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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1374 7点 もうひとりのぼくの殺人- クレイグ・ライス 2016/06/30 16:33
(ネタバレなしです) マイケル・ヴェニング名義で書かれたメルヴィル・フェアシリーズ第2作で1943年に発表されました。巻き込まれ型サスペンス風のプロットが特徴ですがそこに自分(主人公)の素性を探る謎解きを絶妙にからませています。犯人当て本格派推理小説としてもよく出来ており、事件の背後に隠れていた大仕掛けのたくらみと皮肉な結末が印象的です。そして何ともしみじみした最終章の後日談がライスならではの締めくくりです。

No.1373 5点 ポジオリ教授の冒険- T・S・ストリブリング 2016/06/30 13:14
(ネタバレなしです) 2004年になって出版されたポジオリ教授シリーズ第三短編集ですが収録されているのは1929年から1935年にかけて発表された第二期の作品群です。つまり第二短編集の「ポジオリ教授の事件簿」(1975年)に収められた第三期の作品よりも先に書かれた作品が収められているわけです(ややこしい)。中編1作と短編8作で構成されていますが、「銃弾」や「ピンクの柱廊」で二転三転する推理に圧倒される一方で「パンパタールの真珠」や「プライヴェート・ジャングル」では解決したのかどうかさえはっきりしない結末になっていたりと良く言えば多彩、悪く言えばとらえどころのない作品が並んでおり、明らかにマニア読者や研究家向きの短編集でしょう。中編「つきまとう影」もユーモアとサスペンスが出色で大胆な推理も印象的ですがそれでいてすっきりしない締めくくりの怪作になっています。

No.1372 5点 フレンチ警部と毒蛇の謎- F・W・クロフツ 2016/06/29 20:41
(ネタバレなしです) 1938年発表のフレンチシリーズ第18作の本書は倒叙本格派推理小説です。但し創元推理文庫版の巻末解説でも紹介されているように主人公の役割が他の倒叙推理小説と異なるところに本書の工夫があり、殺人場面の直接描写もありません。それでも犯人の正体はみえみえなのですが、ハウダニットに関しては読者に対して最後まで謎として残るようにしています。もっともこのトリックは読者が推理で見破るのは至難の業と思いますけど(フレンチだって証拠確認のために警察力に頼っているし)。

No.1371 6点 作家の妻の死- ロバート・バーナード 2016/06/29 20:36
(ネタバレなしです) 1979年発表のシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。序盤は登場人物の関係がちょっとわかりにくかったですがそれが整理された中盤以降は大変読みやすいです。真相は過去のミステリー作品に類似例のあるものでしたが、しっかりしたプロットと過不足のない人物描写で十分に楽しめる内容でした。

No.1370 5点 暗い迷宮- ピーター・ラヴゼイ 2016/06/29 20:29
(ネタバレなしです) 1997年発表のピーター・ダイヤモンドシリーズ第5作で、記憶を失った女性「ローズ」(仮の名前です)の物語とダイヤモンドの物語の2つが交互に描かれ、やがて1つの流れになるというプロットです。本格派推理小説としての面白さは残念ながら前作「猟犬クラブ」(1996年)から後退しており、ダイヤモンドは何が起きたかという事件の再構築はするものの犯人を絞り込む推理プロセスの説明が弱いです。とはいえハヤカワ文庫版の600ページの厚さが苦にならない語り口の巧さはお見事でユーモアとサスペンスにも不足していません。

No.1369 6点 猫は留守番をする- リリアン・J・ブラウン 2016/06/29 20:22
(ネタバレなしです) 1992年発表のシャム猫ココシリーズ第14作は容疑者の重複はありませんけど前作「猫は山をも動かす」(1992年)の後日談的な要素があります。最初の3分の1がジム・クィラランのスコットランド・ツアー参加(ココは当然留守番です)を描いたトラベル・ミステリー風になっているのが珍しいです。特に読者を惑わすような仕掛けもないので謎解きはわかりやすいです。あまり脇道にそれずにすっきりしたプロットで読みやすいのですが、あっさり流れ過ぎかなという贅沢な不満も残りました。

