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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1837件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.22 6点 深泥丘奇談・続々- 綾辻行人 2023/12/04 22:32
さまざまな怪異が日常に潜む、“もうひとつの京都”―妖しい神社の「奇面祭」、「減らない謎」の不可解、自宅に見つかる秘密の地下室、深夜のプールで迫りくる異形の影、十二年に一度の「ねこしずめ」の日…恐怖と忘却の繰り返しの果てに、何が「私」を待ち受けるのか?本格ミステリの旗手が新境地に挑んだ無類の奇想怪談連作、ここに終幕。
『BOOK』データベースより。

ホラーと言うか独特な世界観を持った、不可思議な怪談に近い連作短編集。
前二作同様、所謂信頼できない語り手であるミステリ作家の「私」が主人公で、頻繁に眩暈を起こしたり、「のような気がする」が決まり文句となっていることからも分かるように、記憶にいささかの問題を抱えた「私」。この人は綾辻の分身であるようにも思えるし、全くの別人のようにも思えます。その辺りを曖昧にする事で現実と非現実の狭間を行き交う物語に仕上げています。ですので、一般的なホラーとは一線を画している気がします。それに加えて、京都という「架空」の土地、土壌がそれらしい雰囲気を醸し出すのに一役買っています。

今回もちょっと怪しげなうぐいす色の眼帯を左目に付けた精神科医の石倉と、同じく深泥ヶ丘病院に勤め、左手首に分厚い包帯を巻いた看護師の咲谷も健在で、怪しさに拍車を掛けています。そして最後に咲谷の秘密が・・・。
印象深いのは本格推理作家としての一面を見せる『猫密室』。本格ミステリの短編を依頼された主人公が、そのプロットやトリック、犯人像等を練るシーンはこれまでにない種類のものです。そして最後の『ねこしずめ』は言ってみれば言葉遊びの趣向で驚かせてくれます。その凄まじい猫の姿は読者の想像力を逞しくさせて、まるで目の前で起こっている様な感覚を呼び覚まします。

No.21 6点 深泥丘奇談- 綾辻行人 2023/02/05 22:47
ミステリ作家の「私」が住まう“もうひとつの京都”の裏側に潜み、ひそかに蠢動しつづける秘密めいたものたち。古い病室の壁に、丘の向こうの鉄路に、長びく雨の日に、送り火の夜に…面妖にして魅惑的な怪異の数々が「私」の(そして読者の)日常を侵蝕し、見慣れた風景を一変させる。―『Another』の著者が贈る、無類の怪談小説集!
『BOOK』データベースより。

続編を先に読んでいて、最初の短編『顔』の途中であれ?もしかしてもう読んだやつかと思って即検索してみましたが、未読でした。それは例の片目だけをうぐいす色の眼帯をしている医者が出てきたからだったんですが、この深泥丘病院の主人公私の主治医、いつも出て来るのね。それで勘違いしてしまいました。まあそれにしても、その医者や推理作家の「私」、左手首に包帯を巻いている看護師など、いずれもどこかしら怪しげな人々ばかり登場しますね。そういった雰囲気は好きですが。

鉄道マニアに隠れた人気スポットらしき場所で起こる惨劇?を描いた『丘の向こう』、降り続く雨に「良くない」と妻にも言われ体調を崩す「私」が深泥丘病院を訪れ、怪しい会話からラストの衝撃に繋がる『ながびく雨』まで読んだ時は7点は堅いと思ったものです。しかも次の『悪霊憑き』は本短編集の白眉とも言える傑作。途中で何かのアンソロジーで既読だったのに気付きましたが、ほとんど忘れていて逆に凄く楽しめましたし、これはイケると感じましたが、それ以降やや下降気味で結局6点に落ち着きました。
しかし、怪談話としてはそれなりのレベルで後半残念でしたが、好感触です。

No.20 6点 人間じゃない- 綾辻行人 2020/05/30 22:24
読んでいて何だか淋しい気持ちになりました。綾辻行人は館シリーズも久しく出ていないし、もう本格ミステリに対する情熱が薄れてしまっているような気がします。ホラーとかはポツポツ出ている訳ですが、もう叙述トリックを駆使した本格物を書き下ろしてくれはしないのではないかと不安に感じます。

