皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
|
---|---|
平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.13 | 5点 | 最後の女- エラリイ・クイーン | 2009/01/15 21:28 |
---|---|---|---|
冒頭部分は明らかに『顔』のラスト・シーンだと思われますが、同時期の他作品と比べてどちらも普通にフーダニットしている点にも、共通点が感じられます。1960年代になってからのクイーン名義作は、プロットの考案はともかく実際の執筆者が作品によって異なることはよく知られていますが、同じ執筆者(リー自身?)であることを示しているのでしょうか。最新の代作者情報は知らないのですが…
他の手がかりからの推理で真犯人を指摘できた後に、「あれ」は結局犯人を示すダイイング・メッセージだったということがわかるのは、初期のあの名作以来でしょうか。しかし今回のはさすがに無理があります。 ライツヴィルでの事件に、たぶん初めてクイーン警視も登場する作品でもあります。 |
No.12 | 7点 | ガラスの村- エラリイ・クイーン | 2009/01/10 17:39 |
---|---|---|---|
クイーン流社会派ミステリです。事件そのものは、エラリーが登場していたらたぶん半分の長さで解決してしまっていただろうと思える程度のものなのですが、初めていわゆる名探偵を起用しなかった作者の狙いはもちろん別のところにあります。直接的にはマッカーシズム(赤狩り・1950年代前半の過激的反共産主義)批判だということですが、人間がともすれば陥りがちな偏見に対する厳しい視線は、それを超える普遍性を持っていると思います。 |
No.11 | 7点 | 靴に棲む老婆- エラリイ・クイーン | 2009/01/05 22:51 |
---|---|---|---|
童謡(マザーグース)殺人だというので、『僧正殺人事件』や『そして誰もいなくなった』の不気味さを期待していると、気が抜けること間違いありません。文学性にこだわったライツヴィル・シリーズの合間に書かれた本書は、気分転換を図ったとでも言うことなのでしょうか。童謡のメルヘン的な雰囲気があります。軽いタッチなのですが、推理や意外性等、謎解きミステリとしての出来について言えば、この時期のベストでしょう。
「読者への挑戦」をしていたころのクイーンとはやはり違いますが、最後まで楽しく読める作品だと思います。 |
No.10 | 7点 | 中途の家- エラリイ・クイーン | 2008/12/28 18:01 |
---|---|---|---|
『チャイナ橙』『スペイン岬』と続けざまに意表外な謎を提出して、推理もやはりアクロバティックだったクイーンですが、それに続く今作は事件も地味ですし、推理も地道すぎるくらい地道です。タイトルに国名を付けることもやめて、法廷シーンや恋愛劇を織り交ぜ、作風の転換を図ったことがうかがわれます。
凶器のナイフに付いていた指紋に関しては、犯人は殺人の後、ナイフの先で刺したコルクを10本以上ものマッチで焦がしてあることをしているのですから、素手であれば当然たくさんの指紋が付いていなければならないはずだ、という点の指摘は欲しかったですね。 |
No.9 | 5点 | ドラゴンの歯- エラリイ・クイーン | 2008/12/26 21:16 |
---|---|---|---|
エラリーの登場する作品の中でも、知的な謎解きの要素が最も感じられないものだと言っていいでしょう。角川文庫から『許されざる結婚』のタイトルで出ていたこともありますが、内容はまさにそのとおりのものです。
軽いユーモラスなメロドラマ・ミステリとして、複雑な謎や緻密な推理は期待せず気軽に読めば、それなりに楽しめるのではないでしょうか。 |
No.8 | 8点 | 十日間の不思議- エラリイ・クイーン | 2008/12/22 20:24 |
---|---|---|---|
『最後の一撃』に至るまでクイーンがこだわり続けるパターンが最初に現れる長編ですね。殺人事件はなかなか起こりませんし、登場人物はごく限られていて、フーダニットとしてのおもしろさはほとんどありません。起こったことの原因を探る過去指向ベクトルよりも、次に何が起こるのかの未来指向ベクトルの方が大きくなったと言えるのではないでしょうか。
とは言っても、最後はやはり論理的に犯人の計画を解析してくれます。しかし、これが初期のクイーンからは考えられないほど重い。小説の長さもかなりのものですが、このじっくり描きこまれた重量感が魅力的な力作です。 |
No.7 | 8点 | オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン | 2008/12/21 14:56 |
---|---|---|---|
本の中にメモを書ける余白をあけたページを入れるなんて(少なくとも創元推理文庫版は)よくもこんなことやりますね。ホントに何かメモを取る人、いるんでしょうか。生真面目な感じだった前2作に比べ、各章のタイトルの凝り方にしても、知的遊戯を楽しむ余裕が感じられます。
