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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.525 6点 スミルノ博士の日記- S・A・ドゥーセ 2014/09/10 11:14
(ネテバレなしです) 軍人で画家そして南極探検にも参加したことがあり、ミステリー作家としては私立探偵レオ・カリングのシリーズを書いたスウェーデン作家S・A・ドゥーセ(1873-1933)による1917年発表の本書(シリーズ第4作)は某作家の某有名作よりも早く某有名トリックを使ったミステリーとしてミステリー研究家やマニア読者間では有名です(但し本書よりも更に前にこのトリックを使った作品もあるそうです。まあこのトリックを本書で初めて知ったという読者はさすがにそうはいないと思いますが)。あまりにもお馬鹿な警官や大げさな感情表現には小説としての古さを感じるところもありますが、自動車や電話が登場するなど舞台描写は案外モダン(オースチン・フリーマンの「ダーブレイの秘密」(1926年)ではまだガス灯や馬車が描かれていますからね)。黄金時代以前の1910年代の本格派推理小説としては回りくどさが少なく、予想以上にプロットが引き締まっています。

No.524 7点 暗闇の薔薇- クリスチアナ・ブランド 2014/09/10 10:17
(ネタバレなしです) 作者晩年の1979年に発表された作品ですがなかなかよくできています。中盤がやや中だるみ気味で、久しぶり登場のチャールズワース(何と警視正に昇進している)も案外出番がありません。イタリア旅行シーンに至っては脇道にそれるのも程々にしてほしいなあと思いました。ところがこのイタリア旅行あたりから物語のテンションがどんどん上がっていき、後半は息を呑むような展開が続きます。相次ぐどんでん返しの謎解き、そして劇的で重苦しい幕切れには打ちのめされました。本格派推理小説ファンはもちろん楽しめますがサスペンス小説ファンにも結構アピールできる傑作だと思います。

No.523 7点 推定殺人- ギリアン・リンスコット 2014/09/10 09:30
(ネタバレなしです) 英国の女性作家ギリアン・リンスコット(1944年生まれ)は1980年代には現代を舞台にしたリネット警部シリーズの本格派推理小説を書いていましたが、作風を転じるきっかけと言えるのが1990年に発表された本書です。探検ブームのヴィクトリア朝英国を背景にした、シリーズ探偵の登場しない歴史本格派推理小説です。時代描写は事前に想像したほど濃厚ではありませんがそれを補ってあり余るのが人物描写と彼らが織り成す人間ドラマで、中盤まではミステリーらしくない展開ながら全くだれません。フーダニットとハウダニットの謎解き、そして2人の女性の間で右往左往する語り手(笑)の物語がバランスよく構成されています。カーやクリスティーの某作品で使われている仕掛けが採用されていますが、大胆に提示しながら同時に巧妙にカモフラージュされています。

No.522 5点 推定相続人- ヘンリー・ウエイド 2014/09/10 09:12
(ネタバレなしです) この作者には「塩沢地の霧」(1933年)や「死はあまりにも早く」(1953年)のようにいかにも犯人らしい人物を堂々と登場させながら肝心の犯行場面はわざと曖昧に描写する、「半倒叙」スタイルの作品がありますが、1935年発表の本書ははっきりと犯行場面を描いて犯人の正体を明かした犯罪小説です。残念ながら他の作品のようには警察による捜査や推理をほとんど描いておらず謎解きの面白さはありませんが、作中に潜ませた伏線が最終章での意外な結末につながるところはこの作者らしい巧妙さを感じさせます(本格派推理小説としての意外性ではありませんが)。最後の一行の緊迫感もお見事です。

No.521 5点 アキテーヌ城の殺人- ナンシー・リヴィングストン 2014/09/09 13:47
(ネタバレなしです) ナンシー・リヴィングストン(1935-1994)は女優やステュワーデス、TV番組制作会社勤務といった多彩な経歴を持っている英国の推理小説家で、趣味である高級絵画を買うために探偵をしているという名探偵ミスター・プリングルの登場する本格派推理小説のシリーズを書いていますが、デビューが遅かったためか作品数は多くないとのことです。1985年発表の本書がそのデビュー作ですが、殺人が起きるのも名探偵役のプリングルが登場するのも物語が3分の1ぐらい進んでからです。そこに至るまでは変な人物が次々に登場してはどこかピントがずれているような言動を繰り返してばかりでとても読みづらかったです。中盤以降はようやくまともに謎解き小説らしくなりますが、結末があれでよかったのかと考えさせるような内容で、好き嫌いが分かれそうな作品です。

