皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] 黒い駱駝 チャーリー・チャン |
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E・D・ビガーズ | 出版月: 2013年06月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
論創社 2013年06月 |
No.2 | 5点 | nukkam | 2016/01/18 01:43 |
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(ネタバレなしです) 1929年発表のチャーリー・チャンシリーズ第4作の本格派推理小説です。過去に何があったのかを追求するプロットがシリーズ前作の「チャーリー・チャンの追跡」(1928年)の同工異曲といった印象を受けました。気の利いた手掛かりが用意されていますがほとんど終盤になっての登場のため、謎解きのプロセスとしては少し不満を感じました。この手掛かりがある容疑者を示すのですが、チャーリーはアリバイを理由にこれを簡単に間違いと断言します。そこから先の展開はネタバレになるのでここでは紹介しませんが、普通ならアリバイの方を1回疑ってもいいのではと思いました。映画関係者を大勢登場させたにしては非常に地味な内容で、作者も反省したのか(笑)、次のシリーズ作品は世界旅行に連続殺人を絡ませた「チャーリー・チャンの冒険」(1930年)になります。 |
No.1 | 6点 | おっさん | 2013/09/13 11:48 |
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1929年――
ヴァン・ダインが前年の『グリーン家殺人事件』に続けて、代表作『僧正殺人事件』を発表し、エラリー・クイーンとダシール・ハメットが、それぞれ『ローマ帽子の秘密』『赤い収穫(血の収穫)』というファースト長編を世に問うた、アメリカ・ミステリ隆盛の年(ミステリ史では、ですね。“リアル”だと世界恐慌の年ですw)。 そんな年に、手堅いエンタテインメント職人がものした、中国人探偵チャーリー・チャン(ハワイ・ホノルル警察所属)ものの第四長編です。 過去、戦前抄訳にもとづくヴァージョンでしか読めなかったものが、論創海外ミステリから完訳で刊行されました。 巻末の解説(廣澤吉泰)では、過去訳を完訳と対照することで、マイナス・イメージの強い「抄訳」を、テクニック面から再検討しており、先人の業績をきちんと評価したうえで先に進む、「抄訳→完訳」シリーズ(?)の皮切りにふさわしい内容となっています。 さて。 作者のE・D・ビガーズは、筆者にとって懐かしい名前で、創元推理文庫からポケミス、やがて古本屋で『別冊宝石』のバックナンバーに手を伸ばし、メジャーどころ以外の古い作家・作品をつぶしていった、若かりし日の想い出と結びついています。 安定して楽しめる、いい作家だったような・・・。個々の作品のことは、じつはあんまり覚えていないのですがw この『黒い駱駝』(東洋の格言に出てくる、死神の意)も、『別冊宝石』45号のE・D・ビガーズ篇(1925年のチャンもの第一作『鍵のない家』と26年のノン・シリーズ『五十本の蝋燭』を併録)で既読ながら・・・ え~と、たしか、ロケでスタッフと一緒にハワイに来た映画女優が殺される話だよな、なんだか彼女は、まえにハリウッドでおきた未解決の俳優殺しの犯人を知ってるとかで、いまこの現場にその犯人がいるとかいないとか、死亡フラグを立てたんだっけ―― くらいの漠然とした印象しかなく、今回、途中まで読んでから、あ、犯人こいつだ! と思いだしましたw 複雑な人間関係、玉ねぎの皮を剥くように、それをより分けていくチャン。その探偵行は、さながらリュウ・アーチャーか金田一耕助かwww 推理ではなく、新発見の事実・新証言によって局面が更新され、最終的に事件も決着するわけで、“本格”として弱いといえばそれまでなのですが、チャンのおだやかな人柄と、舞台となるホノルルの気候風土がマッチして、捜査小説としての道行きの面白さは、いま読んでもいささかも失われていません。 また今回の再読で気づいたのですが―― あの最後の“決め手”で、読者が真犯人へたどり着くことはできませんね。 しかし、作者は強調していませんが、登場人物AとBの結びつきに関しては、導入部の、ある謎(なぜ分かったのか?)を冷静に考えれば明らかで、のちAへの疑惑が高まり、しかしAが犯人では矛盾する、という展開になった時点で、読者がそれを思い出せば、最重要容疑者としてBをピックアップすることは可能なはずです。その場合、“決め手”はあくまで最後のダメ押しです。 フェアプレイというためには、もっと伏線が必要なことは認めたうえで、作者のため一言しておく次第です。 最後に――ミステリ面を離れて、個人的に感心したことを。 作者は本書で、ハワイをきわめて魅力的に描いています。でも、安易な「人生の楽園」にはしていません。 「ホノルル観光局」の宣伝担当という、なかなか魅力的なキャラクターがいて、大衆小説作家としてのビガーズの面目躍如なのですが、外からやって来た人間である彼は、しかしここで人生のパートナーを見つけ、ラスト、ここから出ていく決心をします。「仮の宿」を出ることで、人は成長する。 夢の世界から、読者をきちんと現実に返すビガーズは、わきまえている大人の作家でした。 |