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[ クライム/倒叙 ]
ポップ1280
ジム・トンプスン 出版月: 2000年02月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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扶桑社
2000年02月

扶桑社
2006年05月

扶桑社
2019年08月

No.2 6点 人並由真 2021/06/10 15:41
(ネタバレなし)
 アメリカのどこかの田舎町、ポッツ郡のポッツヴィル。そこは人口およそ1280人(ポピュラリティー1280)の小さな町だ。「おれ」ことニック・コーリーは、それなりの年俸と収賄で安定した生活を送る悪徳保安官だった。だが知恵遅れの美男の弟レニーを同居させる、口うるさい妻マイラが少し煩わしい。ニックには美貌の人妻の愛人ローズ・ハウクがいたが、最近では元フィアンセのお嬢様エイミー・メイスンと寄りを戻したい気もしてきた。さらにニックがみかじめ料を取っている売春宿のヒモの男ども、ローズの旦那の大酒飲みトム、そして次期保安官選挙の対立候補サム・ガディスたちが、多かれ少なかれめざわりだ。ああ、ニグロどももな。ニックはひそかに、自分の今後の快適な生活のために、下準備を進めていた。

 1964年のアメリカ作品。
 以前に読んだトンプスンの1952年作品『内なる殺人者』(『おれの中の殺し屋』)のリメイクみたいな、ローカルタウンを舞台にした悪徳保安官もの。
 大枠で言えば似た造りだが、先行作の主人公ルー・フォードが内面に暴力志向といった主旨の獣性を秘めているのに対し、こちらの主人公ニック・コーリーは、自分が必要、適当と思った状況でいくらでも遠慮なく、暴力への常識的な禁忌を破る感じ。まあともに、ドライに計算ずくで人を殺傷できるキャラクターなのは違いないのだが。

 ニックと3人のメインヒロインとの関係性、絶えずかなり巧妙に悪事のための布石をはりまくるニックの手際、意識的に露悪的に描かれた人種差別の要素など、前作とは異なる文芸要素や主題も少なくない。特に黒人への侮蔑の数々は、アメリカのミステリ界をふくむ文壇全般にブラックパワーが満ちてきた時代だからこそ、あえてやった趣向だろうな。
 21世紀の今の新刊でやったら確実にコンプライアンス問題になるような描写だが、この作品当時の作者や版元(編集部)の言い分(大義)としては、こういうアンチヒーローが毒づくような人種差別の観念だから、結局はわれわれ送り手はそういう差別意識と逆の立場をとっているのだとか、何とかか?

 『内なる』のバーバリックなパワーが希釈された分、小説としての洗練度は多少あがった感じがあるし、前述したようないくつかのとんがった描写や趣向も際立ってはいる。前作との比較は今後も逃れられない作品だとは思うが、トンプスンの世界にちょっとずつなじんできた自分のような読者からすれば、発表順で読んでおいて良かった、と思える一冊だった。

 なお今回は2006年の文庫版で読んだが、巻末の解説によると、作者が刊行の前に削除したラストの最後の2行があったらしい。その内容そのものもはっきり書かれているが、これ(もちろん具体的にはここでは書かないが)をカットした作者の心情を思うと、あれこれ妄想が膨らまないでもない。個人的にはあっても良かった、いや、あったほうが良かった、と思うのだが、実際にそういう決着だったら、それはそれでまたアレコレものを思ったりしそうな気もしてしまう。まあそんな幻のラストだ。

No.1 5点 八二一 2020/03/30 20:34
歪んでいながら妙に明るい。癖になりそうなブラックコメディ。


ジム・トンプスン
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