No.520 6点 雪と罪の季節- パトリシア・モイーズ 2014/09/09 12:58
(ネタバレなしです) 1971年発表のティベットシリーズ第10作の本格派推理小説で、秋のスイスと冬のスイスが描かれていており、スイス料理のラクレット描写が実に美味しそうです。解決はやや駆け足気味ですが、3人の女性が交代で語り手役を務めているのがプロットの工夫になっており、ちょっと変わった趣向のタイムリミット・サスペンスが実にいい効果を演出しています。

No.519 5点 サクソンの司教冠- ピーター・トレメイン 2014/09/09 12:10
(ネタバレなしです) 1995年発表の修道女フィデルマシリーズ第2作です。巻末の訳注を読むと、被害者のウィガードが実在の人物だったことに驚きます(史実では病死のようです)。前半は地道な捜査場面に終始していてあまり面白くなく、時代性もローマという舞台もそれほど活かされていないように感じました。後半はようやく物語のテンポが上がり、ある人物の意外な素性(犯人の正体のことではない)には驚きました。ところで若竹七海による創元推理文庫版の巻末解説はどうも本書を素直にほめていない印象を受けるのですが、よくこの内容で出版社が掲載にOK出しましたね。「くどすぎたり長すぎたりする」という指摘には個人的には賛同しますけど(笑)。

No.518 5点 視聴率の殺人- ウィリアム・L・デアンドリア 2014/09/09 12:02
(ネタバレなしです) 米国のウィリアム・L・デアンドリア(1952-1996)はエラリー・クイーンにあこがれてミステリー作家となった人物で、夫人のオレイニア・パパゾグロウ(ジェーン・ハッダム)もミステリー作家です。本書は1978年発表のデビュー作ですが、軽いハードボイルド風な味付けがしてあってクイーンよりもネロ・ウルフを連想しました。軽快で読みやすい文章で書かれていますがめりはりに乏しく、深刻な場面でもあっさり流れてしまうきらいがあります。また主人公のマットのキャラクターは気さくでスマートな面を見せながらも、ある作中人物から指摘されたように「つくりものの丁寧な態度が見え透いている」ところがあるので読者の共感を集めれるか微妙かもしれません。専門的知識が必要なトリックが使われていますがトリックのみに頼った作品ではなく、プロットは意外と複雑です。

No.517 5点 ミントの香りは危険がいっぱい- ローラ・チャイルズ 2014/09/09 11:30
(ネタバレなしです) 2011年発表のシリーズ第11作の本書は500ページ近くあってこのシリーズとしては大作の部類ですが、他のシリーズ作品と比べても別に読みにくさを感じさせないスムーズな語り口には感心します。謎解きとしては前作の「ウーロンと仮面舞踏会の夜」(2009年)と同じく、そこそこ意外性を意識した結末が待っているのですが謎解き伏線が十分でないので、これならいくらだって意外な結末を用意できるだろうと不満が増えてしまうような気もします(もちろん平凡な結末に終わるよりはいいのですけど)。

No.516 5点 ロンドン橋が落ちる- ジョン・ディクスン・カー 2014/09/09 11:16
(ネタバレなしです) 1962年発表の本書は作中時代を1757年に設定した歴史本格派推理小説ですが、冒険小説の要素も強いことやニューゲイト監獄が登場するところなどが「ニューゲイトの花嫁」(1950年)を連想させます(作中時代が異なるので登場人物はダブリません)。冒頭場面が既に冒険の途中みたいになっており、後になってからどういう経緯になっていたかが説明される展開なのでわかりにくく、そのためかジェフリーとペッグの心理葛藤もどちらに肩入れすればいいのか悩みます。ブルース・アレグザンダーのミステリーで主役を務めているジョン・フィールディング判事が本書で登場しており、どう扱われているのかが注目です(書かれたのは本書の方が先です)。謎解きはトリックが冴えないのが残念です。近代を舞台にした「引き潮の魔女」(1961年)に比べるとさすがに歴史ミステリーならではの雰囲気がよく描けています。昔はロンドン橋の上に住居があったなんてのは新鮮な情報でした。

