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皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1828件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1368 5点 女彫刻家- ミネット・ウォルターズ 2021/10/25 23:10
注意!ネタバレをしています。

女の名はオリーヴ・マーティン、現在、無期懲役の刑に服している。母親と妹を切り刻みそれを再び人間の形に並べて、台所の床に血みどろの抽象画を描いた女―だが、本当に彼女がやったのか。アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

好きか嫌いかと聞かれたら私はこの作品が嫌いです。一応5点付けましたが、その中でも最下層だと考えて頂きたい。
第一に導入部の猟奇殺人事件の報道は良いでしょう。バラバラ死体大いに結構、望むところです。しかし、その理由が曖昧で、結局精神異常?で済まされてしまっているのはどうにも承服出来かねます。本格を名乗るのであれば、本作の肝でもあるなぜ死体を切断したのかに論理的な解答は必要だと思います。第二に結末がスッキリしないのもいけませんね。犯人が誰でも良かったみたいにも解釈出来ますし、動機もほぼ書かれていない、そこの処ははっきりして欲しかったです。第三に余計な描写やエピソードが多いこと。文庫で470頁はあまりに長すぎでしょう、内容的には300頁位が妥当な線です。Amazonのレビューで「終わりに近づけば近づくほどつまらない」という意見がありますが、同感ですね。

アメリカの賞を受賞していますが、甘いですよ。これだから欧米のミステリは日本に比べて本格度が低いんだよなと思ってしまいます。個人の意見です。しかも『このミス』1位だと?日本の評論家のみなさんもどうかしているとしか思えません。あくまで個人の感想ですが。

No.1367 7点 コンビニ人間- 村田沙耶香 2021/10/21 23:14
「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

驚愕、どんでん返し、ワクワクドキドキ等を読書の際にお求めの方には決してお薦めしません。取り敢えず純文学というか文芸作品ですからね。しかし、ホラー寄りの一面も覗かせており、考えようによっては恐ろしいとも言えます。どの企業の面接にも落ち、唯一採用されたのがコンビニの店員で、同じ店でアルバイトする事18年、36歳の恵子。通常の感覚とはかけ離れた感性の持ち主で、アスペルガー症候群気味。彼女の一人称で物語は進行します。まあミステリでは結構ありがちな設定ですね。妹の教えに従い、何とか周囲と溶け込んで仕事を熟す恵子ではありますが、時々心の中でなぜ他人はこんな事を考えているのだろうか、みたいな疑問を当たり前の様に持ちます。つまり自己と他者との乖離がどうしても理解できないのです。しかし、それを押し隠しむしろ店員で優秀な人材として周囲から認められています。

作品としてはまず起承転結が確り描かれているのが印象的です。起承までは主人公に共感できないし、さして面白さも感じませんでした。それが転の部分、つまり新入り店員の白羽が入って来てからおっ?て感じで変化が生まれます。
この二人の共生関係が不思議な空間を生み出し、ある転機が訪れます。果たして恵子はどんな選択をするのか・・・それは読んでのお楽しみという事で。
世の中には色んな人がいます、生きていくのが苦痛な人も、食べるのにやっとな生活をしている人も、男女関係で悩む人も一度読んでみて。自分の中で何かが変わるかも知れませんよ。

No.1366 6点 小説 素敵な選TAXI - バカリズム 2021/10/20 23:08
バカリズムが連続ドラマとしては初めて脚本を執筆した「素敵な選TAXI」(関西テレビ・フジテレビ系)。市川森一脚本賞奨励賞を受賞するなど高い評価を受け話題となった脚本を自らが小説化!張りめぐらされた伏線や軽妙な会話などが映像とは一味違った面白さで蘇る。
『BOOK』データベースより。

ドラマは観ていませんが、何だか面白そうだったので購入。主役の過去に戻れるタクシー運転手の枝分は竹野内豊が演じていました。ところが読んでみると何となく三枚目っぽかったので、バカリズムの方がイメージ的にマッチしている気がしました。どれも平均して面白く、誰しも何作かは好みの作品があるのではないかと思います。そして、会話文が大半を占めているので、サクサク読めて笑えるシーンも散見されます。

