皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
江守森江さん |
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平均点: 5.00点 | 書評数: 1256件 |
No.436 | 3点 | 数学的帰納の殺人- 草上仁 | 2009/08/29 18:36 |
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作者がミステリ畑でないと知りながら論理的パズラーを期待させるタイトルに釣られて手にしてしまった。
カルト宗教にまつわる事件の真相を女主人公が究明する話で、ハードボイルド風な展開。 半分辺りでフーダニット興味がなくなり、後半はホワイダニット追求サスペンスだった。 ちょこまかと書かれ鬱陶しい数学的な話は飛ばし読み可能。 サスペンスなくせに長くてクドい解決編も退屈だった。 褒め所がエピローグな最終3ページだけだった。 |
No.435 | 7点 | 凶鳥の如き忌むもの - 三津田信三 | 2009/08/29 05:14 |
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読み易そうな造りの特装版(短編のオマケ付き)が出てたので手にした。
民族学に風習と(今回は)薄味なホラーテイストを纏った濃密本格ミステリ。 孤島のC・C物的舞台設定ながらサスペンス的な盛り上がりに欠け、前半は淡々と状況説明が続きナカナカ読み進まない(しかも、伏線が散りばめられている為に読み飛ばせない) 一転後半は、虱潰し推理法で、この作品の本質である"人間消失"(ハウダニット)に迫りダミー推理を存分に楽しめ、更にミステリとしての細かな気付きを堪能できる。 そして、毎度お馴染み残り少ないページ数での解決編は、伏線を回収しつつ、まさにマジックの種明かし的"一撃"だった。 ダミー推理を捨て駒に使う構成が活きているので、メイントリックの現実味から「バカミス」と称されるのも最上級の褒め言葉と思う。 ※未読の方へ(少しネタバレ) 実行場面を想像して吐き気を催す可能性に留意して下さい。 オマケ短編は、このシリーズの短編全般同様にミステリとしては薄味だが、キャラ小説としては楽しい。 |
No.434 | 4点 | 百万のマルコ- 柳広司 | 2009/08/27 16:37 |
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暇つぶし的ホラ話にそれなりの解答を提示するような、しないような連作短編集。
自分が捕らわれの身で、この手の暇つぶし話で楽しませて貰えたら退屈と言う苦痛は少ないと思いながら作品世界に入り込んだ。 ミステリとしては微妙だが、この手の話で引き込む作者の剛腕は素晴らしい。 各話短く、通勤ラッシュの苦痛しのぎに最適かもしれない。 |
No.433 | 6点 | 新本格謎夜会〜ミステリー・ナイト〜- 事典・ガイド | 2009/08/27 10:10 |
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先に、本来どのカテゴリーに掲載すべきか微妙な本である事を記します。
新本格生誕15年周年を記念した推理イベントを丸ごと一冊にした本です。 代表的な新本格作家達の座談会やインタビューは作家の自己批評書や読書ガイドとしても優れていると思うので、このカテゴリーにしました。 しかし、監修者を見てお分かりの様に、この本の目玉は、謎解きイベントを小説化した作品です。 テレビでお馴染み「安楽椅子探偵」シリーズの実演版を小説化した作品と思える物で「読者挑戦物」好きな私には非常に嬉しい作品でした。 この本が出版された当時の本格の主流は"まだ"論理的パズラーだったな〜と実感した。 |
No.432 | 7点 | 9の扉 リレー短編集- アンソロジー(出版社編) | 2009/08/25 21:45 |
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執筆者が次の執筆者を指名し、「お題」を手渡すリレー短編集。
