皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2841件 |
No.1881 | 4点 | 一角獣の繭- 篠田真由美 | 2017/05/24 18:25 |
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(ネタバレなしです) 2007年発表の桜井京介シリーズ第13作です。このシリーズのラスト5作(第3期)については作者から出版順に読むよう示唆されていますが、本書はシリーズ前作の「聖女の塔」(2006年)と密接な関連があり、あちらを読まずに本書を読むと読みづらい部分があります(しかも「聖女の塔」についてのネタバレ満載)。またこのシリーズは蒼の成長物語要素が強いのですが、これまで被保護者的な立場で描かれていた蒼がある人物と出会い、保護者へと変容しているのが印象的です(といっても急に強く頼もしくなったりはしないのですが)。桜井京介はあまり登場せず謎解き説明さえほとんどしないのですが、最後に驚きの行動をとります。しかしその続きは次作を読んで下さいという締めくくりで、何とも商売上手なこと(笑)。「聖女の塔」よりは本格派推理小説らしさがあるものの(一角獣の角で刺されたような死体が登場!カーター・ディクスンの「一角獣の殺人」(1935年)を意識したのでしょうか?)、真相の説得力は弱いです(説明が不十分で無理なトリックにしか感じられない)。 |
No.1880 | 6点 | 斧でもくらえ- A・A・フェア | 2017/05/18 11:55 |
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(ネタバレなしです) 1944年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第9作の本格派推理小説です。第二次世界大戦に従軍していたドナルドがマラリアを患って帰国するところから物語が始まります。探偵として復帰して精力的に活動しますが体調がまだ本調子でない描写もあって読者をはらはらさせます。全体的には読みやすいのですがプロットは結構複雑で、交通事故詐欺による結婚疑惑に始まり殺人事件も発生します。この殺人捜査がメインの謎解きになるかと思いきや、バーサが巻き込まれた交通事故の謎解きの方が脚光を浴びてきたりして実に目まぐるしいです。殺人の凶器が手斧というのが珍しいですが残虐な描写はありませんので安心下さい。 |
No.1879 | 5点 | 殺意のわらべ唄- 風見潤 | 2017/05/14 01:07 |
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(ネタバレなしです) 1987年発表の神堂賢太郎シリーズ第1作の本格派推理小説です。童謡が書かれた手紙が相次いで送られ、その詩に見立てたような事件が起きるという派手なネタがある一方で、製薬会社の複雑な人間関係(そして個人描写は不十分なのでますます誰が誰だかわかりにくい)、薬品の開発から製造に至るまでのプロセス紹介とお堅く地味な企業ミステリー要素が融合します。後半には丹念なアリバイ調査もあって意外と物語のテンポは遅めです。そのアリバイトリックが小粒なのはともかく、かなりご都合主義的な偶然に頼っている真相が(悪い意味で)気になります。 |
No.1878 | 4点 | 毒殺はランチタイムに- ホートン・マーフィー | 2017/05/11 10:14 |
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(ネタバレなしです) 30年近く企業の法律顧問としてのキャリアを経たアメリカのホートン・マーフィーが1986年に発表したデビュー作のルービン・フロストシリーズ第1作です。年齢が70歳代のルービンは法律事務所の元エグゼクティブ・パートナーで今は閑職の地位にあるようです。本書はその法律事務所の所員の1人が急死し、毒殺であることがわかります。ルービンは警察への協力はしますが探偵役として積極的に活動しているかというと微妙です。そのためか洗練された都会的な文章で書かれているのはいいのですが、本格派推理小説のプロットとしては淡白過ぎて盛り上がりを欠いています。真相も動機があって犯行機会があって(毒殺の)手段を持ち合わせていたというのだけでは、疑わしいとは言えても犯人はこの人だと断定するのには弱いと思います(刑事のあの説明でよく犯人が自白しましたね)。 |
