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[ 本格 ]
イーストレップス連続殺人
フランシス・ビーディング 出版月: 2025年06月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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扶桑社
2025年06月

No.2 8点 人並由真 2025/08/09 19:10
(ネタバレなし)
 1936年7月の英国。ノーフォーク海岸周辺の地方の町イーストレップスで、オールドミスのメアリー・ヒューイットが何者かに殺された。その頃、ある素性を秘めた47歳の実業家ロバート・エルドリッジは、ロンドンと同地を定期的に行き来していた。その目的は、相思相愛の美貌の人妻マーガレット・ウィザーズと密会するためだ。そんななか、イーストレップスではまた新たな殺人が発生する。

 1931年の英国作品。
 小林晋ブランドの発掘クラシック・パズラーなので、期待しながら読む。
 文庫版で450ページとやや大冊といえる作品だが、10~15ページに一回は小中のイベントが発生する感じで(あくまで主観的な感触だが)、まったくダレずに面白い。金曜の夜(ほとんど土曜の早朝)で前半の半分を読み、ひと眠りしてから土曜の昼間~夕方で後半を読み終えた。

 この話の流れで意外性を出すには……そして……とあるポイント(これはネタバレになるかもしれないので書かない)から真犯人を類推し、見事に正解。
 ただしそれでも最後に明かされる異常な動機(nukkamさんもご言及の)がズシリと腹にくる(とはいえもしも犯人が予想通りの人物なら、その動機の真相はたぶんそういうことなんだろうな、と考えていたらこちらも当たった)。

 しかしながらミステリとしては決してヤワな出来ではなく、ストーリーテリングの妙のなかに伏線と手掛かりを散りばめ、時代を超えた普遍的な魅力を実感させる。
 この作品を欧米の後進パズラー系作家がどのくらい実際に読んだのかはもちろん知らないが、若いうちに本作に触れる機会のあった面々は、ここから相応の影響を受けたのではなかろうか。

 評点は7~8点で迷うが、塚田よしと氏の丁寧で楽しい巻末の解説、さらに複数の原書のバージョンをリファレンスして一番情報量の多い邦訳本を作ったという訳者・小林さんのご苦労に感謝して、後者の数字で。
(あ、それでも巻末の解説は、本文を読み終わるまでは覗かない方がいいかも。)

No.1 6点 nukkam 2025/06/19 17:58
(ネタバレなしです) 英国のフランシス・ビーディングはジョン・レスリー・パーマー(1885-1944)とヒラリー・エイダン・セント・ジョージ・ソーンダーズ(1898-1951)のコンビ作家で、1920年代から1940年代にかけて30作を超す作品を書いていて大半はスパイ・スリラーです。英語原題が「Death Walks in Eastrepps」の1931年発表の本書はマーティン・エドワーズが2014年に「黄金時代の長編トップ10」に選んだ本格派推理小説で、この作者としては異色作のようです。もっとも扶桑社文庫版の巻末解説で「定型には従いませんでした」と紹介されているように名探偵が脚光を浴びるような本格派ではなく、かなりサスペンス小説に寄り添ったようなプロットで殺人場面、逮捕場面、法廷場面など読ませどころが一杯あります。巻末解説で無差別連続殺人の本格派が色々と紹介されていますが個人的にはD・M・ディヴァインの「五番目のコード」(1967年)を連想しました。ディヴァインほどには論理的な推理が披露されるわけではありませんがユニークな動機が印象に残ります。冒頭にイーストレップスの地図が置かれていますがなかなかショッキングな記述があったのも印象的です。


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フランシス・ビーディング
2025年06月
イーストレップス連続殺人
平均:7.00 / 書評数:2
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