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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2813件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2253 5点 翳ある墓標- 鮎川哲也 2020/06/02 22:12
(ネタバレなしです) 鮎川哲也が残した長編ミステリーは22作(知名度の割には意外と少ないですね)、ほとんどが鬼貫警部シリーズで17作、天才型の星影龍三シリーズが3作、非シリーズが2作です。1962年発表の本書は非シリーズ作品です。「動機に社会性はあるが、これはあくまで純粋本格推理小説である」とは作者の弁ですが、そこまで主張するからには星影龍三シリーズみたいな王道路線を追求してほしかったですね。地道な捜査の末にやっと犯人の目星がついて終わりかと思ったらとんでもない、そこからの証拠固めにページを費やしており、星影シリーズよりは鬼貫シリーズの方に近いと思います。最後は(やや唐突に)哀愁を帯びた締め括りを意図するなど、決して「純粋」ではありません(そこがいいという読者もいるでしょうけど)。

No.2252 5点 ふさわしき復讐- エリザベス・ジョージ 2020/06/02 21:44
(ネタバレなしです) ハヤカワ文庫版で600ページを超す1991年発表のトーマス・リンリー警部シリーズ第4作の本格派推理小説ですが過去の3作を読んだ読者は違和感を感じるのではないでしょうか。何とリンリーとセント・ジェイムズの妻デボラが婚約関係なのです。巻末解説によるとデビュー作の「大いなる救い」(1987年)よりも前にセント・ジェイムスを主人公にした作品を2作も書いていて、その未発表作を改訂して出版したのが本書とのことです。そのためか本書はリンリーとセント・ジェイムスのダブル主人公体制で、しかも謎解きへの貢献度はセント・ジェイムスの方が高いというシリーズ異色作です。しかし「大いなる救い」よりも作中時代が昔であることは冒頭で断り書きしてほしかったですね。トーマスの母、弟やセント・ジェイムスの妹などが登場しますが良好な家族関係とは言えない上に殺人事件にまで巻き込まれます。探偵役の家族が容疑者になるミステリーならドロシー・L・セイヤーズの「雲なす証言」(1926年)が先駆的作品ですが、比較にならないほどの重苦しいサスペンスです。リンリーの婚約がどうなるかはシリーズファン読者なら結果は丸わかりですが、どのように収まるのかという興味で読ませます。

No.2251 5点 ヘビイチゴ・サナトリウム- ほしおさなえ 2020/06/02 21:15
(ネタバレなしです) 詩人の大下さなえがほしおさなえ名義で2002年にミステリー賞応募したミステリーデビュー作で、受賞は逃したものの翌2003年には単行本化されました。女子高で女生徒が墜落死します。それ以前にもやはり女生徒が墜落死していたり、女生徒と深い関係があると疑われた男性教師には2年前に妻が自殺した過去があったりとただならぬ人間関係が示され、ついには問題の教師までもが墜落死します。多数の内心描写が交互に描かれるし、複数の小説原稿が入り乱れてどの原稿がオリジナルで作者は誰なのか、他の原稿は代作なのか盗作なのかと謎は深まります。時に幻想味さえ漂わせるもやもやした展開ですが、物語の2/3ほどで犯人の自白があって一応は収束します。もっともそこからまだまだ細かい謎解きがあり、プロローグまで試行錯誤が続きます。本格派推理小説としてつじつまの合う推理がありながらどこか釈然としない読後感を残す作品です。

No.2250 4点 ビール職人のレシピと推理- エリー・アレグザンダー 2020/06/02 20:59
(ネタバレなしです) 2018年のスローン・クラウスシリーズ第2作のコージー派ミステリーです。シリーズ第2作ということでシリーズキャラクターの描写にそれほどページを費やさず、スムーズに謎解きプロットに突入するのはよし。ひょんなことから容疑者の1人をスローンが自宅に宿泊させる羽目になる展開も面白いです。ビール愛好家にとっては最大のイベントであるオクトーバーフェストの絡ませ方も上手く、第16章でのお祭り騒ぎの雰囲気も楽しいです。しかし肝心の謎解きは腰砕け、スローンが名探偵役とは程遠いのは前作と同じで、しかも解決シーンを見落としてしまう体たらくです。マイヤーズ署長、スローンに手伝わせるのはもうやめた方がいいのでは(笑)。

