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[ 日常の謎 ]
ハルさん
藤野恵美 出版月: 2007年02月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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東京創元社
2007年02月

東京創元社
2013年03月

No.3 6点 ぷちレコード 2023/06/15 23:18
妻が早くに亡くなり、一人で育ててきた娘・ふうちゃんが今日結婚する。式場に向かう父の脳裏には、彼女の成長の過程で遭遇したいくつかの小さな事件の思い出が浮かぶ。ハルさんとは心優しいその父親の名前だ。児童文学で人気を博する著者が初めて大人に向けて書いた、ほのぼのとした連作ミステリ。
幼稚園の友達のお弁当箱から卵焼きが消えたこと、小学四年の夏休み、植物図鑑を眺めていたふうちゃんが翌日失踪したこと。謎にぶつかるたび、天国の妻が話しかけて名推理を発揮、ハルさんを助ける。娘の知らないところで交わされる夫婦愛、親子愛に満ちた会話が心温まる。いわゆる幽霊探偵のパターンだが、亡くなった妻を探偵役にすることで、夫婦の思いと謎解きの描写を両立させたところが見事。冒険好きなふうちゃんも非常に魅力的。
終盤の結婚式の場面では、ふうちゃんがなぜその男性を選んだのか、過去の親子の会話の中にヒントがあったと分かって胸を打つ。

No.2 6点 斎藤警部 2022/05/02 21:46
シングルファーザーのビスクドール作家「ハルさん」が、一人娘の結婚式に向かう。タクシーの中〜結婚式場〜披露宴会場にて、過去に遭遇したちょっと不思議な事件たちと、既に若くして故人となっていたハルさんの妻が空の上から(?)事件を解く大事な鍵を与えてくれて無事解決に至った顛末を回想しつつ、最後は・・・
娘が幼稚園児、小学生、中学生、高校生、大学生それぞれの時代に起きた事件に纏わる連作短篇。本篇よりも、幕間とプロローグ/エピローグに泣き所がさり気なく寄せられているかな。

第一話 消えた卵焼き事件/第二話 夏休みの失踪/第三話 涙の理由/第四話 サンタが指輪を持ってくる/第五話 人形の家

事件の内容は、これぞ「日常の謎」。日常を謳いながらほとんど犯罪に近い事象や犯罪でなくとも極めて非日常的案件を扱うタイプのグレーゾーン物件とは一線を画したピュアホワイトミステリ。
だもので、良い意味でほんわりした手触りの作品が並ぶが、中で一篇、娘の高校生時代の話だけは際立ってミステリ性高く、引き摺られてサスペンスも強め。それでいてやはりピュアホワイトなストーリーてんだからバランスィングは大したもの。意表を突いて『見取り図』が登場するのは絶対何かある..と睨んだが、まさかそう来るとはね!!・・ この場合の見取り図は実は飽くまで「○○」であって、○○○○の事も検討が必要なわけだが、そういうわけでこの一枚の見取り図が手掛かりでありつつ見事なミスディレクションも兼ねているわけね。。それが大感動オチに直結と来た。

どこまでもホワイトで意表を突く伏線回収も、スパンの長短取り混ぜ、ほんと綺麗に決めまくる。まあ、普通にエエ話でもありますねんな。

文庫の作者あとがきによれば、作者は家庭環境的になかなかハードな少女期を過ごされた様で、中でもちょっと体験しない凄い案件の渦中で思った事が本作のインスピレーションになったのだとか。いやはや。

No.1 6点 メルカトル 2014/06/21 23:35
ささやかな日常の謎を扱った、5篇からなる連作短編集。
ハルさんの愛称で呼ばれている春日部晴彦は娘のふうちゃんの結婚式の日の朝、若くして亡くなった妻の瑠璃子さんの墓前に娘の結婚の報告をしてから、タクシーで式場に向かっていた。そのタクシーで思い出すのは、幼稚園児の頃のふうちゃんや、彼女が次第に成長していく過程で起こった数々の小さな事件であった。
いずれの短編も本当に誰の身にも起こり得るような、日常の謎を解き明かしていくものであり、探偵役はなんと亡き妻の瑠璃子さんなのである。ハルさんがピンチの時に夢の中や回想で瑠璃子さんが現れ、彼にヒントを与え、夫婦で謎を解いていく。
正直、ミステリに慣れ親しんでいる読者には物足りないはずだが、悪人が一切出てこないほのぼのとした連作短編集であり、児童文学出身の藤野女史らしい、実に丁寧な文章で綴られた佳作であるのは間違いないと思う。各短編の間に、タクシーの中での花嫁の父としての心境を、ラストシーンではひそやかな涙を誘う別れと新郎新婦の新たな出発を描いており、心温まる読後感を残す締めくくりとなっている。
やや不満なのは、ふうちゃんが長じるにつれて、次第に生意気になっていくところだろう。だが、彼女は頼りないハルさんと違ってしっかり者で、その辺りの人物造形もしっかり描き込まれているし、ミステリとしても文芸作品としても、もっと高い評価をされて然るべきなのかもしれない。


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藤野恵美
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