皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
こうさん |
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平均点: 6.29点 | 書評数: 649件 |
No.369 | 7点 | 黒百合- 多島斗志之 | 2009/02/08 23:26 |
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多島作品で久々のミステリという評判で読んでみました。戦後間もない1950年代の「少年2人と少女1人のひと夏の淡い恋の物語」といった趣きのストーリーが続いてゆきます。
従来の作品とは狙いが違う作品ですが多島ファンが望んでいるトリック、プロットかというとそうでもないかもしれません。このトリック、プロットが登場人物の造形が丁寧な多島作品に合ってない気がします。構成上仕方ないことですが一部の登場人物以外の描写がいつもほど丁寧でない気がします。また今回は不必要な(?)登場人物がいる点も少し不満です。 ある意味一般的なミステリファン向けとも思えますがそのくせ淡々としたストーリーの中で淡々と明かされる感じで他の作家ならもっともったいつけるのになあと思います。アピールも弱い気がします。多島作品らしいといえばらしいのかもしれませんが。初読時途中では真相見破れませんでしたが最後真相がわかったときもなるほど、と思ったくらいでさほど驚きませんでした。 ただどんな作品でもいいので新しい作品を読みたい作家ですので多島斗志之氏が無事に発見されることを祈っています。 再読して若干書評を修正しました。 |
No.368 | 5点 | 追憶列車- 多島斗志之 | 2009/02/08 23:17 |
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短編集ですがほとんど文芸作品に近い作品集です。スタイル、筆致はうまいです。しかし作品中の謎があってそれが解かれてゆくミステリ的要素があるものもありますがメインのものはありません。「預け物」「マリア観音」は謎が全面に出ている方ですが残りはストーリーがメインかと思います。
ストーリー性は十分ですがもう少しミステリ度が高ければと思いました。 |
No.367 | 5点 | 十字屋敷のピエロ- 東野圭吾 | 2009/02/08 23:06 |
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いわゆる昔の屋敷もので起こる様な殺人事件であり昔風の登場人物たちですがむしろ懐かしい感じがして個人的には気に入っています。
ピエロの一人称は三人称でも語れるストーリーではありますが悪くはないと思います。 トリックはともかくいかにも本格といった趣きが懐かしく感じられる作品だと思います。 |
No.366 | 7点 | 不思議島- 多島斗志之 | 2009/02/08 00:22 |
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多島斗志之らしい作品です。瀬戸内海で中学教師をする「ゆり子」がヒロインで彼女は15年前誘拐された過去があった。彼女の前に里見という医師が現われ交際をしてゆくとともに15年前の真実が明らかにされてゆく、というストーリーです。
人物造形が素晴らしいのはこの作品も同様ですし男性作者の書くヒロインではありますがあまり不自然さは感じません。ミステリとしても良くできていると思います。登場人物の言葉の伏線も効いていますしタイトルも秀逸です。 文芸畑にシフトされましたがミステリメインの作品をもっと書いてほしいです。(黒百合は一応ミステリなのかもしれませんが個人的には不満もあります) |
No.365 | 6点 | 誰彼- 法月綸太郎 | 2009/02/08 00:07 |
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コリンデクスターをはじめて読んだときは非常に感動しましたがこの作品の仮説の繰り返しはそれほど感銘を受けなかった覚えがあります。
法月氏らしく伏線やその時点での情報に基づく推論でむしろ本家よりもロジカルかもしれませんが、結局間違った情報に対する仮説の繰り返しで「予想」と変わらないという本家同様の難点がかなり目につきます。 真相のひねりも法月氏らしいですが逆にこのスタイルでない方が面白くできたかもしれません。 |
No.364 | 5点 | 火村英生に捧げる犯罪- 有栖川有栖 | 2009/02/07 23:58 |
