皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.534 | 4点 | ローズ・ティーは昔の恋人に- ローラ・チャイルズ | 2014/09/23 13:11 |
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(ネタバレなしです) 2012年発表のシリーズ第13作です。謎解きは大いに問題ありで、第17章ではセオドシアが謎解き伏線を思い出そうとしている場面があり、最後にそれは明らかになりますがとても証拠といえるような有力なものではなく拍子抜けです。これならいくらだって他の人間を犯人としてこじつけることが可能でしょう。珍しいのは終盤に唐突にホラー風な演出があること。「ジャスミン・ティーは幽霊と」(2004年)よりも不気味な雰囲気となっています。あと謎解きとは関係ないのですが、日本語タイトルのローズ・ティーってどこかで描かれていましたっけ?(英語原題は「Agony of the Leaves」です) |
No.533 | 5点 | ブレイディング・コレクション- パトリシア・ウェントワース | 2014/09/23 11:51 |
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(ネタバレなしです) アガサ・クリスティーと同時代に活躍した女性ミステリー作家はセイヤーズ、ナイオ・マーシュ、アリンガム、E・C・R・ロラック、エリザベス・フェラーズ、クリスチアナ・ブランドなどが日本でも有名ですが、最も作風がクリスティーに近いのは英国のパトリシア・ウェントワース(1878-1961)ではないでしょうか。作品も独身で編物が好きな老婦人のミス・シルヴァーのシリーズを中心に60作以上発表していたので人気も高かったと思います。1950年発表のシリーズ第17作の本書では事件がすぐに起きず、序盤は控え目なロマンス小説風ですが殺人事件が起きて探偵役のミス・シルヴァーが警察の捜査に協力するようになると一気に本格派モードに突入します。犯人当てとしてはちょっと面白くなかったところもありますが犯行のきっかけになったある出来事は西村京太郎の某有名作を彷彿させて印象に残りました(無論本書の方がずっと早く書かれています)。 |
No.532 | 4点 | 怪奇な屋敷- ハーマン・ランドン | 2014/09/16 16:31 |
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(ネタバレなしです) 1920年代から1930年代にかけて怪盗グレイファントムシリーズや侠賊ピカルーンシリーズで人気を博した米国人作家が1928年に発表したスリラーと本格派推理小説のジャンルミックスタイプの非シリーズ作品です。当時の米国ミステリー界はヴァン・ダインの本格派推理小説が人気急上昇中だったそうですが、ランドンはスリラーの方が得意分野だったのでしょう。密室殺人、怪奇な雰囲気、わけありげな容疑者たちと本格派推理小説好き(後年デビューとなるジョン・ディクスン・カーが好きな読者ならなおさら)がわくわくしそうなネタで満載ですが、謎の魅力よりも雰囲気づくりの方に力が入っています。第29章で探偵役が真相説明していますが読者に対して手掛かりをフェアに提示していなかったことが目だってしまっています。論創社版の巻末解説で「読んだ直後では本格派の評価を下すには至らなかった」と書いてあるのもごもっともで、本格派の部分には過度に期待しないで読んだ方がいいと思います。 |
No.531 | 5点 | 死の扉- レオ・ブルース | 2014/09/15 10:46 |
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(ネタバレなしです) ビーフ巡査部長シリーズの執筆をやめて新たなシリーズ探偵ものとして20作以上発表することになったキャロラス・ディーンシリーズの1955年発表の第1作の本格派推理小説です。ビーフ巡査部長シリーズに比べると探偵役の個性や謎解きの技巧という点で控えめになった感があります(といってもシリーズ第9作の「骨と髭」(1961年)は結構技巧的でしたが)。本書の推理手法は、ある仮説を前提にしてその裏づけをしていくという演繹的手法でした。仮説が最後の場面まで伏せられているので意外性を狙いやすい長所がある一方、それほど論理的に考えられていない仮説だったため思いつきが結果的に正しかったような印象を与えている面も否めません。 |
No.530 | 5点 | 猿の肖像- R・オースティン・フリーマン | 2014/09/10 20:06 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のソーンダイク博士シリーズ第19作の本格派推理小説です。第二次世界大戦直前の作品ですが時代の緊迫感を感じさせることもなく、謎解きに集中した作品です。相変わらずプロットは無駄も回り道もなく、読者を引っ掛けるような細工もほとんどないため大方の読者は結末を容易に予想できるのではと思います。注目すべきトリックもなく、シリーズ作品の中では平均点的な出来だと思います。 |
No.529 | 7点 | 衣裳戸棚の女- ピーター・アントニイ | 2014/09/10 13:12 |
