皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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miniさん |
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平均点: 5.97点 | 書評数: 728件 |
No.6 | 6点 | 狙った獣- マーガレット・ミラー | 2015/10/06 09:58 |
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先日に論創社からマーガレット・ミラー「雪の墓標」とロジャー・スカーレット「白魔」が刊行された
「雪の墓標」は長編の順番で言うと「狙った獣」の1つ前1952年の作で、昨年夏に創元文庫から刊行された「悪意の糸」が1950年の作だから、どちらもミラー作品翻訳上での空白地帯になっていた時期の作で、初期から中期への作風の変化を知るのに適切かも知れない * 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第8弾マーガレット・ミラーの5冊目 ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある さて初期には一部で注目はされていたもののもう一つ人気作家とまではいかなかったミラーを一躍メジャー作家に押し上げた中期の代表作がMWA賞受賞作「狙った獣」だ たしかにこれは受けそうだな、題名通り”狙ったな(笑)”って感じで、大胆な仕掛けが優先された作だしねえ 仕掛けの有るサスペンス小説の典型例みたいな感じで、実際にこの作が出た1955年前後の時期には、フランス産も含むこの手のタイプの作品が次々に登場している ミラーは後期にもエンディングサプライズにこだわっているので、「狙った獣」だけが異色作というわけでは決してなく、ある意味ミラーらしさが横溢した中期だけじゃない全作品中での代表作の1つと言ってもいい ただ「狙った獣」はねえ、あまりにも仕掛け一発狙いに頼り過ぎてる感も有って、途中経過こそがサスペンス小説の魅力として見るなら後期の諸作の方に魅力を感じる面も有る 実を言えば、私は結構序盤の描き方で、これはこういう仕掛けを狙っているんじゃないのかなと気付いちゃったのだよね 私の評価での比較で言うと、あまり面白いとは思わなかった「殺す風」などよりはこの「狙った獣」の方が好きだが、「鉄の門」との比較では私は「鉄の門」の方が好きだ でね、何故サスペンス小説としては「殺す風」よりこの「狙った獣」の方が上だと思うかと言うと、「殺す風」って犯人らしい犯人が居て犯罪らしい犯罪が行われる、要するに本格派こそが王道だみたいな狭い視野の読者が喜びそうな真相なんだ、でも「狙った獣」の場合はサスペンス小説として書かなければ意味を成さない真相だからね |
No.5 | 7点 | 見知らぬ者の墓- マーガレット・ミラー | 2015/09/01 09:59 |
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* 私的読書テーマ、”生誕100周年作家を漁る”、第8弾マーガレット・ミラーの4冊目
以前に書評済だったがテーマに合わせて一旦削除して再登録 ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある ミラーは初中期は仕掛けのあるサスペンス小説という感じだったが、後期には私立探偵的な人物を配置してロスマク風に変わってきている ただし私立探偵が必ずしも主役とは限らず、この作品も探偵は結局は狂言回しの進行役で主役はヒロインの女性だ はっきり私立探偵自身が主役と言い切れる「まるで天使のような」は、ミラーとしたらむしろ例外的な異色作に思える ミラー後期の代表作の一つと言われるこの「見知らぬ者の墓」では、MC役の私立探偵の目を通してヒロインの潜在意識の奥に潜む謎を探っていく ヒロインの夢の中に自身の墓が登場し、墓碑銘に彼女の4年前の死亡日が記されているというとびきりの謎を持ちながら、ミラー独特の筆致で単なる謎の為の謎に陥るのを免れている 一方で各章の冒頭に記された手紙に関するかなりあざとい仕掛けには驚くと同時に読者によって好き嫌いが分かれそうだが 世のネット書評では謎は強烈だがこの真相にはがっかりてな意見も散見されるが、本格派作品ではないわけだし、プロット全体を通しての仕掛けみたいな作だからこれでいいんじゃないかなぁ |
