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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 655件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.475 5点 赤い館の秘密- A・A・ミルン 2015/10/05 13:45
『くまのプーさん』の作者が書いたミステリーということで有名な作品です。

注目すべき点は、ギリンガムとベヴリーのコンビによる、小説の全体に流れる穏やかな雰囲気でしょう。それに尽きます。
ようするに、サスペンスといってもハラハラするようなものはなく、謎解きミステリーとしても今となれば、褒めるべきところはほとんどない推理小説といえるでしょう。
とはいえ、探偵や警察の立場で誰が殺したのかということは考えずに、あくまでも小説の読者の立場で、館の主であるマークとはどんな人物なのか、そして彼はどこへ消えたのか、ただそれだけに着目して読めば、ミステリーとしての価値を見出せるかもしれません。

ところで、作者がこの作品を書いた理由は、ホームズへの対抗心からなのか、ホームズへの敬意からなのか、あるいはたんにユーモアで茶化したかっただけなのか、いずれだったのでしょうか。

No.474 6点 アヒルと鴨のコインロッカー- 伊坂幸太郎 2015/09/29 09:48
いまや当代切っての超人気作家。本書は代表作と言えるが、どの作品も売れているようなので、どれもこれもが代表作なのかも。
身の周りや、いろんなところから、伊坂、伊坂・・・とうるさく聞こえてくる。
青春小説も青春ミステリーも好きだが、あまのじゃくの性格のせいか、この著者の作品を読みたいとはさほど思わないし、ほとんど読んでもいない。
世間で読まれていても、このサイトだけは別、と思っていたのに、こんなに書評数があるなんて意外だ。

たしかにこの種のミステリーを好むが、もっと驚きたいし、サプライズはラストにもっと近いほうがよい。
基本的には、刑事や私立探偵、素人探偵など、積極的に捜査する人物が登場する推理小説がよい。と言いながら、ミステリーもどきを多く初期登録しているじゃないか、と指摘されそうだがw

それに、伊坂にしろ、村上春樹にしろ、文学的に見てすぐれているのだろうか。これがまずよくわからん(そのくせ、村上さんにはノーベル賞を取ってもらいたい)。似ているとのうわさだが、それもよくわからん。伊坂や村上の小説は万人受けするのかなぁ。時代なのかなぁ。

ぼやきはこれぐらいにして、いつものように冷静(?)に評価すると
真相およびカットバック構成は、ミステリー的に〇。こういう構成はおおいに疑うべきなのに簡単にだまされてしまった。
さんざん文句を言いながら、そんなアホな、と言われそうだが、けなすところは少ない。

No.473 6点 緋色の迷宮- トマス・H・クック 2015/09/24 10:43
かつて読んだ記憶シリーズも、それ以外のものも、語り手の重苦しさはみな同じようなものと感じていたが、本作はちょっと違うような・・・。身近なテーマだったということだけなのかもしれません。

8歳の少女エイミーが行方不明になり、その直前に彼女のベビー・シッターをやっていた15歳のキースに疑いがかかる。キースは主人公エリックの息子で、やや引きこもりがちな少年。エリックの兄のウォーレンも、ホームで暮らす父親も、問題があるようだ。事件後、妻との間も次第にギクシャクしてくる。

本来ならエイミーは生きているのか、誘拐なのか殺人なのかということがいちばんのテーマになるはずだが、本書では、エリックと、疑いを持たれた息子や妻、兄、父との家族関係の描写に多くのページが割かれている。
家族を描いたサスペンス風味の一般小説という感じか。
こういった少女失踪事件も、視点を変えればこんな描き方ができるのだと感心した。テーマが万国共通の家族関係だから、主人公に感情移入しやすいはず。

ラストは予想外だった。やはりミステリーだった。
合格点だが、「緋色の記憶」には及ばず。

No.472 6点 紅楼の悪夢- ロバート・ファン・ヒューリック 2015/09/05 13:49
ディー判事は、立ち寄った楽園島で起きた密室事件をルオ知事に押しつけられて、部下のマーロンとともに捜査することになる。そして次の事件と、さらに30年前の事件も。
歓楽地の事件で、里正(村長、元締めみたいなものか)、花魁、妓女、博士、書生、骨董商など、雑多な人物たちが登場する。歓楽地で骨董商というのもなんか変な感じだな。