No.1877 | 5点 | 虹の悲劇- 皆川博子 | 2017/05/07 01:04 |
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(ネタバレなしです) 1982年発表のサスペンス小説と社会派推理小説のジャンルミックス型です(こういうのを社会派サスペンスと呼ぶのでしょうか?)。祭りに参加した観光客が将棋倒しの群集に押し潰されて死亡します。被害者が事件前から何かに怯えていたことを知ったツアーコンダクターと被害者の息子が調査を始めます。すると場面は大きく変換し、復讐のための殺人を企てる女性(既に1人を殺した模様)が登場してきます。見事に目指す相手を殺害して現場を去りますが後に発見されたのは何と別人の死体です。これは一体どうなっているんだ、殺したはずの相手はどこに行ったのかと(読者と共に)混乱します。もつれにもつれた2つのプロットは絡み合い、戦時中の社会問題を読者に突きつけるという、予想を超越した展開を見せます。複雑な因縁が悲劇の連鎖を生み出すこの物語、一体どこに正義はあったのでしょうか? |
No.1876 | 5点 | 密室の木霊- 筑波耕一郎 | 2017/05/07 00:18 |
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(ネタバレなしです) 1986年発表の本格派推理小説です。親子3人の家庭に送られた赤ん坊の写真に夫は動揺し、後に毒死します。過去にこの家庭では前妻の自殺、子供の誘拐(無事に解放されます)と事件が相次いでいたことがわかります。さらに密室殺人事件の発生や複雑な人間関係、アリバイ調査と謎解きネタは充実、警察とアマチュア探偵の競争趣向まであります。トリックが小粒で特に密室トリックが古典的トリックの使い回しなのは残念。タイトルに使うからには少しは創意工夫が欲しかったです。 |
No.1875 | 5点 | 秘密だらけの危険なトリック- ジョン・ガスパード | 2017/05/06 23:57 |
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(ネタバレなしです) 2014年発表の奇術師探偵イーライ・マークスシリーズ第2作の本格派推理小説です。英語原題の「Bullet Catch」はクレイトン・ロースンの「帽子から飛び出した死」(1938年)でも紹介されている、失敗が死亡事件につながりかねない危険な奇術で、この奇術に挑戦する映画撮影にイーライが巻き込まれます。それとは別にイーライが出席した同窓会で再会した同窓生の1人が殺されるという事件にも巻き込まれます。イーライの高所恐怖症との闘い、名作映画の登場人物の名を名乗る謎の人物の登場なども描かれ、話があっちに飛んだりこっちに飛んだりとまとまりを欠いたプロットですが、それでもこの作者の語り口の上手さでぐいぐいと読ませるのはさすがです。謎解きはエラリー・クイーンの某作品を連想させる大胆な真相が印象的ですが、読者がこの真相を見抜くには推理のための手掛かりが十分与えられていないように思います。 |
No.1874 | 3点 | 声優密室殺人事件- 幾瀬勝彬 | 2017/05/06 23:07 |
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(ネタバレなしです) 1971年発表の「北まくら殺人事件」を1977年に改題した本格派推理小説です。推理小説の同人誌発行を目指す「推理実験室」の6人がアマチュア探偵として謎解きに挑戦という設定はアントニイ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」(1929年)の二番煎じ感が拭えないもののなかなか面白そうな趣向です。もっともバークリー作品のような多重解決パターンではありません。事故死か自殺か殺人かを見極めるだけでも結構なページを費やしており、時に中途半端な疑惑報告に留まってしまうのもアマチュアの捜査ならではです。死者の性行為分析までも謎解きに絡めているところは読者の好き嫌いが分かれそうで、最後をベッドシーンで締めくくっているのに至っては通俗に過ぎているような気がします。 |
