皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.28 | 5点 | 華やかな野獣- 横溝正史 | 2023/09/16 18:41 |
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中編の表題作の他に長めの短篇2編が収録されています。
表題作は、クイーンの某長編と同じアイディアが使われています。殺人現場からあるものがなくなっていることがわかった時点で、ひょっとしたらとは思いました。本作の方が2件目の殺人を組み込むことで複雑化していますが、そのため犯人の行動が妙に面倒になっているのが難点と言えるでしょう。ダイイング・メッセージも使われていますが、これはどうということもありません。 『暗闇の中の猫』がまた、クイーンの某短編を思わせる事件です。しかし銃殺される直前の被害者の行動が不確定という論理的欠陥はあります。なお、金田一耕助と等々力警部が初めて出会った事件で、みんな金田一さんと呼んでいますが、作者のうっかりミスでしょうか、ある登場人物が「金田一先生」と呼んでいるところがあります。 『眠れる花嫁』にもクイーンの有名作と共通する部分が一ヶ所あります。 |
No.27 | 6点 | 空蝉処女- 横溝正史 | 2022/09/15 20:23 |
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表題作等9編の短編を収めています。
最初の表題作と次の『玩具店の殺人』は戦後間もなくの作品ですが、表題作は1980年台になって原稿が発見された、それまで未発表だった作品です。耽美的な冒頭に人情的なオチをつけた雰囲気のいい作品で、巻末解説で中島河太郎は『鬼火』『かいやぐら物語』と比較しています。『玩具店の殺人』は殺人が起こるまでのユーモラスなところの方が楽しめます。 その後、宇津木俊助が登場する『菊花殺人事件』、由利・三津木の『三行広告事件』は戦時中の作品で、時局に合わせたスパイものです。『三行広告』の方がよくできています。 残り5編は『鬼火』などより前に発表された作品ばかりで、ほとんどは軽妙さが売り物という感じです。『帰れるお類』はミステリとは言いがたい作品。『路傍の人』はシリーズもの第1作めいた文で締めくくっていますが、続編はあるのでしょうか。 |
No.26 | 5点 | 死神の矢- 横溝正史 | 2021/10/29 22:55 |
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犯人設定と事件の構造自体は、おもしろいアイディアだと思います。さらに事件を難解化する原因となったある偶然も、ご都合主義というほどでもありません。
ただ、その設定にはかなり無理やりなところがあります。連続殺人の動機として、被害者の人物設定だけでなく殺意を抱く側の人格も考えると、これは無茶でしょう。また、上記偶然がなかった場合を考えると、最初の犯行は無謀としか言いようがありません。そもそも事件の発端となった古舘博士による婿選び自体、なんでそんなことをしたかという疑問への答は明確に示されていないのです。この犯人設定なら、殺人は1件だけにした方がよかったのではと思えました。元の短編がどうなっていたのかは知らないのですが。 角川文庫版に併録されている『蝙蝠と蛞蝓』は一人称の語り口がなんともユーモラス。「蝙蝠は益鳥である」って、蝙蝠は哺乳類なんですけど。 |
No.25 | 6点 | 血蝙蝠- 横溝正史 | 2021/08/22 17:09 |
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昭和13~16年に発表された短編をまとめたものです。
最初の『花火から出た話』はかぐや姫的な婿選び話に偶然主人公が絡んでくる冒険小説、最後の『二千六百万年後』はタイトルからもわかるとおりウェルズの『タイムマシン』的なSFですが、その他の7編は多かれ少なかれ明確に謎解き要素を持ったミステリになっています。 特に由利先生シリーズの2作は、完全にパズラー系。表題作はわざわざ不可能犯罪にして見せる理由がないのが気になりましたが、蝙蝠の手掛かりにはなるほどと思わせられますし、『銀色の舞踏靴』も最初の部分に少々無理はあるものの海外某有名長編のヴァリエーションとしては悪くありません。 しかし最も気に入ったのは『恋慕猿』でした。由利先生の2作ほどの意外性はありませんが、サスペンスも効いていて、完成度が高いと思います。ただ本全体のタイトルには向きませんね。 |