さてこの中短編集ですが、それなりにらしさは出ているものの、イマイチ物足りなさを覚えますね。表題作は切れ味が鈍い感じがあり、捻りも効いているようないないような、中途半端な気がします。『赤いマント』は、大体の予測は付きますし、結末はやや拍子抜け。ホラーとミステリの融合は上手く出来ていると思いますが。
個人的に最も評価したいのは中編の『洗礼』でしょうかね。作者の思い入れが一番強そうだし、これが本当に京大ミステリ研時代に書かれた犯人当ての習作だとすれば、私にしてみればはなかなか良く書けていると思いました。そしてその結末が本当だとすれば、京大ミステリ研のメンバーがどれだけレベルの高い人間が揃っているんだと、驚きを隠せません。まあ私でも犯人は指摘できましたが、ダインングメッセージの本当の意味は推理できませんでしたね。

まだ老ける歳ではないと思いますし、綾辻氏にはもっと新作を期待したいと思います。エールを送ります。

No.19 7点 深泥丘奇談・続- 綾辻行人 2019/12/01 22:17
もうひとつの京都―「深泥丘」世界へ誘拐されてみませんか?妖しい眩暈とともに開く異界の扉。誰もいない神社の鈴が鳴り響き、甲殻類の怨念が臨界点に迫り、町では桜が狂い咲く。超音波検査で見つかる“心の闇”、霧の日に出現する謎の殺人鬼、夜に蠢く異形のモノたち…ありえざる「日常」が読者を包み戦慄させ、時には赦し解放する。ほら、もう帰れない。帰りたくない―!名手が贈る変幻自在の奇想怪談集。
『BOOK』データベースより。

不穏な空気が流れる古都京都。深泥丘に住む、度々眩暈を起こす「私」が様々な怪異に翻弄されるホラー連作短編集。
どこか懐かしい、幼き頃の微かな記憶を呼び起こすような作品集です。語り手は少々記憶が怪しく精神を病んでいる様子で、深泥丘病院の脳神経科に通っているため、物語に不安定さを増し、独特の如何わしい雰囲気を醸し出しています。和風ホラーなんですが、それ程恐ろしさは感じません。むしろ背中を得体の知れない何かに撫でられているような感覚を覚えます。平均的に面白く、なんとなく馬鹿馬鹿しい話もありますが、決して阿保らしいなどとは思えないんですよね、個人的には。

死体を五十回切断し、五十のパーツに切り分けるという矛盾した殺人事件など、ミステリの要素も少なからず含まれています。「私」が本格推理作家だというのもなかなか面白い設定ではないかと思います。なのに情緒不安定というね。
これは最早ホラーを超越した文学ですよ。流石名手綾辻、惜しみない拍手を送りたいですね。でも、***て何なんだー。

No.18 6点 どんどん橋、落ちた- 綾辻行人 2017/08/31 22:28
さすがに叙述トリックの名人、綾辻行人。どれもこれも奇想天外な叙述に特化した短編ですね。しかしおふざけが過ぎたせいか、評価が割れているのも納得ではあります。
人が必死に犯人探しに夢中になっているのに、それを足蹴にするようなトンデモトリックには腹を立てる読者も少なくないでしょう。しかしよくよく読んでみれば、決してアンフェアとは言えず、正々堂々とある意味くだらないトリックを仕掛けている辺りは、さすが新本格の旗手と言えると思います(皮肉です)。
表題作は島田荘司編集のアンソロジー『奇想の復活』で読んだんですよ。ですから誰よりも早く読んだのが自慢ではあります。その際このトリックには驚いたと同時に腹立たしさも覚えました。他の真面目な本格ミステリを尻目に、一人異次元の世界で遊んでいるような感覚で、らしくないなと感じました。これが綾辻渾身の一作だったとは・・・残念な気持ちでいっぱいになりましたよ。そんな遊び心に溢れた人だったとは意外でした。
なんだかんだ言っても、結局この短編集のレベルは低いとはいえず、作者の名前と内容のギャップに不評を買っているに過ぎない、不遇な作品集なのではないでしょうか。

No.17 7点 鳴風荘事件- 綾辻行人 2017/03/07 22:04
再読です。
あとがきに前作のまっとうな続編とあります。本作は前作のような外連味こそありませんが、大変生真面目に描かれているのがよく分かります。あまりの丹念な仕事ぶりにややもすると冗長に感じられるかもしれませんが、決して無駄な描写が目立つというわけではなく、きっちりと伏線が紛れ込ませてあるわけです。
理詰めで真犯人を絞り込んでいく過程は、この作品の真骨頂と言えるでしょう。そこには綾辻の愚直なまでの本格へのこだわりが感じられます。トリックに関しては全然大したことないんですが、それまでも一つの推理するための道具立てとして使い捨てされており、意地とか執念のようなものすら感じます。
個人的には前作のほうが好みですが、こうしたまともなパズラーも悪くありません。真犯人へのアプローチ(結局消去法ですが)も納得、動機にも納得。注意深く読めば必ず犯人が指摘できるように作り上げられた、本格推理の結晶と思います。

