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[ サスペンス ] 家族狩り 2004年の文庫版で大幅改稿/2007年版は原型の復刊 |
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天童荒太 | 出版月: 1995年11月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
新潮社 1995年11月 |
新潮社 2004年01月 |
新潮社 2004年02月 |
新潮社 2004年03月 |
新潮社 2004年04月 |
新潮社 2004年05月 |
新潮社 2007年10月 |
No.2 | 7点 | Tetchy | 2021/04/18 23:59 |
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天童荒太氏の名を世に知らしめたのが3作目の『永遠の仔』であることに論を俟たないが、そのブレイクへの大いなる助走となったのが、家族全員を陰惨な方法で殺害する、何とも陰鬱な事件を扱った本書だ。
本書で扱われる事件はタイトルから想起されるそのものズバリの一家惨殺事件だが、その内容は愛に不器用な者たちの痛々しいまでの物語だ。心から血を吐くほどに狂おしいまでにそれは痛々しい。 本書で扱われる一家惨殺事件について触れよう。とにかくその内容は想像を超える凄惨さを極めた残酷ショーだ。 こんな常軌を逸した凄惨な事件を捜査するのが杉並署の刑事馬見原光毅。かつては捜査一課のエース的存在だったが、今は所轄署の書類仕事専門の閑職に就いているこの男もまた家族が壊れた男だった。 おおよそ読者の共感を得られない、警察官としてでなく、親、そして夫失格、いや人間として失格な人物なのだ。 そして芳沢亜衣。親の期待と自分のことを理解されない、愛がほしいのにどうして抱き締めてくれないのかと心の中で叫びながら、表面では口汚い言葉で周囲の人間を罵り、部屋を無茶苦茶にし、自傷行為も行い、どんどん荒んでいく女子高生。 正直私はこの登場人物が一番理解できなかった。周りがとにかく気に食わないから蔑み、罵倒し、ありもしないレイプの事実をでっち上げ、人を犯罪者に仕立て上げようとする。そしてどんどん心は荒み、夜毎起きては冷蔵庫の前で獣のように食料を漁っては食べ、それらを全て吐き出すことを繰り返す。 本書は1995年の作品。つまり25年も前の小説である。まだファミコンが人気を博し、携帯電話は普及しておらず、ポケベルが出先での連絡手段だった頃の時代の話だ。 しかし本書に描かれる家庭内暴力、児童虐待の痛ましいエピソードの数々は20世紀から21世紀になった今でも、平成から令和になった今でも全く変わらない。寧ろ改善されるどころか、毎日児童虐待による幼い命が奪われる哀しいニュースが流れる始末。また本書に登場する教育者で悩み相談を受け持つ大野夫妻が自己防衛のためにやむなく自ら我が子を手に掛けるが、これもつい最近農水省の元官僚が息子の暴力に身の危険を感じて殺害するといった同様の事件が起きたばかりだ。 この世は全く変わっていない。四半世紀を経ても児童の教育は色々な変化を行ったが、親子の抱える問題はいささかも解消されない。いやもしかしたらそれまで報道されずにいただけであって、最近の高度情報化社会で一億総情報提供者となった現代だからこそ今まで隠蔽されていた事件の数々が明るみに出るようになったのか。 ある人物が「狂ってる」と呟く。 そう、本書の登場人物はどこかみな狂っている。いつの間にか子供が親に従わず、暴力を平気で振るうようになり、我が子に怯える家庭に、そんな家族を惨たらしい方法で拷問するように殺害する犯人、その事件を追う刑事もかつて自分も厳しく育てた息子を自殺行為の事故で亡くし、その責任を妻に負わせ、狂わせた男だ。 そして理解されず愛情に飢えながらも耳を覆いたくなるような罵詈雑言を浴びせ、事実無根のレイプをでっち上げ、教師一人を辞職に追い込みながらも獣のように足掻き苦しむ女子高生。刑事の夫になかなか向き合ってもらえないから動物を殺して幸せそうな家の前に捨てる事件を起こして犯人である自分を捕まえるために駆け付けさせようとする妻。 誰一人まともな人間はいない。社会に適合しようと振る舞いながら、自らの感情をむき出しにして衝動的な怒りと不満、エゴをぶつけ合う人々たちばかりだ。 しかし彼らもまた虐待をされてきた人間だったのだ。因果は巡る。親の云うことが絶対だった日本に根付く厳しい家父長制度。云うことを聞かなければ殴る、蹴るが当たり前の時代。それが今なお親から子に引き継がれ、暴力を家庭から拭い去ることができなくなっているのだ。 愛が欲しい、自分の方へ向いてと叫ぶ一方でどうして自分の思い通りにしないのかと突き上げられる憤怒と衝動を抑えきれず、思わず暴力を振るいながらも誰かこんな自分を止めてほしいと願う人々がいる。 普通であることの難しさ、幸せを維持することの難しさ、そして我が子を育てることの難しさが本書には凝縮している。 しかし最も恐ろしいのはそれら登場人物の中に自らの影が見いだせることだ。 でも私の家族はまだこれほどひどくないと安堵して本を閉じながらも、いやもしかしたら近い将来…と不安になりもする。何とも魂に刺さる物語である。人生が苦痛と苦難を伴うものだと見せつけ、それでも生きていくことの難しさを刻み込まれる。 今度家に帰ったら子供たちを抱きしめてあげたい。そうする衝動に駆られる心が痛む物語であった。 児童虐待、家庭内暴力。 これらが撲滅されるまで我々人類はどのくらいの時間があと必要なのか? いや過去に暴力を受けた大人たちがいる限り、この負の連鎖は無くならないのではと令和になった今でも思わざるを得ない。 その証拠に今日もまたそんな虚しくも哀しいニュースが流れてきたではないか。 |
No.1 | 5点 | 白い風 | 2014/08/04 23:24 |
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愛ゆえに”家族を狩る”と云うテーマは斬新で面白いとは思った。
ストーリーも氷崎・巣藤・馬見原の3人の主人公が存在してそれが交わりながら進むのも楽しめました。 ただ、ラストは個人的にはビミョウ・・・。 納得できたのはかつての教え子芹沢を救った巣藤版のみかな。 正直な感想はやっぱり長かっただな(笑) |