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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.8 6点 クリスマス12のミステリー- アンソロジー(海外編集者) 2014/12/25 09:59
* 季節だからね (^_^;)

新潮文庫からアシモフとそのグループ編纂によるアンソロジーが何冊か出ているが全く話題にも上がらないは惜しい
まぁおそらく全員ではないが収録作家に日本では比較的に馴染みの薄い作家も多く収録されているのも原因しているかも
しかし内容は流石はアシモフ先生といった感じで、編集者のセンスが発揮されているところなどもっと評価されてもいいと思う
このアンソロジーシリーズでは前回はバレンタインをテーマにしたのを読んだが今回はクリスマスがテーマ
バレンタイン編では日本では相当マイナーな作家が目立ったが、このクリスマス編ではスタウト、セイヤーズ、クイーン、ホック、エりン、ダーレス、カーなど知名度の高い作家が多くてとっつき易いかも
この内私はクイーン、ホック、カーの収録作は、各作家の代表的な短編集で既読だった
クイーンのは『犯罪カレンダー』の収録作なので未読の方も居るかもだが、ホックとカーのは多くの読者が既読であろう
ただアシモフ編のアンソロジーはむしろこれらメジャー作家だけでなくマイナー作家の短編の質が高いのが特徴である
この巻でもアリス・S・リーチ、S.S.ラファティ、ニック・オドノホウと初めて接した作家ばかりだが三者三様でそれなりに面白かった
オドノホウはちょっと通俗がかったハードボイルド
ラファティはあのSF作家のラファティと混同し易いが、SF作家の方は”R・A・Lafferty”で、ミステリー作家の方は”S.S.Rafferty”とそもそも名字のイニシャルが違っており全くの別人である
アリス・S・リーチのクラムリッシュ神父シリーズはどこかの出版社で個人短編集に纏めてくれないかなぁ

しかしこのアンソロジー中のベスト作は個々の収録短編ではない、断然の収録作ベストは編者アシモフの”まえがき”である
この”まえがき”はアンソロジストとしてのクイーンに匹敵いや凌駕する名文で、私の知る限りアンソロジーの序文の中でも最高ランクに位置付けられると言ってもいい
アメリカの荒俣宏(いや例えが逆か?‥苦笑)とも言うべきアシモフ先生の博識とセンスが光る
私が仮にアンソロジーを編纂するとしたらこんな序文を書いてみたいものだと憧れてしまった

No.7 7点 エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡- アンソロジー(海外編集者) 2014/10/27 09:56
発売中の早川ミステリマガジン12月号の特集は、”エドワード・ゴーリー”
ミスマガ特集内ではゴーリーの作家面についても紙数を割いているが、エドワード・ゴーリーと言えば挿絵画家・イラストレーター・表紙デザイナーであろう
表紙デザイナーの仕事にはミスマガもこだわりを見せいくつかの表紙を載せているが、表紙に関わった作家の顔触れもゴーリーの読者としての好みが伺えて興味深い
中でも印象に残ったのが、”私の好きな作家は既に亡くなっているか、純文学方面に行っちゃった、P・D・ジェイムズみたいに”、という一文
なるほどゴーリーはP・D・ジェイムズが嫌いなのか、と言うかどこまでも純文学ではないエンタメとしての怪奇幻想の世界が好きなんだろうなぁ
ゴーリーのもう1つの仕事が編集者としての側面である、その業績の1つがホラーアンソロジーの本書である

ここ数年の河出文庫のミステリー分野への貢献には目を見張るものが有るが、特にジャンル境界線上の作品群には早川や創元とは違った趣が有って良い
「エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談」は、書名の通り彼の愛する怪奇短編1ダースで纏めたもので、”愛する”だけあって大部分が定番アンソロジーピースである
ただし解説でも触れているが、ゴーリー選という先入観から見るといささかオーソドックス過ぎないかという疑問は湧く
案外とエキセントリックな性格の編者ほど、選択がオーソドックスになるのかも知れない、もしかして温和な編者の方が怪作を選びたがるのかな?
解説の濱中氏はその辺について擁護しているが、当サイトでの書評・採点という立場では擁護してばかりもいられない(苦笑)
私はアンソロジーでの書評は収録作品の質は二の次、編集上の仕事振りやセンスへの評価の方が重要であるというスタンスで有る、例えば他のアンソロジーでは読めない珍品も1~2編は入れて欲しいのである
実際に私は12編中4作は既読で、作品は異なるが12人中9人は作家としては既読だった
つまり内容的には8~9点は付けられるのだが、定番過ぎる顔触れにアンソロジーとしてはどうしても8点以上は付け難かったのである
しかしながら怪奇小説初心者には古典的怪奇小説入門書としてもお勧め出来るし、あのゴーリーが愛する怪奇小説は何なのかという純粋な視点でもお勧めである