No.1368 5点 夜ふかし屋敷のしのび足- コニス・リトル 2016/06/29 20:17
(ネタバレなしです) 米国のコンスタンス・リトル(1899-1980)とグウェニス・リトル(1903-1986)の姉妹はコニス・リトルという合作ペンネームで1930年代から1950年代にかけてミステリーを書きました。シリーズ探偵は生み出しませんでしたがどの作品もタイトルに「Black」を付けて統一しているようです(本書の英語原題は「The Black Paw」)。「Black」といっても作風はユーモア本格派推理小説で、1941年発表の本書も戦時中の作品ということを全く感じさせません。ある事情で手紙を盗み出すためにメイドとなって屋敷に潜り込む羽目になった主人公がメイド経験がないなりに頑張って働くのかと思いきや煙草を吸ったり風呂に入ったりするシーンがやたら多く、さぼってばかりですね(笑)。ストーリーにリアリティーを感じさせるところなど微塵もありませんが、これだけ徹底しているとかえってそれなりに面白く読めます。推理はちょっと弱いけど一応謎解き伏線も用意されています。

No.1367 6点 神の家の災い- ポール・ドハティ 2016/06/28 17:38
(ネタバレなしです) 1992年発表の修道士アセルスタンシリーズ第3作の本書はロバート・ファン・ヒューリックのディー判事シリーズを彷彿させるモジュラー型のプロットが特徴で、アセルスタンが3つの独立した事件を解決します。モジュラー型としては事件の描き分けのバランスが悪く、修道院連続殺人事件にかなりのページを割いています。とはいえこの事件はサスペンスが濃厚でこれだけでも十分におなか一杯になれます。死の部屋の連続怪死事件の謎の魅力も強力で、別の小説にしてもおかしくないほどの内容です。純粋にトリックのみの謎解き(犯人当てではない)にしているのと解決が唐突かつあっさりしているのが少々物足りないですが。教会の死体が引き起こす奇跡の謎は事件性が感じられないこともあって、扱いが小さいのも不満に感じませんけど(笑)。丹念な推理を期待すると肩透かしを食らいますがぜいたくに盛り込まれた謎のオンパレードは読み応えたっぷりです。

No.1366 6点 マハーラージャ殺し- H・R・F・キーティング 2016/06/28 17:33
(ネタバレなしです) 1980年発表の歴史本格派推理小説で「パーフェクト殺人」(1964年)以来2度目となるCWA(英国推理作家協会)ゴールド・ダガー賞を獲得した作品です。作中時代を1930年に設定した歴史ものではありますがマハーラージャの宮殿というあまりに特殊な舞台のためか時代性はそれほど感じられませんでした。キーティングの作品では大作の部類に入り、プロットも複雑ですが作者のストーリーテリングが冴え渡って読みやすいです。凶器に未知の植物が使われているのがちょっと気になりますが謎解き自体は古典的で、探偵役が容疑者を1人ずつ犯人候補から外しながら犯人を絞り込む解決場面が面白いです。できればゴーテ警部シリーズをいくつか読んでから本書を読むことを勧めます。

No.1365 6点 狡猾なる死神よ- サラ・スチュアート・テイラー 2016/06/28 17:28
(ネタバレなしです) 米国のサラ・スチュアート・テイラー(1971年生まれ)はジャーナリスト出身の女性作家で、2003年発表のスウィーニー・セント・ジョージシリーズ第1作である本書でミステリー作家としてデビューしました。創元推理文庫版で「死と象徴に満ちた」と紹介されていたのでホラー小説みたいなものかと思ってましたがこれは完全に私の勘違いでした。作風は暗めですがオカルト要素の全くない本格派推理小説です。過去の事件と現在の事件を扱っているためか登場人物が多く、文学や美術用語も豊富に使われて頭の整理が大変でしたが文章は丁寧で緻密です。雰囲気重視の作品ですが謎解きへの配慮も怠りありません。