ミステリ的にそうそうたる執筆陣が九名揃ったが、ミステリとしての縛りが無く本格を期待すると肩すかしをくう。 縛りが「お題」のみと緩いので各作者の個性が活きている。 しかも、企画設定が絶妙なので一冊の本としての存在意義は大きい。 「お題」以外も各作者が設定を引き継いだりして相乗効果もある。 貫井の設定を生かして何度も捻ってくる歌野は、らしさ全開。 そして、特筆すべきは「お題」のダブルミーニングに捻りを加えて処理し、先頭の北村に一周する形で戻したトリの“辻村深月”の素晴らしさだろう。 初読な作者だったので、この本で出会えた事に感謝したい。 |
No.431 | 3点 | 智天使の不思議- 二階堂黎人 | 2009/08/24 23:36 |
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作品の書かれた経緯を考えず単なる水乃サトルシリーズ作品として読めるなら、シリーズ平均点(5点)レベルだろう。
シリーズ読者として嬉しいのは、サトルの三番目の姉がバレリーナだと初公開された事に尽きる。 さて、「容疑者X」論争の発端が東野人気に対する作者の嫉みと一般的読者に認識され評価を下げている現状を考えると、私みたいなシリーズ読者かコアなミステリファンしかこの作品を読まない(一般的読者には無視される)と思われる。 ※一応ネタバレ注意 更に、ミステリの骨格が「容疑者X」同様に倒叙での"叙述による日付錯誤と隠蔽"では作者の主張する本格って何?と疑問に思う(しいては、作者の創作姿勢にも疑問を抱く) そして、本格は伏線がキッチリしているべきと主張するかの如く露骨で、トリック及び「献身の真相」も察し易く、結末でのカタルシスは得られなかった。 めったに倒叙を書かない作者が、犯人に逃げ切られるイレギュラーな結末にした事も関心しない。 どの道、大多数の一般読者に無視され続けるのだから、倒叙でない従来の軽いノリなサトルシリーズで書いて欲しかった。 |
No.430 | 3点 | パロサイ・ホテル 御手洗パロディサイト事件- 島田荘司 | 2009/08/22 16:52 |
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この本が出版された時には気持ちが御手洗シリーズから離れていた。
しかし、一部の短編は読んでいたし、決して御手洗を嫌いになった訳ではなかった。 思い起こせば、当時「氷川透」の全作品読破を遂行中だったので、この本も手にした。 キャラ萌え的にサラッと読み飛ばした記憶がある(その程度の内容) 同人誌なら理解出来るが普通の出版社が(収益改善の為)発行したのだから当時の御手洗人気の凄さが伺い知れる。 しかし、今ではリサイクルゴミになり下がった。 |
No.429 | 7点 | 十三の階段- 山田風太郎 | 2009/08/22 08:24 |
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山田風太郎が関わったリレー短編6編を纏めた作品集。
まず、リレー短編という特殊な事情で埋もれていた作品達が読める点を評価したい。 山田風太郎より高木彬光、島田一男に惹かれて手にした。 リレー短編故にどれも傑作とまでは言えない(ツギハギ感は拭えない) しかし「悪霊物語」で明智小五郎、「白薔薇荘殺人事件」「十三の階段」で神津恭介が名探偵として登場して楽しめる。 更に「怪盗七面相」では読み切り型らしく各作者独自の名探偵が活躍し個性が活きている。 特に先頭の島田一男は、一番得意な社会部長シリーズの一編として懐かしかった。 どの作品も作者の個性が伝わり、稚気に溢れている。 この様な企画も悪くないと改めて思った。 |
No.428 | 5点 | 蝶々殺人事件- 横溝正史 | 2009/08/21 16:56 |
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クロフツ「樽」の影響下で横溝は読者挑戦型フーダニットとしてこの作品を、鮎川は論理的アリバイ崩しとして「黒いトランク」を生んだ。
「黒いトランク」がアリバイ崩しに特化して成功したのに対し、読者挑戦物にした為に成功したとは言い難い。 ※ここよりネタバレ フーダニットとして序曲から犯人を察せてしまう(前半に手記を取り入れた)構成の不用意さは、高木彬光「能面殺人事件」同様に関心しない。 そして、犯人を察しながらではトリックも透けて見えミスリードされない。 書かれた当時の考えうる技巧を全て使っているが故に、擦れた読者には察し易い皮肉な結果となっている。 しかし、金田一の登場しない作品で横溝の違った作風が楽しめる事は評価したい。 かなり古い映画は原作より楽しめた朧気な記憶がある。 |