No.24 | 5点 | 悪魔の百唇譜- 横溝正史 | 2021/06/27 00:13 |
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これも久々の再読ですが、タイトルの意味と自動車が停められていた場所からの推理以外は、全く記憶に残っていませんでした。最初の被害者の夫として中国人の実業家が登場しますが、むろんフー・マンチュー的なところは全くなく、性格的に若干問題点はあっても、温厚な紳士です。
以前読んだ時はあまり感心せず、本サイトでも評判の良くない作品ですが、再読してみると、事件の全体構造は意外に複雑でしっかりできていると思いました。ただ後半、収束の仕方が雑で、最後の金田一耕助の推理も、全然盛り上がらないのです。ある人物の証言の中に出てくる伏線も、推理の中では言及されません。「いまわしい」とか「まがまがしさ」とかいった言葉も、確かに事件の裏にある百唇譜(実際には36枚)は不快なものなのですが、実感を伴いません。そのあたりはもっとさらりと書いて、真相解明部分を工夫すれば、いい作品になったのではないかと思えました。 |
No.23 | 6点 | 病院坂の首縊りの家- 横溝正史 | 2020/06/04 23:09 |
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本サイトではあまり評判の良くない本作ですが、久しぶりに再読してみると、かなり楽しめました。確かに、心理的あるいは叙述系トリックならともかく、単純な物理的トリックの再使用には、がっかりさせられるだけかもしれません。それにしても、元の作品名までちゃんと明記した上で、その作品を読んだ犯人が、本当にうまくいくかどうか実験してみた上で実行しているというのが、苦笑させられます。横正先生自身も「序詞」の独白部分だけでなく、途中に一人称形式で登場して、しかも重要な証拠を見つけるというのも笑えます。
しかし。別にユーモアを重視した作品というわけではなく、全体の構成には重苦しい悲劇性があり、本作の読みどころはまさにそこでしょう。個人的には最後の金田一耕助と弥生との会見と、その後の「拾遺」での墓地での会話が、なかなか感動的だと思いました。 |
No.22 | 6点 | 横溝正史探偵小説選Ⅰ- 横溝正史 | 2020/01/31 22:38 |
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探偵小説選となっていますが、実際には後1/3近くの分量がエッセイです。しかし読んでみると、横溝正史はやはり学術的な文章より芸術的な小説の方が、はるかにいいと思いました。
その小説の方ですが、冒頭の『霧の中の出来事』は新発見の「微笑小説」。続いて『水晶の栓』と『奇岩城』を自由に翻案して中編にまとめたものがあり、その後も戦前の作品を中心とした21編のうち、単行本初収録作が19編という、珍しい作品ばかり集めた選集になっています。中には本当に横溝正史作か疑問のあるものも含まれています。 エッセイ集の最初に『ビーストンの面白さ』が収められていますが、なるほど、ビーストンを思わせる短編がいくつも入っています。『化学教室の怪火』『十二時前後』等初期の謎解き系から『卵と結婚』『お尻を叩く話』等ミステリでないヨタ話まで、有名作はデビュー作『恐ろしきエイプリル・フール』だけですが、なかなか楽しめました。 |
No.21 | 6点 | 毒の矢- 横溝正史 | 2019/10/01 20:18 |
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中編に加筆した作品だそうで、サスペンス重視の通俗的なものではなく、200ページ弱でほどよくまとまった純粋なパズラーになっています。殺人トリックそのものは、英国有名作家の映画化もされた作品とそっくりですが、背中に彫られたトランプの刺青という作者らしい趣向をうまく利用して、さらに重要手掛かりにもしているところが評価できます。ただこの手がかりの与え方は、少々不自然かなとは思えますが。町中にばらまかれる匿名の手紙の動機も、一応納得できる形にしていますし、金田一耕助が殺人事件発生の当夜に事件を解決してしまうという名探偵らしさを見せてくれるのも好印象です。
角川文庫版には、同じ世田谷区緑ヶ丘を舞台にした中編『黒い翼』を併録しています。表題作の原型中編と連続して雑誌に発表されたそうで、テーマ的にも「幸運の手紙」系の葉書という表題作と似たものです。 |