推理プロセスの面白さだけでなく、犯行方法の工夫も見られるようになりましたが、やはり本書の目玉はなんといってもタイトルにもある一足の靴から導き出される推理です。それに対して第2の事件の方では、同一犯人による犯行だとの証明が欠けている点がちょっと弱いのではないかと思いました。 |
No.6 | 8点 | Yの悲劇- エラリイ・クイーン | 2008/12/18 21:45 |
---|---|---|---|
バーナビー・ロス名義で発表されたこの作品の中で、作者はクイーン流推理への自信を表明していますが、実はその推理も含め、いくつか不満のある作品でもあります。
あくまでX、Zに比べればですが、中だるみの印象がありますし、レーン得意の変装が結局活用されないままなのにも拍子抜けしました。さらに、ルイザが犯人に触れたことから導き出される推理についても、レーンが「難しい」と主張していたことは、実際にやってみればわかりますが、簡単にできるのです。 などと文句もつけてみましたが、上記は犯人特定の推理のごく一部ですし、何といっても初期作品群の中では最も重厚感のある本書は、やはり読みごたえ充分です。ラスト数行も、言外の内容を実に鮮やかに伝えているという意味で記憶に残ります。 |
No.5 | 9点 | Xの悲劇- エラリイ・クイーン | 2008/12/14 15:39 |
---|---|---|---|
第1の殺人事件の段階で犯人の見当はついてしまいました。というのも、実は似たアイディアを思いついたことがあったものですから。と思っていたら、続いて起こる事件でさっぱりわけがわからなくなりました。同じパターンのヴァリエーションをクイーンはいくつか書いているのですが、まんまと騙されました。
論理の積み重ねの見事さは、言うまでもないでしょう。ラスト1語に謎解きの最後の1片を当てはめてみせるのは『フランス白粉』と似た趣向ですね。個人的には『Yの悲劇』よりも好きな作品です。 |
No.4 | 8点 | フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン | 2008/12/11 21:12 |
---|---|---|---|
最後に延々40ページにもわたって披露される推理の一部は、既に小説半ばまででクイーン警視に対して説明されているのですが、重複を厭わず、事件関係者全員を集めた場で繰り返されます。好きな人には、このくどいぐらいの論理性がたまらない、ということになります。似たところのある後の『Zの悲劇』では省略されていますね。
ただ、犯人を直接的に指し示す手がかりは2つあるのですが、犯人の名前を言わないままで、それらの手がかりから導き出される推理を述べるところは、さすがにちょっと歯切れが悪くなっていると思います。歯切れが悪くなってでもあえてクイーンがやろうとしたことは、小説のラスト1語(姓・名分ければ2語)で初めて犯人の名前が明かされる、という趣向でした。 |
No.3 | 7点 | 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン | 2008/12/06 19:21 |
---|---|---|---|
『中途の家』で国名シリーズ打ち切り宣言をした直後の作品であり(原題The Door Between)、読者への挑戦もやめるにふさわしい事件でした。日本趣味を取り入れて雰囲気を出したところも、ラストの心理的推理に至る構成も、この後に続く軽めの3長編を飛び越して『災厄の町』以降の作品群につながっていくような印象があります。
この節目の作品でクイーンが初めて挑戦した密室(そうですよね!)のアイディアはまあまあ程度で、だからこそのこの終わり方なのではないかと思えます。 |
No.2 | 6点 | チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン | 2008/12/06 10:54 |
---|---|---|---|
そこまでやるか! と思いながらも、あべこべ殺人を説明する強引な論理には圧倒されました。この何とも奇妙な謎とその解答が本作の最大の(また唯一の?)見所でしょう。ただ、あべこべにしなければならない事態が生じなければ、犯人のある細工は非常に目立っていたはずだというところ、犯人の当初の殺人計画自体に無理があるのが気になります。
国名シリーズの中では、分量的に最も短いわりに、ストーリー的に最も間延びした印象があるのも減点の対象ですね。 |
No.1 | 6点 | ハートの4- エラリイ・クイーン | 2008/12/02 21:31 |
---|---|---|---|
この時期のクイーンは軽いタッチが特徴ですが、これも冒頭から笑わせてくれて、小説的なまとまりもよく、全体的に楽しめました。
動機の問題は、犯人の発想自体も推理もあまり冴えませんが、裏で進行していた企みの意外性は十分でした。ヴァン・ダイン流の性格分析による真犯人指摘まで、おまけに取り入れられています。 |