トリックよりもおもに人間関係の面白さがある。
いかにも悪そうなやつもいれば、そうでないのもいる。人物間のどろどろ感もある。マーロンたちのアクションの見せ場もある。
ディー判事の最後の謎解きはちょっとした驚きだった。伏線は軽すぎて忘れていたw

国内の安っぽい2時間ドラマにそのまま使えそうなストーリーだった。
総合的に見ても、軽さと、重さと、滑稽度(挿絵によるものか?)と、男女のせつなさとが混在したような、なんかバランスがイマイチのように感じた。
まあでもプロットには変化があって楽しめたほうかな。

No.471 5点 処刑までの十章- 連城三紀彦 2015/08/31 10:38
少ない登場人物の中で、いったい誰がどんな役割を演じているのか、その辺りを探りながら読むのがいちばんでしょう。

突如蒸発した靖彦、その妻の純子、靖彦の弟の直行。残された二人がいっしょに聞き込みしながら、靖彦を捜索し、さらなる事件に遭遇する、それだけなら普通の推理小説だが、そこは連城氏らしい味付けになっていて、幻惑的なサスペンスが創出してあります。
互いに腹の探りあいに発展していくところや、登場人物の事件への関わり方が徐々に解明していくところは、それなりに楽しめます。

ただ、肝心要の謎の解明はあっけないし、それが事件にどう関わっているのかも中途半端な感があります。最後までもやもや感は拭い取れません。
結局、中途のサスペンスだけが唯一の楽しめる要素だったようで、総合的にはちょっと?という感じでした。

No.470 7点 リカ- 五十嵐貴久 2015/08/20 10:01
小説の世界だけでなく、現代の実社会においてもありがちなこと(そんなわけはないと思いたい)。単純だけど本当に怖い話だった。

小説の中でも語られていることだが、インターネットというのは悪魔の住処。魑魅魍魎が跋扈するわけのわからない世界だ。
主人公がかかわりあった出会いサイトなどの疑わしいサイトにアクセスをしなくても、善意の利用者が、何らかの拍子で、交通事故のように被害をこうむることだってある。ということがわかっていても、便利だから使ってしまう。

しかしそれにしても、作者による、主人公を痛めつける技は凄い。もっと早めに気づけよ、他にも方法があるだろ、と言いたくもなるが、でも逃げ場なしにするからこそ面白い。
本編のラストも加筆したエピローグも特段のひねりはないので、ミステリ好きの読者よりも、重畳的に襲いかかってくる恐怖を楽しみたい方におすすめです。

リカの描き方があまいという意見もあるようだが、正体がはっきりしないからこその恐怖だってあるはず。
リカは実質的な主人公といってもよく、頭も良さそうだから、女版レクターのような位置づけで書いたのではないだろうか。
終わり方も怖いが、ある意味、続きがありそうなラストだ。調べてみると、『リターン』という続編があった。リカが成長して戻ってくるのだろうか?

No.469 4点 瀬戸内海殺人事件- 草野唯雄 2015/08/15 09:13
タイトルは平凡ですが、かなりの変格です。
そもそも、なぜ、刑事でも私立探偵でもなく、失踪人の家族でもない、和久と明美というヘンテコな男女コンビが、捜査、捜索をしなければならないのか。しかも死体はない。
さらに、その捜査過程はちょっとした冒険小説みたいで、違和感がある。
そして最もおかしなことは、読者への挑戦がついていること。
二人のやりとりは軽妙、行動は滅茶苦茶だから、ユーモア小説かと思ってしまうぐらい。

解説にもありますが、著者は本格、サスペンス、ホラーなどを書く、作風が多彩な作家です。
大昔読んだ『山口線貴婦人号』がお気に入りで、本格物のヒット作を求めてときどき読んでいました。でも、炭鉱が舞台の作品が多く、あまりにも縁のない世界なためか、ほとんど記憶に残っていませんw

