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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1905 5点 大三元殺人事件- 藤村正太 2017/08/12 23:24
(ネタバレなしです) 藤村正太は麻雀(マージャン)を得意としており、若い時代には生活費をかせぐためにギャンブル麻雀に手を染めていたこともあったそうです。そんな彼は1970年代に「麻雀推理」を長編1冊、短編集4冊発表しました(共通のシリーズ主人公はいないようです)。今では麻雀を知らない人の方が多いと思いますが、1972年発表の唯一の長編である本書の第2章で「全ビジネスマンの70%がマージャン人口」と書いてあるのが時代の違いを感じますね。読む前は通俗スリラー系かと思ってましたが、実は公害問題が大きくなるほどビジネスチャンスになる公害防止企業を描いた社会派推理小説だったのに驚きました。主人公はプロ級の腕前をもつサラリーマンで、接待マージャンで取引拡大をねらいます。序盤はまるでミステリーらしくありませんが殺人事件が発生してから様相一変、主人公は営業活動と探偵活動に奔走します。裏をかく工作と思わせて裏の裏をかく工作だったなど意外と凝った謎解きがあるところは本格派推理小説風でもありますが、最初からストレートに疑われていたら犯人はどうするつもりだったのでしょうね(笑)。最後はアマチュア探偵の個人の努力ではいかんともしがたい「あまりにも大きな背後の壁」の存在がほのめかされてすっきりできない結末が待っています。

No.1904 6点 エドウィン・ドルードの失踪- ピーター・ローランド 2017/08/12 16:07
(ネタバレなしです) 英国のピーター・ローランド(1938年生まれ)は歴史研究書や偉人伝記の執筆などで活躍していますが、1991年発表の本書は彼としては異色作であるミステリー作品です。それもチャールズ・ディケンズの未完のミステリー「エドウィン・ドルードの謎」(1870年)をシャーロック・ホームズが謎解きするというユニークなプロットです。ホームズの依頼人が事件の概要を説明してくれるのでディケンズ作品を読んでいない読者でも早い段階で背景を理解できると思いますが所詮は概要、例えば謎の人物ダチェリーについてはその説明では紹介されていません。やはり事前にディケンズ作品を読んでおくことを勧めます。ホームズが事件に関わったのが1894年のクリスマス直前で、事件発生からかなりの年月が経過している難題ですがわずか200ページ程度で解決に持っていきます。これはコナン・ドイルの長編並みのボリュームを意識したのかもしれません。事件の真相説明だけでなくダチェリーの正体についてもちょっとしたアイデアが披露されているのにはにやりとしました。

No.1903 4点 紫桔梗殺人事件- 小嵐九八郎 2017/08/04 13:32
(ネタバレなしです) 1988年発表のダメ弁護士・冬野尽シリーズの長編ミステリーです。「弁護士尽ちゃん愛殺記」(1988年)に比べると無難なタイトルですが内容的には大差なく、通俗色の濃いユーモア本格派推理小説です。密室状態のマンションの部屋で住人の死体が発見される事件を扱っており、部屋のドア、部屋内部、死体発見現場、そしてマンション全体図と丁寧に描かれた見取り図をいくつも用意して謎解きを盛り上げているところは好感が持てます。とはいえ密室からの脱出トリックはお粗末感が拭えません。他にも色々な工作を施しているのが説明されますが、動機も含めてどこか雑な印象を受けてしまいます。まあ変な人間による変な会話だらけのプロットなので、読者も真剣に謎解きに取り組みにくいかもしれませんが。

No.1902 5点 ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女- スティーグ・ラーソン 2017/08/03 05:06
(ネタバレなしです) スウェーデンのスティーグ・ラーソン(1954-2004)の2005年発表のミレニアム三部作第1作です。3作を完成して出版社と契約した直後に作者が急死するという劇的な運命をたどったこのシリーズ、本国で大ヒットして全作映画化されただけでなく欧米各国にも翻訳出版されて話題になり、さらにはスウェーデンのダビド・ラーゲルクランツ(1962年生まれ)によってシリーズ第4作以降が書き継がれるほどの成功作です。この三部作は本書が本格派推理小説、「火と戯れる女」(2006年)がハードボイルド、「眠れる女と狂卓の騎士」(2007年)が法廷スリラーと紹介されることもあるようですが、本書に関してはあまりこれを鵜呑みにすると肩透かしの気分を味わうかもしれません。36年前の少女失踪事件の調査に始まりやがて凶悪な犯罪事件の謎解きに発展するプロットですが真相説明が自白に頼っているところも多くて推理物としては物足りません。ハヤカワ文庫版の巻末解説にあるように「社会派色」が強いし、容赦ないまでの非情な描写は十分以上にハードボイルドです。さらに2人の主人公の紹介に相当のページを使い、謎解きが終わった後もさらに非ミステリーの物語が長々と続くなど多彩なジャンルミックス型です。本格派を偏愛している私に訴える要素は少ない作品でしたが、ハヤカワ文庫版で上下巻合わせて850ページ、40人を超す登場人物リストの大作ながら洗練された明快な文章力による語り口は卓抜で、それほど退屈せずに読めました。

