皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.9 | 6点 | 危険な未亡人- E・S・ガードナー | 2012/01/27 21:39 |
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『どもりの主教』と『カナリヤの爪』の間に書かれた作品らしいのですが、ほとんどの作品ラストにある次作の依頼人登場については、『どもりの主教』の場合『カナリヤの爪』なのです。そして、本作にはその恒例次回予告がありません。
依頼人の老婦人は、最初から自分のことを「危険な未亡人」だと言っていますが、実際最後までしたたか者ぶりを発揮してくれます。ただし、トラブルに巻き込まれ、殺人容疑者になるのは依頼人ではなく、その孫娘。 メイスンが証人を隠すことはよくありますが、今回はメイスン自身が殺人の事後従犯の疑いを受け、自ら隠れなければならなくなってしまいます。このあたりの楽しい事件紛糾ぶりに比べ、真相自体はごく単純です。裁判にもならず、とりあえず逮捕されて、他の証人たちや容疑者と一緒に地方検事の下へ連れてこられたメイスンが、その場で決着をつけてしまうのですが、偶然で変に複雑化した真相よりも好感が持てます。 |
No.8 | 5点 | 怪しい花婿- E・S・ガードナー | 2011/06/04 12:58 |
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このシリーズの中でも、本作はいつもの依頼人登場ではなく、メイスンが窓外の非常階段にいる若い女を見つけるところから始まるという変り種ぶりです。その後依頼人がやっかいな依頼を持ち掛けてきて、例によって殺人へと話はつながっていくのですが、全体の1/3ぐらいで起こる殺人までは、実に面白く読ませてくれます。
裁判になってからは、検事側の視点から描かれた部分もあるのですが、これは珍しいのではないでしょうか。今回はメイスンもきわどいところまで追い詰められて、ドレイク探偵だけでなくデラまで落ち込むシーンもあります。ラスト20ページぐらいになってやっと真相が見えてくるという展開で、最後があわただしく、事件解明がごちゃごちゃし過ぎているように思います。 なお、タイトルの「怪しい」はDubiousで、むしろ「あいまいな」といった意味。依頼人が、法律的には花婿かどうか微妙なところであるのを指しています。 |
No.7 | 7点 | 怒りっぽい女- E・S・ガードナー | 2011/02/13 23:13 |
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大岡昇平が訳した創元版で読んだ作品。
メイスンものは依頼人を被告人にするため、作品によってはかなり無理やりな偶然を使うこともありますが、本作はそれほど気にならない程度です。重要手がかりははっきりわかるように堂々と示してありますし、解決もすっきりできています。また被告人2人のキャラクターも、このようなタイプの作品では問題ない程度には描かれています。 まだ第2作だからということもあるのでしょうか。メイスンの法廷戦術はそれほど派手ではありません。法廷外での実験を画策してくれてはいますが。 しかし久しぶりに再読して一番驚いたのは、犯人が使うトリックが他の作家の非常に有名な某傑作とよく似た発想であったことでした。すっかり記憶から飛んでいました。その傑作の方がやはりトリックの使い方はすぐれていますが、本作はそれより10年近く早いのです。 |
No.6 | 6点 | 義眼殺人事件- E・S・ガードナー | 2011/01/09 12:21 |
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例によってご都合主義的な偶然が重なって依頼人が窮地に陥るパターンですが、これくらいならまあいいでしょう。義眼と消えた証人とに焦点を絞って、なかなか好ましい印象を与えてくれる佳作です。ただ、片目の依頼人がメイスンのところにやって来た理由がいいかげんなのが少々不満ではあります。
普通なら簡単に解決のつく事件のはずが、ある人物の行動によってややこしいことになってしまうのです。メイスンもそれで苦境に立たされますが、バーガー検事(本作が初登場です)の出方を予測してのメイスンの思い切った策略が最後には功を奏します。 ところで、本作には昔から何種類もの翻訳がありますが、そのほとんどのタイトルに「殺人事件」がついているというのは、ガードナーにしては非常に珍しいですね。 |
No.5 | 5点 | どもりの主教- E・S・ガードナー | 2010/11/13 11:01 |
