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[ クライム/倒叙 ]
ろくでなし
ロバート・ブロック 出版月: 不明 平均: 6.00点 書評数: 1件

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No.1 6点 人並由真 2025/11/03 19:01
(ネタバレなし)
 裏工作を使い、場末のナイトクラブ「サンセット・クラブ」の楽団の臨時ピアニストとなった21歳の美青年で、私生児のラリイ・フォックス(フォクシー)。彼の目的は、かつてともにある悪事を働いた元カノで、今はナイトクラブの年配の経営者ソル・サレノの若妻となった歌手ラヴァーンを、その昔の経歴をネタに恐喝することだった。だがラリイは窮鼠猫を嚙んだらしい相手の反撃に遭い、頭を殴られて昏倒する。そんな彼を救ったのは息子を死産で失った30代半ばの女性エリナー・ハリスと、その夫で上級セールスマンのウォルターだった。言葉巧みにハリス夫妻の温情を買い、懐に入りこんだラリイは夫妻の周囲の人間模様を窺いながら、ラヴァーンへの復讐を企むが。

 1959年(60年説もある)のアメリカ作品。 出世作『サイコ』(59年)に続けて書かれた(刊行された)長編で、作中では主人公ラリイが現時点を60年代と認識するような叙述もある。
 『サイコ』で反響を呼んだ(映画化以前にもそれなりに話題作だったと記憶)のちに、1947年の初期長編『スカーフ』を思わせるような青春ノワールものに回帰した内容。 
 ただし『スカーフ』の主人公が人を殺してしまったとはいえ内省を覚える人間的な可愛げがあったのに対し、本作の主人公ラリイは正にろくでなし。
 作品そのものが、主人公への読者の感情移入を必要とせず、読み手はごく冷めた目で全編の事態の推移を眺められる、そういうタイプの作品である。
  言うならば『スカーフ』がどこかウールリッチ風だったのに対し、こっちはエヴァン・ハンターの一部の短編かハル・エルスン辺りの不良少年ものの拡大版の趣がある。

 さらに、あまり筋立てにひねりや曲はなく、比較的地味にストーリーが進むが、ああ、こういう局面ならこうなるよな、的にお約束の作劇で読者の期待に響くあたりはなかなか悪くない。その辺はブロックも40年代からの職業プロ作家だから。
(それでも中盤や終盤に、相応のサプライズは用意されている。)
 あと50年代の現実の若者文化の妙な熱気を背景に、ラリイの口を借りて世代論が語られる。この辺はなんか当時の空気のなかで、モノを言いたがる作者ブロック自身の心情が覗くようで、そこはちょっと面白い? ……かも。

 ブロックといえば『サイコ』か異色作家短編集の範疇のやや泥臭いホラー短篇系か、と認識している多くの(?)ミステリファンに、作者名をわからせずに黙って中身だけ読ませたら、たぶん絶対にブロックだとは気づかないハズ。
 評点は、ちょっと小味の余韻を残すクロージングまで読み終えて、この点数で。


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ロバート・ブロック
2005年10月
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