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[ ハードボイルド ]
稲妻に乗れ
私立探偵アロー・ナジャー
ジョン・ラッツ 出版月: 1989年04月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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早川書房
1989年04月

No.2 7点 人並由真 2020/04/01 18:07
(ネタバレなし)
 フロリダ州の43歳の私立探偵アロイアス(アロー)・ナジャーは、20代前半の愛らしいウェイトレス、キャンディ・アン・アダムスから依頼を受ける。その内容は、キャンディ・アンの彼氏で、一週間後に電気椅子送りになる死刑囚カーティス・コルトの行動の再調査だった。コルトは酒屋に強盗に入り、老主人に重傷を負わせた上、その老妻を射殺した容疑がかけられていたが、キャンディ・アンは真犯人は別にいるはずだと訴える。キャンディ・アンから、なぜか小出しにされる情報に対応しながら、自分自身も事件当夜の目撃者を訪ねてまわるナジャーだが。

 1987年のアメリカ作品。シリーズ第四作で、評者は初弾の『タフガイなんて柄じゃない』は大昔に読んだような気がするが第二作はたぶん未読。第三作は現在でも未訳なので当然、読んでない。

 ナジャーのキャラクターは、日本に初紹介の時点では「私立探偵史上、もっとも臆病な探偵役」とかなんとかの売り込みだったと記憶している。が、本作では、格闘シーンを見せるとかいったタフガイぶりは特に披露しないものの、次第に障害が生じてくる調査にもそんなに怖じることなく積極的に取り組み、割と骨っぽい。
(恋人である中年の美人教師クローディア・ベテンコートとの、なんだかなあ……の関係ぶりだけは、悪い意味でネオハードボイルド時代の私立探偵ぽかったが。)
 
 ミステリ的な趣向は『処刑6日前』『幻の女』を想起させる王道きわまりない主題。
 しかも死刑囚カーティス・コルトの刑執行の背景には、元検事総長で今は知事(州知事?)の悪徳政治家スコット・スキャラの思惑が忍ぶ、さらにコルトを逮捕したのはナジャーの旧友であるジャック・ハマースミス警部補であったなど、この設定を盛り上げていく登場人物シフトのお膳立ても十分。ナジャーの捜査が進むに従って一応は援軍も少しずつ増えていくが、一方でさらにそんな優位さがまた思わぬ形で後退させられるなど、シーソーゲーム的な感覚もなかなかいい。

 それで肝心の終盤の展開は、よく言えばひねったもの、悪く言えば意外性のための意外性という印象もあるが(某キーパーソンの行動が、タネを明かされると納得できないような、それとも一応は筋道立っているのかと判断に困る)、よくある<芸のないお約束の真犯人パターン>とはとにもかくにもちょっと違う辺りは、評価してもいいだろう。
 私立探偵小説としての口あたりはとても良かった。やや長めのエピローグにもその紙幅に見合った叙述の意味はある。
 ちなみに題名の意味は、電気椅子送りにされろ(稲妻みたいに全身に電流を流されてくたばれ)、ということ、だって。

No.1 6点 2016/04/15 22:45
アロー・ナジャー・シリーズの第4作ですが、読み始めてすぐ、はてなと思いました。三人称形式で書かれているのですが、第1作ではコンチネンタル・オプ由来の一人称形式だったはず…それに依頼される事件のタイプも全然違うし…
で、訳者あとがきを見てみると、そこにもナジャーの人物像が変わったことは書いてありました。だいぶハードボイルドの主役らしくなってきたともされていますが、個人的にはむしろ初期のハードボイルド史上最も臆病な探偵という設定の方が、個性的でいいとも思えるのですが。
しかし、ストーリー展開はかなり意外なところがありました。同じハードボイルド系ならラティマーの『処刑6日前』と似た設定、つまり刑が確定した死刑囚を救おうとする話で、タイトルも電気椅子にかけられることを意味しているのですが、最後は相当ひねっています。まあ人間性からはちょっと無理な気もしますが。


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