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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2008件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1548 7点 私の頭が正常であったなら- 山白朝子 2022/12/17 22:48
最近部屋で、おかしなものを見るようになった夫婦。妻は彼らの視界に入り込むそれを「幽霊ではないか」と考え、考察し始める。なぜ自分たちなのか、幽霊はどこにとりついているのか、理系の妻とともに謎を追い始めた主人公は、思わぬ真相に辿りつく。その真相は、おそろしく哀しい反面、子どもを失って日が浅い彼らにとって救いをもたらすものだった――「世界で一番、みじかい小説」。その他、表題作の「私の頭が正常であったなら」や、「トランシーバー」「首なし鶏、夜をゆく」「酩酊SF」など全8篇。それぞれ何かを失った主人公たちが、この世ならざるものとの出会いや交流を通じて、日常から少しずつずれていく……。そのままこちらに帰ってこられなくなる者や、新たな日常に幸せを感じる者、哀しみを受け止め乗り越えていく者など、彼らの視点を通じて様々な悲哀が描かれる、おそろしくも美しい”喪失”の物語。【解説:宮部みゆき】
Amazon内容紹介より。

乙一の様でありながら乙一ではない、それが山白朝子。何と言うか、読者に生理的な嫌悪感を催させる描写が結構こってり詰め込まれている感じでしょうか。だから、切なさとか泣かせると云うコンセプトとは違う気がします。
『首なし鶏、夜をゆく』『子供をしずめる』が最も印象に残りました。他にも『トランシーバー』『世界で一番、みじかい小説』も良かったですね。駄作はないものの、書下ろしの『おやすみなさい子どもたち』はちょっと普通でいらなかったかな。贅沢ですが。

流石にわざわざ別名義で書いているだけあって、作風が微妙に違いますね。私はこちらも好きですよ。『エンブリヲ奇譚』もかなり面白かったですし。それはそれとして、乙一たまにはミステリ描いてくれないものかねえ。『GOTH』よ今一度。

No.1547 6点 第四の男- 石崎幸二 2022/12/16 22:29
お嬢様学校・櫻藍女子学院の生徒が、見知らぬ車に乗せられ拉致される!が、彼女は途中で隙を見て逃げ出し無事保護された。その生徒の名は星山玲奈、大手食品メーカー会長の孫で、実母は十数年前に殺害されていた…。後日、警視総監宛に玲奈を攫ったという犯人グループより「別の女子高生を誘拐した…」との脅迫状が届く!絡み合う3つの事件!その真相とは。
『BOOK』データベースより。

定期的に読みたくなる石崎幸二。今回も孤島物、それに誘拐事件を絡めたちょっと意外な組み合わせの、作者にしてみれば異色の作品だと思います。それにしても相変わらずDNAがちゃんと出てきますねえ。DNA鑑定に何か恨みでもあるのでしょうか、それともDNA大好きなのかな。まあ兎に角孤島とDNAの二大アイテムを駆使して、ミリア、ユリ、仁美と石崎のボケとツッコミが炸裂します。そこに斎藤瞳刑事が乱入し、他の登場人物の入り込む余地がない程です。

しかし、そんな本作には致命的な欠点があります。ネタバレになりますので詳細は避けますが、常に突っ込んでいる女子高生三人組なのに、その時だけ何も難癖を付けないのが不自然で仕方ありませんでした。
そんな細かい事は良いじゃないかという意見もあるかも知れませんが、やはりこれは看過できないですね。それが無ければ7点でも良かった内容ではあります。

No.1546 6点 二分間の冒険- 岡田淳 2022/12/15 22:30
たった二分間で冒険?信じられないかもしれません。でもこれは、六年生の悟に本当におこったこと。体育館をぬけだして、ふしぎな黒ネコに出会った時から、悟の、長い長い二分間の大冒険が始まります。昭和六十年度うつのみやこども賞受賞。小学上級から。
『BOOK』データベースより。