No.1873 | 5点 | モンキー・パズル- ポーラ・ゴズリング | 2017/05/05 00:48 |
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(ネタバレなしです) ポーラ・ゴズリング(1939年生まれ)はイギリスに住んでいるアメリカ人女性作家です。作風は幅広く、サスペンス、ハードボイルド、果ては(別名義で)SF小説まで書いています。1985年発表の長編第6作でストライカー警部補シリーズ第1作である本書(舞台はアメリカです)は作者初の本格派推理小説とハヤカワ文庫版の巻末解説で紹介されています。タイトルに「パズル」が使われ、作中でエラリー・クイーンやアガサ・クリスティーの名前が登場していますが本格派黄金時代の巨匠たちのような論理的な推理を前面に出した謎解きではありません。この作者はパズル性よりはサスペンスの方が持ち味のようで、登場人物同士のやり取りの中に随所で電気が走ります。犯人の正体が明かされる終盤の場面も実にスリリングで劇的です。それでいて猟奇的で残虐な殺人をそれほど生々しく描写していないところは節度を感じさせます(もっともあのような殺害方法をとる必要性がいまひとつ釈然としませんけど)。 |
No.1872 | 6点 | ディオゲネスは午前三時に笑う- 小峰元 | 2017/05/04 22:57 |
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(ネタバレなしです) 1976年発表の長編第5作はどこか松本清張の「黒い樹海」(1960年)を連想させる作品です。清張作品では主人公の姉が事故死し、本書では主人公の姉の恋人が事故死します。どちらも事故であることは間違いないこと、姉の行動に謎があり主人公が何があったのかを追求するというプロットが共通しています。清張作品の主人公が大人の女性であるのに対して本書では主人公が男子高校生であるところは大きな違いで、小峰得意の青春本格派推理小説要素が見られます。ユーモラスな場面もありますがかなり悲劇色が濃いのも本書の特徴です。謎解きが終わった後の主人公の(最後の)決断には共感できないという意見も多いかと思いますが人間ドラマとして強い印象を残していることは確かです。 |
No.1871 | 6点 | 灰色の季節 ギョライ先生探偵ノート- 梶龍雄 | 2017/05/03 12:42 |
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(ネタバレなしです) 「ギョライ先生探偵ノート」という副題を持つ1983年発表の短編集です。作中時代は1940年前後、旧制中学生の正彦が実質的な主人公で登場場面も多く、ギョライ先生(頭が魚雷の弾頭に似ているからつけられた渾名の担当教師)は名探偵役ですが活躍は控え目です。作者が得意とした時代小説要素と青春小説要素を併せ持つ本格派推理小説の短編を6作収めています。謎解きとしては「イソップとドイルと・・・」と「夜から来た女」がまずまず楽しめました。長編作品ほどの奥行きのあるドラマではありませんがそれでも戦争の暗い影が随所でちらつきます。 |
No.1870 | 4点 | 超能力者が多すぎる- パトリック・A・ケリー | 2017/05/02 17:58 |
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(ネタバレなしです) 1986年発表のハリー・コルダーウッドシリーズ第3作の本格派推理小説です。かつてハリーと敵対関係だった超能力者のオズボーンが窮地に陥ってハリーに助けを求めるのですが、その前にハリーを困らせる嫌がらせをいくつも仕掛けていて人に物を頼む態度とは到底思えません。ハリー、お人よしにも程がありませんか(笑)?メインの事件は私の苦手の一つである失踪事件で、やはりというかなかなか犯罪性が見えてこない展開なのがちょっと辛かったです。しかも失踪した学生やその家族の描写もほとんどないので事件の与えたインパクトも伝わってきません。ハリーの捜査は行き当たりばったり感が強く、真相は説明しますが推理の過程を十分説明していないので本格派推理小説としての謎解きの面白さはあまり感じられませんでした。このシリーズ、全5作中第3作までが翻訳紹介されて後の2作は未訳のままになりましたが、本格派好きの私から見てもあまり残念に感じませんでした。 |