本作はお遊び感覚にも見えますが、初期に書かれたもので、いろいろと試してみたかったんだろうなと想像します。
仕掛けは抜群だと思いますが、物足りなさがそれを上回りました。

No.468 6点 幽霊座- 横溝正史 2015/08/07 09:40
『幽霊座』『鴉』『トランプ台上の首』。金田一モノ中編3編が収録されている。

表題作は歌舞伎の世界が舞台。しかもその劇場、特に舞台裏の奈落が舞台となっている。舞台設定としては抜群だろう。映像化を狙ったような内容だ。
100ページ程度の話で、17年前の失踪事件から始まり、連続殺人も起き、派手な展開なのだが、やや尻すぼみ。舞台は日本的だが、いかにも海外ミステリーを参考にしているなという感じがする。
『鴉』。これも過去の失踪事件が発端となっている。『幽霊座』もそうだが、人間関係がミソ。これら2作は、その辺りを楽しむのがいいだろう。
『トランプ台上の首』はタイトルどおり、生首を見つけるところから始まる。なぜ、首だけが残してあったのか。その他、謎だらけで、ミステリーとしてはもっとも楽しめた。しかし、「蜘蛛」の謎は、ふつうに考えればわかるはず。

3作とも中編なのでやや物足りなさはあるが、横溝らしい雰囲気のある作品群といえる。
異なる作品でだが、等々力警部と磯川警部の両警部が登場するのも本書の楽しみの1つだ。

No.467 4点 ボトルネック- 米澤穂信 2015/08/03 10:03
パラレルワールドを背景とした作品。
こちら側とあちら側。似ているけど、あちら側には自分はいない。そのあちら側に入り込んでしまう。
間違い探しという発想は面白い。SF要素、ファンタジー要素、青春小説要素があり、わりに好きなタイプなのだが、最終的には魅力を感じられなかった。
恋人の死の謎はあるが、その謎解きがメインではないし、ミステリーとしてもかなり苦しい。

あまり読まない作家さんなのでよくわかりませんが、人気のある作家さんにはちがいありません。
でも本作は、エンタテイメント作家なのに、読者のことを考えずに、自己満足的に、いかにも売れないように書いてしまったのでは、と思います。
一流のエンタテイメント作家なら、たとえば東野氏や宮部氏なら、自分の満足のために、つまらない作品を書きたいと思っても、その気持ちをぐっと抑えて、まず読者を楽しませることを第一義に考えるはずです。
着想がいいだけに惜しい気がします。

No.466 6点 - 小杉健治 2015/07/28 09:35
第41回日本推理作家協会賞受賞作。残念ながら直木賞は逃している。

夫殺しで裁かれる弓丘奈緒子。本人は殺しは認めるが、その動機に起因するであろう自身の不倫は認めない。一方、水木弁護士から引き継いだ原島弁護士は、無罪を主張する。夫には愛人がいる。奈緒子には隠された家族的な過去がある。そのあたりが関係しそうなのだが・・・。

裁判の一部始終が、子どものころ奈緒子に憧れを抱いていた取材記者の視点で語られる、終始、法廷場面という作品です。
一般の推理物なら刑事や探偵の聞き込みがあるし、法廷物であっても弁護士らによる調査があるのがふつうです。苦労して得た事実の積み重ねが読者を納得させるものですが、本作にはそれがいっさいありません。これを都合よすぎると感じないではない。
しかも、本作のような味もあり重みもある話は、文章もそれなりに重苦しくしたほうがいいのではとも思います。読みやすいことに文句を言うのはちょっとぜいたくかもw
とはいえ、広範囲の方々におススメできる作品といえるでしょう。

No.465 5点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている - 太田紫織 2015/07/23 09:26
定義ははっきりしないが、まさにライト文芸だろう。
お嬢様・九条櫻子は骨が大好きな骨収集家。この櫻子さんと、語り手の高校生・館脇とが日常の中で人の死に関わる事件に遭遇し、その事件を短時間で解決する、連作推理モノ。