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まあ無難な短編集だと思います。軽い作品も多いですがオーソドックスなミステリを意識した作品群だと思います。
「殺風景な部屋」はダイイングメッセージのバリエーションですが相変わらずこの作者もクイーン同様ダイイングメッセージにとらわれているなあと思いました。従来の作品より短いのでさっと読めますし話の落ちとしては従来のより悪くないかもしれません。 他作品もまあまあでしたが純粋なパズラー作品というより落語の落ちか小噺の様な作品が多いのでたまにはがちがちのパズラー短編集を期待したいです。 |
No.363 | 6点 | やぶにらみの時計- 都筑道夫 | 2009/02/07 23:44 |
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おそらく国内初の二人称小説でしょう。都筑道夫の実験精神あふれる作品の一つです。後年法月氏の「二の悲劇」を読んだときは全く意識せず気がつきませんでしたがこの作品を意識して作ったのだと思います。
いわゆる「別人テーマ」の作品で朝起きたら隣に見も知らぬ女が寝ていて他人の名前を呼び自分が妻だという。自分の家に戻ると内縁の妻や隣人は彼のことを覚えていない、という発端から「自分探し」のストーリーが始まります。 魅力的な書き出しからすると真相はかなりしりすぼみですしラストはとってつけたような感じですが趣向は現代でも通用すると思います。 都筑氏の作品はミステリとして現代で通用するかはともかく面白い実験精神あふれる作品が目白押しなので一読をお勧めします。 |
No.362 | 7点 | 追憶の殺意- 中町信 | 2009/02/07 23:30 |
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80年代の叙述トリックの第一人者の初期作です。数年前「〇〇の殺意」というタイトルで初期作が再版されていましたが個人的にはこの作品も再版されるかと思っていました。
自動車教習所の路上実習コースで評判が悪い職員が倒れているのが発見され病院への搬送中に死亡する。その後人望ある主任が教習所内の密室で殺害される。また行方不明になった職員も殺害されて発見されて、というストーリーです。 全体として良くできていると思いますが再版されている作品群とはかなり趣きが違い叙述トリックが全面に出てきません。それが絶版のままの理由かもしれません。 個人的にはストーリー、トリックが気に入っても不必要に殺人が多い作品が多く何となく違和感を感じる作家ではあります。この作品はまだ少ない方ですが警察が介入するストーリーだとこれぐらいが限界かな、と思います。 犯人は簡単に割れますし、叙述トリックものではなくむしろアリバイトリックものですので初期作の中では異色かと思いますがまあまあ楽しめました。 |
No.361 | 8点 | 短篇集〈3〉日本推理作家協会賞受賞作全集- アンソロジー(出版社編) | 2009/01/21 00:24 |
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表題の通り日本推理作家協会賞の短編での受賞作のアンソロジーです。
個人的にはこの作品集で日下圭介、戸坂康二、連城三紀彦、石沢英太郎といった作家に出会え大収穫でした。 本格色が強くない時期のアンソロジーですのでその点が引っ掛からなければ非常に面白い短編集です。 それぞれ短編集の表題作である日下圭介の「木に登る犬」、「鶯を呼ぶ少年」、石沢英太郎の「視線」、戸坂康二「グリーン車の子供」、連城三紀彦の「戻り川心中」などが収録されているのですがそれぞれの作家のそれぞれの短編集も非常に面白かったです。 あとは阿刀田高、仁木悦子の作品が収められていますがいずれも個人的にははずれなしでした。阿刀田高は彼の典型的な奇妙な味系ではありますが。 気に入った作品があった場合その作者の短編集に手を伸ばすための最適なアンソロジーだと思います。 |
No.360 | 5点 | 改訂・受験殺人事件- 辻真先 | 2009/01/21 00:04 |
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ポテト、スーパーのシリーズ第三弾です。ここまでの3作品は主人公が高校生という設定です。