No.1869 | 5点 | 赤の殺意- 長井彬 | 2017/04/28 10:48 |
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(ネタバレなしです) 作者の生前に出版された短編集としては最後のものとなった1992年発表の第3短編集で、6作品が収められています。「千利休殺意の器」(1989年)や「白馬岳の失踪」(1990年)と違って寄せ集め感が強く、「赤」のタイトルが2作、トラベルミステリー風タイトルが3作、どちらでもないのが1作、各短編の発表時期も1982年から1991年までとばらばらです。いずれも本格派推理小説ですがこの作者は長編の方が力を発揮できるタイプだと思います。トリッキーな作品が多く、平凡なトリックでもトリックを成立させるために細かくフォローしているのは好感が持てますがトリックの謎解きで精一杯で、犯人当てとしてはかなり粗さが目立ってしまいました。特に8章から構成される「赤いスーツの女」で最終章になって初めて「誰この人?」を登場させてはまずいでしょう。好き嫌いは分かれそうですがスリラー色濃厚な結末の「オホーツク殺人事件」が異彩を放っています。 |
No.1868 | 5点 | 移行死体- 日影丈吉 | 2017/04/26 11:53 |
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(ネタバレなしです) 第6長編の「女の家」(1961年)は個人的にはミステリーに分類するのがためらわれるような内容でしたが、1963年発表の第7長編である本書は間違いなくミステリーです。ただどうも突っ込みどころが多すぎて困った作品でした(笑)。最初は犯罪小説風に幕開けします。ビルオーナーから立ち退きを迫られている2人の住人がオーナーを殺そうとするのですがオーナーが死んだって問題解決が保証されているわけではなく動機として弱いと思います。第4章で「それくらいのことでオレが殺すとは誰も思わないだろう」とコメントしているのには「それくらいのことで殺そうとしてたじゃないか」と切り返したくなりました。しかし犯行の詰めが甘く、被害者の死亡を確認しなかった上に死体が消失、そして思わぬところでの死体発見となり2人が今度は探偵役となって真相を追究する本格派推理小説のプロットになります。もっとも後ろめたい2人が探偵する目的があやふやな上に捜査と推理が(アマチュア探偵とはいえ)あまりにも行き当たりばったりで、巧妙なミスリーディングがあるとはいえ謎解きプロットとしては読みにくかったです。 |
No.1867 | 6点 | 不死蝶- 横溝正史 | 2017/04/23 22:40 |
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(ネタバレなしです) 1953年に雑誌連載された中編作品を加筆修正して1958年に長編作品として発表された金田一耕助シリーズ第15作の本格派推理小説です。鍾乳洞での殺人を扱っていることから名作「八つ墓村」(1951年)を連想する人もいるでしょうが雰囲気はかなり異なります。和風「ロメオとジュリエット」的な恋愛悲劇と仇討ちをモチーフにしてロマンチックな人間ドラマを意識しています。ミステリーですから冷酷な殺人事件はありますし、結末がハッピーエンドかというと微妙なところではありますが。金田一耕助が激情に駆られる場面があるのが珍しいですね。 |
No.1866 | 5点 | 空っぽの罐- E・S・ガードナー | 2017/04/22 23:10 |
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(ネタバレなしです) 1941年発表のペリー・メイスンシリーズ第19作の本格派推理小説です。もともとスピーディーな展開でサスペンス豊かなのはこのシリーズの特色ですが本書の場合は同じサスペンスといってもかなり異色の部類です。何が待ち構えているかわからない場所へ乗り込むメイスンを描いた第8章や第15章はどちらかといえば冒険スリラー的などきどき感を生み出しています。その15章でのデラの「悪人の陰語」に1番びっくりしました。 |
No.1865 | 6点 | 舞台稽古殺人事件- フランセス&リチャード・ロックリッジ | 2017/04/22 22:22 |