No.16 5点 殺人鬼- 綾辻行人 2017/02/20 21:50
いわゆるスプラッターで、腕や首が飛び、内臓が抉り出されたりします。まあかなりグロイので、注意が必要です。心臓の弱い人にはお薦めしません。それでも『2』よりはましですね。
綾辻氏はこういうのを書くのは相当体力、気力が必要で、友成さんなどはよくこんなのばかり書いてるなあ、みたいな事をおっしゃっていました。しかしさすがにただのスプラッターで終わらないのが作者の強みで、ある大きな仕掛けが施されています。私などは勿論これに騙されたわけですが、ミステリでは騙されるのは本望なので、なにも問題ありません。ただただ読後唖然としたというのが正直なところではあります。
私的には本作は綾辻氏の黒歴史のひとつ、もっと言えば「汚点」に近いと思っています。続編が描かれたわけですからそれなりに売れたのでしょうが、それは作者のネームバリューによるものではないですかね。『2』はさらなる汚点ですよ。
でも、柄にもない作品を物にしたという意味では、ある種特異点とも言えるかもしれません。ただ、こういうのが好きな人には堪えられないのではないでしょうか。

No.15 6点 Another- 綾辻行人 2014/11/16 22:21
少なくともあとがきにあるような、新たな代表作とは言えないだろう。さらには、本作は本格ミステリではなくホラーだと私は思う。確かにミステリ的な要素もあるにはあるが、体裁としては完全なホラーだ。
全体的にどうもテンポが悪く、特に前半はもたもたしてややイラッとくるシーンもあったりする。それと、文末が・・・でや・・・てで終わる文章が目立ち、据わりが悪い感じがしてならない。読みやすいので忘れられがちかもしれないが、何か氏らしからぬ印象を受けるのである。
唯一ミステリらしさを発揮しているのがメインとなるトリックで、これは綾辻氏らしいと言えるだろう。ただ、伏線があからさま過ぎて見抜かれやすいという意見もあるようだが、私は騙された。まあそれで良かったのだと思っているけれど。
色々難癖をつける感じになってしまったが、ミステリではなく読み物として面白かったとは思う。しかし期待を上回ったかと問われると否と答えざるを得ない。

No.14 5点 黄昏の囁き- 綾辻行人 2014/03/12 22:26
再読です。
ストーリーの流れは島荘を彷彿とさせる。だけど事件終息に向けてのアプローチの仕方は全然違う。そりゃそうだ、いくら師匠と仰ぐ島荘でも、その辺りはキッチリ線引きをしているということだろう。今や、綾辻氏が師と仰がれる立場になっているから、それでいいと思う。
序盤で大方の展開は読めてしまうのに、なかなか進展具合がスピーディでないため、じれったいというか、多少イラッと来る。特に、過去にあった出来事が小出しにされるため、どうにもスッキリしないねえ。
しかし、結局はそれを逆手にとって、叙述トリック風の仕掛けを施している辺りは、さすがに綾辻だと言わざるを得ない。それに加えて、犯人は実に意外な人物であり、サスペンスの括りの中にも、本格スピリットを忘れていないので、ジャンルを超えた異色作に仕上がっているのではないだろうか。
「囁きシリーズ」は全般的に、今邑彩女史辺りが書きそうな作風にも思える。似ているというのではなく、どこか共通するものを感じるというだけの話だけど。

No.13 6点 暗闇の囁き- 綾辻行人 2014/03/10 22:28
再読です。
うーん、悪くはないんだが普通だね。どこをとっても普通。これと言って突出した部分もなければ、特別アラも見当たらない。まあ雰囲気はそれなりのものを出している気はするけど。
亜希以外の兄弟は、そんなに異様な感じもしないし、不気味な存在感を醸し出しているふうでもない。その点、亜希はどこか不透明で、その生死さえ不明なので、最後までホラー作品としての一翼を担っていると思う。彼の存在がなければ、かなり平凡な作品になっていただろう。
途中、死体の髪が切られていたり、片方の眼球がくり抜かれたりして、内心「おっ」と思ったが、その真相にはやや脱力感が漂う。肩透かしを食らった感じである。
色々なジャンルを含有しているのもいいが、どうも中途半端に終わっているようで、やや消化不良気味の出来になってしまっていると思われるのは、少々残念である。

