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[ 本格 ]
Gストリング殺人事件
ジプシー・ローズ・リー
ジプシー・ローズ・リー 出版月: 2022年10月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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国書刊行会
2022年10月

No.2 5点 ボナンザ 2023/06/11 17:13
想像よりもかなりしっかりしている。最後ややくどい気もするが、それもよし。

No.1 7点 人並由真 2021/10/17 15:50
(ネタバレなし)
 ニューヨークのブロードウェイでボードビル(舞台上の総合演芸)を披露する、オールド・オペラ劇場。そこでバーレスク(バラエティショー)を交えたストリップショーを披露するストリップ・ガールの「わたし」ことジプシー・ローズ・リー(旧名ローズ・ルイーズ)だが、ある夜、劇場が抜き打ちの捜査を受ける。容疑はいかがわしい演目を売り物にしているということだった。騒乱の末に劇場は再開するが、鈍った客足はなかなか戻らず、そんななかで、かねてより出演者と従業員が希望していた新設トイレユニットが、みんなの基金で用意された。だがそんな劇場で予期せぬ殺人事件が発生する。

 1941年のアメリカ作品。
 昭和25年の汎書房ソフトカバー版も大昔に購入したはずだが、評者は今回は、昭和38年2月に発売された「別冊宝石・アメリカ作家傑作集」の一挙再録の方で読了。翻訳はどちらも黒沼健なので、旧訳をそのまま(もしかしたら多少は改訂して?)再録してあると思う。厳密に完訳かどうかはわからないが、少なくとも読む限りに違和感の類はない。本サイトでの弾十六さんの別作品のレビューによると黒沼訳は言葉を端折ったり問題があるようだが、少なくとも本作を読む限り、古い翻訳としてはかなり平明。というか現代なら当たり前のカタカナ言葉にも過剰なまでに注釈を入れてくる(クリネックスとか)のがややうるさかったが、これは文句を言ってはいけない。むしろ当時の親切な翻訳と編集を評価すべき。

 なお本作は、数年前には原書房の山口雅也先生の音頭取りの叢書「奇想天外の本棚」で新訳発刊の話もあり、評者もあわよくばそっちで読もうと思っていたが、結局、同叢書そのものがあっという間にオシャカになってしまったみたいなので、先日、蔵書の中から見つかった「別冊宝石」版で読んだ。
 まだ自分の蔵書の山の中から見つかっていない汎書房版よりは、たぶん活字の書体などの面で読みやすいだろうし、前述のようにもしかしたら訳文に手が加わっている可能性もないではないので、現状では日本語で読むかぎりこれがベストの選択だと思う。

 この「別冊宝石」には、当時、別冊宝石や日本版ヒッチコック・マガジン、早川の仕事などで活躍した翻訳家・邦枝輝夫による、当時としてはたぶんかなり詳細なジプシー・ローズ・リー本人と、ミステリ「ジプシー・ローズ・リー二部作」についての解説もついている。この邦枝解説の情報は、論創からライス名義で刊行された『ママ、死体を発見す』(評者はまだ未読)の巻末解説あたりにすでに吸収されているものとも思うが、そっちは本をまだ持ってないのでありがたい。ちなみにその第二作(『ママ~』)は本作よりさらに洗練されて面白い、と邦枝はかなりホメている。

 それで本作『Gストリング殺人事件』の感想だが、冒頭で、この物語がやがて殺人事件劇に連鎖するとはジプシー・ローズ・リー(以下リー)の口から語られるのだが、とにかく殺人が起きるまでの前半の劇場周辺、関係者周辺の描写が長い。とはいえそれ自体は決して退屈ではなく、当時のボードビル(ストリップショー)興業の楽屋を覗く業界もの的な興味、適度に描き分けられてキャラづけされた登場人物たち、そしていきなり警察の手入れを受けて右往左往する主人公たちのドタバタぶりといい、読んでて飽きない。
 実際の作者がリーかライスかはもちろん遠方の島国の翻訳ミステリの一読者である評者などにはとてもおこがましくて判定できないが(リーそのものの文筆活動の実作も読んだ訳ではないし)、ただしライスの影は確かになんとなく感じる。完全に代作したといっても納得するし、ある程度の監修やアドバイスをした程度といってもうなずく、そんな感じだ。いずれにしろ、前半からは送り手が風俗ミステリの枠内で語りたい、自分たちの世界の話題を噴出させているようでそのパワフルさが心地よい。

 とはいえ中盤のある展開などは、作者が読者を楽しませようとして、やや余剰な場面を盛り込みすぎた感がしないでもない。
 が、終盤の展開には結構、驚かされた。もちろんここでは詳しくは書けないが、最終的な真相に至るまで、ある種の工夫と趣向を盛り込もうという意欲は存分に感じる。
 当時、ライスの名前を念頭に浮かべないで、素で異色作家の風俗ミステリとして読んだ人はフーダニットパズラーとしての予想外の歯ごたえにびっくりしたろうなあ。まあ最終的な仕上がりとしては(中略)という弱点もないではないのだが。

 例によって人物メモをとりながら読了したが、それでも二日に分けて読むと前半からの細かいところを結構忘れちゃいそうなところもあったので、なんとか頑張って徹夜して一晩で読み終えた。それに耐えられるくらいには最後まで面白い、というか、最後の方でさらにまたオモシロクなる。おかげで現在、一眠りして起きたところでもまだ軽く眠い。

 前述の邦枝解説によると第二作(『ママ』)はカーター・ブラウン的な面白さ、とも語られており、それを聞くとまたさらに楽しみ。せっかくちゃんと順番通り読めるのだから、そのうちそっちも手にしてみよう。

【2021年10月17日19時追記】
 本サイトの『消えた目撃者』(ガードナー)の弾十六さんのレビューをたまたま見ていたら、その追記で邦枝輝夫の正体はあの田中潤司だと御教示いただいた。なんか色々と腑に落ちる。ありがとうございます。

【2022年1月26日追記】
 昨日の新情報で「奇想天外の本棚」は無事に再開。本作『Gストリング殺人事件』の改訳もちゃんと刊行予定とのこと。失礼いたしました。


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ジプシー・ローズ・リー
2022年10月
Gストリング殺人事件
平均:6.00 / 書評数:2