個人的に良かったのは、若い男女の駆け落ちと犬の失踪を扱った『今と昔の選択肢』。バスの中で偶然宝くじを拾った、会社を追われそうな男の顛末を描いた『金と欲の選択肢』。八十になる祖父の死に目に間に合わなかった女性とその祖母三人の人生模様を描いた『夫と妻の選択肢』ですね。
他にもバラエティに富んだ短編が並び楽しめました。それにしても作中のドラマ『犯罪刑事』は一体何だったのだろう。何か全編を通じてキーポイントとなるものを握っているのかと思いきや、或いは最後でサプライズを起こすのかと思っていましたが・・・。

No.1365 6点 バイロケーション- 法条遥 2021/10/18 22:58
注意!ネタバレはしていませんが、物語の肝となる部分に触れています。


画家を志す忍は、ある日スーパーで偽札の使用を疑われる。10分前に「自分」が同じ番号のお札を使い、買物をしたというのだ。混乱する忍は、現れた警察官・加納に連行されてしまう。だが、連れられた場所には「自分」と同じ容姿・同じ行動をとる奇怪な存在に苦悩する人々が集っていた。彼らはその存在を「バイロケーション」と呼んでいた…。ドッペルゲンガーとは異なる新たな二重存在を提示した、新感覚ホラーワールド。第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

内容や評価などを忘れていた為か、ほぼ予備知識なしで読みました。よって導入部でいきなりクライマックスの様相を呈し、偽札事件の時点で頭の中が?で一杯になりました。うーむ、何だか知らないけどこれは面白い!となりましたね。その後は比較的落ち着いた展開で、次第に話が纏まり始め何となく先行きが予感できるような気がしてきます。そしてその予感を大きく上回る様な驚きはありません。

が、様々な事件が起きる中、終盤で第二のクライマックスと呼べる様な驚愕が待っていました。これは最早ホラーと言うよりミステリではないかと思いました。あれもこれも伏線だったのかと。思わず最初のページに戻って読み直しました、ええ二度見しましたとも。
若干ややこしい部分があり、もう少しスッキリした形で纏められていれば、もっと評価は上がったと思います。

No.1364 7点 くるぐる使い- 大槻ケンヂ 2021/10/15 23:00
異星人にさらわれたと少女は主張する「キラキラと輝くもの」、超能力少女の哀しい恋物語を描き、第25回星雲賞を受賞した「くるぐる使い」、少女に憑いた悪霊とオール・ジャンル・エクソシストが闘う「憑かれたな」、ひとり自分の世界に閉じこもった少年が、毎日、鉛筆の先を尖らせてくらす「春陽綺談」、いじめられっ子が一世一代の人生の大逆転を図る「のの子の復讐ジグジグ」―青春の残酷と、非日常の彼方に見える現代のリアルを描く5短篇を収録する。
『BOOK』データベースより。

なぜか初出がSF雑誌というホラー短編集。どう考えてもホラーでしょう、一歩譲ってファンタジーか。Amazonで絶賛されているのも納得の出来です。どれも面白くお薦めですが、特に表題作は残酷で切なく名作と言っても過言ではないと思います。本作に関しては私はこの人の文章が好きです、殊に人物のちょっとした仕草や細かいディテールの描き方は、下手なプロより上手いですよ。

『憑かれたな』について少しだけ書くと、これは完全な『エクソシスト』のパロディというか、パクリです。壮大なネタバレをしていますので、『エクソシスト』未読或いは未見の方は要注意。それでも一応オリジナリティも持った作品ですので、評価は高いです。
どの短編もオチが確りしており、決して後味は良くないですが、読後にどこか腑に落ちるというか、そう云った何かが心に残るのはそれぞれのクオリティが高い故だと思います。
巻末に糸井重里との対談が収録されていて、大槻教授や織田無道とか出てきて懐かしいなと思ったら、単行本の初版が1994年11月30日でした。結構昔に書かれた作品だったんですね。しかしこの対談も徒然なるままの取り止めのない内容ですが、楽しかったですね。

No.1363 7点 開かせていただき光栄です- 皆川博子 2021/10/13 23:11
18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室からあるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男。戸惑うダニエルと弟子たちに治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には詩人志望の少年の辿った恐るべき運命が…解剖学が最先端であり偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちが可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む、本格ミステリ大賞受賞作。前日譚を描いた短篇を併録。
『BOOK』データベースより。