No.12 6点 緋色の囁き- 綾辻行人 2014/03/08 23:22
再読です。
相変わらず人間が描けていないなあ。と、冗談はさておき、そこはかとなく綾辻テイストが味わえるが、どうも全般的に回りくどい文章が目立つ気がする。勿体付け過ぎなんだよね。
『サスペリア』は程遠いが、やはり元祖はホラーだし、こちらはあくまでミステリだからやむを得ないのか。しかし、もう少し書き様もあったのではないかと思ってしまう、サスペンスもそれほど効いていないし、ホラー小説としてもなんだか中途半端。心理描写もなっていない、これではせっかくの構想が相当悪い方向に走ってしまっているではないか。
しかし、終盤の真相が明かされるシーンは俄かに生き返る感じで、それまでのまったりした展開は何だったのかと言いたくなってしまう。
まあ綾辻作品としては、テンポも良くないし、キレもないので、出来としてはよくない部類になるのかもしれないけれど、犯人の意外性と過去の事件と現在の事件を貫く一貫性に敬意を表してこの点数にしました。

No.11 6点 眼球綺譚- 綾辻行人 2013/12/26 22:26
再読です。
綾辻氏初のホラー短編集。ということで刊行当時はかなり期待して読んだが、それなりの出来ではあったが、思ったほどではなかった。
その中でも『特別料理』と『再生』のツートップは不動である。はっきり言ってその他は全く印象に残っていなかったわけで、再読した今回もそれは変わらなかった。全体的にもう一捻り欲しいと感じた次第。
『再生』のオチは序盤で読めてしまった。これは正直ミエミエじゃないかな、ほとんどの人が予想していた通りの結末だと思う。だがグロさもそこそこあり、面白い。
そして大本命の『特別料理』、まあなぜ指なのか、他の部位ではダメなのかという素朴な疑問はあるものの、とにかくその吸引力は凄まじいものがあるのは確か。ラスト2行が怖い、うまく捻りが決まっている。
上記の二作以外のストーリーはイマイチな気はするが、さすがは綾辻氏、全編を通して実に文章にそつがなく、読ませる才能は生まれ持ってのものと感じた。

No.10 7点 殺人方程式- 綾辻行人 2013/11/14 22:22
再読です。
犯人も死体切断の理由も分かった上で読み直したので、どうかなとやや不安だったが、やはり上質の本格推理小説であった。
氏にしては珍しく物理的トリックを駆使して、死体を○○させているのはお見事。図解も入って分かりやすく、まるで本格物の教科書のような印象すら受ける。
反面、「館シリーズ」のような独特の雰囲気が全くなく、文章も淡々としすぎていて、ワクワクするとかドキドキするといったミステリ特有の愉しさが欠けているのは大きなマイナス点だろう。おそらくそれが災いして、平均点の低さにつながっているのではないかと思う。
とにかく綾辻らしさがないので、氏らしいミステリを期待した読者には裏切られた感があったのではないかと感じる。だが、例えば他の作家がこれを書いたとしたらどうだろう。もっと評価が高くなっていたのではないかと私は思うのだが。

No.9 7点 黒猫館の殺人- 綾辻行人 2013/09/08 22:20
再読です。
初読の際はどうも地味な印象でイマイチだと思ったが、今回読み直してみてその面白さを再認識できた。特に手記にばら撒かれた伏線の数々は、あらすじを知った上で読んだせいもあり、これはそんな意味があったのかと感心しながら読み進むことができ、随分楽しめた。
メイントリックに関しては、同時期に発表されたS氏の某作品との類似性が盛んに指摘されているが、果たして単なるシンクロニシティなのだろうか、真相は藪の中である。
どなたかこれに対してご存知の方がおられたら、是非ご教示願いたいと思う。
これだけのスケールの大きいトリックが、同年に二作別の作家によって使用されるのはいささか不自然と思われるがいかがなものだろうか。
まあそんな些細なことは別にして、本作は「館シリーズ」の雰囲気を十分継承した由緒ある異色作と言えるのではないかと思う。
これまで過小評価していたきらいがあったので、今回再読して評価が変わり、取り敢えず個人的に満足している。