櫻子さんは安楽椅子探偵的に、あくまでも第三者の立場から事件に関わり、さらっと核心を披露するが、ワンポイント推理なので、読者がその推理を楽しむほどではないし、あっと驚くようなこともない。推理小説として見ればイマイチな出来かも。
やはり、会話などを楽しむためのキャラクタ小説なのだろう。

櫻子さんのキャラはたしかに新鮮ではある。
話し方からは宝塚の男役を連想するし、そんなトーンの声が聞こえてきそうな気もする。
館脇からすれば美人で笑顔が素敵だそうだが、魅力的かというと、かなり微妙だなぁ???
男目線からすれば、櫻子さんのあわてふためく姿を時折り見せたほうが可愛げがあってよいと思うのだが・・・。
女性なのでなんとなく「櫻子さん」と敬称を付けたが、呼び捨てで十分だったかも。

No.464 6点 フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン 2015/07/16 13:28
地道な探索や聞き込みにより手がかりが開示されていき、真相に近づいていく、現代ミステリーのお手本のような推理小説らしい推理小説です。

今風のミステリーを読みなれているので、途中で他の事件が起きたり、探偵が危機に陥ったりするサスペンス要素が足りないように感じますし、時間軸の交錯や多重的な描写がなく、ストーリーが平板な印象も受けます。
でも、サスペンス性が豊富すぎれば物語が面白くなりすぎて謎解きどころではなくなるし、凝った構成であればさらに話がこんがらがるので、この程度が存外いいのでしょう。
物語の流れは悪くなく、それが物語性をカバーしていてスムーズに読めるので、十分です。

解決編は、その理由付けは違うだろうというのがあり、死体隠しに関する謎がちょっとましかなという程度です。最後の演出もあり見せ場ではありますが、解決編にいたるまでの道筋のほうが楽しめたように思います。まあでも、これだけのページを割いて説明してくれれば、降参するしかありませんね。
現代の小説を読んだときには、もっとちゃんと説明しろと思うこともありますから、丁寧すぎることにマイナス要素はありません。

No.463 7点 交渉人- 五十嵐貴久 2015/07/04 12:34
病院に立て籠もるコンビニ強盗たち。彼らに対峙するのは、交渉人の石田警視正。彼には、かつての部下である女性警部・遠野が補佐としてつく。
交渉は難航しながらも、解決へ向けてたんたんと進んでいく。
そして解決へ、という流れのはずだったが、事件は思わぬ展開へ・・・

渾身の力をこめて書いたデビュー作、ではなく2作目だったようです。
最終ページには参考文献まで掲載されています。気負いも感じられるし、十分に準備し、推敲して書いた、賞に応募したのではないかというほどの作品だと思っていたのですが。
最近読んだ「南青山骨董通り探偵社」は、著者がベテランの域に入って書いた、余裕の箸休め的な作品ということなのでしょう。

(以下、ネタばらし傾向な文章となっています)

石田の交渉には余裕がある。米映画の「交渉人」の交渉にくらべれば、たしかにゆったりしている。
でも個人的には、遠野警部が不振がらずに補佐していたわけだから、作中における「交渉人」の仕事を疑うことはなかった。
むしろ、すさまじい筆力に感心するばかりだった。
ただ動機はありきたり。しかもその動機を終盤に延々と語るのは、あまりにも普通すぎる。
そこにドラマがあるのだけど、さらにひと工夫ほしいな、という感じはした。

かなりの出来だと思っているが、これまでの書評を見ると、そうではないような感じもする。
たぶん、否定的な書評から読み取れる本書のミスは、交渉人の仕事はこんなものだと、遠野警部の視点を交えて念を押しながら描いてあるのに、その仕事があまりにもゆったりとスムーズに進むので、早い段階でこんな仕事じゃないはずと読者に思わせてしまったこと。だから、きっと犯人はアイツだろう、ということになるのだろう。
これが著者のわずかなミス。

まあでも、超弩級・社会派警察サスペンス作品だとは思います。

No.462 6点 二重逆転の殺意- 姉小路祐 2015/06/29 10:00
たいそうなタイトルだなあ。見当たり捜査ってなんだろうか?