No.2249 5点 探偵ガリレオ- 東野圭吾 2020/05/29 22:23
(ネタバレなしです) 東野作品の中では加賀恭一郎シリーズと並んで有名なガリレオシリーズは1998年発表の本書でスタートしています。単行本は全5章の構成ですが長編作品ではなく、各章が短編として完結しているシリーズ第1短編集です。主人公は物理学の大学助教授の湯川学ですが、なぜガリレオと呼ばれるのか全く説明されていません。というかガリレオと呼ばれるのも第5章での1回だけでした。本格派推理小説ですが犯人当てにはあまりこだわっておらず、「壊死る」に至っては中盤で犯人が読者に明かされています。殺人トリックや怪現象のハウダニットの謎解きがメインで、エンジニア出身の作家らしく理系要素が濃いです。トリック依存度が高いというかほとんどそれだけなので、トリックよりも心理ドラマを重視している加賀恭一郎シリーズ短編集の「嘘をもうひとつだけ」(2000年)と比べると謎の底が浅いように感じました。

No.2248 5点 ナイチンゲールの屍衣- P・D・ジェイムズ 2020/05/29 21:54
(ネタバレなしです) 1971年発表のアダム・ダルグリッシュシリーズ第4作の本格派推理小説で、作者の個性が十分に発揮された最初の作品と評価されています。その個性というのがハヤカワ文庫版の巻末解説では「よくいえば重厚、悪くいえばやや暗く重苦しい」と紹介されています。この解説からして微妙で、なぜ重厚はよくて暗く重苦しいはいけないのでしょうか?まあしかし文庫版で500ページを超す分量はそれまでの作品と比べると確かに分厚いし、中身もページ以上にずっしり感を感じさせます。捜査描写の停滞感が半端でなく、毒物の正体判明までにすごく時間をかけていてそれまでダルグリッシュも慎重な姿勢を崩しません。そしてこれまた評価の高い人物描写ですけど感情描写の抑制が効きすぎて人物の全体像がちっとも浮かび上がりません。第1章での殺人場面のすさまじい描写でどかんと派手に花火を打ち上げていながらその後はじっくりゆっくりな展開です。それが好きな人はたまらなく好きなんでしょうけど、短気な私には合わなかったです。とはいえ本書以降にはもっと重苦しい作品が次々と生み出されるのですが。

No.2247 5点 幻の女殺人事件- 福田洋 2020/05/29 21:22
(ネタバレなしです) 1987年発表の本書は光風社ノベルス版ではクライム・ノベル、光風社文庫版では本格推理と紹介されています。本格派推理小説が大好きな私は後者であってほしいと祈るように(大袈裟だ)読みましたが...、これは警察小説ですな(笑)。駐車中の車の中から金融会社社長の死体が発見されますが、捜査が始まったばかりのところへ社長を名乗る男から金を送れという電話が入ります。銀行を張り込んだ警察は金を取りに来た男を逮捕、男は殺人については潔白を主張するもあっという間に裁判です。もちろんこれで解決ではなく、アリバイ証人が登場して捜査やり直しです。しかも今度はこのアリバイ証人が殺されるのです。捜査線上に謎の女が浮かび上がり、刑事たちがあれこれ推理しながら追い求めますがなかなか尻尾を掴めない展開はなかなかの読み応え。しかし第7章で唐突な重要証言が出て解決に向かうという幸運(犯人には不運)が安直過ぎてがっかりです。この証言につながりそうな伏線を前もって張る工夫があればもっと高く評価できるのですが。もっともその後も犯人に迫る捜査側とぎりぎりでかわす犯人側との攻防がスリリングで、読者が犯人に共感するような仕掛けを織り込んでいるのも効果的。幕切れも余韻を残します。

No.2246 5点 シャーロック伯父さん- ヒュー・ペンティコースト 2020/05/29 20:54
(ネタバレなしです) アメリカのサスペンス小説家ヒュー・ペンティコースト(1903-1989)は長編ミステリーを90作以上書いた多作家ですが、本書の論創社版の巻末解説によると長編よりは短編、短編よりは中編の評価が高いそうです。とはいえ生前に出版された短編集は10冊にも満たないのですが。1970年発表の本書は長編6作で活躍する元検事のジョージ・クラウダーシリーズの唯一の短編集で、中編1作と短編7作が収められています。収録作品の一つでもある「シャーロック伯父さん」こそコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズを意識していますが地方色の濃い舞台描写といい、アンクル・ジョージに私淑する甥のジョーイ・トリンブルの存在といい、全体としてはむしろメルヴィル・D・ポーストのアブナー伯父シリーズを連想します。残念ながら本格派系の作品は謎解き手掛かりの提示が後出しだったりと作者がこのジャンルを得意としていないことを感じさせますが、それでもアンクル・ジョージの経歴が紹介されている上にジョージやジョーイまでもが容疑者になってしまう「ハンティング日和」やユーモア混じりの締め括りが印象的な「ミス・ミリントンの黒いあざ」は楽しめました。サスペンス系ではまさかの人情物語になだれ込む中編「我々が殺す番」が出色です。