No.20 | 6点 | 迷路荘の惨劇- 横溝正史 | 2019/07/03 20:03 |
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原型の中編『迷路荘の怪人』を読んでいないので、どこをどのように膨らませたのかはわかりませんが、確かに最初の殺人のアイディアを中心にして、さらに様々な要素を継ぎ足していったという感じのする作品でした。いかにも作者らしい要素の詰め込み方は、なんとなく自己模倣的にも思えます。それでも抜け穴や自然にできた洞窟の探検など、やはりおもしろく読ませてくれるからいいのですが。
時代設定は1950年秋。作中ではフルートに絡んで『悪魔が来りて笛を吹く』が何度か言及されています。本作でもフルートの音が「重要な決め手」になることは予告されていて、最後の「大団円」章でその所以が明かされます。 前半、殺人が起こった後は関係者からの事情聴取が延々続くところが、その手順で状況を少しずつ明らかにしていく手際のうまいクイーンやクリスティーに比べると、退屈でした。 |
No.19 | 7点 | 三つ首塔- 横溝正史 | 2019/04/30 08:00 |
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横溝正史が昭和30年台初頭に発表した長編は、『悪魔の手毬唄』を除くとほぼ通俗的な作品ばかりですが、その中でも群を抜いて有名なのが本作です。
同時期他作品と比べても謎解き要素は少ないというか、フーダニット的な謎に読者の注意が向かわないような目まぐるしいストーリー展開で、その点スリラーとして一貫性があって、全体として成功した作品だと言えます。ヒロイン音禰の視点というだけでなく、全編彼女の一人称形式で書かれていますが、この叙述形式は小説として重要だと思います。冒頭の三つ首塔にたどり着いたシーンからの回想で書き進められ、最後の舞台に臨む現在に至った時点で「できるだけ赤裸々に、じぶんの自分の心象なども書きつづけてきた」(「法然和尚」の章)という小説構成です。 金田一耕助が登場する必要もないような話で、実際出番もほとんどありませんが、一応はヒロインたちを最後に救出する役割で… |
No.18 | 6点 | 幽霊男- 横溝正史 | 2018/11/09 23:25 |
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最後の金田一耕助による謎解き部分を除くと、ほとんど乱歩の『蜘蛛男』系通俗猟奇サスペンスといった感じの作品です。それをかなり論理的に辻褄合わせしてくれるところが、最も意外だったかな…ただ、りゅうさんが<若干のネタバレ>として書かれている部分も、最後の推理の中で言及してくれると、もっと説得力を増したのだがと思えます。作者自身、伏線とするつもりだったのをうっかり忘れていたのでしょうか。
謎解き的には、クイーンの某過渡期作品とも共通する犯人隠匿のアイディア、第2の殺人における犯人が仕掛けたトリックがメインになり、さらに後者における偶然の出来事が重要な手がかりにもなっています。 途中マダムXが登場する活劇部分やストリップ劇場での殺人演出など、ご都合主義も目立ちますが、あまり知られていない正史作品中では佳作と言えます。 |
No.17 | 7点 | 塙侯爵一家- 横溝正史 | 2017/12/17 23:17 |
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読んだ角川文庫版には、戦前の中編が2編収録されています。
1932年7月から雑誌「新青年」に連載された表題作については、作者自身「何か本当のものを書きたい」という意気込みを予告の中で述べているぐらいで、確かにスケールの大きな気合の入った作品になっています。同年5月に犬養首相暗殺事件が起こった時代背景も取り入れられていて、クーデター的なことを企む組織の幹部の一人である畔沢大佐が、主人公を傀儡として使おうしている中、塙(ばん)侯爵殺人事件が起こる話です。とは言え、そこは横正、組織の政治的立場等については一切触れていません。組織の計画のどんでん返しより、殺人事件の犯人の意外性に驚かされます。論理的な穴はいろいろありますが、楽しめました。 女性雑誌に発表された『孔雀夫人』は、真相はわかりやすいですし、ラストはご都合主義ですが、すっきりまとまったサスペンスものになっていました。 |
No.16 | 8点 | 悪魔の手毬唄- 横溝正史 | 2016/09/06 21:54 |