恐らくジュブナイルでありポテト、スーパーの関係も今読むとこっぱずかしい印象ですがこのシリーズは全作メタ要素が強い作品なので一読の価値はあるかと思います。 主人公の通う高校きっての秀才が飛び降り自殺を遂げるが殺人事件の疑いが強まり更に第二の殺人も起こり、というストーリーです。 殺人の方はそんなにうまくいくとは正直思えませんが真犯人の隠された動機に趣向があり30年前ですと早すぎた印象があります。逆に現代だと読者が身構えて驚きは小さいかもしれませんが一読の価値はあるかと思います。作風としては全編ジュブナイル調なのでそれが大丈夫ならお薦めできます。いずれにしろさっと読める作品です。 |
No.359 | 7点 | 二島縁起- 多島斗志之 | 2009/01/20 23:52 |
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海上タクシー<ガル3号>備忘録 という短編小説の続編長編です。
瀬戸内海で海上タクシーで生活している中年男性寺田が主人公で助手の若い女性弓とタクシー営業をしている、という設定です。 一種冒険小説、ハードボイルド(私立探偵物)の要素があり非常に面白いです。 5つの島々をまわって数人ずつタクシーで客を拾って合計25人を拾ってほしい。目的地は全員拾うまで秘密、という依頼を引き受けることから始まり二つの島の対立などが顕在化してきて、その後殺人事件が起こりというストーリーです。 島の風習が殺人動機に関わってくるのですが真相が明らかになる前に伏線というか説明がしっかりしています。 この作品は中年男性のかっこよさもでておりしかも男性の共感が得られやすい作品だと思います。 多島作品は登場人物の造形が丁寧でどの作品もお薦めできる作家です。 |
No.358 | 7点 | 一本の鉛- 佐野洋 | 2009/01/20 23:35 |
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いわゆるアパート物で現代では珍しい作品で懐かしさを感じる作品だと思います。女性ばかり住むアパートでホステスが絞殺死体で発見される。恋人が容疑者として逮捕されるがバーのママ及びバーの馴染みの客たちは恋人が犯人と思えず独自に捜査を進めてゆくと意外な真相が、というストーリーです。
真相は現代ではありがちな真相ですが作品として最後の1ページに余韻が残る作品です。真相には驚かされないかもしれませんが昔懐かしい作風に浸れると思います。 |
No.357 | 6点 | 0の殺人- 我孫子武丸 | 2009/01/20 23:29 |
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連続殺人(?)事件の新しい解釈というか真相として悪くないと思います。3兄弟のシリーズの明るさもマッチしており楽しめた覚えがあります。 |
No.356 | 6点 | メビウスの殺人- 我孫子武丸 | 2009/01/20 23:27 |
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殺戮にいたる病につながる所があると思います。随分前に読んだのですが3兄弟のシリーズでは一番気に入っています。 |
No.355 | 8点 | 告白- 湊かなえ | 2009/01/18 02:15 |
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筆力には圧倒され最後まで一気に読まされました。中学校を舞台とした連作短編集で各章の視点が異なり、一連の事件及び真相、登場人物の心情を上手くあらわし最後につなげる構成は感心しました。視点を変えることで例えば登場人物が「何で余計なことをしたんだ」と言った意図などがあとで明らかになる所は上手いと思いました。
ただ登場人物は全て「まともではない」人間ばかりで感情移入はできませんし、正直こんな人間たちがいるのかなと思えますし読んでのカタルシスは皆無です。ラストもここまでするか、という展開ですがそれでも読んでいる間は一気に読まされ満足でした。 |
No.354 | 5点 | しらみつぶしの時計- 法月綸太郎 | 2009/01/18 02:01 |
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探偵法月綸太郎が登場しない短編集ですがまあまあといったところです。殺人事件で探偵役が犯行を暴く、というスタイルの作品がないためその点もの足りなかったです。
