもしれませんが、相変わらずの非現実的な設定を生かしての「らしさ」は十分出ていると思います。
八木は虐めを受けながらも高校に通い続ける、内面に憎しみを充満させた、これ以上ない程のアンチヒーローです。何の取り柄もなく平凡な男が主人公であってもいいじゃないか、それのどこがいけないんだという、浦賀の読者に媚びず我が道を行く姿勢が貫かれているような気がします。だから人気もイマイチ、でも私は読み続けるでしょう。

No.16 5点 ファントムの夜明け- 浦賀和宏 2019/02/10 22:02
いまだかつて、これほど哀しいホラーはなかった。これほど恐ろしいファンタジーはなかった。これほど残酷なラブ・ストーリーはなかった。あなたはこの哀しくも衝撃的な結末に耐えられるか。死はいつも愛する者を奪っていく。でも、あなただけは。元恋人の失踪、明らかになる妹の死因、忍び寄る死の気配。連鎖する悲劇の果てに待っていたのは…。

浦賀を何作か読んできた人には、やや食い足りないのではないでしょうか。らしさはそれなりに出ていると思いますが、クセがない比較的淡々とした文章となっている為、あまりのめり込めませんでした。
所謂超能力を扱った作品ですが、それを信じる側信じない側両面から描かれており、一体本当に超能力は存在するのか、読者はそれに翻弄されます。結局意外な形で結論は提示されます、まあ一種のファンタジー或いはSFでしょうから、それで全然問題ないとは思います。

中盤まではどっちに転がるか分からないような展開でしたが、終盤から俄然描写が生き生きとしてきて、本来の作者の姿を取り戻し覚醒した感があります。やはりこの独自の浦賀ワールドが全開にならなければ面白くありませんからね。
個人的には期待していたものとは違っていましたが、逆に一般読者にとってはこれくらいの適度な刺激が丁度良いのかもしれません。これもある意味ジャンルミックスと言えるでしょう。SF、ホラー、ファンタジー、ミステリなどが混然一体となった、ちょっと毛色の変わった作品です。

No.15 6点 姫君よ、殺戮の海を渡れ- 浦賀和宏 2019/01/31 22:29
敦士は、糖尿病の妹・理奈が群馬県の川で見たイルカを探すため、彼女と友人とともに現地へ向かう。当初イルカの存在を信じていなかった敦士だが、町の人々の不審な様子により、隠された秘密があることに気が付く。やがて彼らが辿り着いた真実は悲痛すぎる運命の扉を開けていく――。少年少女の切ない青春を描いた傑作恋愛ミステリ。

主人公で語り手の敦士は短気で喧嘩っ早い、その妹理奈はすぐ拗ねてへそを曲げるという情緒不安定な兄妹。ほかの登場人物にも感情移入の余地はなく、嫌悪感を覚えて途中で読むのを止めてしまう人がもしかしたら多いかもしれません。
愛か、青春か、冒険か、正直何を描きたいのか良く分かりません。特に前半は面白みがなく、文章にもキレが感じられず、困ったもんだなあと思いながらダラダラ読んでいました。しかし、終盤想像もしない事態が待っており、とんでもない着地点を作者は用意していました。やはりこの浦賀、只では終わりません。これ以上書くとネタバレしてしまいそうなので、この辺でやめますが、取り敢えず長くても最後まで読みましょうってことだけは言えます。

読み終えて、呆然としながらあのシーンはそういうことだったのかという感動が後からこみ上げてきます。こういった体験はそうそうあるものではなく、貴重な経験をさせてもらった気がします。

No.14 6点 時の鳥籠- 浦賀和宏 2019/01/23 22:33
「この子は近い将来、自殺する」。初対面の少女の運命をなぜか私は知っていた。少女に出会った瞬間意識を失った私は、心肺停止から奇跡的に蘇生するが、見るのも聞くのも全て昔のものだ。もしかしたら私は未来から来た人間なのか。私は少女を自殺から救うべきなのか。時空の螺旋が絡み合う安藤シリーズ第二弾。
『BOOK』データベースより。

「安藤直樹シリーズ」第二弾と言うより、続編なのでしょうか。前作と対を成すストーリーなのですが、謎を完全に補完している訳ではありません。なんかまったりしています。そう、多分浦賀の感性を僅かでも多く感じ取ってしまえる者だけが、この作品を評価するのだと思います。
本作から読んでも訳が分からないということにはならないですが、やはり順序を踏んで第一作から読むのが本筋と感じます。同じ描写の繰り返しが多いとか、宮野のパートは正直いらいないのではないかとか思ってしまいますが、そうなると悪戯に枚数を増やして冗長さを助長している、みたいになります。で、必然的に退屈で詰まらない、まるで作者が自分だけの世界に浸り過ぎなのでは?という感想にもなりかねません。結局それが浦賀という人の一つの特徴でもあり、広く一般読者に受け入れられない要因になっているのかもしれませんね。

ただ平均得点がこれだけ高いのは、私には理解できません。デビュー作を凌いでいるかと問われれば、否と答えるしかないのが私個人の結論です。面白いかという観点で言えば面白くはないと思います。しかし、何故かどこかに惹かれるものを持っている、不思議な作品であるとは言えます。要するにフィーリングの問題、或いは相性の問題ですかね。とにかく難しい作家ですよ、難解なのではなく行間を読み取る繊細さが要求されると言ったらいいんですかね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1768件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
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西尾維新(25)
アンソロジー(出版社編)(23)
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