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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2813件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.23 6点 金田一耕助の冒険- 横溝正史 2023/12/28 09:34
(ネタバレなしです) 1956年から1958年にかけて雑誌に発表された「女」というタイトルのつく金田一耕助シリーズの本格派推理小説を集めた短編集です。当初は6作を収めた「金田一耕助事件簿」(1959年)が、後には7作を収めた「金田一耕助の謎」(1975年)が出版されていますが、私は11作を収めた本書(角川文庫版)(1976年)で読みました。巻末解説によるとその11作以外にも「女」タイトル短編がいくつかありますがそれらは改訂されて長編作品になったようなので、最終版作品のみで構成されている角川文庫版で十分だと思います(ちなみに改訂長編化される前の「女」作品も「金田一耕助の帰還」(1996年)で読めるようです(私は未読))。1作を除いて金田一が氏名不詳の「記録者」に真相を説明する形式を採用していて連作短編集を意識したようなところがあります。読者のための推理データは十分とはいえず、既視感のあるトリックもありますが(某海外本格派からの拝借では?)、作品の出来栄えはほぼ均等で気楽に読めました。その中では動機に唖然とする「鏡の中の女」(1957年)、犯人当てとしては楽しめませんが心理分析が印象的な「夢の中の女」(1956年)がお気に入りです。金田一が笑う場面が多いのも印象的でした。

No.22 6点 毒の矢- 横溝正史 2022/05/25 07:33
(ネタバレなしです) 1956年に短編版が発表され、同年に長編化した金田一耕助シリーズ第13作ですが角川文庫版で200ページに満たない短さのためか長編としてカウントしていない文献もあるそうです。「幽霊男」(1954年)や「吸血蛾」(1955年)など通俗スリラー作品が目立ち始めている中で本書はきっちりした犯人当て本格派推理小説として仕上がっており、推理説明が丁寧です。空さんがご講評で指摘されている、英国の某作家の某作品のトリックに類似とはああ、多分あれですね。事件解決後の幸福感は横溝の全作品中でも一番ではないでしょうか(そこも某作家の作風に通じるところありますね)。角川文庫版には本書に続けて書かれた短編「黒い翼」(1956年)が一緒に収められていますが、匿名の手紙がきっかけとなる展開が「毒の矢」と同工異曲的な作品ながら暗く重苦しい結末が対照的です。

No.21 6点 魔女の暦- 横溝正史 2021/07/25 23:23
(ネタバレなしです) 1956年に短編版が書かれ1958年に長編化した金田一耕助シリーズ第17作の本格派推理小説です。文庫版で200ページ程度で長編作品としては短めのためか角川文庫版ではシリーズ短編の「火の十字架」(1958年)が、春陽文庫版では「廃園の鬼」(1955年)が併収されています。正体不明の殺人犯がカレンダーに殺人計画を書き込む場面が挿入され、金田一耕助宛てには「魔女の暦」と名乗る人物から挑戦状が送られ、ストリップ劇場での芝居の最中に行われた毒吹き矢による殺人事件に端を発した連続殺人事件が起こります。舞台も登場人物も通俗的で、人間関係もかなり乱れています。ところが(表向きは)お互い様とそれほど殺伐な雰囲気にはなってないし、捜査描写は非常に地味に展開し、唖然とするようなトリックの説明も淡々としています。抑制を効かせ過ぎたとも言えるでしょうが、エログロを強調したえぐい作品になるよりは(個人的には)好ましいと思います。

No.20 5点 支那扇の女- 横溝正史 2020/08/04 21:58
(ネタバレなしです) 1960年発表の金田一耕助シリーズ第19作の本格派推理小説ですが、元々は短編作品でした。非シリーズ短編「ペルシャ猫を抱く女」(1946年)が原型で、それが「肖像画」(1950年)に改訂され、さらに金田一耕助シリーズ短編版の「志那扇の女」(1957年)と何度もリメイクされています。これだけ改訂されたのですからさぞや完成度の高いミステリーかというとどうも微妙(笑)。二重殺人事件の容疑者が70年前に毒殺魔と疑われた女性の血縁者であったというプロットがジョン・ディクスン・カーの某作品を連想させます。もっとも二重殺人事件の犯行手段は毒殺でなく撲殺なので、せっかくの呪われた血筋の設定のインパクトが弱いのですが。金田一は犯人を捕まえるために多門修という助手を雇ったり、あろうことか似合わぬ洋服を着たりと策を弄するのですがあの結果は(犯人はわかるけど)大失敗ではないでしょうか。等々力警部、いくらこれまでの恩義があったにしろこの失態は穏便にすませちゃいかんでしょ。あの動機であの犯行というのも合理性に欠けると思うし、どうにもすっきりできませんでした。

