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[ サスペンス ]
飾窓の女
J・H・ウォーリス 出版月: 1953年09月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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早川書店
1953年09月

早川書房
1995年09月

No.2 4点 クリスティ再読 2024/01/29 18:57
早川ポケミスは映画連動も数多いというのは昔からの話で、初回配本にだって本作が入っているわけだ。ポケミスの初版は1953/9/15 で、日本封切は 1953/10/1。まさに今出さなくていつ出す?というタイミング。映画はヒッチと並ぶミステリ映画の大巨匠フリッツ・ラング監督で、ギャング映画スターの E.G.ロビンソンとジョーン・ベネットが主演。ハリウッド時代のラングでも代表作級の評価が高い。
まあ実際今回、原作を読んでから映画を見たけど、平凡でイマイチな原作を実にサスペンスフルな映画に仕立て直したラングとライターの手腕が光る作品である。細かいところを原作から合理的に変えている(英文学者→犯罪学教授、弁護士→地方検事)し、オチも不完全燃焼感の強い原作から、映画は反則スレスレだけど効果的なオチに。ラストにロビンソンのアップを長回しで捉えるところに作品のフォーカスがキッチリ絞れていて素晴らしい。完全に原作を「喰った」映画である。

乱歩の解説を読むと、アメリカの兵隊文庫に採られて読まれた小説らしい。原作者の経歴を Wikipedia で見ても?だしねえ。乱歩は本作を倒叙の一種として捉えて書いているけど、いくら何でも無理筋だと思うよ。本作が倒叙だったらケインの「郵便配達」「倍額保険(深夜の告白)」だって倒叙じゃん。だからさあ、乱歩が言う「倒叙三大名作」とかあまり真に受けないほうがいいんだよ。

うん、映画見なさい。

No.1 7点 人並由真 2023/03/12 10:46
(ネタバレなし)
 1940年代初め(?)のニューヨーク。地元のゴサム大学の英文学助教授で、56歳のリチャード・ウオンレイは、妻アデールが旅行中ということで、羽根を伸ばしていた。そんなウオンレイは夜の街角のショーウィンドウの中の美人の肖像画に目を奪われるが、気が付くと脇に絵画にそっくりな、30代前半の金髪の美女がいた。ウオンレイは、商売女らしい美女「マリー・スミス」(本名アリス・リート)に誘われるままに彼女の自宅の部屋を訪問。そのまま初めての浮気を楽しむが、そこに猛々しい振舞いの中年男が乱入してきた。女を奪ったとウオンレイを殺しかける相手に、彼はやむなく応戦。正当防衛で殺してしまうが、ウオンレイはその命を奪った男が、ニューヨークでも高名な200億ドルの資産を持つ大実業家クロード・マザードだと気づいた。

 1942年のアメリカ作品。
 先日、『キング・コング』のノベライズを読んだ際に、そういえばこっちのウォーリス(ウォーレス?)は、まだ本サイトにもレビューがないなあ、大昔の少年時代に古書で買ったポケミスの初版で一度読んでいるが、再読してみようか、と思う。
 結局、書庫の蔵書がすぐ見つからないので、図書館にあった95年のポケミス第三版を借りてきた(巻頭に、初版の書面をもとに、新規に写真製版しましたとのお断りがある)。

 ちなみに、有名なフリッツ・ラングの映画版は未見。ただし「探偵倶楽部」か「宝石」だかに誌上フィルムストーリー記事があり、それはやはり大昔に読んだような記憶はある。まあもちろん、まったくその映画記事の内容も忘れているが。

 巻末の解説で乱歩は結構、賞賛。この時点での従来の倒叙、もしくは犯罪者が主人公のミステリは基本、自覚的に犯人が計画犯罪を行なうのに対し、本作は主人公が正当防衛で殺人、しかし娼婦のもとにいたという事実の発覚を恐れ、社会的な立場や妻への対面などから自首もできない、というリアリティが新鮮だとホメている。

 もちろん、21世紀の現在に至るまでの東西のミステリの系譜からすれば、特に別段珍しい趣向でも設定でもないが、この時期、1940年代ならそんなものだったのかな、とも思ったりする。いやそれでも何かまだ前例・先例があったような気もするが、う~ん。

 とはいえ、自分の弾み行為も踏まえてあっという間に人生の奈落に落ちてしまった主人公が、このあとの逆境を逃れようとあがきまくる図は、かなりのサスペンスとスリル感でいっぱい。
 ほっとひと息ついたら、また即座に次のピンチが生じるクライシスの波状攻撃は、なかなかテンションが高い。
 後半、いささか強引……かもしれない? という箇所は、主人公の判断において一件あったが、まあぎりぎりセーフ。

 きわめて正統派、王道のクライムストーリー、広義の巻き込まれ型スリラーで、その直球ぶりは21世紀のいまとなってはさすがに古めかしい? 部分もあるが、克明で丁寧なサスペンス叙述の積み重ねは結構な読みごたえがあった。
 クロージングがどういう方向になるかは、もちろんここでは言わない。

 しかし再読するまでは、(映画も観てないこともあって)題名の「飾窓」って都会の街灯のショーウィンドウのことじゃなく、アムステルダムの娼館の方の意味だろうと勘違いしてた。まあ、メインヒロインのアリスは中~上ランクの街娼だから、そっちに通ずるタイトリングでもあるんだけどね。

 ちなみに本作の原書のもともとの題名は「Once off Guard」(一度でも気をゆるせば)だったようだが、映画化の際に邦題通りの「(飾)窓の女」に原書のタイトルも変更されたらしい。映画化の際に一種のメデイアミックス効果で題名を変えることに際しての、当時まだそういう事例が珍しかった? のであろう、ポケミス巻末の乱歩の述懐が、評者なんかには、ちょっと興味深かったりする。


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J・H・ウォーリス
1953年09月
飾窓の女
平均:5.50 / 書評数:2