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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.734 6点 振飛車殺人事件- 山村正夫 2015/08/12 17:20
(ネタバレなしです) 女流棋士の小柳カオリ四段を探偵役にした本格派推理小説の中編を3作まとめて1977年発表の中編集です。どの作品も将棋が関連しますがそれでいて将棋に詳しくない読者(私もそう)が退屈しないようにちゃんと配慮された謎解きに仕上がっています。「振飛車殺人事件」はトリックが時代の古さを感じさせてしまい、カオリの最初の事件ということ以外には価値を見出しにくいですが残りの2作品はなかなか楽しめました。「詰将棋殺人事件」の人間消失と郵便アリバイ(珍しい)、「棒銀殺人事件」はアリバイ崩しに加えて登場人物の性格分析が特徴となっています。

No.733 5点 龍神池の殺人- 篠田秀幸 2015/08/12 16:24
(ネタバレなしです) 2004年発表の弥生原公彦シリーズ第8作の本格派推理小説です。恒例の「読者への挑戦状」が2回も用意されており、最初の挑戦状で謎を解ければ名探偵級、2回目で真相にたどりつけば準名探偵級と読者を挑発します。ヴァン・ダインの「ドラゴン殺人事件」(1933年)のパロディー要素が強い作品で、ぜひヴァン・ダイン作品を先に読んでおく事を勧めます。ただせっかくヴァン・ダインを意識しているのに、「ヴァン・ダインの二十則」(1928年)を破っている謎解きがあったのはちょっと残念でした。

No.732 6点 札幌・オホーツク 逆転の殺人- 深谷忠記 2015/08/12 16:16
(ネタバレなしです) 2000年発表の壮&美緒シリーズ第32作で、逆転シリーズ第7作でもあります。この作者はアリバイ崩しに定評があり、それゆえ犯人当ての楽しみを犠牲にしてしまうことも多いのですが本書は最終章まで犯人の正体を隠すことに成功しています。犯人当てとしては容疑者の数が少なくて当て易いですが、丁寧に謎解き伏線を張った良作です。ですがこういう犯人当て作品が「異色作」と評価されてしまうのは作者にとって本意なんでしょうか?フーダニットでなければ本格派推理小説に非ずとまで過激な主張をする気はありませんけれど、やはり犯人当ては本格派の王道路線だと思うので個人的には今後もこういう作品をどんどん書いてほしいです。余談ですが私は犯人を当てられませんでした。

No.731 5点 奇跡島の不思議- 二階堂黎人 2015/08/12 15:48
(ネタバレなしです)  1996年発表の本格派推理小説です。密室殺人もありますがその扱いはあっさりしています。犯人当てに真っ向から取り組む一方で誰が謎を解くのかという、探偵役を最後まで特定しないプロットになっています(といってもそちらに関してはかなりわかりやすいと思いますが)。舞台設定はアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)や綾辻行人の館シリーズの影響が大変濃い作品です。ただトリックよりも犯人当てにこだわった作品としてはこの真相は不満があります(ネタバレになるので理由を書けませんが)。死体の演出が派手なのはこの作者らしいですがそれでも二階堂蘭子シリーズ作品に比べると描写は控えめで、意外と読みやすいです。

No.730 6点 ムーンフラワー- ビヴァリイ・ニコルズ 2015/08/12 15:33
(ネタバレなしです) 1955年発表のホレイショ・グリーンシリーズ第2作で、グリーンが気絶するシーンが挿入されたり(探偵が殴打されるお決まりパターンではありません)、舞台が南米に移ったりとプロットは前作「消えた街燈」(1954年)以上に大胆になった感じがします。メイントリックは現代の捜査技術の前ではおそらく通用しないようにも思えますが(でも1990年代の某米国女性作家の作品でも類似トリックが使われてましたね)なかなかユニークです。「消えた街燈」と同じくハヤカワポケットブック版の半世紀以上前の翻訳が読みにくいのが残念です。

