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[ 短編集(分類不能) ] 巷塵 |
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| 石川達三 | 出版月: 1955年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 角川書店 1955年01月 |
| No.1 | 7点 | 斎藤警部 | 2026/01/24 17:08 |
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| “取急ぎ右の如く追加御報告申し上げます。 計らずも調査に相当の日数を要したことを、改めて御詫び申します。 以上。 (××探偵事務所)”
巷塵 表題作は以下の掌篇・短篇全十篇から成る連作中篇。 日蔭の家族/被害者は誰か/執念/金の卵を産む鶏/生きることのむずかしさ/破談になった理由/人間の土地/旧悪/たわむれ/復讐 全篇、私立探偵が依頼人に提出する報告書の体裁を取っており、文体は極めてドライだが、行間から勢いよく飛び出して来る愚かで哀しい其々の人間ドラマはどれも呆れるほどウェット。 読書が進む。 洒落を言えば、これぞ本当の 「探偵小説」 となる所だが、趣は少し異なる。 パラミステリの一種とは言えるだろうが、(濃淡はあるものの)ミステリに化けそうな要素が小説の表層にもどかしく現れると言うよりは、突(つつ)けばミステリに成長しそうな要素が小説の奥まった核心に留まったまま 「俺は、ミステリには成らない道を敢えて選ぶが、読者側で、俺がミステリに成った場合の様子を勝手に妄想する分には、一向に構わないぜ .. 」 との意味を込めた低い口笛を吹いているかの様である。 とは言ったものの、実は中に一篇だけ、ストレートなミステリ小説と呼ぶべき作品が入っている。 真犯人と事件全体像の意外性はナカナカで、ミステリ心を唆るちょいトリッキーな構成もニクい。 さて、それはどの作か? 更に言えば、それぞれの案件に対し、一体どこの誰が、如何なる目的で探偵に調査依頼などしたのだろう、というミステリ的興味もひっそりと宿る。 “事件は解決した。 しかし事件が解決すれば万事が解決するという訳ではなかった。” 偽手紙 中年夫婦の夫のもとに、一通の、女性名での封書が届いた。 妻には中身が見えないこの手紙が、夫婦両人に淡いポジティヴ・ヴァイブをもたらす。 短篇小説の見本の様な展開と結末が、何を隠そう悪くない。 タイトルが見た通りの出落ちネタバレか否かは ・・・ 言わずにおきましょう。 手切れ 愚かで容貌の醜い夫婦の間に、突風が吹き抜ける。 余所の女が介入したからである。 日常のサスペンス性はあるがミステリ性は無い、だが心熱くする人情話。 “だが、それとは別に、どうです、あいつに、たった一遍でいい、菓子の一折、うなどんの一鉢、それだけでいいから差し入れしてやってもらえないだろうか。” 生活の智恵 女が独歩で生きるのが難しい時代。 決して男を遠ざけはせず、ちょっとした女の智恵の積み重ねで、街角のパン屋としてささやかな成功を手にする主人公は、早くに夫を事故で亡くし、腕の良い不愛想なパン職人の若い男に頼る。 だが或る日 ・・・ 何かを一変させた重大事を契機に、心の謎が解かれる結末は◯◯◯感動を運ぶ。 誘惑 料亭強盗事件の容疑者は若い男。 本人、被害者側ともに、供述に微妙な違和感が漂う。 掛け値なしのミステリと呼べる一篇。 ラストシーンは、決してスケベというわけではない、と信じたい(笑)。 時の流れ これは ・・・・・・ ! 昔の恋人に産ませた実の息子と、初めて対面する初老の男。 息子のつかみどころ無き塩対応に失望した男は、それならむしろと、昔の恋人の方に会おうとする。 そもそも成人した息子を差し向けて来たのは彼女なのだ。 そこに何らかの愛情が籠っていないという法があろうか。。 「母は馬鹿ですから、案外よろこぶかも知れません」 張り巡らされた理論を、感情の毒が徐々に侵食し、無謀な行動に至る物語。 ラストシーンのような人生経験のある方はいらっしゃるだろうか。 “××はだんだんに自分が収拾がつかなくなって行くような気持に悩まされていた。 ××は事件の解決のために、何をしたか。 何もしなかった。“ |
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