児童文学だからと言って少年少女誰にでも推奨出来る訳ではありません。しかし大人が読んだら退屈で稚拙という事もありません。そんな不思議な冒険小説。二分間と云うタイトルは現実世界のそれとは違い、異世界での二分なので桁が違います。それで成り立っている訳で、ジャンルは冒険ですが設定がよくラノベであるファンタジーなのでこちらを採りました。

面白いのは主人公が悟と何故か現実世界でのクラスメイトであるのに、悟に気付かないかおりの二人である事。彼らを含めた総勢60人、30組のいずれも顔見知りだけど相手は悟と面識がない様子の男女二人組が国を治める竜と順番に謎とバトルで対決する物語で、戦いに敗れた者達は若さを奪われて老人になってしまうのであります。謎と云うかなぞなぞ対決はなかなかよく考えられていて、ちょっと頭を捻っただけでは答えに辿り着けそうにもありません。竜は全てを知っていて苦も無く正解を出します。それに対して子供達はそういう訳にはいきません。四番目に対決することになった悟とかおりは果たしてどう竜に挑むのかが一番の読みどころです。

No.1545 6点 シナプスの入江- 清水義範 2022/12/14 22:30
記憶は「わたし」の存在そのものだ、とすれば事実と違う「誤記憶」で重ねられた「わたし」とはなに者か。記憶であなたをゾッとさせる清水版長篇ホラー小説。
『BOOK』データベースより。

例えば自分が幼い頃こんな事があったよなと思っていたのに、兄弟姉妹や幼馴染みにそんな事なかったと否定される、自分の記憶は改変されたものではないのか。例えば自分が生まれてからの記憶は、記憶されていない事に比べて余りにも矮小である。コンピューターはそれ自体記憶が徐々に薄れていく事は不可能だが、人間の脳はそれが出来る。だからより優れているのだ。と云った様な事柄が散りばめられた、ある意味ホラーでありSFである、記憶に対して様々な角度からアプローチした小説です。

勿論小説ですから確りとしたストーリーもありますし、序盤から多くの伏線が張られています。前行健忘、記銘力障害、電気インパルス、ニューロン、シナプス等専門用語も出てきますが、比較的解り易く解説してくれています。そしてラストは伏線が回収されているともいないとも言えない、何とももやもやしていながら、そっちへ行っちゃう?みたいな感覚でした。これは賛否が分かれるでしょうね。

No.1544 6点 手首の問題- 赤川次郎 2022/12/13 22:41
仕事もイヤになり、恋人もいないOLが下着ドロに手錠をかけた。頭に来てベランダにつなぎ、顔も見ないで外出してしまう。残された泥棒はなんとか逃げようとするのだが―。意外な犯人の正体とラストシーンが印象的な表題作をはじめ、人生に追い詰められた人々が見せる、切ない真実を描く極上の短編集。
『BOOK』データベースより。

長めのノンシリーズ短編集。ジャンルで迷いましたが、一応表題作を踏まえてサスペンスとしました。
『天使の通り道』はミステリ要素を含んだ恋愛小説に近いかなという印象です。『断崖』は自殺を計ろうとして来た女性が、荒れ模様の天候に阻まれている間に意外な人間模様に巻き込まれるもので、所謂良い話的な作品。後味も爽やかです。『みれん』は主人公の男が入水事件の生き残りだったはずが・・・その後他の事件に発展していく物語。
総じて面白く読めましたが、あまり永くは記憶に残らなそうな気がします。まあインパクトに欠けるって事でしょうね。

しかし表題作だけは一読忘れがたい作品となりそうです。特に結末は何となくですが作者のイメージとは違う物でした。でもこれだけでも読む価値はあると思います。

No.1543 6点 推理の達人 あの名探偵と知恵比べ- 新保博久 2022/12/12 22:13
殺人事件が発生した?犯人は誰だ?兇器は?動機は?それ、現場に急げ!さあ、キミはこの難事件を解決できるか。密室殺人、トリック、完璧なアリバイ―。キミも名探偵になれるか、それとも迷探偵か?思いきり頭をひねって、とっておきの50問に挑戦してみよう。
『BOOK』データベースより。