No.729 5点 五つの死の宝石- ジョン・ボール 2015/08/12 15:11
(ネタバレなしです)  1972年発表のヴァージル・ティッブスシリ-ズ第4作です。これまでのシリーズ作品でも社会からの差別待遇と向き合う人物としてティッブス自身やヌーディストの家族が登場していましたが、本書にも日本人と黒人のハーフ(ハヤカワポケットブック版では「アイノコ」という表現が使われています)の女性が登場します。ティッブスのように処世術に長けているわけでもなく、家族同士の支えあいもない境遇のためかこの女性は耐え忍ぶタイプの目立たない人物として描かれており、そこにリアリティーは感じるものの、物語全体としては何とも暗く地味になってしまいました。また事件の陰に麻薬(しかも国家絡みの犯罪さえ匂わせている)が浮かび上がるプロットは本格派推理小説好きの私にはちょっと肌が合いませんでした。最後は推理で締め括っているところは評価すべきでしょうが、ティッブスの推理は最初の登場場面こそシャーロック・ホームズ風の鮮やかさが印象的でしたが、「何も証拠はありません」と説明しているように犯人を絞り込む段階ではかなり苦しい推理になってしまいました。

No.728 9点 幽霊の2/3- ヘレン・マクロイ 2015/08/12 14:54
(ネタバレなしです) 1956年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第11作です。1940年代後半あたりから作品がサスペンス小説中心になってきたと言われるマクロイですが、本書は本格派推理小説でしかも1級品です。さりげなく、しかし印象的に描かれる登場人物間の利害関係や第13章での疑問一覧リストなどわくわくさせる謎解きに加えて、9章では作家が成功する秘訣を語らせたり10章では推理小説をこき下ろしたりとビブリオミステリーとしても面白いです。最初に本書を手に取ったときには「?」と思わせるタイトルでしたが、読んでみると実に意味深だったとことに気づかされます。

No.727 5点 フクロウは夜ふかしをする- コリン・ホルト・ソーヤー 2015/08/12 14:42
(ネタバレなしです)  1992年発表のコージー派の本格派作品です。シリーズも3作目ともなりますとアンジェラやキャレドニア以外のシリーズ脇役も個性を発揮してきて、サブストーリーの楽しさがさらに増えたような気がします。ただそのためか謎解きとしての面白さは後退したようにも思えます。登場人物は多いけれどおなじみの面々を除くと犯人候補が少なく、真相は見当がつき易いです。コージー派なんだから楽しければそれでいいじゃないかという人もいるでしょうが、私はこの作家には楽しくてかつ謎解きもしっかりしているコージー派を目指してほしいなあ。謎解きに関しては本格派黄金時代の某有名作品のトリックが再利用されているのが印象に残りました。

No.726 6点 青ひげの花嫁- カーター・ディクスン 2015/08/12 12:20
(ネタバレなしです) 1946年発表のH・M卿シリーズ第16作の本格派推理小説で、お笑いの場面もありますが全般的には暗くて不気味な雰囲気濃厚な作品になっており、これでオカルト要素を織り込んでいたら初期作品といっても通用したかもしれません。サスペンス濃厚な展開はとても読み応えがありますが、新たな犠牲者になりそうな女性の描写が精彩を欠いているのと謎解きがこの作者にしては平凡過ぎるのが惜しいです。

No.725 7点 五番目のコード- D・M・ディヴァイン 2015/08/12 12:02
(ネタバレなしです) 1967年発表のミステリー第6作で後にはイタリアで映画化もされた本格派推理小説です。無差別連続殺人事件を扱ったアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」(1935年)を下敷きにしながらも色々な工夫を織り込み、単なる二番煎じには終わらせていません。騙しのテクニックに走り過ぎた感もありますがよくできた本格派推理小説だと思います。登場人物描写も相変わらず素晴らしく、特に主人公役のジェレミーの情けなさとその成長ぶりが絶妙です(変な誉め方だ)。