本来もっと早く読むはずだった一冊。諸事情により本日漸く読み終えました。まあ読んで良かったなと思える作品ではありました。文体はあまり好きじゃないですけれど。
しかし兎に角導入部から怒涛の展開に思わず唸らせられました。ところがその後、嬉しくない方向に進んで行き、更に早々に種明かしをしてしまって、大丈夫かと心配しました。無論それは読了時点で杞憂に終わった訳で、流石にこちらの想像の上を行く絡繰りが用意されていました。

読む前から思っていた事ですが、これは歴史ミステリではないですよねえ。本格ミステリでしょう。もっとドロドロした物語を想定していましたが、意外とユーモアも適度にあり、そこまで陰湿な雰囲気はありませんでした。18世紀のロンドンの様子はそれなりに描かれていますし、現在では通用しない犯罪の数々に舌を巻きました。主にホワイダニットとして楽しめました。

No.1362 6点 QED 伊勢の曙光- 高田崇史 2021/10/10 22:52
伊勢の鄙びた村から秘宝の鮑真珠を持参していた神職が、不審な墜落死を遂げる。事件解決へ協力を頼まれた桑原崇は、棚旗奈々とともに伊勢へ。しかし、二人を待ち受けていたのはシリーズ中最大の危機だった。果たして崇は、事件の真相と、日本史上最大の深秘「伊勢神宮の謎」を解けるのか?「QED」完結編!
『BOOK』データベースより。

日本史が好きだとか神話に興味があるとかで、試しに読んでみようとすると返り討ちに遭います。余程のマニアじゃない限りは。本編の大半を占める伊勢神宮に関する謎、その蘊蓄話には到底付いて行けませんでした。何度も繰り返し登場する天照大神、猿田彦命辺りは当然知っていますが、聞いたことの無い神や天皇の名前や名称が次から次へと現れ、私の理解が全く及びません。それでも何とか読み進めると、言いたい事がおぼろげながら見えてきました。

一方ミステリとしての謎はそれ程強烈とは言い難く、しかし伊勢という土地柄(勿論フィクションですが)と事件との結び付きにはなるほどと思わせます。
シリーズを通読している訳でもなく、何となく手に取ってしまったのが完結篇だったので、あら?やっちまったかなと思いましたが、まあ本作を思い出しながら他作品もボチボチ読もうかなと考えているところです。

No.1361 7点 イリーガル・エイリアン- ロバート・J・ソウヤー 2021/10/06 23:21
人類は初めてエイリアンと遭遇した。四光年あまり彼方のアルファケンタウリに住むトソク族が地球に飛来したのである。ファーストコンタクトは順調に進むが、思いもよらぬ事件が起きた。トソク族の滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見されたのだ。片脚を切断し、胴体を切り裂き、死体の一部を持ち去るという残虐な手口だった。しかも、逮捕された容疑者はエイリアン…世界が注目するなか、前代未聞の裁判が始まる。
『BOOK』データベースより。

エイリアンとのファースト・コンタクトというSFと猟奇的な殺人事件の法廷小説の両方を兼ね備えた、贅沢な一冊。エイリアンが友好的で、それ程ハードではありませんし、トーンは明るめで緊迫感がやや欠如している気もします。しかしその裁判の様子は本格的であり、色物感は全く感じません。検事補と弁護士との対決は本作の最大の見せ場でかなりの盛り上がりを見せます。

一方殺人事件に関してはフーダニットとホワイダニットが謎の中心で、一捻りしています。ただ残念なのはその動機ですかね。これに関しては想定外と云うほどではありませんでした。
トソク族の外見や各器官に関する記述にはなるほどと思いました。そこにはエイリアンと人間との共通点と相違点に対する作者の捉え方が垣間見えて、興味深く読めました。そして時折SF小説的で鋭い考察を覗かせている辺りは流石です。
優れたSFでありミステリでもあります。

No.1360 6点 張り込み姫- 垣根涼介 2021/10/03 22:58
「一生の仕事なんて、ありえないんじゃないんですか?」変わり続ける時代の中で、リストラ面接官の村上真介が新たにターゲットとするのは―英会話スクール講師、旅行代理店の営業マン、自動車の整備士、そして老舗出版社のゴシップ誌記者。ぎりぎりの心で働く人たちの本音と向き合ううちに、初めて真介自身の気持ちにも変化が訪れ…仕事の意味を再構築する、大人気お仕事小説シリーズ第3弾。
『BOOK』データベースより。