No.4 | 7点 | まるで天使のような- マーガレット・ミラー | 2015/08/28 09:05 |
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本日28日に創元文庫から、ホック「怪盗ニック(2)」などと同時にマーガレット・ミラー「まるで天使のような」新訳版が刊行される
昔はミラー作品は早川と創元とで競っていて、創元にも「見知らぬ者の墓」といった名作は有ったが、「鉄の門」「狙った獣」などを持つ早川の方が優勢な感がしていた、中でもミラーに於ける早川の看板作品がこの「まる天」だった、中古市場でもそこそこの値が付いていた時期も有ったようだ しかし以前に創元文庫で「狙った獣」が刊行され、そして今回の「まる天」、今後はミラーも創元にシフトしていくのだろうか * 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る” 、第8弾マーガレット・ミラーの3冊目 ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある ミラー作品を大雑把に時期で区分すると、「眼の壁」「鉄の門」あたりの初期、代表作の1つ「狙った獣」以降の中期、そして「耳をすます壁」以降の後期となると思う 後期作品は現在では一般的評価が高いが、その中に私立探偵3部作とでも呼べそうな3作が有る、「耳をすます壁」「見知らぬ者の墓」「まるで天使のような」である ミラーの他作品にはMC役として警察官が登場するものもあるが、私立探偵が登場するとなると上記の3作になる 注目すべきは発表年で、「耳をすます壁」は1959年、他の2作は60年代初頭の作だ そう、この時期は夫君のロスマクが作風の転換を計り代表作を次々に発表していた時期に近いのである 特にこの「まるで天使のような」ははっきり私立探偵が主役を務めている 「耳をすます壁」「見知らぬ者の墓」の2作にも一応私立探偵は登場する、しかし既読の「見知らぬ者の墓」を見る限り私立探偵自体は決して主役じゃない、どちらかと言えば司会進行役の役割しかもっていない、たしかに私立探偵の調査で話は進むがこの内容では主役とは言えない、事実上の主役は夢に悩む女性である ところがだ、「まる天」ではMCではなくはっきり私立探偵が主役だと言い切れるような存在感が有る、最後の最後まで登場するし つまりミラー作品の中では最もハードボイルド小説の形態に近い 仕掛けの面では「狙った獣」や「見知らぬ者の墓」のような大掛かりな仕掛けは無いし、周辺の登場人物とあの内部の登場人物との関連性は読者の誰でもが疑うところで読者の予想を大きく上回るものでもない しかしこの最も私立探偵色が強い作では、真相が全体の雰囲気と調和してバランスが良い、ミラーの中ではやや異色なので代表作とは言い難いが、最高傑作の1つではあるだろう |
No.3 | 5点 | 殺す風- マーガレット・ミラー | 2015/08/28 09:04 |
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* 私的読書テーマ、”生誕100周年作家を漁る”、第8弾マーガレット・ミラーの2冊目
これは以前に書評済だったが、私的テーマに合わせて一旦削除して再登録 ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある 私の記憶が間違えていたらゴメンナサイだが、たしか「殺す風」は瀬戸川猛資がすごく褒めていたんじゃないかなぁ 何度も言うように私は瀬戸川の評論とは相性が悪いのだが、この作品もそうでミラーの中では好みではない この「殺す風」はミラー作品の中ではちょっと珍しく、はっきり犯人と呼べる人物が居て一応犯行計画に基づいたような悪質な事件性がある しかも真相はすっきりと解明されるわけだしね つまりだ他のミラー作品に比べて「殺す風」という作品は、普段は本格派にしか興味が無いとか、サスペンス小説に対しても謎解き要素ばかりを追い求めるようなタイプの読者に受ける作品だ ミラー作品の中で「殺す風」だけを突出して高評価する人は、根本はサスペンス小説に興味がそれほど無くて、本格派嗜好の読者だと思うんだよね 私がミラーに求めるものは違うし、サスペンス小説の場合は書き方要素を採点基準にしているので、「殺す風」はどうも面白くない サスペンス小説はいかにもサスペンス小説って感じの作品の方が好みだ 「殺す風」は男女の憎愛を淡々と描きながらラストのサプライズに持っていくミラーらしいようならしくないような茫洋とした感じが狙いかも知れないが、この淡々とした味わいが美しさに昇華してないのが不満 やはりミラーには「鉄の門」のようなガラス細工の美しさを求めちゃうからなぁ、そのガラスが砕け散るサスペンスも含めてね |