No.6 6点 密室殺人傑作選- アンソロジー(海外編集者) 2014/07/25 10:03
本日発売の早川ミステリマガジン9月号の特集は、”カーと密室”
密室の特集組むのは過去にもあるが、今回はカーをフィーチャー、ここ2~3年は早川や創元でカーの新訳切り替え中だからね
そして今回の特集での目玉がカーの本邦初訳短編の掲載である、カーのコンプリートを目指す読者には見逃せない

便乗企画書評として俎上に載せるのはこのアンソロジー、カーの密室短編が収録されている上に、カミングスの短編も収録されているからだ
私的読書テーマ生誕100周年作家を漁る、第2弾ジョセフ・カミングスの2回目でもある

収録のカミングス「海児魂」は私の読んだ範囲では作者の最高傑作である
カミングスは密室短編のエキスパートだが、他の短編ではわざわざ密室トリックを弄す必然性に乏しいという弱点が感じられた
しかしこの「海児魂」では特殊な状況設定を利用し、密室状況にすることに強い必然性が有る
またカミングスらしく館とかの室内密室ではなく思い切りアウトドアな屋外型密室なのも館もの嫌いな私としては好感材料だ

他の収録短編だが当サイトでkanamoriさんも御指摘の通り、例えばポースト「ドゥームドーフの謎」などここで採り上げる意義を感じないようなメジャー作家に関してはメジャーな短編ばかりで、もう少しマニアックな選択をしても良かったのでは?という感は有る
一方でマイナー作家に関しては作家自体の選択はかなりマニアックで、後に論創社から長編が紹介されたモリス・ハーシュマンなんて既に短編が紹介済だったのにはちょい驚き
ミリアム・アレン・デフォードとかローレン・G・ブロックマンなど超マイナーではないにしても見逃しやすいところも拾っている点は評価したい、日本の編集者だったらおそらく無視だろうからね

No.5 8点 これが密室だ!- アンソロジー(海外編集者) 2014/03/10 09:55
1914年生まれ、つまり今年が生誕100周年にあたる作家だが、一昨年が当たり年過ぎたせいか昨年に引き続いてやや不作な年回りである
特に大物作家と呼べるのがシーリア・フレムリンくらいしか居らず、一般的知名度ではマイナーだがその分野のマニアックな作家が多い印象だ
私的読書テーマ”今年が生誕100周年作家を漁る”、第2弾は密室短編の専門家ジョセフ・カミングスだ
ただカミングスには1冊に纏められた翻訳本というものが存在しないので、ここはアンソロジーの形で書評するしかない

ロバート・エイディーという名前を全く知らないなら、そんな読者は密室マニアとは言えない
もちろんエイディーは作家ではない、密室作品の蒐集家・研究者であり、研究者としては世界的に名を知られている
このアンソロジーは森英俊氏がエイディーとタッグを組んで編んだものだ、マイナーな作家も含まれており、どちらかと言えば海外密室ものに慣れた読者向けであろう
アンソロジーの価値というものは、1つには収録作品にある程度他では読めない独自性が有る事、編集のポイントが明確で意義が有る事、書誌・出自・解説がしっかりしている事などだと思う
このアンソロジーは上記の点では独自性以外は満点で、私はアンソロジーにあまり収録作品の質を問わず、編集者の編集能力の方を重視する立場なのでやはり高得点を付けたい
惜しむらくはホックのサム医師もの2作が創元文庫で出てしまったので今となってはというところか
アンソロジー前半ではホックを除けば比較的にマイナーで良く言えば珍しいものが多い、作家名的にはタルボットは有名だが作品自体は長編短編共に寡作だしねえ、やはり貴重品でしょう
比べて後半ではカミングス、コーニア、スプリッグ、アフォード、キング、カーと不可能犯罪系マニアには怒涛の名前が並ぶ
ところでニコラス・オールドの「見えない凶器」は、『世界短編傑作集』にも収録された例のあの密室短編とどっちが先だったんだろう?ご存知の方居られますかねえ