No.1901 3点 伊豆密会旅行殺人事件- 草野唯雄 2017/07/26 21:32
(ネタバレなしです) 1989年発表の尾高一幸シリーズ第7作です。家族のいる男性とホステスの浮気旅行、日本へ出稼ぎに来ている外国人労働者描写、非情な犯人によって返り討ちのように殺されてしまう新たな被害者など通俗スリラー、トラベルミステリー、社会派、ハードボイルドの様々な要素を織り込んではいるのですが作品全体がお手軽感に包まれていて中途半端な印象です。犯人の正体も尾高や警察の捜査とは関係なく唐突に読者に提示されており、本格派の謎解きとして楽しむことも困難です。徳間文庫版の巻末解説では作者の小説執筆姿勢として「書きたいのは極限状態に置かれた時の人間のドラマです。(中略)それをミステリの範疇に納め、最後をドンデン返しの意外性で幕をおろすとすれば、もういうことはありません」と紹介していますがこのコメントは作者が脂ののっていた時期の1977年発表のもの。本書は残念ながらそういうこだわりが感じられませんでした。

No.1900 5点 殺しのディナーにご招待- E・C・R・ロラック 2017/07/24 23:02
(ネタバレなしです) 1948年発表のマクドナルドシリーズ第30作の本格派推理小説です。有名な文筆家のクラブの新規会員としてパーティーに招待された8人の男女。ところが招待者の姿が見えず、でっち上げのパーティーという手の込んだいたずらではないかと疑った8人は自分たち主催のパーティーとして楽しんで解散します。ところがその後いたずら企画者として彼らに疑われていた男の死体が会場で発見されるという事件に発展します。ひたすら地道な捜査と深まる混迷、そして重箱の隅をつついたような手掛かりに基づく推理説明のプロットを果たして楽しみながら読めるか我慢しながら読むことになるか、読者の度量が試される作品と言えそうです。個人的にはもう少し(なるほどとうなずけるような)気の利いた謎解き伏線を用意してほしかったです。

No.1899 5点 どんどん橋、落ちた- 綾辻行人 2017/07/15 23:30
(ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない1999年発表の短編集で5つの中短編が収められています。私の読んだ講談社文庫の新装改訂版の巻末解説は大山誠一郎が書いていますがその中で「作者はもちろん、読者に絶対に犯人を当てられないことを目指す」とコメントしていますがまさに本書はそれを突き詰めようとしています。しかし作者勝ちにこだわり過ぎて(青い車さんがご指摘されているように)反則ぎりぎりの技巧頼りになってしまい、しかも小説としての余裕がないように感じます。例えば「犯人以外の人物の証言に嘘はない」というルールは確かに注意を払って守っているのですが、普通なら会話の流れの中で探偵役の勘違いに気づいて(犯人以外の人物は)それを訂正してしかるべきなのにそれをしないまま会話を続ける(そしてミスディレクションが成立する)というのはあまりに不自然に感じました。「鳴風荘事件」(1995年)以降王道的な本格派の作品を発表できず焦った作者がついに異端に手を染めてしまったのでしょうか。

No.1898 5点 モノグラム殺人事件- ソフィー・ハナ 2017/07/15 03:15
(ネタバレなしです) サイコ・スリラーの書き手である英国の女性作家ソフィー・ハナ(1971年生まれ)が2014年に発表した本書はあのアガサ・クリスティー(1890-1976)の名探偵エルキュール・ポアロシリーズの「公認続編」として注目を集めた本格派推理小説で、英米などで大ヒットしたそうです。クリスティーは他人による贋作など「望まなかったと思われる」というハヤカワ文庫版の巻末解説のコメントはもっともでしょうし、本書を読んだ私のことも「クリスティーファン読者とは認めません」と天国のクリスティーから叱られそうな気がしますけど。「殺される罰を受けなければいけない」と語る謎の女性とポアロの出会い、それに続くホテルでの三重死事件と派手に幕開けしますが、その後の展開はちぐはぐで回りくどい会話が連続してテンポが重いです。ポアロの真相説明であまりにも多くの嘘で塗り固められていたことがわかり、これはとても読者が完全正解できるような謎解きとは思えませんでした。