序盤は題名に似合わず、警察官による、大阪のお笑いの雰囲気が漂っている。
70ページをすぎたあたりで、大阪からかけ離れた青海埠頭で企業再建という詐欺に絡んだ殺人が起こり、推理小説らしくなる。
中盤以降は、種々の事象が事件に絡み合うかのように、はげしく場面が変化していく。変化があるわりには読みやすい。しっかりとしたプロットによるものだろう。

見当たり捜査とは、全国の指名手配犯の顔写真を手帳に貼り、特徴を頭に叩き込み、街を歩きながら犯人を見つけるという、大阪の捜査共助課の仕事。だから捜査員は全国の都道府県警察の手伝いをするだけで、担当事件を持たない。
そこの署員、浦石らによる見当たり捜査と、浦石の妻である、生活安全部の姫子による少女補導とが、青海の殺人事件へとつながっていく。
犯人はあっさりと逮捕されるが、じつは、このあとの裁判で驚愕の事実が明かされていく。

終始退屈することなく面白く読めた。
導入部は、回想による人物描写など十分すぎるほどの説明があるから、とてもわかりやすい。エンタテイメント小説の導入部の書き方として上等だと思ったが、ていねいすぎるので「文学」とはほど遠いようにも感じた(あくまでも素人目線)。調べてみると、横溝正史ミステリ大賞佳作を受賞しているが直木賞とは縁がなかったようだ。
でも、読みやすくストーリーもいいので、2時間ドラマ御用達の大衆小説家としては、これで十分。著名性は西村京太郎、内田康夫、和久峻三には及ばないが、彼らを追いかけて量産型のエンタメ作家を目指してほしい。

仕掛けはよく使われるアレ。工夫はあるが、タイトルがネタバレ気味なところが惜しい。

No.461 8点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2015/06/23 09:56
列車内での殺人。犯人は10数人の乗客、乗員の中の誰なのか。
クリスティー作品の中でも人気の作品。
仕掛けが有名で、その後の流用もあります。
好きな点、上手い点としては、被害者が一人ということ、ポワロの最初の推理の対象人物があの人だったこと、そしてポワロの謎解きの締めくくり方、ですね。

本作は2度読み、3度読みにも耐えられる内容となっています。
といっても、伏線を確認しながらという理由ではなく、つぎのように解釈したからです。

この作品はじつは、ミステリーというよりはむしろ
(ここから少しネタバレ風)

忠臣蔵なんですね。
直近の年末か年始にテレビで放映された、三谷幸喜版の「オリエント」を観て、そう思いました。
このドラマには第2部があって、そこで、あだ討ち(殺人の実行)までのエピソードが明かされる。これが第1部と同じぐらいに面白い。
こんな作り方、楽しみ方もあるのだなと感心しました。そして今回の再読。
背景を想像しながら再読すれば、忠臣蔵と同じように、なんどでも楽しめます。

当然ですが、本格ミステリーとしての価値は、仕掛けを知らずに読む1回目にあります。
その際に、フェアと感じるか、アンフェアと感じるかは読者しだい。
私は、本書が本格ミステリーであると標榜する以上、アンフェアと判断されてもしかたなしとは思います。が、それでも当時楽しめたので、潜在的に忠臣蔵を感じとっていたのかもしれませんw

以上の理由で、再読でも面白い。
本作のジャンルは、本格ミステリーではなく、本格ミステリー風復讐モノ超娯楽作品なのです。

好きな作品なので以上のように擁護しましたが、正直なところ、再読はやはりねぇ~(笑)。

No.460 7点 ハードボイルド・エッグ- 荻原浩 2015/06/17 09:53
最上俊平はマーロウに憧れ、マーロウを気取った冴えない私立探偵。主たる仕事はペット探しで、今回もそれから始まる。
ペットの飼育放棄やブリーディングの問題など、ペットに関する社会問題も盛り込んである。というほど大げさなものではないが。
そんなペットの捜索が急展開し新たな局面へと発展する。

