海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1214 5点 四十面相クリークの事件簿- トマス・W・ハンシュー 2016/05/24 16:26
(ネタバレなしです) 米国生まれで英国で没したトマス・W・ハンシュー(1857-1914)はニック・カーター(複数作家による共同ペンネーム)の1人としても知られてますが、最も有名な作品は江戸川乱歩の怪人二十面相に影響を与えたとされる本書でしょう。二十面相の方が明智小五郎の敵役として怪盗役を全うしているのに対してクリークは(怪盗出身でありますが)探偵として活躍しており、本書を怪盗物語と紹介するのは正確ではないでしょう。私が読んだのは短編集「四十の顔を持つ男」(1910年)の連作長編版(1913年)で、「四十の顔を持つ男」も12の短編の内9編と新たに書かれた1編の謎解きが楽しめる内容になっています。書かれた時代が時代なので読者が推理できる余地はほとんどありませんがトリッキーな作品が多く、「ライオンの微笑」事件はトリック紹介本に載るぐらい有名です。

No.1213 5点 魔女の呪い島殺人- 山村正夫 2016/05/23 10:22
(ネタバレなしです) 1997年発表の滝連太郎シリーズ第12作でシリーズ最終作です。もっとも山村正夫(1931-1999)が最終作を意識して書いたのなら、作中で大曽根警部にやきもきさせたりせずに滝と武見香代子の仲をもっと進展させていたとは思いますけど。このシリーズの特色である伝奇本格派ではありますが謎解きはかなりお粗末で、犯人があるトリックに手間ひまかけている理由がよくわからない上にプロットの中で不自然さの描写が目立っています。滝の推理も当てずっぽうが当たっただけにしか感じません。

No.1212 6点 殿下と騎手- ピーター・ラヴゼイ 2016/05/21 23:59
(ネタバレなしです) 1987年に発表された皇太子時代の英国国王エドワード7世(バーティ)を探偵役にしたシリーズ第1作です。1886年11月、「きたか、あいつら」という謎の言葉を残して名騎手フレッド・アーチャーが拳銃自殺し、彼と親交のあった英国皇太子アルバート・エドワードはその死に疑問を抱いて何が彼を死に追い込んだのかを調べていく、というのが粗筋です。このフレッド・アーチャー自殺事件は実際にあった事件で、実在の人物が結構容疑者として登場しています。探偵役バーティの1人称形式の物語というのがユニークで、冒険スリラー風に展開しますが第20章は実質的に「読者への挑戦状」の役割を果たしており、本格派推理小説ファンも十分に楽しめます。バーティの語りには愛嬌があってユーモアを漂わせていますが、一方でお忍び探偵としての未熟さが悲劇的事件につながって苦悩するなどシリアスでダークな場面も見られます。

No.1211 4点 二巻の殺人- エリザベス・デイリー 2016/05/21 23:53
(ネタバレなしです) 1941年発表のヘンリー・ガーメッジシリーズ第3作です。本書をビブリオ・ミステリーの代表作と紹介している資料もありますが、それほど文学知識を羅列している印象は受けませんでした。もっともプロットの妨げになってしまうよりはいいと思います。事件のサスペンスよりも複雑な人間関係描写に力を入れたようなところがあり、テンポは総じてゆったりしています。謎解きははっきり推理を説明せず、唐突に解決されたような感があって本格派推理小説としてはちょっと物足りなく感じました。ハヤカワポケットブック版は半世紀上前の翻訳で読みにくくなってきたのでそろそろ新訳版が望まれます。

No.1210 8点 幸運の脚- E・S・ガードナー 2016/05/21 23:42
(ネタバレなしです) 1934年発表のペリイ・メイスンシリーズ第3作です。法廷シーンがないのはちょっと残念ですが、絶頂期の作品だけあってスピーディーでスリリングな展開と緻密な謎解きが高度なレベルで両立しています。今回は脇役の使い方が実に絶妙です。でもあそこまで謎解き上重要な役割を与えるなら登場人物リストに載せてもいいのでは(創元推理文庫版のリストには載っていませんでした)。あと犯人が意外とつまらない失策をしていたのも(まあ逮捕の決め手はほしかったんでしょうけど)ちょっと安易な気がしました。

No.1209 5点 死は囁く- フランセス&リチャード・ロックリッジ 2016/05/21 23:23
(ネタバレなしです) 1953年発表のノース夫妻シリーズシリーズ第17作で、本格派推理小説と巻き込まれ型サスペンス小説のジャンルミックスミステリーです。プロットはかなり粗くてご都合主義的な展開が目立つし、一応犯人の正体は最後まで伏せられているとはいえウェイガンド警部の推理はしっかりした謎解きを期待する読者には物足りないレベルですが、巧みなストーリーテリングとテンポのよさでぐいぐい読ませます。それでも現代推理小説全集版の半世紀以上前の古い翻訳はさすがに読んでて違和感を覚える時があります。「南京町」とはチャイナタウンのことでしょうか?

