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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
殺し屋テレマン
ウィリアム・ハガード 出版月: 1963年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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東京創元新社
1963年01月

東京創元社
1963年05月

No.1 7点 人並由真 2022/11/09 06:40
(ネタバレなし)
 1950年代の後半。地球の裏側にある英国の植民地で、地図にも載ってない小島セント・タリー島。そこに巨大な石油鉱脈が発見され、英国の石油会社「ユニバーサル社」が油田の設置を進行していた。だが島の隣国ララモンダの独裁者クレメンチは、セント・タリー島は本来は我が国の領土なのだと主張。小国ララモンダの背後にはその黒幕となる大国の影もちらつき、英国政府は島に派兵するか否かの緊張を高めていた。そんなさなか、国際的に有名なテロリスト、テレマンが、ララモンダ側の工作員として島に上陸。テレマンは油田設置に協力する現地人に揺さぶりをかけて開発計画を妨害する一方、36歳の英国人石油発掘技師デイビッド・カーの暗殺までも請け負っていた。だが裏の世界のなかで、あくまで彼なりの騎士道的な流儀を尊ぶテレマンは、標的であるはずのデイビッドに親近感を抱いてしまう……。

 1958年の英国作品。渋くて地味な(でもソコが面白いかもしれない、そうでないかもしれない)チャールズ・ラッセル大佐シリーズで世代人ミステリファンには有名(?)なウィリアム・ハガードの著した二冊目の長編で、完全なノンシリーズ編。
 どっかのなんかの描写や設定で、作者の別作品の世界とリンクするかもしれんが、少なくとも本書を単品で読む限り、ラッセル大佐ものとも特にカンケーはない。

 国際紛争の火種になりそうな新興油田がある孤島を舞台に、そこを蹂躙しようとする凄腕テロリストと、成り行きから防衛戦に臨む主人公の青年石油技師(と彼と親しい現地の部族)とくれば、かなり正統的な(半ば巻き込まれ型の)冒険小説である。

 ただし本書の場合、この手のアウトロー(テロリスト)としては、フェアプレイを重んじ、人間的なマトモさを堂々と表に出す副主人公テレマンのキャラクターがあまりに個性的すぎて、なんかオカシイ。主人公デイビッドの前に最初に顔を出しておのれの立場を述べるくだりから、前もって標的の素性を調べていたら、殺すのは惜しい人のようなので、できればこの場から立ち去ってほしい(大意)、である。

 ……いや、こーゆーキャラはスキだが、しかし作中のリアルからするなら、お人好しの甘ちゃんすぎて、とても裏の社会で一流のテロリストなんかになれそうもないよな。その辺はよほどうまく書き込んでキャラ造形をしないと説得力がないが、実際にはかなり大雑把。
(最終的にテレマンとデイビッドにはある種の因果があったらしいことは暗示されるが、その辺もまたもうちょっと詳しく教えてよ、という感じであった。)

 中盤でデイビッドが複数の刺客の奇襲を受けて窮地に陥り、負傷した際も、その直後にテレマンが顔を出し、こういう目に合わせるのは自分の本意ではないと釈明。デイビッドの方もそんな相手の言葉にウソがないと認め、たしかにこういう頭数に頼って相手の隙をつくのは「テレマン流」じゃないんだな、とフォローまでしてあげる。
 なに、この殺す側と殺される側の、温和な関係!?
 ちなみに本作の原題「The Telemann Touch(テレマン流)」はココに由来。

 それでもお話そのものは、デイビッドの実兄でメインキャラのひとりエドワードが当時の英国内閣の国務大臣という設定で、英国内閣内に巧妙に根回しし、政治的・経済的価値がある(そして弟がいる)セント・タリー島に英国軍の派兵を促すあたりとか、そのデティルの積み重ねにおいてなかなか読ませる。この辺が正に、のちのラッセル大佐シリーズに繋がっていく感じ。
 さらに現地でも半ば対立しかける二つの現地部族との関係を整え、一方の親しい方の部族の長の娘ジャラと恋人関係になる(さらにそういう関係がクラマックスにつながっていく)主人公デイビッドの描写なども非常に面白い。
 巻末の解説で厚木淳も書いているが、本書は評者がこれまで読んだハガードの数冊のなかでは最も直接的なアクション、戦闘描写の豊富な長編でもあった。

 山場で銃弾の雨のなか、さらっとデイビッドが目的の行動を完遂しちゃうあたりの軽い描写はちょっと苦笑したが、本作のタイトルロールである異色の敵役キャラ、テレマンとデイビッドの最終的な対決までふくめて、物語のノリそのものは意外に悪くない。300ページちょっとの物語を、テンションを落さずにイッキに読めた。

 たぶん、くだんのテレマンというキャラクターをクセのある敵役として愛せるまたは受け入れられるか、はたまたそれとも、ナニ、この、いくらフィクションでもありえないトンデモキャラ! と見なしてたじろぐか、その辺で大きく評価が割れそうなところ。
 評者の場合は……なんつーか、1950年代当時のリアルな国際的な力関係の場にまぎれこんできた、オーパーツのサムライ(または騎士道)キャラという感じで、ぎりぎり微笑んで(といつつ若干だけ苦笑して)読み終えたけどね。
 とにもかくにも変わったモノを読めてそれなりに楽しめたのは、マチガイない(笑)。

 あー、もしかしたら、人気のイケメン声優とかにボイスドラマでデイビッドとテレマンを演じさせ、もうすこしBLもの風に脚色したら、21世紀の新規のお客さんを釣れるかもしれん(笑)。そーゆー可能性のある作品でもある。


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ウィリアム・ハガード
1963年01月
殺し屋テレマン
平均:7.00 / 書評数:1
不明
架空線
平均:6.00 / 書評数:1