問題編と解決編に分けられた50の本格短編集と言うか、推理クイズ。これだけ多いとどうしても問題編の方が凝縮されているので、急ぎ足の感が否めません。よってすんなりと頭に入って来る様な読み易さが不足しています。折角トリックが優れているのに勿体ないなと思わないでもありませんでした。とは言え、やはり玉石混交であり目新しいトリックばかりとは言い難いものがあります。密室、バラバラ死体、アリバイ、ダイイングメッセージなど様々なトリックが仕掛けられていますが、残念なのは多くが海外の探偵のパスティッシュであり、国内の名探偵ものがあまりに少ない事ですかね。

最も好ましかったのは高木彬光の某名作を叩き台にした『新生殺人事件』でした。50問の中で一番ストーリー性や背後関係があり、意表を突いた動機にも驚きを禁じ得ません。
海外の古典的名探偵はほぼ網羅されており、それぞれの作家の作風を生かした問題となっています。流石は新保教授、破格の読書量と記憶力は大したものだと思います。尚各短編にはそれぞれ元ネタの作者名、探偵名、代表作が明示されています。

No.1542 6点 怪異フィルム- 福谷修 2022/12/11 22:23
未発表のフィルムに刻まれた芸能界の闇、死体しか愛せない男が垣間見た驚愕の心霊現象、元アイドルが目撃した地獄、ゲーム製作の舞台裏で起きた心霊事件、心霊写真番組に隠された意外な真相、病魔の息子の前に現れた謎の存在、超能力者のやらせに迫った番組、いわくつきの有名スタジオで頻発する異変…。テレビ、映画、ゲーム業界で起きた様々な怪異を、現役のホラー映画監督が蒐集した衝撃と戦慄の実話怪談集。
『BOOK』データベースより。

こうした怪談を何作か読んでいますが、その度に思うのはこれは本当に実話なのだろうかって事。必ず実話と断っているのが逆に怪しげだと、或いは胡散臭いように思ってしまうのは私だけでしょうか。面白ければそれでよしとすべきなんでしょうけど。もし完全なフィクションだとすればよく考えるなとは思いますし、それはそれで凄い事です。

で本書、押し並べて面白かった、というのは不謹慎かもしれません。でもあまり怖さは感じませんでした。慣れてしまっているって事でしょうかね。
『告白』『リベンジ』『万引き』『三人の予言』『終点』が特に良かったです。『告白』はいきなり娘の死体を洗濯機に放り込む母親のシーンから始まり、その後も意外な展開に持ち込み、凡百の怪談とは一線を画しています。『万引き』はコンビニが舞台のミステリ的手法を取った作品です。

No.1541 5点 大人失格 子供に生まれてスミマセン- 評論・エッセイ 2022/12/10 22:49
「私は大人だ」今、この日本でいったい何人の大人が、そう胸をはって言い切ることができるだろう。大人らしさとかでなくて。しがらみから独立した「大人」という素朴な生き物になること。私がもくろむのはそれだ。話題の劇作家が、「子供失格」だった人から「大人と呼ばれたい」人々までに贈る爆笑エッセイ。
『BOOK』データベースより。

タイトルから来る印象とはややズレが生じています。もう少しシリアスな感じで大人になれない大人たちみたいなものを想像していましたが、もっと緩いエッセイでした。ちなみに私の精神年齢は15歳位です。
では早速気になるネタをチョイスして簡単に紹介していきましょう。