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説教に慣れた主教(Bishop:創元版では「僧正」。ヴァン・ダインの例のやつですね)という位の高い聖職者がどもるなんて変だ、メイスンを訪れたその主教は偽者ではないかというのが、まず興味をひく謎です。しかし、一番最後に明かされるその答は、なんだか拍子抜けでした。
銃を撃ったのが誰かという謎は、普通に考えればあまりに当然なところですが、動機がネックになって、根本的なからくりはすぐには思い浮かばないでしょう。しかし作者はそれだけでは弱いと考えたのか、さらに事件の経緯をやたら複雑化していますが、かえって不自然になってしまったように思えます。主教の行方は明らかに無理があります(もっと手っ取り早くて都合のいい方法が目の前にあったはず)。ホテルから消えた女の行方にも、被告人の黙秘理由にも、説得力はありません。 ご都合主義で万事めでたしの結末にするため相当無理をした筋立てなのですが、読んでいる間はメイスンが逮捕されそうになったり、罪体問題を論じたりして、それなりに楽しめました。 |
No.4 | 7点 | 門番の飼猫- E・S・ガードナー | 2010/10/05 21:09 |
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ペリー・メイスン・シリーズというとどれも平均してそれなりにおもしろいという印象がありますが、やはり出来不出来はあるわけで、本作は相当いい方です。作中で起こるいくつかの事件のつながりは、最後に法廷でメイスンがなんと検察側の証人として説明することになりますが、かなり複雑で意外性があります。依頼人になる人物を、逮捕される前に警察に出頭させるための策略も、痛快です。
実はメイスンが依頼を受けるより前に起こった館の火事事件については、知識や予測の部分で無理があるなと思えるところもありますが、まあいいでしょう。 それにしても警察・検察が被告人の看護婦殺しの動機を何だと考えていたのか、疑問は残ります。その前の門番老人(彼がメイスンの最初の依頼人)殺しについてなら、利益目的ということでしょうが。 |
No.3 | 5点 | 夢遊病者の姪- E・S・ガードナー | 2010/08/25 21:41 |
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夢遊病中の人による殺人は、法的にどうなるのか?
冒頭のつかみはそういうことですが、その夢遊病者はさまざまなトラブルに巻き込まれていて、メイスンがそれらすべての問題にどう決着をつけていくかというのが見所です。最初から悪役はやはり完全に悪役(真犯人と言う意味ではありません)であるのは、時代劇の悪代官と同じいかにものワン・パターン。 最も意外なのは、やはりしまい込まれていたナイフがどのようにして凶器として使用されるに至ったかという点ですね。犯人が疑いを受けないようにと画策したトリックも、現実には危険な感じがしますが、読者をだますという意味では悪くありません。 ただし、メイスンが途中で凶器と同じナイフをたくさん購入するのですが、これが結局利用されないままなのは、作者が何か勘違いしたのでしょうか… |
No.2 | 4点 | 幸運の脚- E・S・ガードナー | 2010/04/26 21:39 |
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ペリー・メイスンのシリーズ第3作は、毎度お馴染みの法廷シーンがありません。裁判にまで至らず、事件は解決してしまいます。レギュラーになるバーガー検事もまだ登場していない時期です。
事件そのものは、メイスンが今回もかなり強引に法律的にすれすれのことをやってくれたりして、なかなか楽しめましたが、解決には不満がありました。 メイスンがその人物が怪しいと考えた理由は納得できますし、犯人の殺人実行経緯も偶然が過ぎるとは思いますが、まあ可能でしょう。しかし、犯人のさまざまな行動の理由がさっぱり理解できませんし、説明もまともにつけられていません。なにしろ殺人動機自体あいまいで、いつ殺意を固めたのかも不明なままです。最後になってどうにもすっきりできない作品でした。 |
No.1 | 7点 | 片眼の証人- E・S・ガードナー | 2009/02/07 21:31 |
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まさかガードナーにこんな手を使われるとは全く予想していなかったので、不意をつかれて驚かされました。そのトリックも、法廷での、裁判進行の規則をほとんど無視しまくった真犯人指摘より前に明かされます。
最後に、匿名者からの依頼の経緯などすべての出来事を関連付けてみせるあたりは、ちょっとあざとい感じもしましたが、いかにもベストセラー作家らしいストーリー・テリングの法則に則ったまとめ方です。 |