No.2245 3点 天狼星Ⅱ- 栗本薫 2020/05/28 22:01
(ネタバレなしです) 1987年発表の伊集院大介シリーズ第6作で天狼星三部作の第二作となるスリラー小説です。前作の「天狼星」(1986年)は一応は物語として完結していますが本書は「続きは次回作をお楽しみに」と言わんばかりのすっきしない締め括りです。本書で大介の宿命の敵であるシリウス(印象的な手下の刀根一太郎は出番なし)が狙うのは日舞の新たな花形として彗星の如く登場した芳沢胡蝶です。第6章で大介が「(一部省略)異常のはざま、夢とうつつのはざま、正常と倒錯のはざま、男と女のはざま、いろんなはざまで恐ろしくデリケ-トなバランスの上で咲いた妖花」と表現してますがとにかく浮世離れしたキャラクターで(24歳という実年齢より幼く見える)当然読者の好き嫌いは大きく分かれます。その超個性的な人物描写のために時にサスペンスが犠牲になるほどです(終盤はさすがに劇的です)。大介の推理場面もありますが第一の殺人事件についてはどうなったんだと抗議したい(笑)。個人的には好みのミステリーではありませんが、舞踏の場面の緊迫した迫力は素直に素晴らしいと褒めます。本筋とは関係ありませんが森カオルが結婚したのには驚いた読者もいるでしょう。その経緯については本書では全く説明されませんが、実に20年後に発表された「樹霊の塔」(2007年)で語られることになります。

No.2244 6点 殺人者は一族の中に- デラノ・エームズ 2020/05/28 21:43
(ネタバレなしです) 1949年発表のダゴベルト&ジェーン・ブラウン夫妻シリーズ第2作で、2人は前作では独身でしたから夫婦としての活躍は本書で始まります。舞台はアメリカのニュー・メキシコで、終盤での乗馬シーンがアメリカ南西部らしさを感じさせます。ジェーンの視点で描かれるダゴベルトの夫としての姿勢は色々と批判が出そうな気もしますが、時に反発しながらもジェーンが許しているのであれば外野がああだこうだと真剣に突っ込む必要はないと思います。とはいえクレイグ・ライス作品のジャスタス夫妻の描写の方が読んでて楽しいのは確かですけど。2人は農場主のミランダを訪れますがミランダが「殺人が起こりそうだ」と発言していることを聞かされ、ようやく会えた時にはミランダは死体となっていました。ダゴベルトの捜査はファーガスン保安官代理からも容疑者たちからも嫌がられるし、ブラウン夫妻の会話も案外と情報を出し惜しみしていて物語のテンポは重めです。推理説明が論理的とは言えず決定的証拠に乏しいきらいがありますが、第17章のジェーンの容疑者一覧メモや劇的などんでん返しの連続など本格派推理小説らしさは十分あります。

No.2243 7点 妖鳥- 山田正紀 2020/05/28 21:24
(ネタバレなしです) 1997年発表の本格派推理小説で、幻冬舎文庫版で700ページ近い大作です。病院を舞台にして様々な謎が渦巻きます。小島正樹は謎とトリックをぎゅうぎゅう詰め込んだ本格派作品が敬愛を込めて「やり過ぎ」と評価されてますが本書だって負けてません。死を待つばかりの重体患者が密室状態の部屋で殺されたり、素性のわからない看護婦が徘徊したり、火の気のない部屋で焼死事件が起きたり、見えない部屋はどこにあるのか、落下した場所から大きく離れた地点で発見された墜落死体など実に盛り沢山です。人間関係が後半にならないと整理されないとか、動機が完全に後出しで読者が推理しようがないとかの問題点もありますけど、大胆などんでん返しの謎解きと膨大な伏線が合理的に結びつく真相は一読の価値が大いにあると思います。

