皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] 暗闇の梟 ジェフリー・ブラックバーンシリーズ |
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マックス・アフォード | 出版月: 2022年12月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
論創社 2022年12月 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | 2023/01/07 19:22 |
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(ネタバレなし)
世界大戦の影が濃くなりつつある、1940年代初めの英国。鳥人のごとき出没ぶりの謎の怪盗「梟(ふくろう)」の略奪行為が、ふた月前から市民を騒がせていた。そんななか、アマチュア名探偵ジェフリー・ブラックバーンと対話中のロンドン警視庁主席警部ウィリアム・ジェイミソン・リードのところに、一人の若い女性が相談にやってくる。女性は、ジェフリーが以前に手掛けた事件に関わった元新聞記者のエリザベス・ブレア。彼女の話によると、彼の兄で化学者のエドワード(テッド)・ブレアが、前代未聞のコストパフォーマンスの新燃料「第四ガソリン」を発明した。それを怪盗「梟」が戴くと予告状が届いたという。ジェフリーとリードは、早速、ブレアの研究を後見する死の商人サー・アンソニー・アサートン=ウェイン准男爵の屋敷に向かうが、そこでは思いがけない殺人事件までが発生する。 1942年の英国作品(作者はオーストラリア生れ)。ブラックバーンシリーズの第四弾。謎の怪盗がからむ殺人事件というと、nukkamさんもご紹介の『赤い鎧戸のかげで』のほか、同じH・Mシリーズの『一角獣殺人事件』(1935年)などもあるが、とにかくこの外連味が生きている。 (さらに、SFチックな? 新燃料の発明という作中の趣向も、クロフツの『船から消えた男」(1936年)を想起させる文芸でちょっと楽しい。) 実に読みやすい翻訳のおかげもあって、ほぼ全編、まるで乱歩とか横溝とか高木彬光とか十三とか久米元一とか、あの手の児童向けジュブナイルスリラーミステリを楽しむ時のようなワクワク感でページをめくった。 ただし謎の怪盗「梟」の正体の隠しようについては、かなりヘボ。いまの読者なら分からない人はいないだろうし、昔はこれで購読者を騙せる商品になったんでしょうねえ、という感じ(怪盗がらみの文芸というか真相で、ちょっと面白い部分はあるものの)。 ストーリーを盛り上げるのはいいが、あとからあとから思い出したように悪い意味で、話のネタをぶっこんでいくのもあまり感心しない(一応は伏線なり、前振りなどを用意してるものも皆無ではないが)。 要するに、二流B級パズラー作家アフォード(それはそれで実は大好きだが)の良くない面が出てしまった。凡作『魔法人形』よりはマシだが、佳作~秀作『闇と静謐』には及ばなかった、というところ。 (ちなみに本作のメインヒロイン、エリザベスの以前の登場作品は、確かその『闇と静謐』だよな? 本がすぐ手元で見られないのでわからないが、できれば訳者もしくは二階堂センセイ、あとがきor解説で、そのことについては触れておいて欲しかった。) ただまあ、この人の作品は、少なくとも欠伸が出ることはほとんどないし、上でツッコミした種々の弱点も、気が付いたら評者が自分の方で積極的にフォローを入れている。その意味では愛せる作品だし、翻訳発掘してもらってウレシかった一冊。 未訳のシリーズ最後の一冊も、ぜひぜひ翻訳を願います。 あとこの翻訳書は、nukkamさんのおっしゃる通り、巻頭の登場人物一覧表がかなり雑。ネタバレになる標記を回避することを前提にした上で、実際に事件にそれなりに関わる人物、読者のミスリードを誘う役割のはずのキャラ、などを含めて、あと3~5人は重要なキャラクターの名前がぬけている。 こういうのは論創さんの場合、訳者がまとめるのか、本文を通読した上で編集さんが作るのか、あるいはどちらかがまず行って、最終的に双方でチェックか。 たぶん三番目が当たり前で望ましいけれど、この辺はネタバレなしを前提に、きちんと適宜にやっていただきたいものである。 (もっとも、聞くところによると、登場人物一覧なんて親切なものを当たり前に用意するミステリ出版文化は、実はこの日本くらいなんだそうだが?) |
No.1 | 5点 | nukkam | 2022/12/10 22:51 |
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(ネタバレなしです) 「闇と静謐」(1937年)以来久しぶりに発表されたジェフリー・ブラックバーンシリーズ第4作となる本格派推理小説です。何といっても本書の特色は神出鬼没の怪盗との対決を描いていることです。長編本格派でこういう趣向だと私はカーター・ディクソンの「赤い鎧戸のかげで」(1952年)が思い浮かびましたが、1942年出版の本書の方が10年も先駆作だったのですね。ユーモアとどたばたに溢れたディクソン作品とは異なり本書はじわじわと高まるサスペンスが個性ですし、殺人事件まで発生します。過去3作に比べてスリラー色が強いという二階堂黎人による論創社版の巻末解説はその通りと思いますが怪盗の正体についてはジェフリーがちゃんと推理で見破っていますし、意外な企みの巧妙なカモフラージュが出色です。もっとも後半で明かされる人間関係については登場人物リストの不備が気になるところではありますけど。 |