皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.5 | 8点 | ウィチャリー家の女- ロス・マクドナルド | 2011/07/22 13:35 |
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一見平凡なタイトルに思えますが、読み終わった後でその意味を考え直してみると、様々に暗示的だと納得させられます。
結城昌治の某作品が、本作のトリックに対する不満から構想されたというのも、今回再読して記憶がある程度よみがえってくると、ああそうだったと思えました。それにしてもこのトリック、作者はアンフェアにならないよう慎重な書き方をしています。一人称形式なのですから、そこまで気を遣わなくてもよかったのではないかと思えるほどです。 しかしロス・マクもこの時期になると、確かにハードボイルドと呼ぶのがためらわれる作風になってきますね。一方「本格派」でないと言う人は、たぶん手がかりがあらかじめ提示されているわけではないところが引っ掛かっているのではないかと思えます。 また、『人の死に行く道』から間をおかずに読むと、文章の変化にも気づかされました。細かい外観描写が減って、ロス・マク独特とも言われる比喩を用いることにより、簡潔な表現になってきているのです。 |
No.4 | 7点 | 人の死に行く道- ロス・マクドナルド | 2011/07/03 11:11 |
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妙に堅苦しい直訳タイトルですが、ひらたく言えば「ある連中の死に方」、ハードボイルドっぽいタイトルです。
本作の中では結局5人の人間が死にますが、そのうち最後の1人は本当に自殺なのかどうか、はっきりしません。ただその人物が死ぬことによって、一つの新たな生活が始まることになります。中心となる事件の真相に限らず、そういったストーリーのまとめ方、他にもアーチャーが途中でギャングのボスから受け取る500ドルの使い道なども含めて、すべてが収まるべきところにきれいに収まっていく収束感はTetchyさんも指摘されているとおりで、チャンドラーはもとよりハメットにもなかなか見られない構成作法です。ギャングの事件へのからめかたも、後から考え直してみるとうまくできています。 事件解明後の最後の場面が後年の作品への萌芽を見せてくれているとは言え、中期以降の家庭の悲劇を期待していると、不満があるかもしれません。しかし謎解き度の高いハードボイルドとしては、過不足ない作品だと思います。 |
No.3 | 7点 | 犠牲者は誰だ- ロス・マクドナルド | 2010/05/22 12:25 |
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リュウが仕事のため自動車旅行中、瀕死の男を路上で発見するという場面から始まる本書、ロス・マク作品中でも主人公をリュウにする必要がなかったのではないかとも思える巻き込まれ型発端のミステリです。
格闘や銃撃などアクションも豊富で、事件の展開も速く、様々な出来事を完全に整理消化できていないような状況で、まだ半分ほどしか進んでいない。この後どうなるのだろうと思わせられました。 そのようなわけで、事件全体はかなり複雑にできているのですが、最終的にはやはりこの作者らしく、巧みにつじつまを合わせてくれます。そのつじつま合わせの事件解明がタイトル"Find a Victim" に表れされるテーマと見事に重なってくるところ、感動的な結末になっています。 |
No.2 | 7点 | ギャルトン事件- ロス・マクドナルド | 2009/12/17 22:38 |
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象徴的なタイトルの多いロス・マクにしては、なんともそっけないタイトルです。
ハードボイルドではよくある失踪人探しといっても、なんと20年も前にいなくなった人の行方を捜すという、雲をつかむような依頼を受けたリュウ。どんなふうに話を進めていくのかと思っていたら、まだほとんど手もつけていないうちに意外な所で殺人が起こってしまいます。その殺人が失踪人とどうからんでくるのか、このからませ方が精密に考えられていて、しかもそこが小説のテーマにもなってくるところ、さすがロス・マクです。ただ、まだ真相が判明していない時点での首切り殺人犯人の人物描写が、振り返ってみると違和感を感じました。 途中、「あなたって、聞き上手、聞き出し上手の顔をしてるのね」「この顔でお役に立つんならお安いご用だ」なんて会話が出てくるところ、他のハードボイルド探偵にはないリュウの個性でしょう。 |
No.1 | 8点 | 運命- ロス・マクドナルド | 2009/05/30 18:43 |
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ロス・マクが内省的な傾向を深めていく最初の作品と評される本作では、心理小説的な側面が最初から明確に示されます。なにしろ、調査の依頼人からして精神病院を脱走して来た男です。
夜明け前、リュウ・アーチャーがその男に叩き起こされるところから話は始まり、翌日の朝までの出来事だけで小説は完結します。 謎解き面もきっちり構成する作者だけに、論理的に考えれば犯人は明らかですが、結末ではリュウがちょっと水を向けるだけで、絶望的な気持ちになっていた犯人の告白が、延々と始まります。さらに最後の2ページぐらいは、リュウのつらい思い出の独白です。もう暗澹たる気持ちにさせられる傑作です。 ただし、中田氏による翻訳は言葉遣いに不自然な箇所が散見されます。特にこのような文章を味わいたい作品では、気になって仕方ありませんでした。 |