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[ 本格 ]
消えた犠牲(いけにえ)
チェビオット・バーマンシリーズ
ベルトン・コッブ 出版月: 1959年01月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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東京創元社
1959年01月

No.3 7点 人並由真 2016/10/02 11:41
(ネタバレなし)舞台は英国。大人気ミステリ作家リチャード・リチャーズ、売れない高尚な著述家ランス・ベリンガムと、素顔を秘匿した2つのペンネームを使いわける32歳のジョージ・マイクルジョン。彼は出版社の欲深な代表ヘンリイ・スカ―ブルックに会い、閑寂な田舎で執筆に専念したいと申し出た。まもなくスカ―ブルックが所有するウェスコースト地方の別荘に赴くジョージだが、彼はその別荘内で、殺害されたスカ―ブルックの共同経営者ブライアン・ウィルキンズの死体を目にする。事件を担当するチェヴィオット・バーマン警部は、殺人現場の別荘を訪れながらもその後行方を断った作家の情報を求めつつ、一方でウィルキンズの未亡人のあまりの美貌にどきまぎする。それでも懸命に捜査を続けるチェヴィオットだが、事件はなかなかその真相を見せなかった……。

 1958年の英国作品。旧クライム・クラブでは、筆頭格の人気と入手困難さでききめとなっている一冊。かねてより何やらトリックと結末の意外性が愛好家の間で話題になっているようなので、ようやく入手できた本書を読んでみた。
 内容は二部構成で、前半が事件の渦中に立ち、ある考えから身を隠そうとするまでのジョージの叙述、後半が視点を転じたチェヴィオット・バーマン警部の捜査録となっている。
 二段組、約200頁の終盤まで推理が二転三転するあたりはちょっとゆるめのデクスターばりだが、同時にエクスブライヤの『パコを憶えているか』や下村明の『風花島殺人事件』みたいな、残りページが少なくなってもまだ真犯人が見えてこない筋立てが強烈なケレン味とサスペンスを感じさせ、これがこの作品の大きなキモとなる。
 終盤で判明する大きなトリックは、類似の先行例の件もさながら、非常によく似たものが近年日本でも話題になった21世紀の某作品で使われており(この程度の書き方なら絶対にネタバレにはならないだろう)、もしかしたら分かる人には真相が語られる前にピンとくるかもしれないが、筆者は気持ちよく騙された。
 ただし登場人物が少ないので、その意味で犯人の意外性はあまりない。まあここではあまり書けない部分で、ツッコミどころもあるトリックで作品なのだけれど。
 なお小林信彦が当時の書評(「地獄の読書録」に収集)で、先行して刊行された国内ミステリとのトリックの類似を(その該当作の具体名は明記せずに)指摘しているが、たぶんアレだろうな。

 ちなみに妻子ある四十男(遅めの結婚だったらしい)ながら、美人の若き未亡人を異性として意識する探偵役チェヴィオット・バーマン警部のキャラクターは、本書を読んだ日本の読者にも毀誉褒貶あるようだが、筆者は人間臭さに好感を持った。植草甚一の解説によるとまだまだ同警部の未訳のシリーズには面白そうなものもあるみたいなので、これも論創さんあたりで発掘紹介してくれませんかね。

No.2 6点 nukkam 2014/09/03 10:06
(ネタバレなしです) 1958年発表のチェビオット(本書のクライム・ブック版ではチェヴィオットと表記)・バーマンシリーズ第22作の本格派推理小説である本書は登場人物がバーマン警部を含めてわずか7人しかいないためかプロットは簡潔ですが、その中にも一杯工夫を凝らしており作中でクリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)を引き合いに出すなど謎解き読者を強く意識しています(但し本書は連続殺人ものではありません、念のため)。古い訳ですが文章が軽妙なためか思ったよりも読みやすいです。20世紀中に翻訳されたこの人の作品は長編では本書のみのようですが、本書を読む限りではもっと紹介されてもいいのではと思われます。

No.1 6点 こう 2008/05/18 00:45
 ある本格のトリックをそのまま使用している珍品。ただ内容としては現代では通用しないというかアンフェアな書かれ方をしています。本家ほどの衝撃もないですが読んで損はないかと思います。


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