No.1897 6点 鬼ガ島地獄絵殺人- 山村正夫 2017/07/11 17:39
(ネタバレなしです) 1983年から1987年にかけて発表された滝連太郎シリーズの短編6作をまとめて1987年に出版された、シリーズ唯一の短編集です。伝奇本格派推理小説の作品が多いのはこのシリーズならではです。犯人がわかりやすいとかトリックがたいしたことないとか謎解きの底が浅いと感じられるところもありますが、作品間のばらつきは少なくシリーズ入門編としてもお勧めです。その中では表題作の「鬼ガ島地獄絵の殺人」は誘拐あり殺人ありとプロットは起伏に富み、大食漢の滝が食欲を失う珍しい場面もある上にトリックがなかなか大胆で長編作品に仕立ててもよいのではと思いました。どこか横溝正史の「悪魔の手毬唄」(1957年)を連想させる「暗い唄声」も印象的です。

No.1896 6点 凍った夏- ジム・ケリー 2017/07/07 07:39
(ネタバレなしです) 2006年発表のフィリップ・ドライデンシリーズ第4作の本格派推理小説です。創元推理文庫版の巻末解説では本書のことを「シリーズの途中だから本書から読むのはNGだ、なんて心配する必要は全くない」と入門編として勧めていますがドライデンの生活環境の変化の行く末にも興味を抱くなら、シリーズ第1作から順番に読むことを勧めます。このシリーズの特色である現代の事件と過去の事件の融合が本書でも見られ、第37章での大胆な事実(犯人の正体ではありません)には驚かされます。寒さ冷たさの描写だけでなく犯人の冷酷さ描写も作品の重苦しさを深めてます。ドライデンの推理は最後のどんでん返しで微妙に中途半端な印象が残りますがその後の劇的な結末で盛り上げてます。

No.1895 4点 ブリキの自動車- ネヴィル・スティード 2017/07/02 02:05
(ネタバレなしです) ミステリー作家としては1980年代後半から1990年代前半の短い期間の活躍に留まった英国のネヴィル・スティード(1932年生まれ)の1986年発表のデビュー作がピーター・マークリンシリーズ第1作の本書です。ピーターはアンティーク玩具屋で、本書では金持ちコレクタ-の代理人として高価なアンティークのブリキ製自動車(たった11台で2万2千ポンド)をフランスで購入します。ところが帰る途中でそれらが安物のプラスチック製玩具とすり返られてしまい、盗品を取り戻すために奔走します。流しの犯行の可能性など全く考えず、ほとんど証拠もないまま目星をつけた容疑者の家宅に侵入したりはったりの脅迫電話をかけたりとピーターの捜査は強引で違法なものばかり(そしてかなりご都合主義的に事が運びます)。本格派推理小説の謎解きをちょっと期待していましたがそういうミステリーではなく冒険スリラータイプです。ピーターが焦る気持ちはわからないでもありませんが、それほど共感できる主人公でなかったので彼がある女性と出会っていい関係になりかけているのを応援する気にあまりなれなかったです(笑)。

No.1894 5点 赤い森の結婚殺人- 本岡類 2017/07/01 15:59
(ネタバレなしです) 1986年発表の里中邦彦シリーズ第2作の本格派推理小説です。「白い森の幽霊殺人」(1985年)のように邦彦がオーナーのペンション「銀の森」が舞台ではなく、ホテルの披露宴で花嫁が消えてしまう不思議な事件を扱っています(後には殺人事件も起きます)。新しい証拠が見つかるたびに謎は深まる一方、誘拐なのか偽装誘拐なのか邦彦や警察の推理もいい線まで行きそうで何度も壁にぶち当たります。どうやっての謎解きも悩みますが、シンプルにさりげなくできそうなのをなぜ複雑に派手にやったのかという謎がそれ以上に難解です。プロットは読みやすいですが真相は計画的な行動ととっさの行動が絡み合う非常に複雑なもので、多分読者が完全正解するのは無理ではないでしょうか。