No.724 5点 リモート・コントロール- ハリー・カーマイケル 2015/08/12 10:11
(ネタバレなしです) 1970年発表のジョン・バイパー&クインシリーズの本格派推理小説です。クインが事件に巻き込まれ、警察から重要容疑者扱いされます。読者(とジョン・バイパー)から見ればクインが犯人でないのは明らかですが、微妙な状況証拠が捜査をややこしくします。単純な事件のようですが結構手の込んだ仕掛けが用意されています。ただこの種の真相はアンフェアと感じる読者もいると思います。アンフェア感を減らすためにももっと推理説明を丁寧にしていればよかったと思います。

No.723 4点 QED ~ventus~ 熊野の残照- 高田崇史 2015/08/11 17:52
(ネタバレなしです) 2005年発表の桑原崇シリーズ第10作で、シリーズ第8作の「QED ~ventus~ 鎌倉の闇」(2004年)と同じくventus(ラテン語で「風」のこと)をタイトルに使っていますが作品同士の関連性はなく、読む順番もどちらが先でも差し支えありません。現代の謎については語り手の昔の秘密が時々ほのめかされている程度で、シリーズ作品の中でも最も薄味な謎解きにしか感じませんでした(推理も論理的ではありません)。歴史の謎はさすがにこの作者ならではの凝りようですが、今回の熊野の神話というテーマが過去作品の坂本龍馬や源頼朝、或いは竹取物語などと比べると(個人的に)馴染みのない題材のため、読み進めるのがいつにも増して苦痛でした。

No.722 5点 シャダーズ- アンソニー・アボット 2015/08/11 16:18
(ネタバレなしです) 1943年発表のサッチャー・コルトシリーズ第8作でシリーズ最終作の本格派推理小説です。名探偵と怪人物の対決という図式は発表当時さえ古臭さを感じさせたのではないでしょうか。典型的なハウダニットミステリーかと思って読みましたが、殺害トリック以外にも意外な真実が用意されていました。もっともそれを支える仕掛けはあまりにも無茶苦茶です。殺害トリックの方も無茶苦茶です。説得力はまるでない破天荒な謎解きですが、サスペンスは豊かで読みやすいです。登場人物がやたら多く、複雑なプロットの最近のミステリーに疲れた場合には清涼剤代わりに本書みたいな作品を読むのもいいかも。

No.721 6点 永久の別れのために- エドマンド・クリスピン 2015/08/11 15:49
(ネタバレなしです) 英国のエドマンド・クリスピン(1921-1978)は1944年のデビュー以来、ほぼ年1作の安定したペースで作品を発表してきましたが長編第8作にあたる本書を1951年に発表後、長期間沈黙します。次作が発表されたのは何と1977年です。作家業以外の仕事が多忙になったためとも言われますが本格派推理小説ファンとしては実に残念なことです。さて本書は特別に不可能性を強調しているわけではありませんが凶器のアリバイが成立するという変わった謎が扱われ、意外なトリックが使われているのが印象的です。

No.720 6点 ウエディング・プランナーは眠れない- ローラ・ダラム 2015/08/11 14:53
(ネタバレなしです) 米国の女性作家ローラ・ダラムは自身がウエディング・プランナーで、3年連続で「ワシントンでNo.1のウエディング・コンサルタント」に選ばれているキャリアを持っています。2005年に書かれたミステリー第1作の本書はコージー派の本格派推理小説で、証拠としての決定力ではやや弱いながらも謎解きの伏線をしっかり張ってあります。なお本筋とは関係ありませんが結婚式の手配の大変さの描写ではドナ・アンドリュースの「庭に孔雀、裏には死体」(1997年)の方がはるかに凄かったですが、まあこちらのアナベルはその道のプロなのでこの程度ですんだということで納得しました(笑)。