No.2242 5点 「レインボウズ・エンド」亭の大いなる幻影- マーサ・グライムズ 2020/05/28 21:04
(ネタバレなしです) 1995年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第13作の本格派推理小説で、文春文庫版で650ページ近い大作です。前半がイギリス編、後半がアメリカ編(但しイギリスでの活動も描かれます)の構成ですが、この前半での懐古趣味が半端ではありません。私が気づいただけでも「「鎮痛磁気ネックレス」亭の明察」(1983年)、「「エルサレム」亭の静かな対決」(1984年)、「「古き沈黙」亭のさても面妖」(1989年」、「「老いぼれ腰抜け」亭の純情」(1991年)に登場した人物たちが回想されたり再登場したりしています。世間は狭いな(笑)。一応3人の女性の急死事件を捜査しているのですが死因もはっきりしない(自然死かもしれない)、アメリカのサンタフェを訪れたり住んでいた程度の共通項しかないというのにこの状況証拠だけでジュリーが渡米するというとてつもなく強引な展開、そこに至るまでに300ページを費やしています。過去シリーズ作品を読んでいた私は懐かしさもあったし、この作者の文体が好きなのでそれほど退屈しませんでしたが、ほとんどの容疑者とジュリーが顔合わせするのがやっと後半というのでは冗長すぎると感じる読者も多いかも。それにしても犯人の犯行計画、かなり杜撰な印象を受けました。

No.2241 5点 聖悪女- 土屋隆夫 2020/05/28 20:35
(ネタバレなしです) 2002年に本格派推理小説である本書が発表された時点で作者が85歳の高齢なのも驚きですがこの後更に長編2作を書くのですからますます驚きです。しかも本書を読んだ限りでは枯淡の境地なんてとんでもない、第8章では自身の「推理小説作法」を引き合いに出してしかもそこからの脱却を目指す実験精神まで見せている、光文社文庫版で500ページを超す充実作です。全体としての完成度は高いのですが気になるのはプロット構成です。第2章で「作者が描こうとしているのは、星川美緒という女性の一代記ではない」と注記していますが、一代記ではないにしろ半生記であることは間違いありません。犯罪が起きるまでに主人公である美緒の波乱の人生が300ページ以上も続くのです。この物語もいい出来だと思いますが、巻末解説の「あまりにもバランスを欠いていると批判されても、仕方ないと思われる」に賛成です。ミステリーと文学の融合を目指した作者ならではの作品ですが、個人的にはもう少しミステリーのウエイトを増やして欲しかったところです。

No.2240 6点 最悪の館- ローリー・レーダー=デイ 2020/05/28 20:17
(ネタバレなしです) 米国のローリー・レーダー=デイが2020年に発表した本格派推理小説です。主人公で語り手でもあるイーデンは亡き夫が結婚記念日を指定して生前に予約した天体鑑賞ツアーに参加します。もっとも彼女は暗闇恐怖症を抱えており、感傷に浸るどころではありませんが。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で「万華鏡の如く移り変わる人間像を描く」ことに主眼を置いたプロットのため物語のテンポは非常に遅く、しかも丁寧過ぎで複雑過ぎる人物描写のおかげか誰が誰だかなかなか把握できません。後半になって色々な事件が起きたり人物関係の歪みが大きくなったり、更にはイーデンの夫のとんでもない秘密が明かされたりと重厚な語り口ながらサスペンスも盛り上がります。犯人を特定する具体的な物証がほとんどない推理は謎解きとして物足りないですがドラマとしてはなかなかの読み物です。

No.2239 6点 詩人の恋 信州殺人事件- 深谷忠記 2020/05/27 22:10
(ネタバレなしです) 1989年発表の荘&美緒シリーズ第13作の本格派推理小説です。アマチュア探偵の荘をいかにして捜査に加入させるかはちょっとした難題だと思うのですが、本書の第3章でのきっかけは珍しいですね。タイトル通り信州での事件を扱っており、地味なプロットの中で終盤での八方尾根の自然描写がキラリと光ります。犯人当てとしては読者が推理する余地なく明らかになりアリバイ崩しの謎解きになる展開はこのシリーズの得意パターンですが、本当にこんなにうまくできるのかという疑問は残るものの大変ユニークで印象的なトリックが使われています。

No.2238 5点 ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器- ポール・アダム 2020/05/27 22:00
(ネタバレなしです) (理由は明確ではありませんが)アダムが日本の読者向けに書いた2018年発表のジャンニ・カスティリョーネイシリーズ第3作の本格派推理小説です。このシリーズ、トラベルミステリー要素も濃いですが本書の舞台は(残念ながら日本ではなく)ノルウェーです。20年ぶりに再会したかつての教え子リカルド(ノルウェー人)が殺され、彼が所持していたノルウェーの民族楽器が消えています。ジャンニは(グァスタフェステ刑事と恋人マルゲリータも)クレモナからノルウェーへ行き、リカルドを取り巻く人々と会っていきます。ベルゲンやトロルドハウゲン、アウラルン・フィヨルドなどの地域描写やイタリア人のジャンニたちが雨天続きの天候や物価の高さに辟易するなどトラベルミステリーらしさがたっぷり。ノルウェーの作曲家としてはグリーグが国際的に有名ですが、本書ではヴァイオリニストとして高名なオーレ・ブルに焦点を当てているのもこのシリーズらしいです。ジャンニの謎解き貢献度は限定的でミステリーとしては弱いですが、その分人情物語としての読み応えで補っています。