正にプロの仕事ですね。そつがないです。適度な感動と人間ドラマ、キャラの親しみやすさなどは流石の一言です。表題作よりも個人的に『みんなの力』や『やどかりの人生』の方が面白かったですね。仕事に対する被面接者のスタンスや様々な業種の在りようを通して、社会問題にも触れたりして勉強にもなります。
何と言っても本シリーズは面接官の村上と被面接者との対決が見どころなのですが、それよりもそれぞれの人生を背負って己の進路をどう選択していくのかという、社会の片隅で生きている被面接者のリストラに対する真摯な姿勢が生々しく描かれて好感が持てました。

又、全編ちょっとしたサプライズがあり、物語にスパイスを加えていてその意味でも期待を裏切りません。ワンパターンになりがちな素材を上手く料理して、読者を飽きさせないサービス精神に溢れた良作ではないかと思います。とにかく読ませますが、どうしても予定調和に終わってしまう点はやむを得ないでしょう。

No.1359 7点 第八の探偵- アレックス・パヴェージ 2021/09/30 23:31
独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが……
フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された十人の死体──七つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ
Amazon内容紹介より。

突出した傑作ではなくてもかなりの力作であることは間違いないと思います。解説の千街晶之が書いているように、日本の新本格を想起される方もおられるはず。新本格ファンには持って来いの一冊かも知れません。シンプルなのに凝った構成が光る作品です。作中作という響きに思わず反応してしまう私などは、かなり楽しめました。

ジュリアが七つの短編の矛盾をついて行くにつれ、グラントの秘密が薄皮を剥ぐ様に暴かれて最後には遂に驚愕の事実に辿り着くという物語。
作中作は出来不出来があり、ちょっとどうかなと思うものも含まれていますが、それぞれ何とも後味の悪い余韻を残したり反転があったり、良い意味で唸らされます。海外の作品でこれだけ本格らしい本格物は久しぶりに読んだ気がします。

No.1358 7点 男爵最後の事件- 太田忠司 2021/09/26 23:25
〈この中の誰かが私を殺す——〉天才的推理で知られる“男爵”こと桐原は主催の晩餐会でそう宣告した。招かれた客は作家探偵霞田志郎をはじめとする六人の男女。彼らには男爵を殺す「動機」があった。翌日、招待客の一人が毒物で急死。他殺なのか?冷徹な頭脳が何かを企んでいるのか? やがて、数日前に霞田に持ち込まれた不審な火災と桐原を繋ぐ線が浮上した時、悪魔のごとき計画が明らかに……。事件と探偵がいかに関わるべきか、対立し続けた男爵と霞田。二人の対決に、驚愕の結末が!
Amazon内容紹介より。

太田作品はそこそこ面白く安心して読める反面、突き抜けたものが無いのがいつものパターン。しかし本作はかなりキテます。序盤は典型的な館ミステリかと思わせておいて、実はそうでもなかったみたいな感じです。シリーズを通して読んでいないので何とも言えませんが、兎に角男爵と呼ばれる桐原がなかなか魅力的な存在です。彼は元刑事であり名探偵で、言わば霞田志郎のライバル的存在のようですね。

刑事と共に探偵が行動すると云うのはまだしも、その妹まで捜査に参加するのは如何なものかと思ったりもします。まあしかし、そこは妹の千鶴目線で描かれているので致し方なしでしょうか。
驚くような凄いといったトリックとかはありません。それでもそれを補うストーリーテラーぶりを発揮し、優れたプロットで読ませ、特に最終盤に明かされる真実が読む者の心を揺さぶります。少なくとも私はこの結末と作者の底力には平伏するしかありませんでした。本格ミステリとしてとても良作だと思います。シリーズ最終作としてエピローグにもなるほどと感じ入りました。

No.1357 5点 天を映す早瀬- S・J・ローザン 2021/09/24 23:00
ニューヨークの私立探偵リディアと相棒のビルは、仕事で香港を訪れていた。依頼されたのは、形見の宝石を故人の孫である少年に渡すだけの簡単な仕事。初めての海外に、リディアは興奮を隠せない。だが、たどり着いた少年の家は何者かに荒らされ、少年は誘拐されていた。銃も持てず、探偵免許も通用しない異国の地で、ふたりが巻きこまれた事件の結末は?人気シリーズ第7弾。
『BOOK』データベースより。