・爆笑問題は何故ダウンタウンを超えられないのか問題。これが意外に深い理由があったりなかったり。まず、太田光の名前をひかると読ませ、田中裕二の名前を祐二と間違えている時点でアウトだろう。
・男のハゲはモテ期を過ぎた者がなるものだという、竹内久美子説。
・著者が何故か分からないが早見優でも他のアイドルでもなく、松本伊代の写真集欲しさに万引きしてしまった事件。真相は氏が顔面に対して垂直に立っている耳が好きだというのをのちに自覚したという結末。例えばフジテレビのアナウンサー山﨑夕貴とか元乃木坂46の松村沙友里辺り。つまり髪の毛からぴょんと耳がはみ出したりしている女性の事。
以下は私の真意ではありませんので、そのつもりで読んで頂きたい。
・水前寺清子や佐良直美はブスだという著者の説。それなら大食いクイーンとして活躍中のアノ人や関西弁を喋りまくるモデルでタレントのアノ人はブス界のツートップとして君臨するだろうな。
・ミスユニバースの選考基準が判らない。同感である。

こういった洒脱な、しかし毒舌をかなり含んだ、そしてたまにスベるエッセイ。いささか女性蔑視の感もあったり、ハゲに対する厳しい姿勢に物議を醸す問題作だと思います。

No.1540 6点 遮光- 中村文則 2022/12/09 22:43
恋人の美紀の事故死を周囲に隠しながら、彼女は今でも生きていると、その幸福を語り続ける男。彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった―。それは純愛か、狂気か。喪失感と行き場のない怒りに覆われた青春を、悲しみに抵抗する「虚言癖」の青年のうちに描き、圧倒的な衝撃と賞賛を集めた野間文芸新人賞受賞作。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家の初期決定的代表作。
『BOOK』データベースより。

短いけれど文字びっしりで読み応えあります。鉛の様に重くて、そして暗いです。冒頭から一人称の主人公である青年が謎の瓶を常に持ち歩いていて、それを事あるごとに見えない様に指で触れている、こう書けば多くの人が、あああれだなと考えるでしょう。みなさんの想像通りですよ。でもまあネタバレって云う訳でもないので書いても良いでしょう。
これは犯罪小説1青春小説2純愛小説7ですね。70%純愛小説。とは言えその愛はかなりの偏愛であり、彼の言動は時に過激且つ乱暴で時に欝々として、読んでいる身としてはどんどん気分がブルーになってきます。

彼と彼女の出逢いが可笑しくて、何となくこの先面白い事が起きそうだと期待していましたが、それは裏切られました。しかし、一人称だけに何かが起こった時、起こらない時の心理がストレートに伝わって来て心情が手に取るように分かります。だからと言って必ずしも感情移入できるとは思えません。私がそうでしたから。

No.1539 4点 眠りなき狙撃者- ジャン=パトリック・マンシェット 2022/12/08 22:42
引退を決意し、新たな世界を希求する殺し屋に襲いかかるさまざまな組織の罠、そしてかつての仇敵たち―「現代フランス文学の極北」といえるほど、限界まで贅肉をそぎ落とされ張りつめた文体が描く、荒涼たる孤独と絶望のドラマ。ロマン・ノワールの旗手・マンシェットの遺作にして、最高傑作。ピエール・モレル監督により映画化。
『BOOK』データベースより。

いやー、殺伐としてますねえ。文章はやけに硬質で、無味乾燥と言っても良いでしょう。だから私には面白味が感じられませんでした。まあハードボイルドなんだから当然ですかね。これを凄いと思うのは余程のハードボイルドマニアか読書の達人でしょう。盛り上がりそうなところで盛り上がり切れない、読みどころと言えば多少の暴力シーンくらいで。そんな私はとってもダメ読者なのです。

昔本サイトで、名指しではなかったものの暗に「人は本を選べるが本は人を選べない」と個人攻撃をされた事がありました。勿論私に対してです。ですからこの本はブックオフに持って行き、読むべき人の所へ連れていかれる事を願って売りたいと思います。とても手元に置いておく気にはなれません。
因みにAmazonで☆五個を付けた人の気持ちは解りませんが、☆一つの読者の気持ちは何となく解る気がします。だから、他の評者の方の高評価ぶりは逆に流石名だたる先輩方だと感心しております。