No.515 6点 殺人の朝- コリン・ロバートスン 2014/09/08 19:06
(ネタバレなしです) 英国のコリン・ロバートスン(1906-1980)はマイケル・イネス、ニコラス・ブレイク、クリスチアナ・ブランドといった英国本格派推理小説界の実力者たちと同世代の作家ですが、本格派からハードボイルド、スパイ・スリラーと何でも屋的に書きまくったことや通俗的な文体が災いしたか50冊を超す多作家ながら20世紀に日本へ翻訳された作品は1957年発表のブラッドリー警視シリーズ第1作の本書のみでした。確かに文体は通俗的で人物描写に深みもありませんがクライム・クラブ版の古い翻訳が全くハンデにならないほど読みやすいです。何よりも第一部は犯罪小説、第二部は倒叙推理小説、そして第三部は犯人当て本格派推理小説とこだわりの三部構成の妙が光る作品です。これで犯人を示す手掛かりをもう少し読者に対してフェアに提示できていればかなりの傑作になったと思いますが一読して損はしない作品だと思います。

No.514 5点 三回殺して、さようなら- パスカル・レネ 2014/09/08 18:57
(ネテバレなしです) フランスのパスカル・レネ(1942年生まれ)はいくつかの文学賞を受賞するほど純文学畑で有名な作家ですが1985年からミステリーを書くようになって世間を驚かせました。シリーズ主人公のロベール・レスター主任警部はアガサ・クリスティーの名探偵ミス・マープルの甥という設定で(残念ながらミス・マープルは故人扱いです)、さらに1985年発表のシリーズ第2作である本書では某クリスティー作品(ポワロシリーズです)の登場人物が主役級の役割を与えられています。とはいえ創元推理文庫版の巻末解説でも言及されているように「クリスティーのフランス版」を期待すると裏切られる内容で、皮肉や後味の悪さを感じさせる真相が用意されています。別にクリスティーを模倣したスタイルでなければ駄目とはいいませんが、本書を読む限りではわざわざクリスティー作品と関連させる必要性もあまりないように感じました。

No.513 4点 封印の島- ピーター・ディキンスン 2014/09/08 15:38
(ネタバレなしです) 1970年発表のピブルシリーズ第3作ですが、これまでとがらりと趣向を変えて冒険スリラーになっているのに驚かされます。いや、変幻自在の作者ということをよく知っている読者なら不思議でも何でもないのかもしれませんが、いずれにしろ推理の要素は皆無に近い作品です。なぜフランシス卿がピブルを呼んだかの説明が不十分なまま話がどんどん進むのが読んでて辛かったです。後半からは冒険小説らしく起伏に富む展開となりますが、ピブルも決して頼もしい主人公ではないところに彼の周囲にはさらに心もとない人間ばかりが集まってしまい、どうやって危機を脱するのかで読者の興味を引っ張ります。サスペンスの中にもどこかとぼけたような味わいがあり、骨折り損のくたびれもうけに終わったようなピブルもそれほど悲壮感はありません。

No.512 5点 美の秘密- ジョセフィン・テイ 2014/09/08 15:30
(ネテバレなしです) 1950年発表のグラント警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。「フランチャイズ事件」(1948年)では完全な脇役、しかもまるでいいとこなしだったグラント警部、主役返り咲きおめでとうでしょうか(笑)。ハヤカワポケットブック版は半世紀以上前の骨董品級の翻訳で読みにくく(誤訳があると紹介している文献あり)、また登場人物リストに載っていない重要人物も多くて頭の整理が大変です。それでも人間味あふれるグラントの捜査描写は読み応えがあり、ぜひ新訳で再版してほしいです。使われているトリックの実現性には疑問符がつきますが、それでも「フランチャイズ事件」の(悪い意味で)驚嘆のトリックに比べればまだまともに感じられました。

No.511 5点 おしゃべり雀の殺人- ダーウィン・L・ティーレット 2014/09/08 15:02
(ネタバレなしです) ダーウィン・L・ティーレット(1904-1964)は生粋の米国人ながらドイツ人女性と結婚してドイツに在住しました。第二次世界大戦前は不可能犯罪の本格派推理小説を、戦後はスパイ・スリラー小説を書いたそうです。本書は1934年の作品なので本格派推理小説かと思ったら微妙な作品でした。しゃべる雀の謎解きや犯人当て推理もありますが、一方で巻き込まれ型スパイ・スリラー的な展開もあるジャンルミックス型になっています。誰が敵か味方かわからなくするために必要以上に人物の個性を殺してしまったようなところがあって、テンポの速い物語にもかかわらず意外と読みにくかったです。とはいえナチスが勢力拡大してユダヤ人や共産主義者への迫害が日常茶飯事となっているドイツが描かれていて、(物語としてはフィクションながら)時代の証言的なところは価値があります。