No.1893 6点 チューインガムとスパゲッティ- シャルル・エクスブライヤ 2017/06/28 20:41
(ネタバレなしです) 1960年発表のタルキニーニシリーズ第1作のユーモア本格派推理小説です。欧州各国の司法警察を研究しているアメリカ人のリーコックがイタリアのヴェローナを訪れるところから物語がスタートします。そのヴェローナ警察で彼の面倒を見るのがタルキニーニ警視です。リーコックが訪問済みの警察評価は(国民性の評価でもあります)イギリスとドイツは高評価、フランスとスペインは低評価ですからヴェローナについてどうなるかはある程度予想がつきそうですが、一方でヴェローナの人々がこのアメリカ人の言動をとてもまともなものではないと感じている描写も多々あるのが面白いところ。タルキニーニとリーコックの最初の会話からして「犯罪の動機はほとんどいつも恋です」「なぜですか」「だってここはヴェローナですから」とまるで噛み合いません。タイトルの「チューインガムとスパゲッティ」は「アメリカ人とイタリア人」と置き換えてもよさそうです。犯人当ての謎解きもありますが、異国の地でカルチャーショックと戦うリーコックの奮闘(と時に暴走)の描写の方に読者は振り回されそうです。

No.1892 5点 天国は遠すぎる- 土屋隆夫 2017/06/24 03:02
(ネタバレなしです) 1959年発表の第2長編で、光文社文庫版で300ページに満たない短めの作品です。本格派推理小説ですが早い段階で犯人はこの人しかありえない状況になります(そもそも他の容疑者が登場しないのです)。自信満々の犯人が用意した鉄壁のアリバイを崩すのがメインの謎解きです。佐野洋が「刑事の描き方がリアル」と賞賛しており、捜査と推理が地道に描かれているのは同時代の鮎川哲也の鬼貫警部シリーズとも共通していますが刑事の執念描写は鮎川作品にはない個性だと思います。但し刑事以外の登場人物では犯人の心情発露は終盤の逮捕以降のみ、被害者については全くといってもいいほど性格描写がないので小説としての膨らみが足りない気がします。推理小説が文学足りえるか否かについて常に意識した作者ですが、本書についてはまだ道半ばといったところでしょうか。

No.1891 5点 殺人作家同盟- ピーター・ラヴゼイ 2017/06/22 10:02
(ネタバレなしです) ピーター・ダイヤモンドシリーズの「漂う殺人鬼」(2003年)で名脇役ぶりが印象的だったヘン・マリン主任警部を探偵役にした2005年発表の本格派推理小説です。ちなみに一瞬だけですがダイヤモンドも登場しています(捜査には加わりません)。出版社の経営者が放火で殺され、彼から作品を批判されたりいい加減な約束で迷惑を受けていたアマチュア作家サークルの面々が主要容疑者になります。前半はサークルの新会員で被害者と面識のないボブ・ネイラーがアマチュア探偵として事件を捜査します。ヘンの登場は中盤近くからで、部下の刑事たちと手分けしての捜査となるためプロットが一気に複雑になります。作中でアガサ・クリスティーを引き合いに出したりして本格派推理小説としての謎解きに期待がかかりましたが、どのように推理して犯人を特定したかを論理的に説明していないのがちょっと消化不良に感じました。

No.1890 6点 錯誤のブレーキ- 中町信 2017/06/17 22:33
(ネタバレなしです) 2000年発表の和南城夫妻シリーズ第4作の本格派推理小説です。この後の中町信(1935-2009)は最晩年の2008年に中編をリメイクして長編化した「三幕の殺意」を発表したのが最後なので新作として書かれたのは本書が最終作だったわけです。交通事故(1名死亡)で幕を開け、その事故で生き残った者が殺されます。動機を探して過去の病死(心臓麻痺)や自殺事件までもが調査され、密室、アリバイ調べ、ダイイングメッセージと謎解きは多岐に渡ります。人物描写に精彩がない中で自信満々の割に推理が暴走気味、でもたまに有能な時もある二本柳警部が異彩を放ってます。地味で暗めの文章のため盛り上がりを欠くきらいがあるものの、安定したレベルの本格派を40作以上も提供してくれた作者には大いに感謝です。