チャーハンが食べたくなります。それにしても何故家で作るチャーハンはどう料理しても店の味が出せないんでしょう。冷凍食品も色々試しましたが、どれも本格的なものではなく。「家でも喰えます」ってCMで言ってるのもやっぱり店とは違います。という訳で、本作余計な情景描写や説明文が多すぎて、いささか間延びした感が否めません。それらの描写が私の心には響かず、印象に残っているのは先に述べた食事シーンのみでした。
さてこれは一般的な誘拐物とは違って、緊迫感が圧倒的に足りない感じがします。そして明らかになる真相には拍子抜けでした。最初はなかなか面白そうな謎が提示されていて、良い感じかと思いきや先細りしていくストーリーにはがっかりです。

一応ハードボイルドに属するらしいですが、かなりソフトですね。今回はリディアが主役の為余計そう感じるのかも知れませんが。もうこのシリーズはいいかな。でも『チャイナタウン』だけは購入済み、どうしましょう。このまま読まずにブックオフ行きですかね。

No.1356 6点 読んではいけない殺人事件- 椙本孝思 2021/09/19 23:07
他人の心が読める「読心スマホ」の力を持った美島冬華は、勤務先の後輩で学生時代から仲の良い阿南十萌からストーカー被害の相談を受けた。犯人は社員の瓜野道貴課長だという。同期の沖田悠人の協力もあり、一度は解決の兆しを見た事件だが、冬華が覗いた瓜野の心の中には、決して見逃すことのできない驚愕の「記憶」が映し出されており―!?傑作サイコミステリー!
『BOOK』データベースより。

何ですかこの吸引力満点のタイトルは。禁断の書が出てくるとか、この小説自体を読んだら何かが起こるみたいなメタなやつかと思いましたが、全然違いました。いずれにしても興味を惹かれる事は間違いないですね。
事件のきっかけはストーカーに悩む主人公冬華の後輩。そこから連鎖的に殺人事件が冬華を襲い、何が起こっているのかさっぱり読めません。犯人の意図は?被害者のミッシングリンクはあるのか?など、様々な問題が読者の前に提出され、なかなか事件の全容が掴めずもどかしさで一杯になります。

本格というよりサスペンスの様相を呈していますが、中身はミステリですね。人の心が読めるという設定はありがちですが、ファンタジーに逃げず真面な推理小説にまで持って行ったのは作者の力量だと思います。
ただ終盤どうにも腑に落ちない箇所がありました。書き手の都合でそうなってしまったのか、単なるケアレスミスなのか分かりませんが、それはないんじゃないのと大いに疑問に感じました。まあそれも含めてこの点数なので、十分楽しめたとは言えるでしょう。

No.1355 4点 古本屋探偵の事件簿- 紀田順一郎 2021/09/16 23:03
「本の探偵――何でも見つけます」という奇妙な広告を掲げた神田の古書店「書肆・蔵書一代」主人須藤康平。彼の許に持ち込まれる珍書、奇書探求の依頼は、やがて不可思議な事件へと発展していく。著者ならではのユニークな発想で貫かれた本書は、「殺意の収集」等これまで書かれた須藤康平もののすべてを収録した。解説対談=瀬戸川猛資
Amazon内容紹介より。

無味乾燥な文体で面白みのないストーリーが描かれる、古書探偵のビブリオミステリ。冒頭は多少興味を惹かれる部分もありますが、話が進むにつれどんどん煩雑になって行き、無個性の登場人物も誰が誰だか分からないような状況で、内容がちんぷんかんぷんになる作品が多いです。中には意外な真相なのもあります。しかし全体として人間が描けていないし、そもそも主人公の須藤に魅力が感じられません。

プロットも上手くないですね。情景も全く浮かんできませんし。
稀覯本に関しては明治から大正のものがほとんどで、素養のない私には何が何だかって感じでした。文章が下手という訳ではないと思いますが、自然と頭に沁み込んでくる感覚が全然なく、私にとって苦行の連続でした。古本や古書店に興味があるからと言って安易に読むと火傷しますよ。

No.1354 8点 男は旗- 稲見一良 2021/09/14 22:48
大海原を制覇し、その優雅な姿は“七つの海の白い女王”と嘔われたシリウス号も今は海に浮かぶホテルとして第二の人生を送っていた。ところが折からの経営難で悪辣なギャングに買収されてしまう羽目に。しかし!シリウス号に集う心優しきアウトローどもが唯々諾々と従う筈はない。買収の当日、朝まだきの海を密かに船は出航した。謎の古地図に記された黄金の在り処を求めて…。
『BOOK』データベースより。