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(ネタバレなしです) 英国のシェーファー兄弟はどちらも劇作家で、兄のアントニイ・シェーファー(1926-2001)は「スルース」(1970年)で、弟のピーター・シェーファー(1926-2016)は「アマデウス」(1979年)で世界的成功を収めています。その兄弟は無名時代に合作で本格派推理小説を数作書いており評論家からも高く評価されているのですが、なぜか兄弟は若気の過ちと恥じているらしいです。本書は1951年に発表した本格派推理小説です(合作でなくアントニイの単独執筆だったそうですが)。窓から入ってドアから出て行った男、ドアから入って窓から出て行った男、いつの間にかドアも窓も施錠され、室内の衣裳戸棚には閉じ込めれた女という何とも奇妙な密室を扱っています。ページ分量が多くなく軽妙な文書で描かれているのでお手軽な作品と思いきや、実に大胆なトリックと皮肉で型破りな真相にびっくりしました。 |
No.528 | 6点 | ノヴェンバー・ジョーの事件簿- ヘスキス・プリチャード | 2014/09/10 11:55 |
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(ネタバレなしです) 英国のヘスキス・プリチャード(1876-1922)は母ケイトとの合作で心霊探偵フラクスマン・ローのシリーズ(E&H・ヘロンズ名義)なども書いていますが、単独執筆の本書は作者自身の南米やカナダの大自然の中での生活経験を活かして書かれた森林探偵ノヴェンバー・ジョーを探偵役とする1913年発表の本格派推理小説です。16章から構成されていますが実質的には短編集で、第1章と第2章でノヴェンバー・ジョーを紹介し、以降の章は1話完結型のミステリーとなっています(但し11章から16章は1つの中編ミステリーとなっています)。その作風はシャーロック・ホームズの伝統に非常に忠実で、現場に残された証拠からの推理を探偵法としており、舞台となる森林を上手く活かしています。読者が推理に参加できるように伏線を張った本格派推理小説のレベルにまだ達していないのは書かれた時代を考慮すると仕方のないところでしょう。作品間に出来不出来の差はなくどれも面白いですが、どれか1作なら「ビッグ・ツリー・ポーテッジの犯罪」を勧めます。結末は続きを読みたくなるような締めくくりになっていますが、残念ながらこのシリーズの続編は書かれませんでした。 |
No.527 | 6点 | ソープ・ヘイズルの事件簿- V・L・ホワイトチャーチ | 2014/09/10 11:49 |
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(ネタバレなしです) ヴィクター・ホワイトチャーチ1868-1933)は英国の聖職者で、宗教関連本や宗教小説も書いていますがミステリーやスパイ小説にも手を染めています。またかなりの鉄道マニアだったようで、15作の短編(鉄道愛好家のソープ・ヘイズルシリーズが9作と非シリーズが6作)を収めた本書(英語原題は「Thrilling Stories of the Railway」)はどの作品も鉄道が重要な役割を果たしており、あのF・W・クロフツ以前にここまで鉄道ミステリーらしさを味わせる作品があったことは驚きです(しかも趣味の領域を超えています)。本格派あり冒険スリラーありスパイ小説あり、「主教の約束」に至ってはミステリーでさえありませんがこれはこれで面白い作品です。論創社版の巻末解説で指摘されているように、推理でなく実行者や体験者の自白や証言で謎が解かれる部分があるのは本格派推理小説としては物足りなさもありますが、時代(1912年の出版です)を考えるとやむなしでしょう。個人的なお気に入りは大胆なトリックの「側廊列車の事件」、カーター・ディクソンの「第三の銃弾」(1937年)を連想させる「臨港列車の謎」です。トリックがあまりにも有名な「サー・ギルバート・マレルの絵」は図解なしの説明なのでちょっとわかりにくいです。 |
No.526 | 5点 | 教会の悪魔- ポール・ドハティ | 2014/09/10 11:34 |
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(ネタバレなしです) 校長職と歴史本格派推理小説家の2足のわらじを履いている作者の1985年発表の王座裁判所書記ヒュー・コーベットシリーズ第1作です。13世紀後半を背景にしていますが時代描写は非常に丹念で、現代の視点では不潔や非道徳に感じるような風俗習慣も包み隠すことはありません(逆に中世ロマンの描写を期待する読者にはちょっと不向きかも)。密室の事件ではありますがトリックはあまり感心できるレベルではなく、コーベットの捜査が組織犯罪を念頭に置いていることもあって一般的な本格派推理小説とはちょっと毛色が違います。刺客の襲撃場面が何度もあって冒険スリラー小説の雰囲気もかなり強いです。 |
No.525 | 6点 | スミルノ博士の日記- S・A・ドゥーセ | 2014/09/10 11:14 |