No.427 | 5点 | 真珠郎- 横溝正史 | 2009/08/21 16:05 |
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初読当時、横溝作品=金田一シリーズだったので金田一が登場せずガッカリした。
その後に金田一シリーズで制作されたドラマを観て、この作品に金田一は要らないと思った。 それでも金田一の居ない横溝作品は何か物足りない。 |
No.426 | 7点 | 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 | 2009/08/21 15:50 |
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初期古谷一行版のドラマ(沖雅也出演)を先に観た。
その後に原作を読んだので構図がスッキリ理解し易く、更にローカル局の再放送を観てこの作品をすっかり堪能した。 横溝作品に於いて、作中曲「悪魔が来たりて笛を吹く」の秘密は「獄門島」の有名なセリフに匹敵すると思っている。 その秘密が明かされるラストシーンは金田一シリーズ一番のインパクトだった。 |
No.425 | 6点 | 首を買う女- 高木彬光 | 2009/08/20 17:17 |
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神津物を量産していた時期の6編に、最後の神津物短編「棋神の敗れた日」を加えた短編集。
初期の各編は、入り組んだプロットが作者らしく、その構図をアッサリ見破る神津はまさに名探偵。 しかも、解決の過程がバラエティー富み、神津の色んな面が見れ嬉しい。 反面、好き故に読み込んできたせいか作者の手口に馴れ、私にも“神津並み”にプロットが見えてしまい満足度は低かった。 ミステリ度が低くプロット頼みではない「棋神の〜」が一番楽しめる皮肉な読書になってしまった。 |
No.424 | 5点 | 名探偵の憂鬱- アンソロジー(国内編集者) | 2009/08/20 03:12 |
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現在、このアンソロジーでしか読めない高木彬光「罪なき罪人」を読みたくて手にした。
残念ながら期待ほどの作品ではなかった。 八名の作者(島荘・高木・正史・虫太郎・島久平・戸板康二・山口雅也・津村秀介)の代表的名探偵が活躍する短編を集めた物で選ばれた作者の年代に幅がありバラエティーには富んでいるが、傑作と言える程の作品は無く、どの作品も顔見せレベル。 この本の一押しは鮎川哲也の巻頭随筆かもしれない。 お気に入りの名探偵が居ても個別の作品集で読む方が絶対に楽しいはず。 |
No.423 | 4点 | 掌の中の小鳥- 加納朋子 | 2009/08/16 12:12 |
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既読作品数が多い訳ではなく、違うテイストの作品を読んでいないだけかもしれないが「金太郎飴」状態的マンネリ感が拭えない。
しかも、肝心のミステリ部分も以前どこかで出会った気がするネタの寄せ集め感がある。 そのためか「ななつのこ」を読んだ時程の満足感は無かった。 そして、自分がミステリ読者として擦れてしまった事を痛切に感じてしまった。 そういった事から高評価出来なかった。 |
No.422 | 5点 | ヴァン・ショーをあなたに- 近藤史恵 | 2009/08/16 09:51 |
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グルメ小説ミステリー風味な連作短編集の第二弾。
ミステリーズ連載分に書き下ろし2編を加えた。 書き下ろし2編は終了に向けて舞台を変え前日談を描いたと思える。 「氷姫」で冷凍庫(電気入りの継続性にも疑問)に長期放置された氷が物語の肝になっているが、実際は昇華して縮小(消失)するか、臭いが付着する為に本来なら物語が成立しない可能性あり(後書きでも付して言及してほしかった) 前作同様にグルメ小説として楽しむべきと思うが、細かな気付きの部分ではミステリ風味は強くなっている。 氷の昇華が気になり-1点した。 |