No.1538 7点 竜の眠る浜辺- 山田正紀 2022/12/07 22:35
百合ケ浜町が、突然濃い霧に覆われた。気がつくと、この町からは誰も出られなくなっており、ティラノサウルスが闊歩する白亜紀の世界へタイムスリップしていた。町の成り上がり久能直吉と二代目直己、変わり者でなまけ者の文筆家田代、孤独なタバコ屋のシズ婆さん―町のさえない人々が、もう一つの世界でファンタジックな青春幻想を抱くもう一つの人生…。SF長篇の傑作。
『BOOK』データベースより。

これは恐竜の名を借りた群像劇、或いは人間ドラマと言って良いでしょう。そして冒険小説でもあります。勿論SF要素はありますが、それ程強くはなく何故幾種類もの恐竜が出現したのか、又何故百合ヶ浜町だけが結界の様に取り囲まれたのかなどが学者らにによって侃々諤々の議論が争われる訳でもなく、只管町民たちが恐竜との共存を模索していくに過ぎません。

しかし読んでいて何となくやる気が出てくる感じはします。それまでごく普通、いやそれ以下で地味で平凡な生活をしていた人々がこの状況により俄かに活気付いてくる姿は、こちらまで勇気づけられます。特に浮世離れした田代が何故か格好良く見えてくるから不思議です。そして個人的にはタバコ屋のお婆さんとその飼い猫がツボでした。
結末は良い感じで終わり、成程と深く肯いていました。エピローグもいい味出していましたね。

No.1537 7点 ある日、爆弾がおちてきて- 古橋秀之 2022/12/05 22:20
「人間じゃなくて“爆弾”?」「はい、そうです。最新型ですよ~」。ある日、空から落ちてきた50ギガトンの“爆弾”は、なぜかむかし好きだった女の子に似ていて、しかも胸にはタイマーがコチコチと音を立てていて―「都心に投下された新型爆弾とのデート」を描く表題作をはじめ、「くしゃみをするたびに記憶が退行する奇病」「毎夜たずねてくる死んだガールフレンド」「図書館に住む小さな神様」「肉体のないクラスメイト」などなど、奇才・古橋秀之が贈る、温かくておかしくてちょっとフシギな七つのボーイ・ミーツ・ガール。『電気hp』に好評掲載された短編に、書き下ろしを加えて文庫化。
『BOOK』データベースより。

内容は別として兎に角文章が上手い。淀みなく流れるような筆致は最早美しいとしか言いようがありません。そしてボーイ・ミーツ・ガールの物語は雰囲気はどれもふんわりとしていて癒し系。しかしながら、それぞれ違った発想とアイディで支えられており、作者の抽斗の多さに感嘆させられます。

流石に名作と呼ばれるだけあって、その名に恥じない標準以上のレベルを維持しています。どの作品が秀でている訳ではなく、どれもラノベの真髄を味わえる短編として老若男女問わずお薦め出来ます。ここまで来るとジャンルを超えた文学小説と言っても過言ではないと思うくらい、その出来は素晴らしいです。面白い、楽しい、笑える、感動する、SFの要素も含まれていると至れり尽くせりですね~。

No.1536 5点 牛家- 岩城裕明 2022/12/04 22:38
ゴミ屋敷にはなんでもあるんだよ。ゴミ屋敷なめんな―特殊清掃員の俺は、ある一軒家の清掃をすることに、期間は2日。しかし、ゴミで溢れる屋内では、いてはならないモノが出現したり、掃除したはずが一晩で元に戻っていたり。しかも家では、病んだ妻が、赤子のビニール人形を食卓に並べる。これは夢か現実か―表題作ほか、狂おしいほど純粋な親子愛を切なく描く「瓶人」を収録した、衝撃の日本ホラー小説大賞佳作!
『BOOK』データベースより。