とにかく理屈抜きに面白い。最初から最後まで全てが見どころと言って差し支えありません。冒頭からテンポ良く話が進み、次から次へと新たな登場人物と共にエピソードが生まれ、その度にワクワク感が増幅していきます。短い中にもぎっしりと詰まった充実の内容、時折ハッとさせられるような情感溢れる描写、魅力的なキャラ達の拮抗した活躍ぶりなど、全てに好感が持てました。

ギャングたちとのバトルも盛り上がりますが、一人として死者が出ないところも心優しい作者の姿勢がよく表れていると思います。そしてラスト、オチをきっちり決めてくれています。なるほどそういう事だったのかと、思わず納得です。まだまだ冒険は終わらない、けれど・・・続編が読みたかったですねえ、本当に。

No.1353 7点 六人の嘘つきな大学生- 浅倉秋成 2021/09/11 23:07
「犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ!

ここにいる六人全員、とんでもないクズだった。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を
得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

『教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。
Amazon内容紹介より。

これは評価が難しいですねえ。そもそもジャンル的にどの範疇に入るのかが分かりません。本格かサスペンスか青春ミステリか、個人的にはイヤミスが最も近いのではないかと思いますが。
序盤は六人の就活生達が最終選考に全員残る為、一致団結してグループディスカッションに臨む辺りまでは、読み易い文章も相まって青春っていいなあとか思いながら呑気に読んでいました。それが突如暗転するのには驚きを隠せませんでしたよ。
就職活動、入社試験、面接、これらのワードは私が世の中で最も嫌いな単語です。そりゃ私だってかつては就活生でしたし、面接も少なからず受けました。孤独な戦いでしたね、思い出すだけでも気分が下がります。それをパワーに変えて事に当たる若者たちには好感を抱きました。

しかし、六人の知られざる過去を暴かれて以降、終始嫌な気分が抜けず不安感を煽られました。ただ少なからず心を揺さぶられた時点で作者の勝ちだったのだと思います。
「犯人」の正体はある理由から推測できました。なのでそれが誰なのかを明かされても驚きませんでした。けれどそれだけで終わらないのが本作の魅力。これ以上は未読の方の興を削ぐことになりそうなので割愛します。

No.1352 7点 あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 2021/09/08 22:59
死神から与えられた余命十五秒をどう使えば、私は自分を撃った犯人を告発し、かつ反撃ができるのか? 一風変わった被害者と犯人の攻防を描く、第12回ミステリーズ! 新人賞佳作入選「十五秒」。犯人当てドラマの最終回、目を離していたラスト十五秒で登場人物が急死した。一体何が起こったのか? 姉からクイズ形式で挑まれた弟の推理を描く「このあと衝撃の結末が」。〈十五秒後に死ぬ〉というトリッキーな状況で起きる四つの事件の真相を、あなたは見破れるか? 期待の新鋭が贈る、デビュー作品集。
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お世辞にもリーダビリティが優れているとは言い難いけれど、その突飛な発想には見るべきところがあります。四作とも毛色の違う作品で作者の引き出しの多さを思い知らされました。特に中編の『首が取れても死なない僕らの首無殺人事件』はこれ一作で長編でも書ける充実の内容となっています。白井智之も真っ青なその特異設定は奇妙奇天烈で、しかし適度なユーモアも含んでおり、更に解決編ではこれでもかと本格スピリットに基づいた緻密な推理を披露してくれます。これは文句なく面白い、よくこんなものを考え付いたなと感服します。まあ受け付けない人も居るんでしょうけどね。

『このあと衝撃の結末が』もちょっと煩雑な気もしますが、なるほどの結末で納得。TV番組の推理ドラマの謎に挑戦する視聴者と云う図式で姉が活躍し、なかなかの名探偵ぶりを見せてくれました。
他二編もそれなりの出来で高水準、好感が持てる作品集でした。

No.1351 8点 ボーン・コレクター- ジェフリー・ディーヴァー 2021/09/05 22:50
骨の折れる音に耳を澄ますボーン・コレクター。すぐには殺さない。受けてたつは元刑事ライム、四肢麻痺―首から下は左手の薬指一本しかうごかない。だが、彼の研ぎ澄まされた洞察力がハヤブサのごとく、ニューヨークの街へはばたき、ボーン・コレクターを追いつめる。今世紀最高の“鳥肌本”ついに登場!ユニヴァーサル映画化!「リンカーン・ライム」シリーズ第一弾。
『BOOK』データベースより。