No.2237 4点 双面獣事件- 二階堂黎人 2020/05/27 21:42
(ネタバレなしです) 2007年発表の二階堂蘭子シリーズ第8作で、講談社文庫版で上下巻合わせて1000ページを超す巨編です。作者は「名探偵と魔物が戦う話を書きたいと思っていた」とコメントしていますが、シリーズ初期作品では手掛かり脚注を挿入するなど王道的本格派推理小説路線を貫いていたのですからこの路線変更を歓迎できた読者はどれぐらいいたのでしょうね?私は本書がSF的に生み出された怪物の登場するスリラー小説であることをたまたま読む前に知っていましたけど、そうでなかったら裏切られた感でもっと低い点数にしたかもしれません(わがままな期待であることは自認してますけど)。蘭子はアクション探偵ではありませんので本書でも次から次へと推理を披露してはいますが、一部のトリックは人間のトリックだと説明されても本書を本格派好き読者にもお勧めですと言い切る勇気はないです。

No.2236 5点 修道士カドフェルの出現- エリス・ピーターズ 2020/05/27 21:24
(ネタバレなしです) 「光の価値」(1979年)、「目撃者」(1981年)、「ウッドストックへの道」(1985年)とぽつりぽつりと発表された修道士カドフェルシリーズの中短編3作を集めて1988年に出版された唯一の短編集です。英国オリジナル版ではカラー印刷されたイラストが現代教養文庫版ではモノクロ印刷なのは残念。でもその出版社(社会思想社)は2002年に倒産しているのですから今思えば頑張ってイラスト掲載してくれただけでも感謝すべきでしょうね。このイラストのカドフェルの丸みを帯びた顔立ちと英国のTVドラマ版でカドフェルを演じたデレク・ジャコビ(1938年生まれ)のゴツゴツした風貌はあまり似てませんけどね(笑)。「ウッドストックへの道」はミステリーらしさが弱くてすっきり感もありませんが修道士になる前のカドフェル(つまり兵士時代)の物語としてファンには貴重な作品。「光の価値」が謎解きとドラマの両立ができていて最もシリーズの特徴が出ています。「目撃者」は一番本格派推理小説らしい作品なのはいいのですが、「シュルーズベリ人なら誰でも知っている」と説明されてもねえ。余談ですが巻末解説のクイズは私には全く歯が立ちません。正解も載せてほしかった。

No.2235 5点 人牛殺人伝説- 宗田理 2020/05/27 21:08
(ネタバレなしです) 「ぼくらの七日間戦争」(1985年)を始めとする「ぼくらの」シリーズで有名なためか子供向け小説家のイメージが強い宗田理(そうだおさむ)(1928-2024)ですが、初期には社会派推理小説なども書いていました。1986年発表の本書ですが角川文庫版では「フーダニットの本格推理小説」と紹介してあったので本格派好きの私は読んでみましたが、何かが違う...。前半は中国残留孤児の母親探しとその情報提供者が次々と殺される事件を絡めた社会派風な展開ですが本格派らしさもあるプロットです。ところが後半になると企業脅迫と重役誘拐事件を前面に出した警察小説要素が濃くなって前半で活躍を期待されたアマチュア探偵はほとんど出番がなくなります。ジャンルミックス型としてこれはこれでありだと思いますが、読者が自力で犯人当てに挑戦できる作品を期待してはいけません。

No.2234 5点 洞窟の骨- アーロン・エルキンズ 2020/05/27 20:53
(ネタバレなしです) 2000年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第9作の本格派推理小説です。舞台がフランスということで「古い骨」(1987年)を連想する読者もいるでしょうが、容疑者に学者を揃えたプロットはむしろ「遺骨」(1991年)の方に親和性があるかも。ギデオンのお約束の骨鑑定が第9章で思わぬ形で実行不可能になり、その後に続く容疑者たちとの事情聴取が文字通り「骨抜き」の生ぬるい捜査になるのが珍しい展開です。面白いかと問われるとあまり面白くないんですが(笑)。24章のギデオンの「論理的な流れに沿って説明」も切れ味鈍く、26章で後出し証拠が出てしまうのでは謎解き挑戦好きの読者はため息しか出ないのでは。これなら24章でのトリック(前例はありますが珍しいし、手掛かりが印象的です)解明をもっと前面に押し出した方がよかったように思います。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2813件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)