長めの短編二作。どちらもホラーだけど怖さはほぼありません。表題作は選考委員から口を揃えて問題作と言われていますが、どこが問題なのか私には理解できませんでした。只々ドタバタ劇に終始し、不条理な現実なのかはたまた夢なのか、その境を行き来している印象です。やや不快だったのは主人公の妻の言動であり、それ以外は何が何だかって感じで、ピンと来ませんでしたね。

それよりももう一篇の『瓶人』の方が余程面白かったです。ストーリーもよく練られていて、少年の父の優しさに癒されます。その父に意外な真実が隠されている訳ですが、この奇想が光っており物語全体を操る事に大きく関与しています。ラストのブラックな味わいも非常に効いていて後を引きます。

No.1535 6点 罪悪- フェルディナント・フォン・シーラッハ 2022/12/03 22:49
ふるさと祭りで突発した、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社にかぶれる男子寄宿学校生らによる、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こした悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。麻薬密売容疑で逮捕された老人が隠した真犯人。弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位の『犯罪』を凌駕する第二短篇集。
『BOOK』データベースより。

全般的に言えるのは無味乾燥で文章に血が流れていない印象。~した、~だったという末尾の説明文が延々と続き物凄く鼻に付きます。極端に少ない会話文がそれに拍車を掛けている感じがしました。又、ドイツには起承転結という言葉がないのかと思った程平坦な物語が多いのにげんなりと。正直これが本屋大賞第一位とは俄かには信じられません。それでも6点としたのは中に結構面白い短編が含まれているからです。

面白いと感じたのは『ふるさと祭り』『イルミナティ』『寂しさ』『清算』『秘密』の五篇。短めの短編十五篇中五篇だから打率はあまり高くないですね。でもまあこんなものでしょう。あまり期待せずに読むべき本だと思います。そうすればある意味納得できるかも。

No.1534 6点 亡霊ふたり- 詠坂雄二 2022/12/02 22:57
俺たちには夢がある。
「廃校の亡霊」の噂に導かれて出会ったのは
殺人志願者と探偵志願者だった。
相反するふたりの高校生を描いた鮮烈な青春小説の傑作!

「高校在学中に人を一人殺す」――自由の獲得という夢を叶えるため、殺人願望を抱く高橋和也。「廃校の亡霊」に導かれるようにして彼が出会ったのは、名探偵志願の同級生だった。彼女を最初の殺人対象に決めた和也は、「探偵に必要なのは謎に遭遇する能力」と嘯く彼女と行動を共にし、謎とも言えない謎を追っていくが……。自在に作風を変えつつも、シニカルで鋭利な文章は一貫してきた著者による、鮮烈なボーイ・ミーツ・ガール!
Amazon内容紹介より。

これは完全に詠坂ファンのための作品ですね。彼の小説を全く読んでいない人やあまり好みで無い人にはお薦めしません。青春小説としては優れていると思いますが、ミステリとしては日常の謎が主体でかなり弱いと感じられて仕方ありません。探偵志願の女子高生が謎とも言えない様な謎に挑みますが、結局真相は藪の中というか、はっきりと断定されていなかったりします。
 
終始高橋の目線で語られますが、何故一人称にしなかったのかが引っ掛かります。そうすればもっと彼の内面が深掘り出来たかもしれないのにと思ってしまいます。確かに心理描写はされているものの、何故そこまで殺人に固執してしまったのかがイマイチ理解出来ませんでした。過去に何かあったのかとかであればまだしも、この動機ではちょっと納得しかねます。
それでも探偵志願と殺人志願の絡みは歪んだ青春をなかなか良く描写されており、楽しめました。