No.2 | 7点 | これよりさき怪物領域- マーガレット・ミラー | 2015/07/08 09:57 |
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* 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第8弾はマーガレット・ミラー
いや本当はさ、ロスマクに続いて第2弾にするべき作家なんだけど、と言うか、実際に第2弾として「まるで天使のような」を1度は書評したんですよ ところがさぁ、今夏に創元文庫からそれも新訳で復刊予定だそうなので、書評済の「まるで天使のような」は一旦削除してその時点で再登録することにしたんだよねえ、で結局ミラーが後回しになっちゃったってわけ(苦笑) 昨年から今年とミラーの刊行が相次ぐが、出版社も生誕100周年を意識しているのかねえ さてそんなわけでミラーの書評1冊目がかなり後期の作からという、私らしい(苦笑)へそ曲がりな順番になってしまったのである ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある 「これよりさき怪物領域」は、まぁ後期になっての作者の集大成的な位置付けなのだろう、「まるで天使のような」がミラーの中では異色作だっただけに、「怪物領域」は原点に立ち返りました的な感じだ う~ん、これぞミラー、ミラーはこうでなくちゃみたいな(微笑) 強いて言えば全編の半分以上を、行方不明者の死亡認定裁判シーンで占めるという構成が特異だが、でも「まるで天使」のような毛色の違う作とは言えないだろう 初中期のガラス細工のような雰囲気も出ているし、代表作の1つと言ってもいいかもしれない ただ何て言うのかなぁ、きっと題名から受ける先入観なんだろうな、もっとガラス細工が砕け散るようなラストが来るのかと予想してたら、案外と地味に着地してたのには逆の意味でちょっと意外な感じがした その分、例えば「狙った獣」や「見知らぬ者の墓」みたいな、ちょっとあざとく仕掛けが目立ってしまうような感じもないのは好感が持てた 私が思うに、この「怪物領域」のミソは真相での主従の逆転である ネタバレしないように言うのが難しいのだが、要するに真相が2つ有って、2種類有る真相の内メインの方はきちんと解明され、しかも丁寧にその事件時の経緯を説明している ところがもう1つのサブの真相はすごくあっさりと語られ、いや語られてさえいないと言うか一言で済ませている メインの謎の真相がそれほど驚嘆するような性質の真相じゃないだけに、読者側としてはそこで油断してしまうのだ、その時に話のついでにサブの真相も仄めかされる ところが読者にはこっちのサブの方が衝撃でメインとサブが入れ替わる、その時点で表向きは重要な主役のメインの謎の真相などどうでもよくなって、いやどうでもいいわけじゃないけど脇役に格下げとなる 逆に一気に主役に格上げされるサブの方の真相こそ、まさに怪物領域 サブ方の真相をくどくど説明してしまっては、怪物領域の未知なる怪しさが半減してしまうので、仄めかすだけで正解なんだろうな 余談だが、意味深な題名の由来は作中にも登場する”古い地図”である メルカトル図法みたいないわゆる図法じゃなくて、中世の世界観ってのは平面の大地になっていて、その端の方は滝になって流れ落ちたり、あるいは魑魅魍魎の世界みたいな、そんな文明世界の外側に在るのが怪物領域である |
No.1 | 7点 | 鉄の門- マーガレット・ミラー | 2009/01/22 09:52 |
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ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある
実はロスマクの本名はケネス・ミラーと言い、妻のマーガレットの方が夫の姓を筆名にしているわけだ 「鉄の門」はミラー初期の代表作で、長らく絶版で入手が難しいのが惜しい 早川ってこういうのを頑固に?復刊しない出版社なんだよなぁ 謎解き的に見たらそう大した真相ではないが、これをサスペンス小説として書くとこうも興味深く描く事が出来るのだという良い見本である |