かなり長いですが、一分の隙も無いと言って良い程濃密な世界を構築していると思います。それでいて、よく言われるようにジェットコースターの様にうねりを伴って疾走します。テンポもよく後から考えれば、これだけの短い時間での出来事だったのだという思いと、1ミリも無駄のない実によく練られたミステリではないかという驚きに駆られます。やや都合良く行き過ぎな感は否めませんが、欠点らしきものはそれくらいでしょう。
個人的にはどちらかと言うと主役のライムより刑事ですらないサックス巡査の方に感情移入しました。しかし、ライムは40歳と言う年齢よりもずっと老練しているような印象を受けますね。むしろ老人の域に達している感覚で常に読んでいた気がします。

当初シリーズ化の予定はなかったらしいですが、これだけ連綿と続いているのに人気が落ちないのももっともだと思いますね。まあ今言えるのは、何故もっと早く読まなかったのかという事と、出来る限り本シリーズを読みたいとの思いを強くした事でしょうか。平均評価はあまり高くないですが、取り敢えず一読してみる価値はあると思います。
また、ちょっとしたロマンス要素もあり、本書に花を添えている辺りも憎いですね。

No.1350 7点 腸詰小僧 曽根圭介短編集- 曽根圭介 2021/08/31 23:08
シリアルキラー“腸詰小僧”の独占インタビューを成功させた西嶋の元を、被害者の父・楢崎が訪ねてきた。楢崎はすでに社会復帰している腸詰小僧に会わせろと迫る。一方、警察官の弟・敏哉が、妻以外の女性を妊娠させてしまったと泣きついてきた。女は子どもを産んで敏哉と一緒になるの一点張りで言うことを聞かない。追い詰められていく西嶋は――。(表題作)胸くそが悪くなるようなロクデナシだらけ。でも不思議と痛快な全7編!!
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『留守番』を除いてどれも二つのストーリーが交差することなく進行し、最後に収束するという構成を採っています。どんでん返しあり反転ありと切れ味鋭いナイフの様なエッジを効かせて、驚かせてくれます。しかし後味はすこぶる悪いです。登場人物のほぼ全員が碌でもない人間ばかりで、良い意味で作者特有の嫌らしさを存分に発揮していると思います。

ただ惜しまれるのは乾いた文体のせいか、必要最小限の情報量のためか、それ程の印象深さを感じない事ですね。何年も内容を覚えている自信がありません、私だけかも知れませんが。その代わり、いつか再読してもある程度の新鮮さを味わえると思います。いずれにしても曽根ワールドを堪能できるのは間違いないですね。

No.1349 5点 ミザリー- スティーヴン・キング 2021/08/29 22:55
雪道の自動車事故で半身不随になった流行作家ポール・シェルダン、元看護婦の愛読者に助けられて一安心したのが大間違い、監禁されて「自分ひとりのために」小説を書けと脅迫されるのだ。キング自身の恐怖心に根ざすファン心理のおぞましさと狂気の極限を描き、作中に別の恐怖小説を挿入した力作。ロブ・ライナー監督で映画化。
『BOOK』データベースより。

読んでも読んでも終わらない、冬の話なのにエンドレスサマーって感じです。やっと読み終わって確かなカタルシスが得られたかと問われれば、否としか言いようがありません。決して面白くない訳でも冗長な事もないですが、あまりに抑揚がなく盛り上がりに欠けるのが致命的ですかね。所々残酷シーンもあったりします、しかしそこをもっと強調しリアルに描いてくれないと。グロさに迫力が無さ過ぎます。それと舞台が固定されている為変化に乏しく、途中で若干ダレますね。ただ、主人公のポールの内面は良く描かれていますし、アニーのサイコパスぶりもねっとりと伝わっては来ます。しかし、例えば『黒い家』と比較するとまだまだ物足りないって気がします。

それでも、これはいつまでも自分の記憶に残りそうな予感はします。キングってそんな感じのばっかなのでしょうかねえ。原作は読んでいませんが、映画『キャリー』があまりに素晴らしかったので、期待ばかりが先走ってしまって辛口の点数になってしまうのは致し方ないかなと思います。

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ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1828件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
アンソロジー(出版社編)(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)