No.19 5点 壷中美人- 横溝正史 2019/02/08 22:43
(ネタバレなしです) 「壺の中の女」(1957年)という金田一耕助シリーズ短編を改訂長編化して1960年に発表したシリーズ第22作の本格派推理小説です(短編版は短編集の「金田一耕助の帰還」(1996年)で読めます)。少女が身体をくねらせながら小さな壺の中に収まる壺中美人という芸が紹介され、それをテレビ鑑賞していた金田一が後の事件解決につながるヒントに気づくという序盤(等々力警部は気づきません)、そして殺人現場でこの芸を試みる少女が目撃されるという不思議な謎(見られていることに気づいて芸を中断して逃亡します)という展開はなかなか魅力的ですが中盤以降は地味過ぎてだれてしまいます。動機がかなり後出し気味ですし、何よりもなぜわざわざあの芸をしようとしたのかという説明がきちんとされていません。

No.18 5点 迷路の花嫁- 横溝正史 2018/01/04 17:18
(ネタバレなしです) 1954年から1955年にかけての金田一耕助シリーズは「幽霊男」(1954年)、「三つ首塔」(1955年)、「吸血蛾」(1955年)と本格派推理小説というより通俗スリラー小説に分類すべきではという作品が並ぶのですが、1955年発表のシリーズ第10作である本書もまた異色の作品です。序盤で殺人事件が起きて金田一や警察が捜査に乗り出すところは普通に本格派推理小説風の展開なのですがいつの間にか謎解きは脇に置かれてしまい、主人公の松原(小説家)が悪の心霊術師を退治する物語に置き換わるのです。これがなかなかの読ませ物で、悪人が典型的な弱者いじめ型ということもあってじわじわと追い詰められていく描写にはつい心の中で喝采を贈りたくなります。こちらの物語の方が全体の半分以上を占めており、最後の最後になって唐突に殺人事件が解決されるのですがそういえばそんな事件もあったけなという感じです(笑)。金田一の影が薄い作品なら例えば「八つ墓村」(1951年)もそういう作品ですがあちらはまだ謎解きを放り出してはいません。本書は非ミステリーの物語がメイン(出来もいい)でミステリーはおまけ程度(出来もいまいち)です。

No.17 6点 不死蝶- 横溝正史 2017/04/23 22:40
(ネタバレなしです) 1953年に雑誌連載された中編作品を加筆修正して1958年に長編作品として発表された金田一耕助シリーズ第15作の本格派推理小説です。鍾乳洞での殺人を扱っていることから名作「八つ墓村」(1951年)を連想する人もいるでしょうが雰囲気はかなり異なります。和風「ロメオとジュリエット」的な恋愛悲劇と仇討ちをモチーフにしてロマンチックな人間ドラマを意識しています。ミステリーですから冷酷な殺人事件はありますし、結末がハッピーエンドかというと微妙なところではありますが。金田一耕助が激情に駆られる場面があるのが珍しいですね。

No.16 5点 スペードの女王- 横溝正史 2016/10/30 02:57
(ネタバレなしです) 1958年発表の短編を1960年に長編化した金田一耕助シリーズ第20作の本格派推理小説です。内股にスペードのクイーンの刺青のある女性の首無し死体が見つかりますが、同じ刺青を持つ女性が2人いるらしくどちらが殺されたのかがわからないため容疑者も容易に絞り込めません。物語の途中で「案外簡単に事件は解決した」とか「事件は急転直下、解決にむかった」といった文章が挿入されていますが被害者の素性が確定するのはほとんど終盤という難事件です。金田一の推理は犯人の特徴を推論するプロファイリングに近いのですがこれでは犯人特定には弱く、結局犯人の自滅を待っての事件解決です。動機は完全に後出しでしかも強引な解釈だし、そもそも金田一が捜査に参加するきっかけとなった彫物師の死の謎が事故なのか殺人なのか(多分後者らしいですが)はっきりと説明されないのも不満です。