No.1533 6点 探偵綺譚 石黒正数短編集- 石黒正数 2022/12/01 22:59
今ホットな注目を集めている石黒 正数の短編集。表題作『探偵綺譚』は、ヒット作『それでも町は廻っている』の人気キャラクター「嵐山歩鳥&紺双葉」の先輩後輩コンビが登場する、『それ町』プロトタイプと言える作品。この先輩後輩コンビの系譜は「COMICリュウ」連載中『ネムルバカ』の主人公コンビへと繋がる。全10作品収録。
Amazon内容紹介より。

『探偵綺譚』ねえ。てっきりミステリ短編集だと思っていたら、ジャンル色々の漫画でありました。探偵、ハードボイルド、SF、ホラー、思春期等、バラエティに富んでいてこれはこれで楽しめました。たまにツボに入って大笑い出来るし、あまり深く考えずに気楽に読めるので、悪くないです。ただ、やはり『外天楼』と比較すると格段に落ちるのは否めません。

私としてはラスト二作の、作者自身が出てくるパチスロの話が一番面白かったですね。こんな絵も描けるんだと素直に感心しました。全然タッチが違うと云うか、まるで『北斗の拳』の様だと思いました。誰が見てもパロッてるなと感じるでしょう。

No.1532 6点 ロリータの温度- 白倉由美 2022/11/30 22:59
大人になる前に死んでいく永遠の少女、名前はロリータ℃。透明で柔らかくはかなくて冷たい存在の「彼女たち」を描く幻想的な写真と6つの物語を収録した、ビジュアルストーリー。
『BOOK』データベースより。

「僕は六回死んだ少女を知っている」で始まるこの物語。果たして一人の少女が六回死んだのかどうか、一応十二歳の少女が一度死んで、その後脱皮するように甦るシーンがありますので、おそらく同一の少女だと想像されますが、各章ごとにシチュエーションが違うので何とも言い難い所があります。其処は読者の想像にお任せって事の様で、それ程重きを置いていないみたいですね。
ファンタジーと言うより、幻想小説の趣があり文体も詩的である種のイマジネーションを喚起させます。挿入されている写真も見開き2ページを目一杯使ったり、思い切った構図が見られ、それに一層拍車を掛けます。

個人的に好みなのはちょっとブラックなオチが味わえ、ミステリ的趣向を盛り込んだ第一章と、唯一少年の一人称で描かれ、途中でいきなり衝撃の事実を告げる第五章ですね。
第六章ではマイナーな小説のあの人物が登場し驚かされます、だったら良かったのですが、あるサイトでネタバレ告知無しのレビューでネタバレを読んでしまい、事前に知っており非常に残念でした。
写真の少女は設定十二歳の、それ相応のあどけない顔立ちとやや大人びた表情が印象的です。

ところでこの小説はロリータ℃という、前述の小説の作者が原作の漫画に登場する架空人格と同じ少女を起用していて、更に彼女のCDまで出ています。色々コラボしてややこしいですが、白倉由美と深い関係のある人が先の原作者という事で、キーパーソンとなっています。

No.1531 6点 江戸川乱歩名作選- 江戸川乱歩 2022/11/29 23:02
見るも無残に顔が潰れた死体、変転してゆく事件像(『石榴』)。絶世の美女に心奪われた兄の想像を絶する“運命”(『押絵と旅する男』)。謎に満ちた探偵作家・大江春泥に脅迫される実業家夫人、彼女を恋する私は春泥の影を追跡する―後世に語り継がれるミステリ『陰獣』。他に『目羅博士』『人でなしの恋』『白昼夢』『踊る一寸法師』を収録。大乱歩の魔力を存分に味わえる厳選全7編。
『BOOK』データベースより。

『石榴』 7点。本格の中編、所謂顔のない死体の変形バージョン。
『押絵と旅する男』 7点。幻想的な小説でオチあり。ある作家の某作品に影響を与えたとの噂。
『目羅博士』 6点。ちょっと無理がある。もう少し説得力があれば。
『ひとでなしの恋』 5点。何となく既視感あり。他の作品で似たようなのがあった気がする。しかし、勿論こちらが元祖だろう。
『白昼夢』 5点。ショートショート、ミステリにはちょいちょい出てくるこのワード。この時代から使われてたのね。
『踊る一寸法師』 3点。他の作品集で既読だったので記憶で採点。どこが面白いのか分からない。乱歩はこれを描いてからしばらく空白の時期があったらしい。
『陰獣』 7点。やや冗長も面白い。どんでん返し的趣向、余りにも有名な作品。

