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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
沈黙部隊
ドナルド・ハミルトン 出版月: 不明 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1981年03月

No.1 6点 人並由真 2023/09/17 18:09
(ネタバレなし)
「私」ことM機関の諜報部員マシュー(マット)・ヘルムは、上司であるマックの指示で、以前に同じ任務についた縁もある女性スパイ、メアリー・ジェーン・スプリンガー(リラ・マルティネス)との接触をはかる。彼女の現在の表の仕事は、ナイトクラブ「チワワ」でのセミヌードダンサーだ。だがヘルムがクラブの客席につき、その後、彼女とのコンタクトを取ろうとした間際、何者かの投げたナイフがメアリーの身に刺さった。ヘルムより先に重傷のメアリーに近づいたのは、よく似た顔の美女ゲイルで、メアリーの実の姉だった。ゲイルは、こと切れる寸前のメアリーから何かひとことふたことダイイングメッセージを受け取ったようで、ヘルムとマックはゲイルの素性を手早く調査し、ゲイルに何らかのキナ臭い背後関係はないものと判断。ヘルムはゲイルを半ば強引に車に押し込み、メアリーの遺した言葉に関係ありそうな場所に向かうが、それは同時にメアリーが探っていた謎の敵組織をおびき出す陽動作戦でもあった。

 1962年のアメリカ作品。マット・ヘルムシリーズの第四弾。

 今回の大筋はあらすじに書いた通り、ヘルムとメインゲストヒロイン、ゲイルと二人での、謎の敵を引き寄せながらの道中行。その過程で敵の陰謀の実体(殺されたメアリーが探ろうとしていた機密)の真相などが浮かび上がってくる。思わぬ登場人物の意外な運用などもあり、その辺の工夫もまずまず。

 全体の感想としては、曲のないシンプルなプロットのなかで、一応は退屈させずに最後までよく、細部の面白さで引っ張るというか、その辺は職人作家。よくいえば本シリーズというか、作者ハミルトンの資質である、ドライなハードボイルド感は割と出ていると思う(特に、寒さが応える中、不満をいうゲイルへのヘルムの対応の辺り、事態の中で生じた犠牲者をめぐってのその後とか)。

 とはいえ一方で、ときに妙なほどにトンガった面を見せて「おお!」と思わせる本シリーズとしては、良くも悪くもまとまりがよく、地味な印象の一冊。シリーズのなかでは、決して代表作にはならない? 佳作どまりではあろう。
 見方によっては、本シリーズのふり幅の広さを、ちょっと再確認させる一本かもしれない。

 ちなみに本作が、この題名からわかるとおり、ディーン・マーティン主演の映画版マット・ヘルムもの「サイレンサー」シリーズの一本目となった。
 原作とまったく違うコメディ調のスパイ活劇映画として有名な同作であり同シリーズだが、その映画のあらすじ(評者は大昔にテレビで一回だけ観たような観なかったような……)をネットで再確認すると、陰謀の大ネタそのものは実は映画と共通で(あんまり書かない方がいいか)、その上でキャラクターの味付けと演出を大幅に変えたようなのであった。
 原作をちびちび読み進めているいまのところ、映画シリーズはわざわざ観る気はないが、いつかそのうちタイミングを見て、半ば別もの? と思いながら、楽しんでもいいかもしれない。


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