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(ネテバレなしです) 軍人で画家そして南極探検にも参加したことがあり、ミステリー作家としては私立探偵レオ・カリングのシリーズを書いたスウェーデン作家による1917年発表の本書(シリーズ第4作)は某作家の某有名作よりも早く某有名トリックを使ったミステリーとしてミステリー研究家やマニア読者間では有名です(但し本書よりも更に前にこのトリックを使った作品もあるそうです。まあこのトリックを本書で初めて知ったという読者はさすがにそうはいないと思いますが)。あまりにもお馬鹿な警官や大げさな感情表現には小説としての古さを感じるところもありますが、自動車や電話が登場するなど舞台描写は案外モダン(オースチン・フリーマンの「ダーブレイの秘密」(1926年)ではまだガス灯や馬車が描かれていますからね)。黄金時代以前の1910年代の本格派推理小説としては回りくどさが少なく、予想以上にプロットが引き締まっています。 |
No.524 | 7点 | 暗闇の薔薇- クリスチアナ・ブランド | 2014/09/10 10:17 |
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(ネタバレなしです) 作者晩年の1979年に発表された作品ですがなかなかよくできています。中盤がやや中だるみ気味で、久しぶり登場のチャールズワース(何と警視正に昇進している)も案外出番がありません。イタリア旅行シーンに至っては脇道にそれるのも程々にしてほしいなあと思いました。ところがこのイタリア旅行あたりから物語のテンションがどんどん上がっていき、後半は息を呑むような展開が続きます。相次ぐどんでん返しの謎解き、そして劇的で重苦しい幕切れには打ちのめされました。本格派推理小説ファンはもちろん楽しめますがサスペンス小説ファンにも結構アピールできる傑作だと思います。 |
No.523 | 7点 | 推定殺人- ギリアン・リンスコット | 2014/09/10 09:30 |
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(ネタバレなしです) 英国の女性作家ギリアン・リンスコット(1944年生まれ)は1980年代には現代を舞台にしたリネット警部シリーズの本格派推理小説を書いていましたが、作風を転じるきっかけと言えるのが1990年に発表された本書です。探検ブームのヴィクトリア朝英国を背景にした、シリーズ探偵の登場しない歴史本格派推理小説です。時代描写は事前に想像したほど濃厚ではありませんがそれを補ってあり余るのが人物描写と彼らが織り成す人間ドラマで、中盤まではミステリーらしくない展開ながら全くだれません。フーダニットとハウダニットの謎解き、そして2人の女性の間で右往左往する語り手(笑)の物語がバランスよく構成されています。カーやクリスティーの某作品で使われている仕掛けが採用されていますが、大胆に提示しながら同時に巧妙にカモフラージュされています。 |
No.522 | 5点 | 推定相続人- ヘンリー・ウエイド | 2014/09/10 09:12 |
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(ネタバレなしです) この作者には「塩沢地の霧」(1933年)や「死はあまりにも早く」(1953年)のようにいかにも犯人らしい人物を堂々と登場させながら肝心の犯行場面はわざと曖昧に描写する、「半倒叙」スタイルの作品がありますが、1935年発表の本書ははっきりと犯行場面を描いて犯人の正体を明かした犯罪小説です。残念ながら他の作品のようには警察による捜査や推理をほとんど描いておらず謎解きの面白さはありませんが、作中に潜ませた伏線が最終章での意外な結末につながるところはこの作者らしい巧妙さを感じさせます(本格派推理小説としての意外性ではありませんが)。最後の一行の緊迫感もお見事です。 |
No.521 | 5点 | アキテーヌ城の殺人- ナンシー・リヴィングストン | 2014/09/09 13:47 |
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(ネタバレなしです) ナンシー・リヴィングストン(1935-1994)は女優やステュワーデス、TV番組制作会社勤務といった多彩な経歴を持っている英国の推理小説家で、趣味である高級絵画を買うために探偵をしているという名探偵ミスター・プリングルの登場する本格派推理小説のシリーズを書いていますが、デビューが遅かったためか作品数は多くないとのことです。1985年発表の本書がそのデビュー作ですが、殺人が起きるのも名探偵役のプリングルが登場するのも物語が3分の1ぐらい進んでからです。そこに至るまでは変な人物が次々に登場してはどこかピントがずれているような言動を繰り返してばかりでとても読みづらかったです。中盤以降はようやくまともに謎解き小説らしくなりますが、結末があれでよかったのかと考えさせるような内容で、好き嫌いが分かれそうな作品です。 |
No.520 | 6点 | 雪と罪の季節- パトリシア・モイーズ | 2014/09/09 12:58 |
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(ネタバレなしです) 1971年発表のティベットシリーズ第10作の本格派推理小説で、秋のスイスと冬のスイスが描かれていており、スイス料理のラクレット描写が実に美味しそうです。解決はやや駆け足気味ですが、3人の女性が交代で語り手役を務めているのがプロットの工夫になっており、ちょっと変わった趣向のタイムリミット・サスペンスが実にいい効果を演出しています。 |
