皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ サスペンス ] 汝殺すなかれ 十戒シリーズ |
|||
---|---|---|---|
ローレンス・サンダーズ | 出版月: 1981年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1981年01月 |
早川書房 1988年02月 |
No.1 | 7点 | tider-tiger | 2015/03/03 23:59 |
---|---|---|---|
さまざまな科学研究を支援しているビンガム財団は助成金の申請をしてきたソーンデッカー博士に関する審査のため、調査員サミュエル(サム)・トッドを派遣する。博士の研究所は住民の高齢化が進み、ろくに仕事もないようなコウバーンという町にあった。この町はソーンデッカー博士の経営する老人ホームと研究所なしでは町の経済が立ち行かないため住人たちは助成金の支給を心待ちにしている。
当初はさして問題もないだろうと考えていたサムであったが、宿に置いた荷物を何者かに調べられたり、部屋に「ソーンデッカーは殺す」と記されたメモを置かれたりと、調査は不穏な気配を見せ始めるのだった。 サムの調査は町の人々と会っての聞きこみが中心であり、物語はゆっくりと地味に進んで行きます。町と住民の描写は非常に良くて、こういう町は本当にありそうだなと思わせる。展開が地味なわりにはリーダビリティは高いと思います。調査に少しずつ影を投げかけて、じわじわと町の不気味さを盛り上げていく、その雰囲気作りは見事です。 問題は主人公サムの人物像と文体。ハードボイルドを意識したような一人称で描かれていますが、どうもその文体が借り物臭くて、それ故か主人公も没個性的で借り物の臭いがする。この作者は三人称で書いた方がいいと思いました。 それからソーンデッカー博士の人物像が書き込み不足のように思えました。作中でたびたび言及されるような天才らしさが感じられず、よくわからない人のまま終わってしまいました。町の住人たちが非常によく書けているだけに肝腎な人物の印象が薄いのは痛い。 ホラー小説としても通用しそうな結末はかなり印象的で、なおかつ当時としては斬新なアイデアだったのではないでしょうか。「●●は●●なので、●●を防ぐことに利用できるのではないか」という仮説は非常に興味深く、また不気味でもあります。自分はこの分野はまったくの門外漢なので、この仮説や前提条件について科学的な知見を もう少し盛り込んで欲しかったところ。 ローレンス・サンダーズは学生時代に「魔性の殺人」「欲望の殺人」「無垢の殺人」「汝殺すなかれ」の四冊を一週間かけずに読破しました。そんな読み方ができたのは面白かったからだとは思いますが、内容はどれもあまり記憶にありませんでした。当時の感想はエンタメとして良かったのは「汝殺すなかれ」、印象深かったのは「無垢の殺人」だったような気がします。『欲望の殺人』と『魔性の殺人』も読みなおしてみようかな。 |