書中で森氏曰く、”密室もの長編でカーに比肩する作家は殆ど居ないが、短編に限れば2人居る”とある、E・D・ホックとジョセフ・カミングスである
編中でもこの両名だけは1人の作家で2作づつ採られており、このバランス感覚も編者の上手さを感じる
先ほど言ったように今となってはだがホックの2編は創元文庫のホーソーン医師ものの短編集で読めるので希少価値は無い
しかしカミングスのは他では読めないので価値が有る、ただし質的には2編ともイマイチな気もする、密室トリックに必然性が乏しいんだよな
この作者のものでは読んだ中では他のアンソロジー収録の「海児魂」がベストだと思う、トリックが行なわれた理由に必然性が有るし
カミングスの特徴の1つに、アウトドアな舞台設定が多い点がある、上記の「海児魂」などは典型だが、本書収録の「悪魔のひじ」にしても雪の山荘テーマの1種だしトリック的にも屋外が全く無縁とは言いきれないしね
お屋敷もの館ものが嫌いな私としては、アウトドア派なカミングスは結構好きな作家である

No.4 7点 バレンタイン14の恐怖- アンソロジー(海外編集者) 2014/02/14 09:58
* 季節だからね (^_^;)

あまり知られていないが新潮文庫から海外編集者によるアンソロジーがいくつか出ていて、テーマ性がはっきりしているので興味深い
中でもアシモフの編んだものが何冊か有り、その中の1冊が今回採り上げたバレンタインをテーマにしたアンソロジーだ
博識だけにアシモフはいくつものアンソロジーを編んでおり、名編集者の1人と言ってもいいんじゃないだろうか

バレンタインと言うと日本ではチョコの話題しかなく、国内作品ではむしろクリスマスをテーマにしたものの方が怖い話が多かったりするが、どうやら海外作品では逆なようだ
海外作品でクリスマスのミステリーは子供を登場させるなどファンタジーでメルヘンな傾向が強い
ところがバレンタインデーというのは海外では意外と不気味な日という認識が有るみたいで、このアンソロジーでも題名通りの恐怖な話がほとんどだ

恐怖という語句で誤解してはいけない、編者がアシモフだけにホラーやSFっぽい話が多いのではないかと先入観を持ちがちだが、内容的には殆どミステリー分野のアンソロジーである
ただアシモフの編集方針は内容重視だったようで、作家の顔触れがかなりマイナー、E・D・ホックを除けば有名どころはプロンジーニとの合作で知られるマルツバーグくらいかな
ホックのはサイモン・アークものだがまぁまぁの出来かも、しかしSFネタとは言え1番受けそうなのはリック・ホータラの「コルト24」かな
とにかく知名度の低い作家の顔触れな割りに内容は優秀、かなり高く評価出来るアンソロジーである、ただし全体に血生臭い話が多いので苦手な人は苦手かも

No.3 6点 聖なる夜の犯罪- アンソロジー(海外編集者) 2013/12/24 09:57
* 季節だからね *

コージー派の第一人者シャーロット・マクラウド編集によるクリスマスをテーマにしたアンソロジー、全編書下ろしである
”書き下ろし”という事はだ、つまり全作がこのアンソロジーの為に書かれたわけで、編者マクラウドの交友関係の広さに驚きだ
例えばホックのサイモン・アークもの「妖精コリヤダ」はこれが初出、出来はイマイチだけどね
顔触れは結構豪華、ラヴゼイ、D・S・デイヴィス、M・H・クラーク、スレッサー、ホック、アシモフといった泣く子も黙る巨匠等が並ぶ
案外とコージーっぽいのは編者自身を除くとエルキンズくらいで、ジャンル的にもジョン・ラッツ、プロンジーニ、マーシァ・ミュラーといったハードボイルド作家も含まれており、コージー派作家が編者という事を考えるとヴァラエティ豊か
ただクリスマスストーリーとして子供を登場させるなどの縛りは無く、ブラックスワンのプレゼントの塩辛のように全体的に案外とクリスマスらしさが感じられない話が多いのがちょっと弱点かな

個人的な好みでベストを選べば、MWA巨匠賞受賞の女流作家D・S・デイヴィス「クリストファーとマギー」、こういうの好きなんですよね、あと1作選べばエリック・ライトの「カープット」かなぁ
しかし客観的に見て一番凄いのはラヴゼイの「クレセント街の怪」だろう、これぞ叙述トリック

