海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ サスペンス ]
嘘、そして沈黙
テディ(セオドワ)・キャメル
デイヴィッド・マーティン 出版月: 1992年08月 平均: 7.67点 書評数: 3件

書評を見る | 採点するジャンル投票


扶桑社
1992年08月

No.3 7点 人並由真 2020/08/28 14:50
(ネタバレなし)
 その年の7月のワシントン州。50代前半の富豪の実業家ジョナサン・ガェイタンの無惨な死体が自宅の浴室で発見される。「わたし」こと53歳のテディ(セオドワ)・キャメルは、証人や容疑者の偽証を直感的に見抜く技量に長けた「人間嘘発見器」の異名をとる刑事。テディは横柄な年下の署長ハーヴィー・ランドの指示で、被害者ジョナサンの若い美人妻メアリーの証言の真偽を見やることになった。やがてジョナサンの死は自殺と公認されるが、テディはさらに広がる事件の深い奥行きを感じていた。

 1990年のアメリカ作品。刊行直後に何らかのきっかけで冒頭だけ読んだ記憶があり、そこで序盤のとある描写が『ジョジョの奇妙な冒険』「キラ=クイーン編」の冒頭の元ネタだと気づいた覚えがある(いや、もしかしたら正確には、当時、どっかでこの情報は、先に誰かから教えられていたものだったかもしれない?)。
 ちなみにこの話題は、本作も『ジョジョ』の該当編も本当に最初の部分の叙述なのでネタバレには当たらないものとして、どうぞご了承のほどを。

 それで評判がいいので大昔に状態のいい古書(最後のページに鉛筆書きで200円とある)を買ったはいいものの、やっぱりグルーミーで気持ち悪そうなので家の中に長らく放っておいたのだけれど、昨日、蔵書をひっかき回したら出てきた。そこで、タマにはこういうのも……と思って読んでみる。

 結果、やや長めの話(文庫で約460ページ)ながら一日で読了。警察小説とサイコサスペンスの要素を加えたスリラーとしてベストセラー&話題になっただけあってリーダビリティは最強。物語のテンポ自体もいいが、ムダに劇中人物に名前をつけない作法も小説のコントロールがきいている(殺される被害者たちとか。それでも犠牲者の事件現場での内面描写などはしっかりやるのだが)。

 あと実に残虐で苛烈、さらに真相まで踏み込んでかなり(中略)な話なのに、読んでいる間は不思議にサラッと物語に付き合えるのが長所。メインヒロインのメアリーと、ジョナサンの秘書ジョジョ・クリーク(あ、「ジョナサン」と「ジョジョ」だ(笑))との関係の、最後の最後にわかるオチなんか、なんというか、いい加減で読み手からガス抜きさせるコツを、作者が心得ている感じ。

 それとミステリとしての最後のどんでん返しには驚かされたが「ちゃんと伏線を張ってあったぞ」と読者に向けていわんばかりのテディの物言いには笑った。ただまあできれば、地の文で……(中略)。本来ならなるべく早めに、できれば刊行当時に読め、ということだったのか? うん、これ以上は書かない(書けない)。

 ラストの「なんかそこまで気をつかわんでも、読者にエンターテインメントせんでも……」という感じのクロージングもなかなか心地よい。書き手が工夫を凝らしたエンターテインメントなのは認める。
 そんなに思い入れるようなタイプの作品ではないが、総体的によく出来た作品なのは間違いない。
 評点は迷った末にこれで。8点でもいいんだけれどね。

No.2 8点 蟷螂の斧 2016/05/13 08:12
裏表紙より~『ワシントン郊外の邸宅で、実業家ジョナサン・ガエイタンが血まみれの死体で発見され、自殺と断定された。しかし、捜査にあたったキャメル刑事は、実業家の妻メアリーに秘密の匂いをかぎとった。彼女は前夜、邸宅に侵入した男の存在を隠しているのだ。その殺人狂の男フィリップは近くのモーテルに身をひそめ、次々と陰惨な殺人を引き起こし、事件は意外な展開を見せてゆく―。「『サイコ』『羊たちの沈黙』の伝統を受け継ぎ、新時代を築く傑作!」と絶賛されるD・マーティンのサイコ・スリラー問題作。』~
サイコ・キラー系なのでグロテスクな描写はありますが、素直に面白いと言える作品でした。人物造形(刑事、被害者?の妻、殺人鬼)は緻密でうまいと思います。殺人鬼については、少し頭が弱くドジなところがあるというところが若干の救いか・・・。ユーモア、ペーソスを取り混ぜ、自殺か殺人かという謎で引っ張て行きます。真相はこれに近いものは数作品ありますが、厳密な意味では初物でした。伏線はあるのですが、当然判りませんでした(苦笑)。ラストで題名(原題・邦題とも)の意味がわかります。エピローグでの粋な計らいが、人間ドラマ的な印象を与えてくれました。

No.1 8点 こう 2008/11/02 22:32
 一昔前流行ったサイコサスペンス物です。実業家ジョナサンが自宅で血まみれの死体で発見され、その様に処理されたが「人間嘘発見器」の異名を持つ担当刑事が事件当時一緒にいた妻メアリーの証言に嘘を直感し捜査を進めてゆくストーリーです。
 冒頭はいきなり不審者の男がジョナサンの自宅に侵入しジョナサンを縛り上げる所からストーリーが始まるため読者には妻が嘘の証言をしていることが最初からわかっており何故妻は嘘をついたのか、謎の不審者の正体は、ジョナサンは本当に自殺なのかといったことに疑問を持ちながら話は進んでゆきます。
 難点は陰惨な描写がとにかくどぎついことと決して長い作品ではないのですが不必要な描写で中だるみしていることです。
 真相自体は前例はありますが良く考えられていてシリアルキラーものとみせておいて実は、という構成になっていますが真相が最後にまとめてわかるタイプではなく小出しにされているため最後の驚きはさほでもありません。提示の仕方によってはもっと驚かせることが可能だと思いました。また原題はLIE TO MEですがこちらの方が作品の意図に近いと思います。
 シリアルキラーものは今は下火ですが描写を我慢できる方なら一読をお薦めする作品です。


キーワードから探す
デイヴィッド・マーティン
1993年03月
誰かが泣いている
平均:5.00 / 書評数:1
1992年08月
嘘、そして沈黙
平均:7.67 / 書評数:3