No.8 7点 水車館の殺人- 綾辻行人 2013/02/27 22:18
再読です。
私にとって、館シリーズ中最も印象が薄かった作品だった。
がしかし、改めて読み返してみると、意外と面白かった。確かに地味ではあるが、じっくり読んで自ら真相を追及してみたい読者には持って来いの一作なのではないだろうか。
取り敢えず、犯人はすぐに目星がついたし、おおよそのからくりにも気づいたが、残念ながら人間消失のトリックだけは分からなかったのが悔しい。
全体として、島田潔の推理が始まるまで、なんとなく淡々と進行していくので、その辺りやや物足りなかった気もするが、館シリーズらしい仕掛けも健在だし、伏線の張り方もなかなかうまいと感じた。
前作ほどの派手さはないが、じっくり腰を据えて物語に入り込める良作だと思う。雰囲気も館シリーズらしいしね。

No.7 8点 フリークス- 綾辻行人 2012/11/07 21:50
再読です。
幻想とホラー、ミステリの融合の見事さ、綾辻氏にしか書けないであろう点、異形への畏怖と憧憬、これらの要素を評価して、悩んだ挙句8点とした。
中編3作から成る作品集だが、どれも異様な雰囲気を醸しだしており、舞台が精神病院ならではのトリックが上手く取り入れられているのも評価が高い。
『四〇九号室の患者』は無論オチが分かっているのを承知の上で読んだので、やや長く感じたが、それでも面白かった。
最後の『五六四号室の患者』が最高である。これこそ綾辻氏の真骨頂と言えるのではないだろうか。
幻想小説としても本格ミステリとしても一級品だと思う、ちょっと甘いかもしれないが。
とにかくこれはお気に入りの一作である。

No.6 7点 奇面館の殺人- 綾辻行人 2012/01/19 22:21
待望の館シリーズ第9弾、待たされた甲斐はあったかな。
実に丁寧に描かれていて、それだけに前半殺人が起きるまでまわりくどい感じは拭えない。
しかしさすがに「館」は本格の芳ばしい香りが漂っていて、楽しませてくれるのは間違いない。
被害者の首を切った理由、招待客全員に仮面を被せた理由、指を○○した理由などは十分納得できるが、殺人を実行した動機だけはいかにもありきたりでやや拍子抜け、これはちょっといただけない。
それと、前のお二方も書かれているが、鹿谷の推理はややもすると推測と偶然に過ぎない部分があるのは否定できない。
とまあ、色々あげつらったが、細かい点まで緻密に書かれていて好感が持てるし、「館」ならではの趣向が満載で、本シリーズのファンは間違いなくその世界観を存分に味わえると思う。
随所に伏線が張られているのも、高評価。
しかし、読者によっては、ジリジリするような苛立ちを感じるかもしれない気がするのは、ちょっぴり残念な点ではないだろうか。

No.5 8点 時計館の殺人- 綾辻行人 2010/08/29 23:44
ある意味、この作品こそが『十角館の殺人』以上に「館シリーズ」の代表作かもしれない。
よく考えてみれば、至る所に伏線が張られているのに、このトリックに気が付かなかった自分が愚かしい。
島田潔が一日一本と決めていた煙草を、徹夜で推理する際に灰皿が吸殻でいっぱいになるほど、禁を破って煙草を吸ってしまうシーンが何故か印象に残っている。
とにかく本格ミステリとして立派な作品だと思う。
蛇足だが、『暗黒館の殺人』もこれくらいのボリュームなら良かったのにと強く思う。

No.4 8点 迷路館の殺人- 綾辻行人 2010/07/17 23:42
これ程作中作を見事に昇華させた小説も珍しい。
叙述トリックはややアンフェアな部分もあるが、私にとっては驚愕と言えるものではあった。
鹿谷門美の「迷路館の殺人」でも十分面白かったが、さらにそれを巡っての攻防は読者サービスの精神に溢れていると思う。

No.3 7点 人形館の殺人- 綾辻行人 2010/06/15 23:54
「びっくり館の殺人」とはまた違った意味での番外編的作品。
舞台は雨がそぼ降る京都は北白川。
個人的には綾辻作品で最も情景が眼に浮かぶ逸品である。
全体的に評価は低いようだが、私が読んだ中では綾辻氏らしさが非常によく出ている作品だと思う。
「館シリーズ」ブランドを上手く利用した仕掛けは、ここでみなさんがっかりされるのだと思うが、私はありではないかと考える。
本シリーズ中では疵も多いが氏らしい異色作であることは間違いない。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1837件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(26)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
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