No.719 6点 聖なる森- ルース・レンデル 2015/08/11 14:32
(ネタバレなしです) 登場人物がやたら多いミステリーというとマイケル・イネスの「ハムレット復讐せよ」(1937年)やヒラリー・ウォーの「冷えきった週末」(1965年)あたりを思い出しますが、1997年発表のウェクスフォードシリーズ第17作の本書も負けていません。ハヤカワポケットブック版を開くと3ページにわたる登場人物リスト(実に47人)が目に飛び込んできて、私は思わずページを閉じました(笑)。しかしその割には意外とさくさく読めました。誘拐犯グループ対警察組織という、警察小説に近いミステリーですが最後にウェクスフォードによる謎解き説明があるなど本格派推理小説の要素も残しています。謎解き伏線もそれなりに張ってあります。

No.718 6点 萩・殺人迷路- 長井彬 2015/08/11 14:00
(ネタバレなしです) 1987年発表の長編第10作の本格派推理小説です。なかなか複雑なプロットで、動機、機会、手段の内、主に機会から犯人を推理していくのですがこの人しか犯人はいないのではという状況になってもなお謎が多く残っており、読者はどこか釈然としないまま最終章を迎えることになります。真相を追いかける探偵コンビの結束力が時々微妙なほころびを見せているのもプロットにメリハリを付けている点で巧妙です。もやもや感と緻密な謎解きを上手く両立させていると思います。

No.717 5点 綺羅の柩- 篠田真由美 2015/08/11 13:20
(ネタバレなしです) 2002年発表の桜井京介シリーズ第9作です。メインの謎解きが失踪事件というのは本格派推理小説のネタとしては弱みになりやすいのですが、本書は謎解きよりも人間ドラマに力を入れているようなところがあるのでそれほど問題にはならず退屈はしませんでした。ただ一方で霊能者(?)や密室といった古典的な本格派推理小説でよく使われた材料を用意しながらもそれらを十全に扱えていないような印象も受けました。

No.716 4点 黄金の鍵- 高木彬光 2015/08/11 12:05
(ネタバレなしです) 1960年代の創作が社会派推理小説、法廷ミステリー中心だった高木彬光が「時には昔の探偵小説、ロマンの世界も恋しくなる」と久しぶりに本格派推理小説を意識して書いた作品が1970年発表の本書です。探偵役の墨野隴人はもちろんバロネス・オルツィの「隅の老人」から派生した名前であり、全部で長編5作のシリーズとなりました(墨野の正体は後年の作品で明らかになっていきます)。さて本書は本格派推理小説ではあるのですが、歴史の謎解きと現代犯罪の謎解きを扱っています。どちらかといえば前者(小栗上野介の埋蔵金伝説)の謎解きの方に力を入れているように思えますが、この作者の文体だとあまりロマンの香りは感じられません。また現代犯罪の謎解きでは個人的には感心できないトリックが使われています。本格派推理小説の復権を目指したいという作者の姿勢は高く評価できますが、出来栄えはプロットを無用に複雑にしただけの作品という印象を受けました。

No.715 6点 四つの兇器- ジョン・ディクスン・カー 2015/08/11 10:36
(ネタバレなしです) アンリ・バンコランシリーズの「蝋人形館の殺人」(1932年)を書いた後、カー作品のシリーズ探偵はフェル博士へと交代するのですが1937年にバンコランシリーズ第5作の本書を唐突に発表しました(これがシリーズ最終作です)。ここでのバンコランは引退した身の上でアマチュア探偵(といっても経験豊富)になっているのが特徴です。カーが得意とした不可能犯罪もオカルト要素もありませんが複雑な人間関係、アリバイ調べ、様々な小道具(本当の手掛かりか偽の手掛かりか容易にはわからない)、そしてどんでん返しの連続が圧倒的な謎解きと、本格派推理小説としての密度は非常に濃いです。ハヤカワポケットブック版が半世紀以上も前の古い翻訳なので、新訳版が待ち望まれます。⇒(後記)2019年に新訳での創元推理文庫版が登場です。万歳!

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)