No.1364 4点 ライラック・ホテルの怪事件- キャロリン・キーン 2016/06/28 17:21
(ネタバレなしです) 1930年発表のナンシー・ドルーシリーズ第4作です。亡くなったエドワード・ストラッテメイヤー(1862-1930)に代わり、彼の娘であるハリエット・S・アダムズ(1892-1982)が概要を作りミルドレット・ワート(1896-2002)が執筆して完成されています。これまでの作品の中では登場人物が多くプロットも複雑で、小学校低学年クラスの読者にはやや難解でしょう(もっとも今の子供は私の子供時代より聡明な子が多いから本書程度は苦にしないかもしれません)。ただ「古時計の秘密」(1930年)や「バンガローの事件」(1930年)などで描かれていた、薄幸の人を助ける喜びの要素が本書はやや希薄です(もちろん事件解決を喜ぶ人はいますけど)。むしろ犯人(というより敵といった方がいいかも)の凶悪ぶりの方が印象に残ってしまいました。今回は未遂事件も含めると相当の悪事を働いていますので。

No.1363 6点 処刑宣告- ローレンス・ブロック 2016/06/28 16:50
(ネタバレなしです) 1996年発表のマット・スカダーシリーズ第13作です。二見文庫版の巻末解説によれば前作の「死者の長い列」(1994年)と本書はシリーズの中では謎解き要素を中心にしている異色作とのことです。それがハードボイルドを苦手とする私が本書を手に取った、いささか不純な理由なのですが。確かに本書は私のイメージするハードボイルドとは異なっており、過激な場面は皆無に近いです。生々しい暴力もなければ麻薬や酒やギャンブルに溺れて身を持ち崩す人間の惨めさをしつこく描くこともありません。アル中だったスカダーもごく普通の人にしか見えません。会話もドライではありますが挑発的でもなく威圧的でもなく平明な雰囲気が保たれています。スカダーが複数の事件を解決するプロットで、1つの事件が解決するとまた次の事件がという順繰りの展開なので混乱せずに読めます。短編をただ繋げたような単純な構成ではなく、それぞれの事件間に微妙な関係を持たせていて全体を引き締めているところが秀逸です。ただ巻末解説で本書のセールスポイントを密室と連続殺人としているのはいただけませんが(とても充実している解説ですけど)。

No.1362 5点 君を想いて- ジル・チャーチル 2016/06/27 12:00
(ネタバレなしです) 2004年発表のグレイス&フェイヴァーシリーズ第5作です。歴史描写(ついにルーズヴェルトが大統領就任)やブルースター兄妹の仕事ぶりから漂うユーモアなどは前作の「愛は売るもの」(2003年)を上回っていますが謎解きはまだ荒削りで、リリーの発見した犯罪の鍵も証拠としての説得力に富むとは言えないように思います。

No.1361 6点 クッキング・ママの超推理- ダイアン・デヴィッドソン 2016/06/27 11:57
(ネタバレなしです) 2001年発表のゴルディ・ベアシリーズ第10作です。ゴルディは相変わらず思い込みが激しく、その思い込みに従って場当たり的かつ執念深い捜査が延々と続きます。とはいえ棚ぼた式に犯人が判明することの多いこのシリーズでは珍しくも最後はゴルディがちゃんと推理で犯人にたどり着いており、一応は本格派推理小説を読んだ気分になりました。

No.1360 8点 そして扉が閉ざされた- 岡嶋二人 2016/06/27 11:21
(ネタバレなしです) 国内では珍しいコンビ作家の岡嶋二人は1982年から1989年の短期間に多くの傑作を残してコンビ解散しましたが得意ジャンルが誘拐サスペンスだったので本格派推理小説好きな私の個人的関心は低い方でした。しかし1987年発表の本書は「徹底した本格を書いてやろうという決意のもとに書いた」というだけあって本格好き読者に満足できる作品となりました。誘拐場面から始まる序盤の展開はあれれ?、と思いましたが自然な流れで謎解き推理小説へ移行します。少数の登場人物ながらどんでん返しの連続があって容易には読者に真相をつかませず、しかも謎解き伏線を丁寧に張ってあって完成度は大変高いです。もっと本格を書いてほしかったです。

