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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
秘密諜報員ジョン・ドレイク
NATOの「デンジャーマン」、ジョン・ドレイク
リチャード・テルフェア 出版月: 1966年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1966年01月

No.1 6点 人並由真 2023/04/22 16:52
(ネタバレなし)
 1962年のこと。「私」こと、NATO本部のワシントン特別区保安部員で「危険な人間(デンジャーマン)」の称号を持つ精鋭要員のひとり、ジョン・ドレイクは、休暇明けに上司のテニーから呼び出される。彼の語る内容は、ポルトガルのNATO駐在員で一時期ドレイクの僚友でもあった(表向きは)弁護士のキャル・ジェンキンズが何者かに殺された、そして被害者の周辺の情報から、現地に駐在するNATO加盟国の各国の外交官3人のなかに、裏切者の殺人者がいるらしいとのことだった。3人の容疑者に接近して調査するNATOの要員のひとりに選ばれたドレイクはポルトガルに向かうが。

 1962年のアメリカ作品。
 パトリック・マッグーハン(マクグハーン)(『プリズナーNo.6』の主演、『刑事コロンボ』のメインゲスト、各話監督ほか)が主役を務めた1960~61年のTVシリーズ『秘密指令』(Danger Man)の公式ノベライズで、本書は続編にあたる64~67年のTVシリーズ『秘密諜報員ジョン・ドレイク』(Danger Man Secret Agent)の日本放映に合わせるタイミングで、ポケミスに収録、翻訳紹介されたようである。
 ちなみに『プリズナーNo.6』は『秘密諜報員ジョン・ドレイク』の放映直後に本国アメリカでスタートしており、そちらの本名不明の元スパイの主人公「No.6」の正体は、そのままジョン・ドレイク当人だという説を、評者はこの数十年、あちこちで聞いている。公式な文芸かは知らないし、たぶん、そう解釈できる余地もある裏設定くらいのニュアンスではないかと勝手に思うが。
 
 でまあ『秘密指令』も『秘密諜報員ジョン・ドレイク』も海外版ならDVDは出てるみたいだし、研究書籍「『プリズナーNo.6』完全読本」にも関連作品として相応の解説もあるようなので、60年代の旧作海外テレビシリーズのなかでは恵まれている方ではないかと思うが、評者は2018年の「~完全読本」を買い逃し、さらに同書は版元・洋泉社の廃業によって、古書が稀覯本として高騰してるので敷居が高くなってしまった。
 要は原作のTVシリーズについては21世紀の現在、その気になってお金を使えば鑑賞も探求もできるのだが、現状でそこまでの意欲もなく、まったく手付かずという状態(汗)。
 
 というわけで、原作TVシリーズとの距離感も知らないまま、あくまで単品の60年代エスピオナージ(活劇スパイスリラー)として、まったくの思い付きで読み始めた本書だが、導入部は前述のように明快な幕開け。現地ポルトガルに向かったドレイクは、その該当の3人の容疑者のうちのひとりに直接接近する腹積もりでいたのだが、現場の指揮官の考えからその予定の容疑者当人ではなく、わけあってその容疑者の奥さんの方を調べてくれと指示され、その命令に従うことになる。その若い美人の奥さんが大変なカーマニア、さらに戦時中にはレジスタンスの闘志として戦い、仲間でもあった若い夫を失った過去などがあり、キャラクターを立てた作りこみをされていく。
 メインゲストヒロインがカーマニア云々のくだりは、自作モンティ・ナッシュシリーズや別名義の諸作などでギャンブル描写に傾注する作者テルフェアの趣味人的な叙述や作劇に一脈通じるものがあり、たぶん色んな専門分野に通じたヲタク作家的な気質なのだろうとも思った。

 終盤の展開は、けっこう大きなドンデン返しが最後の本文4分の1を残すあたりであり、その辺は先読みできる人は可能かもしれないが、油断していた評者はまんまと騙された。
 それ以降のクライマックスもかなり高い緊張感のなかで物語が錯綜し、しっかり手綱を握ってないと振り落とされそうな勢い。多国籍、当時の西側15か国が参加していたNATOという組織に属する主人公、という大設定はちゃんと機能させられていた、くらいまでは、ネタバレ警戒しながら、ぎりぎり書いてもいいだろう。
 
 繰り返して、原作TVシリーズはまったく未見の評者だが、勝手な印象だけいうなら、本ノベライズは、松田優作の『探偵物語』TVシリーズ本編と小鷹信光のメデイアミックス原作小説、あれくらいの共通項と相違のような感じ? 重ねて本作の場合、評者は厳密には現時点でTVシリーズとの比較はできないし、しちゃいけないんだけど、あえて予断も踏まえて、あのくらいに骨太な別ものになっているんじゃないかなあ、というムセキニンな感触はあった。
 評点は7点に近いこの点数で。

 任務を終えたドレイクの、事件後の苦さを噛み締めるクロージングも余韻がある。実はほんのちょっとだけ、ニヒリズムを気取った安っぽい感じもあるのだが、そこがまた良い。
 今のところ、高いお金を使って映像ソフトを購入したりする気はないんだけど、CSとかで放映される情報とか目についたら、原作TVシリーズの方も追っかけてみようかとも思う。
(まあそういいながら、しばらく前の深夜の『ナポレオン・ソロ』の再放送なんかも、かなりの話数が録画したまま未見で溜まっているのだけれど・汗。)

 最後に、本書の翻訳の川口正吉さんってよく名前見るけど、他にどういう訳書があるんだっけと思って、改めて調べたら、『ドーヴァー1』とかライバーの『闇よ、つどえ』とか楽しい作品もこの人であった。
 ディックの『高い城の男』の初訳もこの方で、うん、実はその辺は、前述の本書のメインゲストヒロインの過去設定などと接点があったりする。もしかすると、その辺を踏まえたハヤカワからの当時の仕事の依頼だったのか?


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