No.2 5点 新エドガー賞全集- アンソロジー(海外編集者) 2011/07/07 10:08
最近マーティン・H・グリーンバーグが亡くなった、と言ってもこの名前にすぐピンとくる人はそこそこのアンソロジー通だ
グリーンバーグはアンソロジーの専門家で、広い分野でアンソロジーを編纂した
全体としてはSF分野に強いようで、残念ながらミステリー分野のアンソロジーで私の目に留まったのはこれぐらいだった

MWA短編賞は初期には例えばクイーンのEQMM編纂の功績に与えられたりとやや方針が定まらなかったが、途中から単独の短編に与えられるように方針が変わり、その年度の最優秀短編賞の意味合いを持つ
方針が変わってからの受賞短編を並べたアンソロジーが『エドガー賞全集』で、早川文庫からビル・プロンジーニ編で上・下2巻も刊行されている
プロンジーニ編(下)卷収録作が1980年度までで終わっているので、この『新エドガー賞全集』ではその後、1981年度から1988年度までの8編が収録されいる
収録作の選択・配列は変えようが無いのだから、こういうのを編纂と呼べるのか?という疑問は当然あるが、まぁ突っ込まないでおいてやろう

前半4作の作家は、リッチー、フォーサイス、レンデル、L・ブロックとメジャーな顔触れが並ぶ
ジャック・リッチーもこのミス1位を獲ったりした今ではメジャーな部類でしょ、ただ収録作「エミリーがいない」はリッチーの中では特別上位にくる作ではないけどね
後半4作は作家の知名度的には微妙な顔触れが並ぶ、作品の質が決して劣るわけでは無いのだが
ジョン・ラッツは一応長編も翻訳されているハードボイルド作家で、胃弱私立探偵というキーワードからするとネオハードボイルド系なのかとも思うがデビューは1980年代、ネオハードボイルドが衰退した後にその後継を目指したタイプなのかも
収録作もネオハーボボイルドっぽいし
ロバート・サンプスンは初めて名前聞いた、どうも研究書などが主で作家としては明らかにマイナーだと思う
収録作も一般のミステリー読者には受けない話だろうけど、ノワールの一種としてみたら結構良作なのでは
ハーラン・エリスンはこれは一転して本来は知名度が微妙と言ったら失礼にあたるメジャー作家
ただし主流はSF作家なので知名度が微妙でも仕方ないとは思う
けれど幅広い分野で短編を書き、当然ミステリー分野でも活躍しMWA短編賞を2度獲っていて収録作は2度目の受賞作だ
この「ソフトモンキー」はグルーヴィーなテンポの良さで、おそらくこのアンソロジー収録作8編中最も一般受けしそうな話だ
グルーヴ感に目を奪われがちだが社会派的ペーソスも見逃せない
最後のビル・クレンショウも短篇作家なので知名度は微妙だが、ヒチコックマガジンの常連作家だったのでマイナーとまでは言えないと思う
まぁ全体としては受賞作を並べたクォリティは確保されてるんじゃないかな

No.1 5点 シャーロック・ホームズの災難(上)- アンソロジー(海外編集者) 2009/09/19 09:32
近日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年”
150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ
便乗企画としてホームズにちなんだ書評を

クイーンは編集者・アンソロジストとしての側面も見逃せないが、このホームズ・パロディ集は曰くがあって、ドイルの遺族に反対されたらしい
ホームズのパロディはそれこそホームズの第1短編集が刊行された直後から存在したようで、全部集めりゃ膨大な数になるんだろうな
その中から編集者クイーンが厳選したわけだが、アンソロジストとしてのクイーンはちょっとメタなものを好むようで、他のクイーン編纂アンソロジーにもその傾向がある
特にこのアンソロジーは嗜好が強く出ており、正統派の物真似パスティーシュっぽいものは少ない
パロディ作品中でも有名なヴィンセント・スタリット「稀覯本『ハムレット』」でも正攻法過ぎ位に思えちゃうもんな
例えばキャロリン・ウェルズ、バークリー、スチュアート・パーマーあたりはもう悪ふざけで編者クイーンの好みが出てるなあ
キャロリン・ウェルズは古典時代の女流大衆作家で、J・S・フレッチャーやエドガー・ウォーレス同様に多作な大衆作家って翻訳の盲点になっているので、どこかの出版社に頑張って欲しいものだ
意外にがっかりだったのは第ニ部の著名文学者編で、純文学者でホームズのパロディ書いた作家なんてもっと居そうだけどなあ
ブレット・ハートはミステリー専門作家じゃなかったんだ、知らなかったな、早川版「ホームズのライヴァルたち」にも収録されてるし、クイーンの定員にも入っていたし

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