No.1889 5点 バートラム・ホテルにて- アガサ・クリスティー 2017/06/16 11:18
(ネタバレなしです) 1965年発表のミス・マープルシリーズ第10作の本格派推理小説です。プロットがちょっと風変わりで、殺人事件の謎解きはかなり遅めに開始されます。それまではロンドンの名門ホテルに宿泊したミス・マープルがホテルの雰囲気にどこか違和感を覚える場面が多く、どこかもやっとした展開です。その違和感の正体についてはスコットランドヤードのデイビー主任警部によって説明され、なかなか大胆な真相が印象的ではありますが推理としてはかなり粗いと思います。後味の悪さを残す幕切れはかなりのインパクトがあります。

No.1888 2点 エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件- ジョン・ディクスン・カー 2017/06/12 17:16
(ネタバレなしです) 1936年発表の歴史ミステリーで実際に17世紀の英国で起こったゴドフリー卿暗殺事件(犯人は不明)に作者が挑戦した作品です。本書に影響を受けてリリアン・デ・ラ・トーレが「消えたエリザベス」(1945年)を、ジョセフィン・テイが「時の娘」(1951年)を書いたことでも有名で、ミステリー史上の重要作ではあるのですが感想に悩んだ作品でした。登場人物がやたら多いうえに彼らの直接的な言動描写も物語としての展開もほとんどなく、小説というよりも研究論文というべき内容です。後年のトーレは本書よりも小説としての趣向を増やし(但しまだ論文要素の方が強い)、テイに至ると小説といえる内容に発展しているのがわかります。とても低い採点にしているのは小説としての面白さを放棄していることが理由です(おまけに私の知能水準では論文としてどうかという評価もできません)。できれば別名義で発表してほしかったですね(推理「小説」を期待する読者ががっかりしないように)。

No.1887 6点 雪盲- ラグナル・ヨナソン 2017/06/11 01:48
(ネタバレなしです) アイスランドの弁護士兼作家であるラグナル・ヨナソン(1976年生まれ)のダーク・アイスランドシリーズ第1作である2010年発表の本格派推理小説です。原作は当然アイスランド語で書かれてますが海外向けに翻訳された版が出回って各国で好評、日本でも英訳版からの翻訳で読めるようになりました。余談ですが主人公のアリ=ソウル(本書では24歳の新米警官)の登場する作品にはダーク・アイスランドシリーズに属しない作品もあるそうです。さて本書は玄関に鍵をかけないのが日常の静かな漁師町シグルフィヨルズルに警官として採用され、よそ者(首都レイキャヴィークから移住)であることを意識せざるを得ないアリ=ソウルが描かれます。文章は簡潔にして要を得ており、人物描写にも配慮されていて謎解きだけでなく人間ドラマとしても充実しています。これで厳しい冬の描写に(オーストラリアの)アーサー・アップフィールドのような雄大なスケール感があればなあと思いましたがこれはぜいたくな注文でしょうね。もうひとつ余談ですが本書の小学館文庫版の巻末解説で作者のことを(男性作家なのに)「アイスランドのアガサ・クリスティ」と紹介していますが、細かい伏線を張ってある本格派推理小説であるところは共通していますが内面描写の多い本書の個性はクリスティの作風とはかなり異なるように感じました。

No.1886 5点 お嬢さま学校にはふさわしくない死体- ロビン・スティーヴンス 2017/06/09 09:08
(ネタバレなしです) アメリカ生まれで英国在住の(両国のパスポートを持っているそうです)女性作家ロビン・スティーヴンス(1988年生まれ)の2014年発表のデビュー作が本書です。本書の英語原題は「Murder Most Unladylike」ですがこれが好評で続編が書かれるとシリーズ名も「Murder Most Unladylike」シリーズと呼ばれるようになりました。本書の作中時代は1934年、舞台は英国の女子寄宿学校、主人公は3年生(13歳)のデイジーとヘイゼルです。デイジーがホームズ役(本人もかなり意識しています)、ヘイゼルがワトソン役ですがデイジーの推理は必ずしも完璧ではなく(中盤で早々と犯人はこの人だと断言しますがまだまだどんでん返しがあります)、ヘイゼルも単なる観察者にはとどまってはいません。後半になると冒険スリラー色が濃くなってはらはらどきどきの展開となります。読者が事前に犯人を推理するデータを十分に提供できていないのと主人公以外の人物描写が弱いのが少々惜しまれますが、推理と捜査に傾注してミステリーらしいプロットにはなっており最後は容疑者を一堂に集めての犯人指摘場面が用意されています。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)