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[ クライム/倒叙 ]
彼らは廃馬を撃つ
ホレス・マッコイ 出版月: 1988年09月 平均: 6.67点 書評数: 3件

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王国社
1988年09月

白水社
2015年05月

白水社
2015年05月

No.3 7点 小原庄助 2017/06/25 10:18
不況のさなかの1930年代、夢を求めてハリウッドにやってきた男女が、過酷なマラソン・ダンスに挑む。
狙うは賞金と、映画関係者の目にとまること。
競技では何組もの男女が踊り続け、競技中に起こるさまざまな事件が、そして男女の心情が描かれる、
狂騒の中で、スポットライトを浴びることなく消える男女を描いた小説。
殺す者と殺される者でありながら、2人の間に憎悪はない。
題名と呼応する最後のセリフが、居場所を見つけられなかった者の悲しみと絶望を浮かび上がらせる。
夢を見ることと、その冷酷な結末が長く胸に残る。

No.2 7点 クリスティ再読 2016/06/03 23:50
ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」が、私立探偵小説ではないハードボイルド小説の中では一番知られた小説になるわけだが、人によってはヘミングウェイの「殺人者たち」とかフォークナーの「サンクチュアリ」とか、あるいはデイモン・ラニヨンとかをハードボイルド古典小説に含めたりする。本作もよくそういう文脈で触れられるハードボイルド成立期の古典である。本作のあとがきにある洒落た言い回しによると「ポエッツ・オブ・ザ・タブロイド・マーダー」というタイプの小説だね。
アメリカで本格パズラーが人気を集めたのが第一次戦後のバブル期から大恐慌初期のまだバブルの余韻が残る時代だったのだが、ハードボイルド小説はその後の大恐慌が本格化した時代の流行だと見てもいいだろう。だからハードボイルドって「不景気小説」として読むべきなんだろうな。で、このバブル期のハイで浮ついた風潮で登場した「マラソン・ダンス」という高額の賞金目当てに何十日も踊りづめに踊る一種のショーを本作は舞台としている。けどヨノナカ不景気になるとこのショーも一獲千金を狙った参加者とどんどんエスカレートして過激・過酷になるルールの中で、肉体的・心理的にオカしくなる人も多々あったようで、ハプニングやお色気目当ても含めて、見世物として悪趣味な人気を集めた...という今考えるとかなりヒドい話なのだが、ハリウッドで行われたこのショーに参加したカップルの視点で話が進んでいく。主人公カップルは、もともと映画界目当てで西海岸に来たわけだが、トーキーのおかげで大恐慌知らずな業界だった映画界でも、そうそううまい仕事にありつけるものではなく、食い詰めてマラソンダンスに参加したわけである....でこのカップルの女性は今でいうヤンデレ系で、きわめてネガティブで自殺願望の強い女。最終的に主人公の男に頼むかたちで自分を撃たせることになる。
で、この描写は極めてあっさりしていて「え、なんでイキナリ撃たせるの!?」ってなるようなもの。本作はアメリカでは結構忘れられてたらしいが、フランスで紹介されてヘミングウェイ並みに評価されたらしい。要するに心理主義的じゃなくて行動のつじつまも合ってないような、不条理感が強く出るクライマックスや、マラソンダンスの極限状況から来るサイケな雰囲気が、カミュの「異邦人」と似たかんじでフランスで受けたわけだよね。ちょいと後のゴダールの「勝手にしやがれ」もそうだけど、フランス人ってこういうタイプの「クールでドライなアメリカ的性格」に妙に憧れるとこがあるな。
あと本作もともと映画化をきっかけに角川文庫向けに訳されたという事情があるのだが、あとがきによると角川春樹が出版に積極的だったようだ。後々の事件とか考えると何か興味深いな..訳者常盤新平のお気に入り作品のようで、その後2回版元を変えて全然同じ訳で出ているようだ。まあ破滅的青春とか好きな人はハマれるタイプの小説である。

No.1 6点 mini 2015/05/12 09:55
”白水社”は神保町にも程近い神田小川町に在る出版社で、ちょっと知ってる人だと、あぁあのフランス語関係に強い出版社ねという感じだろう
たしかにフランス哲学書などでは定評があるらしいが一般文学も手掛けており、しかも文学分野では国籍的には必ずしもフランス文学一辺倒ではない
”白水Uブックス”は白水社の看板文学シリーズで、新書版という版型だが他社での文庫版文学全集といった位置付けだろう
この”白水Uブックス”、フランスだけでなく各国文学がバランス良く含まれていて、と言うかバランスが良過ぎて英語圏への対抗意識か英米文学に偏っていないのが白水社らしい(笑)
ラインナップにサリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」など決して特別マニアックなセレクトではないが、ちょっと他社とは一味違うセレクト感もある

例の藤原編集室では最近この白水社との連係プレーが有って、先日にはホレス・マッコイ「彼らは廃馬を撃つ」が刊行された
ホレス・マッコイは例の森事典にも載っており、ミステリー作家としても認識されている、と言うのもマッコイは生活費の為に『ブラックマスク』などのパルプマガジンに投稿していて、よくハードボイルド的な扱い方をされる場合もある
しかし「彼らは廃馬を撃つ」を読む限りではどう見てもハードボイルドではない、当サイトのジャンルとしては便宜上クライムに投票したが、まぁ海外版青春ミステリとか青春群像劇というのが一番近い線か
実際マッコイ自身も純文学意識があったのだろうか、出版社にハードボイルドという売り方をしないように要望していたという
「彼らは廃馬を撃つ」はまさに伝説の作品で、大戦間の若者の虚無的な生態を鮮やかに活写した作だ
ミステリーと言うより、解説にもあるようにJ・M・ケインやサローヤンやスタインベックなどと名前を並べた方が合うんじゃないかと思わせる、そう考えると今回白水社から出たのは似合っているのかも
実はこれ復刊で、以前は角川文庫で出て、その後同じ角川からハードカバーで復刊されている
文庫化とは逆に最初文庫で出たものの単行本化という過程は極めて珍しい、そのせいかハードカバー版は中古市場でも入手容易だが角川文庫版はかなり入手困難で、私も探したが見付けられなかった
ハードカバー版ではこの作を激愛し翻訳した常盤新平の熱い解説に圧倒されるが、内容的には正直私は表面的で深味に欠ける印象を持った
特に何か深い意味が有るのかと勘繰った題名などは、案外と単純で皮相的な意味なので肩透かしだった
しかし深い意味を求めるのが間違いで、これはその当時の社会風俗と若者達の生態をフィーリングで感じ散る話なのだろう


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ホレス・マッコイ
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