No.1208 5点 屍衣の流行- マージェリー・アリンガム 2016/05/21 23:02
(ネタバレなしです) 1938年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第10作は、「判事への花束」(1936年)、「クロエへの挽歌」(1937年)と共に業界を舞台にして「ミステリーと風俗小説の融合」を具現化した作品とされています。本書の場合はファッション業界ですが外面的な描写はそれほどなく、女優ジョージア・ウェルズを中心にした複雑な人間模様がたっぷりと描かれています。キャンピオン兄妹に加えて「甘美なる危険」(1933年)に登場したアマンダも活躍してなかなか賑やかです。ただミステリーのプロットとしては最初の事件は自殺ということで扱いがあっさりだし、第2の事件も一見事故死のため本腰を入れた探偵活動がなかなか始まらず回りくどく感じるかもしれません。それでも伏線は結構きっちりと張られていますし、巻末解説でベタ誉めしている「唯一無二」のトリック(某有名英国作家の有名作品に似た例があるのを解説者は失念しているようですが本書の方が先んじていることは確かです)も印象的で、本格派推理小説としてきちんと着地しています。

No.1207 6点 マリンゼー島連続殺人事件- デニス・ホイートリー 2016/05/21 22:50
(ネタバレなしです) ジョー・リンクス原案、デニス・ホイートリー著による1938年発表の捜査フィル・ミステリーシリーズ第3作は密室あり、連続殺人ありと結構派手な筋立てです。過去2作に登場したシュワッブ警部補がまたまた登場ですが今回は19世紀末に起こった事件の記録提供者という立場で、直接捜査には関わりません(彼ならではという役割は与えられていますが)。無論事件当時の警察担当者はいるのですが、あまり捜査は細かく描写されていません。細かすぎる感のあった過去2作とやや粗っぽい感のある本書、どちらを上位に置くかは読者間で分かれそうですが3作の中では本書が展開がスピーディーで読みやすく、どんでん返しが鮮やかであることは間違いありません。

No.1206 5点 優雅な町の犯罪- キャロリン・G・ハート 2016/05/21 22:02
(ネタバレなしです) 1994年発表のヘンリー・Oシリーズ第2作です。生身の人間としては登場しない被害者の人物像が少しずつ形を成していく展開がなかなか面白く、最初は協力的だった関係者がヘンリー・Oの捜査が進むにつれ段々と様子が変わっていくところも読みどころです。ヘンリー・Oの探偵活動も最初はある容疑者の冤罪を晴らすためだったのがやがて被害者の無念を晴らすことが1番の目的になり、生きている人々の思惑と対立しようとも手心を加えない姿勢にはハードボイルド小説の探偵を彷彿させるものがあります。随所で推理もしていますが肝心の結末が論理的解決でないので本格派好きの私としてはちょっと物足りなかったです。

No.1205 6点 カッコウの呼び声- ロバート・ガルブレイス 2016/05/21 21:33
(ネタバレなしです) 元軍人というプロフィールまで用意して2013年にコーモラン・ストライクシリーズ第1作となる本書でデビューした英国のロバート・ガルブレイス、デビュー直後はそれほど話題にならなかったようですが発売後わずか3ヶ月でその正体が世界的ヒットのファンタジー小説ハリー・ポッターシリーズの作者J・K・ローリング(1965年生まれ)であることが発覚し、本書もあっという間に売れまくりです。私立探偵のコーモラン・ストライクが、自殺したとされるスーパーモデルの兄から自殺のはずがないから調べて欲しいという依頼を受けて調査するプロットです。なかなか大きな進展を見せない地道な捜査描写が続くところはP・D・ジェイムズの「女には向かない職業」(1972年)を連想しました。登場人物描写はジェイムズよりも通俗的なところがありますが、その分感情豊かであり個性を感じさせます。前半はやや冗長な感もありますが後半(第四部10章あたりから)になると謎解きが盛り上がり本格派推理小説としての面白さが加速します。コーモランと秘書のロビン(推理はしませんが非常に優秀)のコンビぶりもいい味出しています。

