皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.8 | 5点 | 吸血蛾- 横溝正史 | 2010/09/07 21:05 |
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開幕早々狼の牙のような歯を見せる怪人物が登場するという、いかにも通俗的な臭いがする作品です。第2の被害者の切断された脚のパフォーマンスなどばかばかしい限りですが、途中江藤老人側の視点から書かれた部分であっさり明かされてしまうその演出理由は、案外まともです。
連続殺人の動機は薄弱ですし、無理な(あるいは説明不足な)点も散見されますが、上述の部分を含め真相はほぼ筋道が通っていて、意外性もあります。通俗的刺激性が論理的な謎解きをうまく覆い隠しているのが効果的と言えるでしょう。 ただし有名作に比べると登場人物たちの描き方がいいかげんですし、金田一耕助の推理が貧弱で真相説明をほとんど犯人の告白に頼ってしまっているなど、不満もかなりある作品です。 珍しくタイトルが内容にそぐわない点も気になりました。 |
No.7 | 8点 | 犬神家の一族- 横溝正史 | 2010/06/17 21:08 |
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岡山もののような因習的土俗性もありませんし、東京もののような耽美的刺激性もありません。もちろん横溝正史らしい残酷なおどろおどろしさも確かに感じられますが、他の方も指摘している悲劇性、人間関係のドラマ性が印象に残る作品です。『獄門島』でも戦地からの復員が最後のキーポイントになっていましたが、本作ではそのテーマがさらに掘り下げられていると言えるでしょう。
犯人の仕掛ける大技トリックのみを期待する人は凡作と思うかもしれませんし、偶然の多用を嫌う人もいるかもしれません。しかし、連続殺人に至る人間関係や状況設定の構成は見事ですし、『獄門島』や『悪魔の手毬唄』と違って見立て殺人の意外な理由も鮮やかに決まっています。 |
No.6 | 5点 | スペードの女王- 横溝正史 | 2009/10/10 14:11 |
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刺青師の奇妙な体験から始まり、内股にスペードのクイーンの刺青をした女の首なし死体発見、さらに政財界にも影響力を持つ男の殺害、とストーリーは快調に進んでいきます。これは横溝正史の隠れた秀作か、と期待させられますが…
メインになる首なし死体パターンのヴァリエーションは決して悪くないのですが、残念なことに犯人の人物造形と動機が拍子抜けで、さらに最後の犯人逮捕に至る過程が変に通俗的になってしまっているのです。 1960年発表ですので、松本清張登場後の作品ということになります。しかし、横溝正史は大物殺害時点で「大きな社会的波紋にはしばらく目をつむり、殺人事件としてだけ、この問題にふれていこう」と書いていて、まさに反社会派というか非社会派というか。 |
No.5 | 7点 | 夜歩く- 横溝正史 | 2009/05/18 22:15 |
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本作と、他の人も言及している海外某作品とはむしろ違いを強調したいところです(むろんヴァリエーションではあるのですが)。本作の場合には、そのネタを使った理由を工夫しているわけで、そのため某海外作品はとりあえずフェアと言えるのに対して、本作はどうしてもアンフェアな部分が発生せざるを得なくなっているというのが、個人的意見です。実は、横溝正史は以前の長編でもこの手をちょっと試みているので、今回はいわばその拡大版と言ったらいいでしょうか。それに首なし死体パターンをひねって組み合わせていて、なかなか読みどころの多い作品です。
後の『悪魔の手毬唄』とは多少食い違いがある鬼首村が後半の舞台です。 |
No.4 | 5点 | 夜の黒豹- 横溝正史 | 2009/04/26 11:49 |
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ある意味『ABC殺人事件』と共通するところのある筋書きなのですが、ABCに比べて無理があるところが気になりました。最初の事件で使われるトリックが最も意外であることを考えると、そこから全体を構成していったための不自然さかもしれません。横溝正史らしい通俗的な匂いがパズラーの企みを隠している点は評価できますが。
真相解明の推理が金田一耕介と等々力警部との間で行われた後、最後の70ページぐらいは、真犯人を罠にかけて証拠をつかむ話になってきますが、この最後の部分にあまり魅力を感じません。短編『青蜥蜴』を長編化したものだそうですが、ちょっと長くしすぎたように思えます。 |
No.3 | 7点 | 本陣殺人事件- 横溝正史 | 2009/03/29 14:19 |
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大げさで複雑なトリックは、小説よりも映画を見て感銘したという人がいるようですが、確かにそうかもしれません(映画は見ていないのですが)。都筑道夫が絶賛していた三本指の男の言葉は、その役回りも含め『獄門島』の例のせりふと同じように、確かになるほどそうかと納得させてくれます。
最後にはクリスティーを引き合いに出してきて、作者からの注釈風に嘘は書いていないと弁明しているところなど、やはり影響を受けたカーと同じようなことを考えるものですね。 ただ、『獄門島』の動機にはすんなり納得できた私も、この動機にはさすがに首をかしげざるを得ません。 |
No.2 | 8点 | 蝶々殺人事件- 横溝正史 | 2009/03/17 22:38 |
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『本陣殺人事件』に1ヶ月遅れて雑誌連載開始された本作では、作者が戦前から登場させていた由利麟太郎を探偵役として起用しています。クロフツの『樽』を意識したとは言っても、やはり横溝正史の持ち味は綿密な捜査過程ではありません。最後の推理で一気にもつれた謎を解いてしまう構成です。コントラバス・ケースを利用したトリック自体も、むしろなんとなくカーを思わせます。もう一方のトリックは後の長編でもそのまま再利用されていますね。
個人的には、『本陣-』より厳格に構成されているようなところが好きな作品です。 |
No.1 | 5点 | 不死蝶- 横溝正史 | 2009/01/06 19:17 |
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23年前と現在の同じような殺人事件を組み合わせて、読んでいる間はなかなかおもしろかったのですが、考えてみるとずいぶん疑問点のある作品です。鍾乳洞の中で消えてしまった女の謎が一応メインと言えるのでしょうが、これはきれいに解き明かされています。しかし、殺人と逃走の時間的経緯に問題があると思いますし、現在の第2の殺人遂行にも無理があります。警告の手紙の送り主とその理由も結局不明なままです。
角川文庫版に併せて収められている中編「人面瘡」は、テーマも、また横溝正史にはおなじみの点も、ひょっとするとある名作ホラーの発想源ではないかという気がしました。こっちは秀作だと思います。 |