No.15 4点 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 2016/04/24 22:13
(ネタバレなしです) 1951年発表の金田一耕助シリーズ第8作の本格派推理小説です。横溝には「悪魔」をタイトルに使っている作品がいくつかありますがその中でも本書は最もそれにふさわしく、特に第16章の最後の文章には戦慄さえ感じます。謎解きは不満点が多く、ある手掛かりが文章では読者に伝わりにくいものであることや、何よりも淡路島の事件の真相は反則技にしか感じられません。しかし戦後の混乱期と没落貴族の描写はさすがですし、インパクトのある悲劇ドラマとして読ませる作品です。

No.14 6点 迷路荘の惨劇- 横溝正史 2016/02/03 14:17
(ネタバレなしです) 中編「迷路荘の怪人」(1956年)を長編にリメイクして1975年に発表した金田一耕助シリーズ第28作の本格派推理小説です。元となった中編の方は私は未読ですが本書はだらだら感もなく、この長編化は成功と言ってもいいのではないでしょうか。作中時代が1950年ということもあって前時代的な雰囲気が濃厚ですが、横溝の作風はこの古さがよく似合っていると思います。密室トリックまで前時代的なのはまあご愛嬌ということで(笑)。

No.13 4点 夜の黒豹- 横溝正史 2016/01/16 02:23
(ネタバレなしです) 1964年発表の金田一耕助シリーズ第26作で、短編「青蜥蜴」(1963年)(私は未読です)を長編化したものです。この年に横溝は本書と短編「蝙蝠男」を発表した後、引退状態となり執筆中の「仮面舞踏会」も中絶してしまいます。1970年代に復帰して「仮面舞踏会」も完成できたのですが、もしかしたら本書が最後の長編になった可能性もあったわけです。この時期の横溝作品らしく、登場人物の紹介が報告や証言によるところが多くて直接描写が少ないため人物の印象が薄く、それでいて人間関係が非情に複雑です。登場人物リストを作りながら読んだ方がいいと思います。中盤で金田一耕助による27の疑問リストが登場して謎解き好き読者の心をくすぐりますが、終盤はなぜか犯人視点の犯罪小説風になり、せっかくの疑問リストに対して十分な説明がされないのが残念です。

No.12 7点 犬神家の一族- 横溝正史 2015/08/27 18:42
(ネタバレなしです)  1951年発表の金田一耕助シリーズ第6作の本書は、何度もTVドラマや映画になっていることから知名度抜群で、そういえば小学生の男の子の間でプールで「スケキヨごっこ」するのが流行ったこともあったそうですからまさに国民的ミステリーと言っても言い過ぎではないでしょう。本格派推理小説の謎解きとしては必ずしも全てが論理的に説明されてはいないですし(でも「八つ墓村」(1949年)よりは改善されています)、余りにも偶然の要素が重なった真相は自力で謎解きしようとした読者の顰蹙を買いかねませんが、和風ゴシックとでも形容したくなるような雰囲気はたまらない魅力です。

No.11 4点 扉の影の女- 横溝正史 2012/08/14 15:03
(ネタバレなしです) 雑誌掲載された短編「扉の中の女」(1957年)を長編化して1961年に発表した金田一耕助シリーズ第23作ですがこれは結構な問題作でしょう。地味な事件を地味に調べる盛り上がりに乏しいプロットなのはまだしも、この真相は本格派推理小説としては反則と批判されても仕方ないと思います。金田一の日常生活が紹介されているのがファン読者へのアピールポイントにはなっていますけど。

No.10 5点 死仮面- 横溝正史 2011/10/24 17:30
(ネタバレなしです) 作者絶頂期の1949年に書かれた金田一耕助シリーズ第4作ながら、地方誌に連載されたこともあって完全な原稿が見つからず長らく幻の作品扱いされていたそうです(単行本化されたのは作者の死後となりました)。しかも原稿を全部集約するのに難儀した結果、角川文庫版は一部を評論家の中島河太郎(1917-1999)が補筆しての出版で、後発の春陽文庫版が完全オリジナル版だそうです(私はこちらを読みました)。本書の後には「犬神家の一族」(1950年)や「八つ墓村」(1951年)が続くので本書に期待した読者も多かったのではと思いますが、残念ながらあれほどのスケール感はありません(長編としてはページ数が少ないという制限があるので仕方ないところもありますけど)。前半は複雑な人間関係が重厚かつ地味に描かれています。事件性がはっきりしないこともあって盛り上がりに欠けています。ところが後半になると学園を舞台にした冒険スリラー風に様相が変わってびっくり。推理には不満もありますが、ミスディレクションが効果的な謎解きでした。

