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[ 短編集(分類不能) ] 蠅(はえ) 異色作家短篇集 |
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ジョルジュ・ランジュラン | 出版月: 1986年12月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1986年12月 |
早川書房 2006年01月 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2024/12/09 16:54 |
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異色作家短篇集といえば「奇妙な味」が売り物、というかその代名詞みたいなシリーズ。どうしても常盤新平趣味の英米作家中心になりがちで、フランスっぽい名前で興味がわくが、確かにフランス語作家、でもイギリス人でMI5勤務歴があるという困った作家(苦笑)
でもね、サブカルの上ではこの表題作が映画「ハエ男の恐怖」「ザ・フライ」の原作、物質電送機に紛れ込んだ蠅と合体してしまうマッドサイエンティストの話として、極めて影響力の高い作品なんだ。語り口も巧妙で、頭と片腕が巨大ハンマーで潰れた状態で発見された死体から始まり、その妻が「アタマの白い蠅」を探すのはなぜ?という謎を絡めて、「変身の悲劇」を謳いあげる。単純なホラーという感覚でもなく夫婦愛の話でもあり、完成度が高く、ちょっと「おお!」となる。 同様にホラーに寄った作品だと、収録最後の「考えるロボット」。ポオが扱った「メルツェルの将棋指し」と同様なチェス・ロボットの謎だけど、その指し筋が死んだ友人にそっくりなことから、製作者のマッドサイエンティストの秘密を暴く話。SF発想のホラー、かな。 「彼方のどこにもいない女」は深夜の放送のないTVに現れる女に恋をした男の話。この女は長崎の原爆投下の中心にいたことで、次元の違う世界に転移してしまい、主人公はその女に会うために....とSF発想のラブストーリー。フィニイに似た感覚の話があるけども、フィニイの予定調和の甘さがなくて、何というか違和感の強い結末になる。不思議な作風だな。 暗い、というわけでもない。 たとえば「奇跡」なら、列車事故で足がマヒしたフリをして補償を得ようとするズルい男の策略と因果応報。「安楽椅子探偵」なら"おじいちゃん"と呼ばれる意外な探偵役の叙述トリック(風)。とか、「御しがたい虎」なら動物に催眠術をかけて遭遇した悲惨な話だし、「他人の手」なら自分のカラダが勝手に犯罪を犯すのに困惑する男。「最終飛行」ならコウノトリに導かれて事故を回避した機長...とこんな感じでバラエティに富んでいて、しかもそれぞれの完成度が高い。 ちょっとした異能作家、と呼ぶべき。 ポケミスでスパイ小説「魚雷をつぶせ」が訳されているので、近々やろう。 |