No.1204 3点 事件の後はカプチーノ- クレオ・コイル 2016/05/20 13:25
(ネタバレなしです) 2004年発表のクレア・コージーシリーズ第2作は意外にもロマンチック・サスペンス風な展開に驚きました。ユーモアもありますが前作に比べると後退しており、コージー派らしからぬ結末の迎え方にはこのシリーズの今後はどうなるんだろうと思わせます。前作以上に推理色が薄くて本格派路線から遠ざかっており、謎解きの面白さ重視の私には残念です。コーヒーの香りは相変わらず濃厚ですが(笑)。

No.1203 6点 サウサンプトンの殺人- F・W・クロフツ 2016/05/20 13:00
(ネタバレなしです) 1934年発表のフレンチシリーズ第12作で、前作「クロイドン発12時30分」(1934年)と同じく犯人の正体をあらかじめ読者に提示している倒叙推理小説です。セメント製造会社の面々がライヴァル会社のセメント製法を探ろうと画策する企業小説であり犯罪小説であり、そこにフレンチ側から描いた捜査小説を絡めています。後半になると新たな事件が発生しますが今度は倒叙形式でなく犯人当て要素を含んでいて、全体としては倒叙&本格派のプロットになっているという、構成に工夫を凝らした作品です。理系トリックが使われているところが私にはやや難解に過ぎましたが、これもクロフツならではの特色と言えるでしょう。

No.1202 5点 釣りおとした大魚- A・A・フェア 2016/05/20 12:27
(ネタバレなしです) 1963年発表のドナルド・ラム&バーサ・クールシリーズ第24作です。脅迫状や無言電話に悩まされる女性を護衛するところから始まりますが、激しい息遣いだけの無言電話って何だかテレフォンセックスにも解釈できそうですね(笑)。まあそこはガードナー(フェア)だけあって過激なエログロ路線には走りません(といっても今回の事件背景には夜のお遊びが見え隠れしています)。肉体的には頼りなさげなドナルドがいやがらせ電話の相手に結構強気な発言しているのもなかなか新鮮です。ページ数も多くなくて読みやすい作品ですが、殺人の動機が後づけ説明気味だったり、いやがらせ事件の解決が中途半端なようなところがあったりと謎解きとしては粗削りです。

No.1201 6点 「鎮痛磁気ネックレス」亭の明察- マーサ・グライムズ 2016/05/20 12:19
(ネタバレなしです) 1983年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第3作です。ついにジュリーは警視に昇進していますが、職場待遇面ではあまり変わっていないようです(笑)。冒頭でロンドンの事件が起きますが、その後はロンドンから40マイルほどリトルボーンの事件(小犬が人間の指をくわえてくる猟奇的事件)の捜査場面が延々と続き、どのようにロンドンの事件と結びつくかという興味で引っ張ります。子供の描写に優れた作者ですが、本書ではちょっとませた少女(決して悪い子ではありませんけど)が大人(特にメルローズ・プラント)を振り回すのが何ともおかしいです。もっともユーモアも見せている一方で、犯人の冷酷さや事件の悲劇性なども描かれており、サスペンスにも事欠きません。第15章で冒険小説を連想させるような謎めいた地図を登場させているのが珍しい趣向です(その謎解きには一種の専門知識が必要で一般読者になじみにくいのですが)。

No.1200 6点 詩人と狂人たち- G・K・チェスタトン 2016/05/18 19:48
(ネタバレなしです) 詩人で画家のガブリエル・ゲイルのシリーズ短編8作は1921年から1928年にかけての結構な年月をかけて発表され、1929年に短編集としてまとめられました。。このゲイルの描写がなかなか謎めいていて、ある作品では狂人の心を理解して狂人を助けようとしたり、ある作品では狂人になりきろうとして本当に発狂したのではと周囲を心配させたり、ある作品では自分自身を「狂人」と明言しています。通常の本格派推理小説の謎解きからかけ離れた作品も多く、最も個性的な「ガブリエル・ゲイルの犯罪」は、形而上学とか唯物論とか観念論とか難解な用語が多くて読者を選びそうな作品です。謎解きとして面白いのは「鱶の影」と「紫の宝石」あたりでしょう。「石の指」の突拍子もないトリックも(現実的かはともかく)強烈な印象を残します。最後の作品「危険な収容所」では予想もしない、さわやかとも言える読後感を残す結末にびっくりさせられます。