No.9 7点 本陣殺人事件- 横溝正史 2011/09/06 19:42
(ネタバレなしです) 戦後の日本ミステリーは1946年発表の本書をもって嚆矢とされています。記念すべき金田一耕助シリーズの第1作という史料的価値だけでなく、作者の本格派推理小説への熱き思いも伝わってきます。角川文庫版で一緒に収められている中編「黒猫亭事件」(1947年)も読者への謎解き姿勢を強く表しているのが新鮮です(残念ながら後年の作品は読者へのフェアプレー精神が薄れてしまいました)。しかし最も私にとって印象的なのは書簡形式が珍しい短編「車井戸はなぜ軋る」(1955年)(実は改訂版で、原典版(1949年)は非シリーズ短編だったそうです)。謎解きがしっかりしているだけでなく哀愁あふれる物語として心を打ちます。これは純文学作品と主張したっておかしくない!

No.8 5点 獄門島- 横溝正史 2011/08/23 21:50
(ネタバレなしです) 金田一耕助シリーズ第2長編にして最高傑作と評価する人も多い、1947年発表の本格派推理小説です。作中時代は1946年、自分が帰らないと3人の妹たちが殺されると言い残して復員船の中で死んだ獄門島出身の戦友のことを伝えるために金田一が島へ渡ったのをきっかけになったかのように連続殺人が起きるプロットです。なるほど優れた部分も数多く、舞台描写や死体演出は際立っているし、第一の殺人事件の金田一の説明は戦慄を覚えるほどの凄みがあります。動機も私の想像できる範囲を越えていました。もっともそのためか一般読者には真相を当てようがないアンフェアな謎解きに感じてしまったのですが。

No.7 5点 白と黒- 横溝正史 2011/01/25 14:49
(ネタバレなしです) 1960年発表の金田一耕助シリーズ第24作の本格派推理小説ですが当時台頭してきた社会派推理小説を意識したような作品でもあり、集合住宅とその住人たちの人間関係を重厚に描いた異色作です。金田一耕助シリーズでこのような都会風な作品が書かれるとは驚きです(都会風といっても洗練とかお洒落とかとはちょっと違いますが)。シリーズ中最も大作のボリュームですが人間関係を複雑にし過ぎて謎解きのサスペンスが少ないのが惜しまれます。

No.6 4点 病院坂の首縊りの家- 横溝正史 2010/12/06 11:18
(ネタバレなしです) 1970年代、横溝正史のリバイバルブームが起き、映画にTVドラマ、書店の目立つ所にずらりと並ぶ作品群とまさに犬も歩けば横溝正史(笑)。それに刺激されて再び執筆意欲が湧いてきたのか、晩年を迎えた作者が金田一耕助シリーズの新作を発表したのはファンにとって何よりのプレゼントでしょう。その1つが1975年発表のシリーズ第29作の本書で、角川文庫版で上下巻合わせて750ページを超す大作です。内容的にはいまひとつで、複雑な人間関係を重厚に描いた作品と言えなくはありませんがサスペンスが犠牲になっているのは否めないし、魅力的なタイトルも十分には活かされていません。自白に頼る部分の多い謎解きも残念です。金田一耕助最後の作品という位置づけですが、まだまだ未発表の事件記録が存在することを示唆しており、今後に期待させてくれています。しかし本書以降は「悪霊島」(1978年)のみしか発表されず、作者が逝去したのは残念でした。

No.5 6点 悪霊島- 横溝正史 2010/12/02 09:32
(ネタバレなしです) 横溝正史(1902-1981)最後の作品となった1978年発表の金田一耕助シリーズ第30作の本格派推理小説です。全盛期の作品を髣髴させる舞台設定にどきどきわくわくした読者も多かったと思いますが(私もその1人です)、さすがに晩年の作品なので全体的には淡白な印象を受けました。とはいえ凡百の作家など及ばない面白さは十分に持っています。

No.4 5点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2010/10/01 22:18
(ネタバレなしです) 1959年発表の金田一耕助シリーズ第18作の本書は横溝正史の代表作の1つとされ、TVドラマ化も映画化もされた本格派推理小説です。ただ重厚に作りすぎたというか登場人物が多くて人間関係も複雑に過ぎて誰が誰だかなかなか理解できませんでしたし、物語のテンポも遅めです。それだけに再読するだけの価値は十分ある人間ドラマではありますが。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2813件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)