まず本作の売りは、笑いとサスペンス。
主人公はもちろんだが、彼を取り巻くキャラクターが負けてはいない。
80歳超の秘書・綾がそれ。彼女との珍妙なやりとりは強烈。
つぎがホームレスのゲンさん。主人公との組長宅への侵入シーンはケッサク。
この場面もそうだが、ゲンさん、綾との行動は、笑いとサスペンスに満ち溢れている。そしていたるところで俊平の度胸のなさが披露される。
本人はシニカルな言葉を吐くし、始終危ない目にもあい、マーロウとあまり変わらない気もするが、腰が引けてしまうことと、脇役たちのお笑い度に大きな差がある。

つぎにストーリー。
後半はかなり魅せてくれる。
ちゃんとした筋があるから、たんなるパスティーシュで片づけられない。ハラハラ感がたっぷりだからサスペンスともいえるし、ペットの問題がはらんでいるから社会派モノともいえる。ミスをしながらも最終的にはきちんと推理をするから立派な推理小説でもある。
涙も売りのようだが、比較的あっさりしていていい感じだ。ただ、最上が、『長いお別れ レイモンド・チャンドラー』を見つけたときの描写には、ぐっときた。

チャンドラーにぞっこんなのか。チャンドラーは作家受けする作家で、日本の作家には敬愛する人が多い。そういう人が茶化すから、ツボを押さえている。
日本のハードボイルドの場合、なかなか本場のようにはいかない。むしろ、本作のようにお笑いにしたほうが好感を持たれるし、多くの人にも読まれる。

No.459 4点 インディアン・サマー騒動記- 沢村浩輔 2015/06/09 10:01
いちばん気に入った『夜の床屋』にしても、最後にもうひとひねりほしいなという物足りなさを感じました。
この作品で賞をとりましたが、作者自身も書きあげてから書き足りない何かを感じたのでしょう。それで、なんとか挽回できないか、うまく続きを書けないか、と連作短編を書きつづけた、ということかもしれません(すみません、すべて想像です)。

それぞれの短編の独立性はかなり高いといえるし、作風さえも違うから、個別の短編を集めただけと聞いていれば、それなりに楽しめたのかもしれません(勝手なものですね)。
連作というのを知って読んだから、支離滅裂感しか残りませんでした。
しかも、後続の作品は、表題作と同様の物足りなさを抱えているような気がします。というか作者は物足りなさを生かして、連作「長編」として決めてやろうと狙ったのかもしれません(もちろんこれも想像)。
そして、エピローグで・・・。
このエピローグも、作者の言い訳のように聞こえました。
でも、たしかに後半の2,3編とエピローグとは、うまくつないだような感もありますね。

異なる作品群をなんとかつないでいくという気合やテクニック、力量は感じられなくはありませんし、本格ミステリーの変化球版といえなくもないのですが、個人的には、ちょっとちがうかなと感じました。まあ嗜好の問題だとは思いますが・・・。

No.458 5点 時の娘- ジョセフィン・テイ 2015/06/05 10:23
15世紀の英国の王リチャード三世は残忍な悪人だったのか、王子殺害については有罪なのか、無罪なのか。判決を下すのはベッドの上のグラント警部。

英国や欧州で歴史上の人物として、どの程度著名なのかは知りませんが、すくなくともシェークスピアの戯曲があるぐらいだから、一般人でも知ってるレベルなのでしょう。
とにかく一般的には嫌われ者みたいです。
日本の歴史上にもいますよね。
山岡荘八が『徳川家康』(26巻)を書くまでは、信長や秀吉の引き立て役で、腹黒いイメージしかなかった、狸親父・家康がそれ。
弟・義経を追い詰めて殺した、全く人気のない(もちろん評価もされているのでしょうが)、源頼朝のほうが近いか。