「二の悲劇」のオリジナルのトゥ・オブ・アスが収録されています。内容はほぼ同じですが視点が違うのが興味深いです。 この短編集を読んでつくづく作者は都筑道夫氏の影響を強く受けているのだなあ、と思いました。マクベインのパロディの都筑氏の「クォート・ギャロン」のそのまたパスティッシュが収録されているだけでなく二人称視点の「しらみつぶしの時計」も収録されています。「二の悲劇」の時には気づきませんでしたが恐らく「二の悲劇」発表時点で既に都筑氏の「やぶにらみの時計」を意識していたのは間違いないと思いました。「しらみつぶしの時計」はラストは拍子抜けでロジックもあったものではありませんがこれも都筑氏へのオマージュとなっておりストーリーというか構成は気に入っています。 ロジックあふれる「法月綸太郎」探偵の短編も早く読みたいです。 |
No.353 | 8点 | スペシャル・ブレンド・ミステリー 謎001- アンソロジー(国内編集者) | 2009/01/18 01:47 |
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1970年、80年、90年の日本推理作家協会賞の年間アンソロジーに収録された短編より東野氏がセレクトしたアンソロジーです。やはり各年代で代表とされる作家がかなり違い懐かしい感じがしますしラインナップが面白いです。松本清張、筒井康隆、赤川次郎、日下圭介、高橋克彦、連城三紀彦、小杉健治、宮部みゆきの8作品です。
むしろ社会派的作品が多いですが「謎」が魅力的な作品が多いです。 個人的には日下圭介、連城三紀彦、小杉健治といった渋いセレクトが気に入っています。宮部みゆきは「サボテンの花」が収録されています。 基本的にはこの短編が気に入ったらその元の短編集を手に取るための案内としては最適なアンソロジーだと思います。個人的には日下氏、連城氏の短編集は特にお薦めです。 |
No.352 | 8点 | そして誰かいなくなった- 夏樹静子 | 2009/01/18 01:31 |
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タイトルだけでなく設定が「そして誰もいなくなった」をかなり模倣した作品です。個人的にはテープレコーダーを利用して登場人物の過去を暴く所が踏襲されているところは気に入っています。
共感できないヒロインの一人称視点で描かれているのも真相、結末を考えれば作者は意図的にやっているのでしょう。 作品中ずっと感じる違和感がありまた現代を舞台にどうやって納得させる結末をつけるのか考えると真相はわかりやすく「それしかない」感じですが後発の類似作があふれたこの時代では仕方ないかなと思います。 ストーリーの展開、結末はある意味オーソドックスですので普通に楽しめると思います。 少しネタばれですが「心停止」の確認の下りは個人的には予想通りでしたがあまり一般的ではないかもしれません。一人称視点が生かされていると思いますしそれが作者の狙いなのかもしれません。 |
No.351 | 7点 | 視線- 石沢英太郎 | 2009/01/04 00:22 |
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これも日下氏同様推理作家協会賞のアンソロジーに「視線」が収められていてから読んだ作品ですが日下氏の作品同様社会派的な良質短編集でした。
表題作は警察官が結婚式の会場前を歩いていた時新郎の顔に見覚えがあった。銀行強盗にあった銀行員有川で犯人は捕まったが非常ボタンを押そうとした勇敢な銀行員が射殺され、犯人逮捕に至るが刑事は有川の「視線」に殺意はなかったか、と自問する、というストーリーです。 いかにも社会派的作品ですが表題作以外も粒ぞろいの作品集だと思います。本格的切れ味は薄いですが「その犬の名はリリー」、「ガラスの家」、「一本の藁」などが個人的には気に入っています。 |
No.350 | 6点 | 完全恋愛- 牧薩次 | 2009/01/04 00:04 |
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辻真先氏らしい渾身のメタ作品だと思います。当然作者が「牧薩次」なのも意味があります。牧薩次(ポテト)は作品中に登場しますがキリコ(スーパー)は会話内だけで登場しません。しかしこの作品はポテト、スーパーのシリーズが(間違っているかもしれませんが)ジュブナイルと思われるのに対し明らかに一般成人を対象とした作品ですし厳密にいえば牧薩次が登場する必然性はない作品ではあります。
画家「柳楽糺」の一代半世紀が語られ、その間に殺人事件などが起こり、最後に真相が明かされるというストーリーですが、作品自体の仕掛け、表題作の意味、作者が「牧薩次」である意味、また真相のために用意された伏線と言うことありません。 作品中の「ミステリ的要素」は相変わらず乏しいですが「辻真先」らしい作品であることは間違いなく辻氏の作品が好きな方なら楽しめるのは間違いないと思います。 |