No.421 | 5点 | タルト・タタンの夢- 近藤史恵 | 2009/08/16 09:06 |
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グルメ小説ミステリー風味な連作短編集。
全編ミステリーズに連載された作品。 前半3編の連載間隔が開きキャラ紹介にダブりがある。 作品集にする時点で加筆修正してスッキリさせてほしかった。 基本的に安楽椅子タイプで解決にグルメ知識が必要な為にミステリーとして弱い。 読みながら涎が出そうになったからグルメ小説として合格だと思う。 |
No.420 | 4点 | シチュエーションパズルの攻防- 竹内真 | 2009/08/16 01:00 |
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青春小説を中心に一般小説分野(代表作はカレーライフ)の作者がミステリにも裾野を広げるべく書いた連作短編集。
最終話以外はミステリーズに連載された物でタイトルどうりなシチュエーションパズルをストーリー仕立てにした安楽椅子物で、キャラも寄せ集め感が拭えず、ありきたりな「日常の謎」作品と思える。 しかも、書き下ろし最終話の作者を思わせる登場人物と楽屋落ち話、投げっぱなしな結末には脱力してしまった。 作者については、読みやすさは合格点な事からもミステリ向きな作家ではないのかもしれない。 |
No.419 | 6点 | 少年探偵王- アンソロジー(国内編集者) | 2009/08/14 01:40 |
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'02年に光文社文庫の企画で出版された物についての書評です。
監修・鮎川哲也となっているが名前だけで、選者及び本の解説は芦辺拓単独。 江戸川乱歩(3作)、高木彬光、鮎川哲也(3作)の埋もれた少年向け探偵小説に漫画(1作)を加えたアンソロジー。 乱歩については乱歩独自の作品集の方が(この本の収録作が小学校低学年向けな為)良作に出会えると思う。 高木作品は、現在めったに読めない「少年向け神津物」中編で、現代に置き換えれば「名探偵コナン」を彷彿させる。トリック自体は大人にはバレバレだが雰囲気は楽しめる。 鮎川作品の二編は大人向けに転用可能な本格で、鮎川らしさに溢れ少年物とバカに出来ない。(残り一編の写真トリックはクイズレベルだが) 漫画は楽しめたが、このサイトの採点対象外なのでオマケ扱いにした。 作者別に特別解説も付されている。 少年向け探偵小説の名探偵達は大人向けより格段に格好いいのが嬉しい。 |
No.418 | 5点 | 少女たちの羅針盤- 水生大海 | 2009/08/12 07:16 |
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島荘が一人で選考している賞の優秀賞作品(要は二番手作品)
大賞作品の島荘が主張する「これからの本格ミステリ」を体現した重厚さとは対局にある青春サスペンス。 少女達の描写は素晴らしい青春小説だと思う。 反面、過去と現在を交互に描きながら(過去の)殺人犯と(現在の)脅迫犯を探る本格ミステリの部分は(伏線があるにはあるが)多分に後出しで論理的に導かれる物ではない。 しかも、二時間サスペンスドラマの脚本的展開な為に犯人登場時に察し易い。 ミステリの賞を受賞しながら褒めえる点が青春小説部分と皮肉な作品。 |
No.417 | 6点 | 夏の魔法- 北國浩二 | 2009/08/12 02:02 |
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叙情的な背景描写。
主人公の特殊な設定と巧みな心理描写。 抜群のリーダビリティから紡ぎ出される物語。 その中にさり気なくミステリの技法をなじませた作品。 (嗜好の一番手が論理的パズラーなので私的に残念な思いはあるが)今後、ミステリが生き残ってゆくにはこういった路線が主流になると感じさせる。 新たなるミステリの幕開け(レーベルがミステリ・フロンティア)と言える作品で、寡作な作者だが伊坂、道尾と共に時代を牽引するのではないだろうか! |