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言わずと知れた横溝正史の代表作のひとつ。久々に再読したところ、最初に読んだ時以上に楽しめました。いや、楽しめたというより、じっくり味わえたという感じがします。
プロローグで放庵による「鬼首村手毬唄考」を紹介し、読者にだけは連続殺人の見立ての意味をあらかじめ知らせておくという構成がとられています。以下、少々乱暴な私見ですが…その古い唄に出てくる3人の娘がちょうど犯人が殺したかった3人に一致したというのは、あまりに偶然すぎるように思えます。しかし、これは放庵が書いたものですから、途中で五百子婆さんが歌うものと違った部分があることを考えると、3番は実は1・2番で歌われる娘の偶然を利用した、放庵の創作かもしれず、だとすると偶然性はかなり軽減されます。五百子婆さんは実際には放庵の文章全体を自分では読んでいないのですから、この説も否定できないと思われます。 |
No.15 | 7点 | 女王蜂- 横溝正史 | 2016/04/12 22:03 |
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久々の再読ですが、なかなかよかったという印象は残っていたものの、実際に覚えていたのは中心人物が絶世の美女(女王蜂)であることと、本作最大の謎である「蝙蝠」の意味だけでした。
チェスタトンの某短編のヴァリエーション・トリックはあるものの、他の2つのアイディア、時計の問題と19年前の密室については、犯人が特に意図したところではなかったにもかかわらず、特異な状況が起こってしまったというものです。こういう偶然を利用したタイプの解決を嫌う人もいるかと思いますが、個人的には犯人がややこしい計画をひねくりまわすのよりも好みです。ただ時計の方は途中であっさり明かしてしまっています。 月琴島、伊豆半島、東京と広範囲を舞台とした読みごたえのある作品に仕上がっていますが、途中で気づいたいくつかの伏線が、金田一耕助の推理の中に出てこないのは不満でした。 |
No.14 | 5点 | 扉の影の女- 横溝正史 | 2015/08/13 11:56 |
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かなり以前に読んだ時には凡庸な印象しか受けなくて、内容をほとんど忘れてしまっていたのですが、再読してみると、自分の嗜好が変わってきたこともあってか、そんなに悪くないと思いました。
「この物語は人生にまま起こる不思議な運命の十字路を語るのが目的だった」とは本作最終章の書き出し部分で、その「運命の十字路」の顛末は金田一耕助が筋道立てて説明しているのですから、その時点で本格派ミステリにはなっていると思うのです。その後についてはノックスやヴァン・ダインの原則に違反していますが、事件の最大の謎が名探偵によって解かれた後は、最終章表題どおり「蛇足」と言ってもいいでしょう。 文庫本240ページ程度と短めな本作は短編を膨らませたものだそうで、事件は地味で小味ですし、偶然過ぎると批判する人がいても当然かもしれませんが、それなりに楽しめました。 |
No.13 | 6点 | 迷路の花嫁- 横溝正史 | 2014/05/22 22:38 |
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真相は微妙でした。小説構成から考えると、意外であると同時に非常に納得できるものになっているのですが、論理的に考えると、ずいぶん安易なのです。まず問題なのは最初に起こる殺人事件で最も疑問を感じさせる部分と、被害者が飼っていた犬の毒殺。カーの某有名作と似たパターンで、実際その可能性もすぐ思い浮かべはしたのですが、本作ではカーと違い動機面の説明が説明になっていません。もうひとつこれがメイントリックというアイディアも、犯人の犯行後のある行動がいかにもご都合主義です。
その解決の説明をする金田一耕助の登場シーンが非常に少ない作品でもあります。全体の2/3以上は主人公の作家による新興宗教教祖への復讐譚になっていて、いつの間にか最初の殺人は脇に追いやられ、スリラーとしての面白さがメインになってきます。そういう作品ですので、真相の不自然さには目をつぶって、この評価。 |
No.12 | 7点 | 白と黒- 横溝正史 | 2013/11/24 22:10 |