全体的にレトロ感が漂っており、どこか懐かしさを覚えました。本作品集に関しては本格ミステリの方が面白かったですね。それにしても、今読んでも色褪せていないのは流石だと思います。

No.1530 7点 出版禁止 いやしの村滞在記- 長江俊和 2022/11/27 22:51
読後、心身に変調をきたしても、責任は負いかねますので、ご了承下さい。大切な人、信頼していた人に裏切られ、傷ついた人々が再起を期して集団生活を営む「いやしの村」。一方、ネット上には、その村は「呪いで人を殺すカルト集団」という根強い噂があった。噂は本当なのか? そもそも、呪いで人を殺すことなどできるのか? 真実を探るため、ルポライターが潜入取材を試みるのだが――。
Amazon内容紹介より。

余りカタルシスを得られない様な、ちょとモヤモヤした終わり方で、個人的には好みではない結末でした。「ここまで書けばわかるだろ?あとは勝手に想像しろよ」と言われているみたいで、まず一旦読み終えてから最初に戻って読み直しましたが、やはりイマイチスッキリしません。まあ確かに最終局面で漸くその全貌が見えてきますが・・・。どうしてもルポルタージュの体裁を取っている為、こういった形式でしか書き様がなかったかも知れません。探偵役が現れて懇切丁寧に解説してくれるような物語でないことは確かです。

正直やられたとは思えませんでした。勘の良い人ならかなり早い段階で全体像が見えてくると思うからです。私みたいな鈍感な読者だから騙されたのであって、その意味では逆に幸せだったなと思わないでもありません。
しかし、書き手である私とある女性との淡い記憶やパラドックスに対する考察、呪いは実在するのかどうかなど、読みどころは幾つもあります。ですから色々ケチを付ける様な事を書きましたが、かなり面白い小説であることは間違いないと思います。

No.1529 6点 ネメシスⅡ- 藤石波矢 2022/11/26 22:51
探偵事務所ネメシスを訪れた少女の依頼は、行方不明の兄の樹を探すこと。探偵風真と助手のアンナは、道具屋の星の力を借り、振り込め詐欺に手を染めた彼を捜索する。しかし、ようやく見つけた樹は、血濡れたナイフと死体を前に立ち尽くしていた。ネメシスは二転三転する真相を見抜き、彼を救うことができるのか!?
小説オリジナルストーリー「道具屋・星憲章の予定外の一日」も収録したシリーズ第二弾!
Amazon内容紹介より。

広瀬すずと櫻井翔主演でドラマ化されたネメシスシリーズの第二弾。本編とスピンオフの中編二作。
本編を読んでいる途中で、何度もAmazonの高評価(90に上る評価で平均点4、5)ってほんまかいなと思いました。キャラは魅力に欠けるし、ストーリーも平板、トリックと言える程のものもなく心に何も響かない、こんな私がおかしいのでしょうか。もう何を信じて良いのか、何を頼りに本を選ぶべきなのか分からなくなりそうです。

と思っていたところ、『道具屋・星憲章の予定外の一日』が殊の外面白く、同じ人が書いたとは思えない出来の良さで驚き。捻りも効いていて、短い中にトリックや仕掛けが盛り沢山で、なるほどこっちは7点だなと少し胸をなで下ろしました。結局本編が4点、スピンオフが7点、均して5、5点。四捨五入して6点としました。ああ、本当に本編だけじゃなくて良かったね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2008件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(30)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(20)
日日日(20)
中山七里(19)
森博嗣(19)