No.510 6点 パディントン・フェアへようこそ- デレック・スミス 2014/09/08 11:21
(ネタバレなしです) アマチュア作家デレック・スミスの「悪魔を呼び起こせ」(1953年)は知る人ぞ知る幻の本格派推理小説的な存在でしたが、それから40年以上経った1997年に発表した本書は更にレア度アップ(笑)。何と本書は日本でのみ限定出版されたのです。これでは本国(英国)でもほとんど認知されなかったでしょうし、オリジナルは当然英語版なので日本の読者でも相当のマニアしか入手していないのではないでしょうか。よくこれが日本語版で出版されましたね。劇場を舞台にした本格派推理小説で、ジョン・ディクスン・カーに献呈されていますが、「悪魔を呼び起こせ」のようなオカルト演出はなく不可能犯罪でもありません。別々の銃による狙撃という、カーター・ディクスンの「第三の銃弾」(1937年)を連想させる事件がちょっと珍しいですが派手な要素はまるでなく、複雑な人間関係の整理と地道なアリバイ調査が中心のプロットです。重箱の隅をつつくような捜査場面がじれったくなる時もありますが、丁寧な真相説明は本格派推理小説を読んだという手応え十分です。

No.509 6点 地底獣国の殺人- 芦辺拓 2014/09/05 10:42
(ネタバレなしです) 1997年発表の森江春策シリーズ第4作です。プロローグの中で作者はわざわざ「本作品はあくまで本格推理小説であります」と注釈しておりそれはその通りなのですが、秘境冒険小説と国際陰謀小説の雰囲気が濃厚なプロットに圧倒され、謎解きにはほとんど集中できませんでした。それだけ冒険小説としてもよくできているとも言えるのですが、秘境や古典的SFのくどいほどの描写は好き嫌いが分かれるかもしれません。

No.508 5点 逃げ出した死体- ノエル・ヴァンドリ 2014/09/03 18:27
(ネタバレなしです) フランスでは1930年代に本格派推理小説の黄金時代を迎えていたそうですが、アルー予審判事シリーズで知られるノエル・ヴァンドリ(1896-1954)はその代表的作家の1人です。第二次世界大戦後のフランスはサスペンス小説やノワール小説の時代に突入しますがヴァンドリは(非ミステリー作品も書いたが)本格派を書き続けたようです。本書は1932年発表のアルー判事シリーズ第3作です。行方不明の被害者と2人の自称犯人(1人はこれまた行方不明)という謎がユニークで面白いですが、動機をひた隠す自称犯人への警察の追及が甘すぎるなど不自然さが気になるプロットです。なおROM叢書版では巻末解説で1930年代に集中して発表されたアルー判事シリーズ全12作の粗筋が紹介されています。

No.507 5点 ウィーンの殺人- E・C・R・ロラック 2014/09/03 17:34
(ネタバレなしです) ロラック晩年の1956年に発表されたマクドナルドシリーズ第42作の本格派推理小説で、題名どおりオーストリアのウィーンを舞台にしています。第14章でマクドナルド警視自身が述べているように「てんでばらばらの話を結び合わせる」展開なのですがその結び方が非常に弱く感じられてしまい、話に付いていくのが大変困難でした。一応謎解きの伏線も張ってはあるのですが、肝心の殺人事件についてはこれだけで犯人を決定するのは無理があると思われます。マクドナルドが休暇中だということをなかなか信じてもらえなかったり、容疑者の中に非常に個性的な人物を配したりと部分的には面白いところもあるのですが、プロットが複雑過ぎで読みにくいです。

No.506 7点 検死審問 インクエスト- パーシヴァル・ワイルド 2014/09/03 17:20
(ネタバレなしです) 1939年発表の本書は長編ミステリー第2作の本格派推理小説で法廷ミステリーでもあります。質疑応答場面は意外と少なく供述書や日記、被害者のメッセージ、スローカムたち陪審メンバー間の会話(とてもユーモア豊か)など手を変え品を変えのストーリーテリングが秀逸で一本調子になりません。途中(第三回公判期日)で推理小説批判をしているのも面白いです。後半は複雑な人間関係が明らかになってややごちゃごちゃしますが最後はしっかりと張られた謎解き伏線に基づく緻密な推理で真相が明らかになり、本格派好き読者を納得させてくれます。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)