No.519 | 5点 | サクソンの司教冠- ピーター・トレメイン | 2014/09/09 12:10 |
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(ネタバレなしです) 1995年発表の修道女フィデルマシリーズ第2作です。巻末の訳注を読むと、被害者のウィガードが実在の人物だったことに驚きます(史実では病死のようです)。前半は地道な捜査場面に終始していてあまり面白くなく、時代性もローマという舞台もそれほど活かされていないように感じました。後半はようやく物語のテンポが上がり、ある人物の意外な素性(犯人の正体のことではない)には驚きました。ところで若竹七海による創元推理文庫版の巻末解説はどうも本書を素直にほめていない印象を受けるのですが、よくこの内容で出版社が掲載にOK出しましたね。「くどすぎたり長すぎたりする」という指摘には個人的には賛同しますけど(笑)。 |
No.518 | 5点 | 視聴率の殺人- ウィリアム・L・デアンドリア | 2014/09/09 12:02 |
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(ネタバレなしです) 米国のウィリアム・L・デアンドリア(1952-1996)はエラリー・クイーンにあこがれてミステリー作家となった人物で、夫人のオレイニア・パパゾグロウ(ジェーン・ハッダム)もミステリー作家です。本書は1978年発表のデビュー作ですが、軽いハードボイルド風な味付けがしてあってクイーンよりもネロ・ウルフを連想しました。軽快で読みやすい文章で書かれていますがめりはりに乏しく、深刻な場面でもあっさり流れてしまうきらいがあります。また主人公のマットのキャラクターは気さくでスマートな面を見せながらも、ある作中人物から指摘されたように「つくりものの丁寧な態度が見え透いている」ところがあるので読者の共感を集めれるか微妙かもしれません。専門的知識が必要なトリックが使われていますがトリックのみに頼った作品ではなく、プロットは意外と複雑です。 |
No.517 | 5点 | ミントの香りは危険がいっぱい- ローラ・チャイルズ | 2014/09/09 11:30 |
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(ネタバレなしです) 2011年発表のシリーズ第11作の本書は500ページ近くあってこのシリーズとしては大作の部類ですが、他のシリーズ作品と比べても別に読みにくさを感じさせないスムーズな語り口には感心します。謎解きとしては前作の「ウーロンと仮面舞踏会の夜」(2009年)と同じく、そこそこ意外性を意識した結末が待っているのですが謎解き伏線が十分でないので、これならいくらだって意外な結末を用意できるだろうと不満が増えてしまうような気もします(もちろん平凡な結末に終わるよりはいいのですけど)。 |
No.516 | 5点 | ロンドン橋が落ちる- ジョン・ディクスン・カー | 2014/09/09 11:16 |
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(ネタバレなしです) 1962年発表の本書は作中時代を1757年に設定した歴史本格派推理小説ですが、冒険小説の要素も強いことやニューゲイト監獄が登場するところなどが「ニューゲイトの花嫁」(1950年)を連想させます(作中時代が異なるので登場人物はダブリません)。冒頭場面が既に冒険の途中みたいになっており、後になってからどういう経緯になっていたかが説明される展開なのでわかりにくく、そのためかジェフリーとペッグの心理葛藤もどちらに肩入れすればいいのか悩みます。ブルース・アレグザンダーのミステリーで主役を務めているジョン・フィールディング判事が本書で登場しており、どう扱われているのかが注目です(書かれたのは本書の方が先です)。謎解きはトリックが冴えないのが残念です。近代を舞台にした「引き潮の魔女」(1961年)に比べるとさすがに歴史ミステリーならではの雰囲気がよく描けています。昔はロンドン橋の上に住居があったなんてのは新鮮な情報でした。 |
No.515 | 6点 | 殺人の朝- コリン・ロバートスン | 2014/09/08 19:06 |
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(ネタバレなしです) 英国のコリン・ロバートスン(1906-1980)はマイケル・イネス、ニコラス・ブレイク、クリスチアナ・ブランドといった英国本格派推理小説界の実力者たちと同世代の作家ですが、本格派からハードボイルド、スパイ・スリラーと何でも屋的に書きまくったことや通俗的な文体が災いしたか50冊を超す多作家ながら20世紀に日本へ翻訳された作品は1957年発表のブラッドリー警視シリーズ第1作の本書のみでした。確かに文体は通俗的で人物描写に深みもありませんがクライム・クラブ版の古い翻訳が全くハンデにならないほど読みやすいです。何よりも第一部は犯罪小説、第二部は倒叙推理小説、そして第三部は犯人当て本格派推理小説とこだわりの三部構成の妙が光る作品です。これで犯人を示す手掛かりをもう少し読者に対してフェアに提示できていればかなりの傑作になったと思いますが一読して損はしない作品だと思います。 |