No.1199 5点 あらゆる信念- ライア・マテラ 2016/05/18 19:33
(ネタバレなしです) 1991年発表のウィラ・ジャクスンシリーズ第4作です。このシリーズはウィラのキャラクター小説的要素が非常に強いのですが特に本書はミステリーとしてはかなり変則的で、フーダニット(犯人探し)としては成立していません(といっても推理がないわけではありませんが)。第2作の「殺人はラディカルに」(1988年)と比べるとウィラを取り巻く環境の変化にも驚きますが、それ以上に驚いたのがウィラ自身の変化です。今までは打ちのめされてもそれを打破しようとしている姿勢を見せていたのが、本書では瞬間的に激昂することはあっても長続きせず、やめていたマリファナに手を出したり高所から飛び降りることが頭をよぎったりと、現実逃避に走りそうなウィラが痛々しいほどです。脳天気なコージー派ミステリー全盛の時代にこのような沈痛な雰囲気のミステリーはかなり異色の存在だったのでは。

No.1198 5点 図書館の親子- ジェフ・アボット 2016/05/18 19:28
(ネタバレなしです) 1996年発表のジョーダン・ポティートシリーズ第3作です。前作「図書館の美女」(1995年)で明かされた秘密に本書で触れている個所があります。前作では、ある人物に対する主人公の態度にいまひとつ釈然としないところもあったのですが本書では家族愛と友情がメインテーマになっているためか主人公に共感しやすかったです。もっとも容疑者の中に家族や親友がいるというプロットのため、非常に重苦しく緊迫感のあるストーリーとなっています。謎解きとしては1番肝心な謎こそ推理していますが、大半は脅迫で自白させているような気が...(笑)。

No.1197 5点 ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー 2016/05/18 19:25
(ネタバレなしです) 1969年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第31作の本格派推理小説でタイトル通りハロウィーン・パーティーの最中に殺人が起こります。「第三の女」(1966年)と同じく本書でも回想の殺人を扱っていますが、どの未解決事件を追わねばならないかをまず絞り込まねばならない展開にはもどかしさを感じます。それにポアロの謎解き説明を聞くと現在の殺人だけでも十分犯人を特定できたのではという疑問もあり、いやに遠回りして解決しているような気がしました。ところどころではっとするような美しい描写があり、幻想的な雰囲気を醸し出しているのが印象的です。

No.1196 8点 試行錯誤- アントニイ・バークリー 2016/05/18 18:54
(ネタバレなしです) 1937年発表のチタウィック氏シリーズ第3作です。不治の病で余命わずかのトッドハンター氏が悪を除去する目的で犠牲者を探し始めるという何とも風変わりな展開の本書は一応本格派推理小説には分類できるのですが、あまりにも規格外のプロットなので感想を書きにくいです(何を書いてもネタバレになりそう)。バークリー作品としてはかなりの大作ですが、どんどん予想しない方向に突き進む展開のおかげでだれることなく読めました。道徳とか倫理とかで本書を論じるとおそらく否定的結論に行き着くとは思いますが、そこはあくまでもフィクションの世界と割り切りましょう(大体ミステリーをそういう切り口で読む人もそういないでしょうけど)。まあ子供に読ませる最初の一冊でもないとは思いますが(笑)。

No.1195 4点 クイーン検察局- エラリイ・クイーン 2016/05/18 13:05
(ネタバレなしです) 1955年発表のエラリー・クイーンシリーズ第4短編集ですが、収められた18作の内17作はショート・ショートです。そのためトリックや手掛かりの一発勝負的作品が多いのはやむを得ないところで、出来不出来のばらつきも大きいです。英語力や専門知識や日本人になじみのないアメリカの日常生活ネタがからむ作品は感銘しませんが、「七月の雪つぶて」(不可能犯罪トリックは感心しませんがスケールの大きいプロットが面白い)、「あなたのお金を倍に」(トリックの必要性が全く感じられませんがストーリーの切れ味は文句ありません)、「消えた子供」(短いページで誘拐と家族ドラマをうまく処理しています)などはそこそこ面白かったです。そして唯一の短編である「ライツヴィルの盗賊」、これは論理的推理がしっかりしていてよかってです。

キーワードから探す
nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)