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(ネタバレなしです) 1942年発表のノース夫妻シリーズ第4作の本格派推理小説です。劇場での舞台稽古中に客席で殺人事件が発生します。ウェイガン警部が文字通り分刻みで容疑者たちのアリバイを地道に調べますが殺人時刻がはっきりしないこともあって前半は停滞感が強く、少々退屈に感じるかもしれません。しかしノース夫人のパムの行動が目立つようになる8章あたりからサスペンスが盛り上がります。特に終盤で犯人を(まだ正体を隠しつつ)登場させながら同時に容疑者たちに犯人と同じ行動をとらせて読者に誰が犯人なんだとやきもきさせる演出は出色の出来栄えです。 |
No.1864 | 5点 | ベルリンの柩- 高柳芳夫 | 2017/04/19 19:58 |
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(ネタバレなしです) 高柳芳夫はシリーズ作品への関心はそれほど高くなかったように思いますが、その中では4つの短編集で活躍する草葉宗平のシリーズが記憶に残ります。本格派推理小説の作品が多いですが時にはスパイスリラー要素が混じります。草葉はドイツ(当時は西ドイツ)やオーストリアの外交官という設定で、外交官出身の作者ならではのプロットが楽しめます。一般の日本人と比べて東ドイツへの出入国が容易であるなどの外交官特権の描写もありますが、むしろ苦労人描写の場面の方が多いですね。また探偵役として快刀乱麻の活躍を見せるかと言えば必ずしもそうではなく、4つの短編を収めた1981年発表の第1短編集である本書ではどちらかといえば草葉以外の人物のお手柄だったり、国際的な事件ゆえに最後は組織的にうやむやにされてしまったりと主人公としてはやや心もとない面も見せています。等身大の人物として読者の共感を得やすいですが、華やかなヒーローを期待する読者には物足りなく映るかもしれません。 |
No.1863 | 6点 | 渇きと偽り- ジェイン・ハーパー | 2017/04/16 21:53 |
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(ネタバレなしです) イギリス生まれのオーストラリアの女性作家ジェイン・ハーパー(1980年生まれ)の2016年発表のデビュー作が本書ですが、デビュー作ながらとても緻密で完成度の高いプロットに驚きました。20年前に起きた少女の怪死事件で友人ルークのアリバイ証言によって(実は嘘の証言なのですが)警察の容疑が晴れたにもかかわらず町の人々から犯人扱いされて父親と共に故郷を追われたアーロン・フォークが主人公で、ルークが家族を殺して自殺した(らしい)ことがきっかけで再び故郷に戻ります。フォークの捜査は現代の事件と過去の事件が何度も交差しますが無用に読者を混乱させることはありません。依然としてフォークに白い目を向ける人々の存在やオーストラリアならでの干魃によって荒廃した社会の雰囲気が息詰まるようなサスペンスを盛り上げます。本格派推理小説としては犯人指摘がそれほど論理的な謎解き説明でなく、特に20年前の事件については証拠不十分だと思いますが現代の事件でのジル・マゴーンの某作品を連想させるような巧妙なミスリーディングは実に印象的でした。 |
No.1862 | 5点 | 殺意は砂糖の右側に- 柄刀一 | 2017/04/15 02:39 |
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(ネタバレなしです) 長らく離島で祖父と2人暮らし、その祖父が死去して後見人探しに上京してきた生活力や社会常識については疑問符のつく天才、天地龍之介シリーズの2001年発表のデビュー作が本書です(本書では28歳)。全7章で構成されていますが長編ではなく、各章が独立した物語の第1短編集です。この作者らしくトリック重視の本格派推理小説が揃ってますが一般的な読者には予想しにくい専門知識に頼ったトリックが多いのが難点でしょうか。巻末の作者のあとがきで隠し場所トリックの謎解きの「ダイヤモンドは永遠に」は「黄金期の密室ものの大家が著した傑作へのささやかなオマージュ」として書かれたそうですが、なるほどちょっとしたアレンジとしては悪くはないと思います。しかし「あかずの扉は潮風の中に」の密室に侵入して室内を荒らすトリックはアレンジどころか大家の作品トリックをそのままパクっただけにしか感じられませんでした。 |