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岡山ものでなくても旧家の屋敷等で起こる暗い事件が多い作者にしては珍しく、新築の団地を舞台として現代的(1960年当時の)な明るい雰囲気を意識したことが明らかな作品です。顔のない死体も、新棟建設用のタールをかぶせられるという凄惨ながらも現代的手法です。そのことがいわゆる「社会派」と直接結びつくとは思いませんが、時代に即したリアリティを持つことは間違いありません。ラスト近くなるまではじっくり型であり、ハウダニット要素がないことも含め、カーよりもむしろクイーンを思わせる構成になっています。『犬神家の一族』と何となく共通する事件構造ですが、本作の方が犯人は意外だと思います。
ところで、匿名の手紙に書かれた「どんぐりころころ」の歌詞が間違っているのは、手がかりなのではないかとも思ったのですが、単に作者の勘違いでした。ただし、この手紙については別の点でちょっとした意外性があります。 |
No.11 | 6点 | 悪魔の寵児- 横溝正史 | 2012/01/31 21:12 |
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「ベショベショと」降る「いんきな雨」という表現は、作中何度も繰り返されます。この部分では「陰気」をわざとひらがな表記にしているのが、妙な擬音語とあいまっていかにも通俗的な感じを出しています。
そのような通俗作品の中では、他の方も書かれているとおり、結末の意外性はかなりのもの。有名作の大部分よりもむしろ、犯人は意外なくらいです。それはいいのですが、論理的厳密性に捉われていないからこその意外性とも言えそうなところがちょっと… 論理性については、最後の金田一耕助による説明は推理とも呼べない程度で、アンフェアでもあります。実は途中で、犯人はどのようにしてこのことを正確に知ったのだろう、と疑問に思った点があって、その疑問に解答できれば、犯人の正体の見当もつくのです。ところが、金田一はそのことには一切触れていません。 依頼人風間氏の人物描写がどうにも経済界の大物らしくないのも、不満な点です。 |
No.10 | 4点 | 壷中美人- 横溝正史 | 2011/03/29 23:00 |
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角川文庫版で200ページちょっとの短い作品です。『スペードの女王』や『夜の黒豹』と同じく短編を引き伸ばしたものだそうですが、本作にはそれほどの価値があったかなと思えます。元の短編は読んでいないのですが、ひょっとすると長編化にあたって複雑化したせいでしょうか、犯人の設定が、結末の意外性という点から見てどうもすっきりできないのです。また冒頭で金田一耕助が疑惑を持った壷中美人についての秘密も、そのアイディア自体は悪くないのですが、だからこそこんな殺人事件になったというつながり方が弱いと感じました。
それより、角川文庫版に併録されている長めの短編『廃園の鬼』の方がすぐれています。大胆な計画と人情話的なラストがうまく組み合わさっていて、動機がはっきりしないのはどうかなと思えますが、いい読後感を残します。ただ、タイトルは内容に合っていません。 |
No.9 | 7点 | 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 | 2011/01/23 10:30 |
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謎解きの面から見れば、犯人やトリックの意外性は、この作者の他の有名作品に比べるとたいしたことはありません。他の方も指摘しているように、最初の殺人を密室にする必要も感じません。密室になる段取はまあ納得できますが、血の火焔太鼓なんてややこしいことをし過ぎです。しかもごく早い段階で、紐を使えばなんとか密室にできると言ってしまっているのですから、不可能興味はありません。
ある人物が嘘をついていることは、『本陣殺人事件』や『獄門島』事件を手がけた金田一耕助なら気づいて当然ですが、少なくとも発表当時は一般的でない知識がないとわからないので、フェアとは言えません。 などと悪口を書いてはいますが、小説としての構成はさすがです。晩年の数作を除くと、作者の最も長い作品のひとつですが、冗長さは全く感じられません。最後の殺人も、結局こうならざるを得なかったのだろうなと思えます。 映画やドラマ版は見ていないのですが、実際に作曲されたタイトル曲の演奏を視聴すれば、ラスト・シーンはよりインパクトがあるでしょうね。 |