No.1359 4点 十三番目の陪審員- 芦辺拓 2016/06/27 11:13
(ネタバレなしです) 1998年発表の森江春策シリーズ第5作の本格派推理小説です。復活した陪審員制度(現実の裁判員制度とは少々違います)にDNA鑑定の無効化などよくもまあこれだけ考えたものだと感心する一方、あまりにも人工的な作品世界になじめませんでした。またこのプロットではやむを得ないのでしょうが組織的陰謀の色合いが強くて通常の本格派推理小説の犯人当ての楽しみが少ないのも個人的には好みに合わなかったです。

No.1358 6点 Wの悲劇- 夏樹静子 2016/06/27 10:45
(ネタバレなしです) 作者は1982年発表の本書を「純本格派」を意識して書いたようですが本格派としてはやや変化球気味の作品です。前半の展開は完全にサスペンス小説、それが後半になると謎解き小説に切り替わるプロットはルーファス・キングの「不変の神の事件」(1936年)を連想させます。暗いけど重過ぎない雰囲気と冬の寒さの描写がよくマッチしています(唐突なロマンスは蛇足に感じましたが)。ちなみに映画化もされましたが映画(私は未鑑賞です)と小説ではストーリーが大きく違うそうです。なお私はエラリー・クイーンの名作「Xの悲劇」(1932年)や「Yの悲劇」(1932年)を露骨に真似しているタイトル付けに何となく反感を抱いてずっと敬遠してましたが、実はちゃんとクイーンの了解を得て発表していたことを長らく知りませんでした(不勉強でした)。

No.1357 4点 キルトにくるまれた死体- キャサリン・ホール・ペイジ 2016/06/26 23:50
(ネタバレなしです) 1994年発表のフェイス・フェアチャイルドシリーズ第6作ですが本書の主役はピックス・ミラーで、フェイスは完全に脇役という番外編的な作品です。たまには目先を変えてみたかったのかもしれませんがフェイスに比べると地味なキャラクターでした(フェイスだってコージー派ミステリーの探偵役では決して派手な方ではないのですが)。端正な文章で丁寧に描いてはいますがどうもプロットにメリハリがなくて意外と読みにくく、せっかくのサマーキャンプ描写もにぎやかさや活気をもっと伝えてほしかったです。謎解きに関してはフェイスを探偵役にしている作品と同じようなパターンで(つまりほとんど運任せで)解決されており、主役交代させる意味はあまりなかったような気がします。

No.1356 5点 顔のない告発者- ブリス・ペルマン 2016/06/26 23:41
(ネタバレなしです) ブリス・ペルマン(1924-2004)はピエール・ダルシという別のペンネームもあり、50作以上のミステリーを書いたらしいのですが作品がほとんど翻訳されていないフランス作家です。1983年発表の本書は本格派推理小説と紹介されていますが、きっちり合理的な答えを用意している点は評価できますけど論理的な謎解きよりも心理サスペンスを書いた方が作風的に合っているような気がします。冒頭で提示された謎の魅力を膨らますような工夫がほとんどなく、人物描写も精彩がなくて前半はやや平凡です(創元推理文庫版が200ページ少々程度の厚さなので退屈するところまではいきませんが)。後半になるとようやく登場人物に性格づけがなされ、彼らの思惑や疑心が解決のきっかけになっていきますがほとんど物証のないままなので探偵役の推理に多くを期待してはいけません。(他作家による前例はありますが)ちょっと珍しい真相が印象的です。

No.1355 4点 娼婦殺し- アン・ペリー 2016/06/26 23:36
(ネタバレなしです) 1996年発表のトーマス・ピットシリーズ第16作となる警察小説です。とにかく手掛かりが限られている上に階級社会という制約もあって捜査はなかなか進展しません(でも退屈はしません)。唐突に解決してしまってあれれと思いきやそこからストーリーは二転三転します。推理場面に乏しくて読者が犯人当てに挑戦する要素がほとんどないのが個人的には残念ですけど。時代風俗描写は相変わらず冴えています。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
ローラ・チャイルズ(24)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)