入院中のグラントが歴史書をひもときながら、そして歴史研究生キャラダインと会話しながら謎解きを進めていく、そんなスタイルはとても興味深い。ユーモアがあるのも良い。
日本人にとって謎解き対象の人物のなじみのなさは、インターネットなどで少し調べておけば問題なしでしょう。
それよりも、もう少し、たとえばロシア革命のアナスタシアみたいに謎も華もある人物だったなら、もっと楽しめたように思うのですが・・・

その他述べたいことはいろいろあるが、あえてひとことだけ。
『時の娘』というタイトルがいちばん良かった。

No.457 7点 タルト・タタンの夢- 近藤史恵 2015/05/27 17:40
北森鴻の「香菜里屋」シリーズや、芦原すなお氏の「ミミズクとオリーブ」シリーズと類似の、料理人が推理する、料理の薀蓄満載の安楽椅子連作モノ。
本格推理度としては、香菜里屋がいちばんだが、個人的にはミミズクのほうが上手いと思っていた。
で、本書はどうかというと、ミミズクと同レベルか、それ以上。
この種の料理ミステリーは、本書のようにあったかそうな感じがしないとね。店のメンバーもいきいきしてるしね。という理由で上記の順になった。

提起される謎は、おもに客に関する日常の謎。ミステリー度合いとしては低め、というより素人では解けないレベル。だからミステリー的な目線で見れば評価は高くない。でもグルメ要素だけで十分な作品だった。
個別には尻上がりに良くなり、後半の2作、「ぬけがらカスレ」「割り切れないチョコレート」は仕事中も堪らず読み続けた。

キャラ的には、語り手の高築、ソムリエ女子の金子らがいろいろと推理し合うところが面白いし、料理人の志村が「ガレット・デ・ロワの秘密」で妻との出会いの経緯を明かされ、うろたえるところもよい。
シェフの三舟はいつも冷静で、あっけなく謎を解く。安楽椅子モノの探偵役らしく謎めいてはいるが、寡黙でもなければ、人当たりが悪いともいえないし、偏屈でもなさそう。

フレンチといえば、バターやクリームを多く使い、こってりとしていて体に悪そうなイメージがある(じつはよく知らない)。それに気取りすぎという感もある。
だから、めったに食べない。じつは金もないw
ということで、ついついイタリアンを選択する。
でも、こういう下町の庶民的なビストロならちょっと覗いてみたい。

No.456 5点 異邦人(いりびと)- 原田マハ 2015/05/25 10:11
作者お得意の美術ミステリーです。お得意といっても、作品にはミステリー自体があまりなく、『楽園のカンヴァス』以来、チェックしていましたが、今回やっとそれらしいものを見つけた次第です。

たかむら画廊の専務である篁一輝と、その妻、有吉美術館の副館長の菜穂の2視点で交互に語られる。

菜穂は副館長といっても、妊娠を機に、原発汚染を逃れるため、ひとり京都での優雅な生活を始めるセレブの若奥様。事件らしきものは起こらず、金持ちにとっての日常の話がなんとなく語られていく。
そんな退屈な中、京都の画廊で新人画家・白根樹を見つけ出す。それが運命的な出会いなのだろうが、中盤にあまり変化はない。
ところが後半、東京の画廊や美術館、その親会社が急に危なくなったあたりから、菜穂が東京の夫や両親たちと気まずくなり、ラストのサプライズに向けすこしずつ物語が動き始める。
この後半に語られる、どろどろとした家族的背景はなかなか壮絶。

キャラとしては、菜穂の奔放さが際立っています。目利きだからこそ許される性格なのかもしれません。こういう人が奥さんだと大変かもw
一方、夫の一輝が菜穂と親たちとの間でおろおろする姿がなんとも滑稽です。

推理力を働かせるようなストーリーではありませんし、どんでん返しというほどのものもありません。
ミステリーとしては『楽園のカンヴァス』にくらべかなり落ちますが、エンタテイメントに純文学を加味したようなものを読みたい人には勧めてもいいかなという感じです。

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平均点: 5.90点   採点数: 655件
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アガサ・クリスティー(12)
松本清張(12)
東野圭吾(12)
今野敏(11)
アーサー・コナン・ドイル(11)
横溝正史(11)
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