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[ 時代・歴史ミステリ ] シャルル九世年代記 |
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プロスペル・メリメ | 出版月: 1971年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
中央公論社 1971年01月 |
岩波書店 1988年01月 |
No.1 | 7点 | 雪 | 2021/04/24 12:52 |
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フランス中短編の名手プロスペル・メリメ唯一の長篇歴史小説。一八二八年の六月ごろからおよそ半年の間に執筆され、翌一八二九年三月五日に刊行された。一五七二年八月二十四日の正夜半パリで起きた聖バルテルミーの大虐殺(カトリックによるプロテスタントの大量殺戮)と、それに続く南仏最大のプロテスタント陣営根拠地ラ・ロシェルの都市攻囲戦を主題とする。
一八一六年以降のフランスでは、スコットランド出身の英作家ウォルター・スコットの歴史作品「ウェイヴァリ小説」が続々と仏語に訳されて人気を博しており、これに刺激されたフランスの作家たちも、競って自国の歴史にドラマチックな題材を求めた。ヴィクトル・ユゴー『アイスランドのハン』、(1823、邦訳名『氷島奇談』)アレクサンドル・デュマ・ペール(大デュマ)の戯曲『アンリ三世とその宮廷』(1829)等がそれである。 これはナポレオン戦争(1799~1815)の最終的な敗北を受けての流れであり、根底に勝者イギリスへの複雑な感情があることは想像に難くない。あえてそれに反し、フランス直近の激動を描いたのがオノレ・ド・バルザックの『ふくろう党』(1829)であり、その透徹した視線を当時の現実社会に向けたのが膨大な作品群『人間喜劇』。さらにシリーズ全体の背骨となるヴォートラン三部作(『ゴリオ爺さん』『幻滅』『浮かれ女盛衰記』)は、近代フランス文学の大いなる礎石となった。バルザックほど尖ってはいないがメリメの本書も単なる歴史物に留まらず、「読者と作者の対話」なる第八章や全篇の締め括り方など、のちの大成を予感させる遊びが散見される。 物語の骨子はカトリックとプロテスタントとに劃たれ、時代の流れに翻弄されるジョルジュ、ベルナールのメルジ兄弟の悲劇、これに宮廷一の美女、伯爵未亡人ディアーヌ・ド・チュルジスとの恋愛模様や、ベルナールに嫉妬する剣戟の名手コマンジュとの決闘沙汰などが絡む。チャンバラシーンなど意外に達者で楽しめるが、〈今や残忍であることが慈悲であり、慈悲深いことは残忍である〉とのセリフで知られる虐殺シーン以後は、活劇風に進んできたストーリーの色調もとたんに変わる。 王シャルルや母后カトリーヌ・ド・メディシス、後のアンリ三世や四世といった大立物の登場を最小限に抑え、〈三アンリの戦い〉すらカットし無名の人々の物語として完結させたのは作者の見識だろうが、娯楽作品としてみると後半やや物足りないか。メリメらしくシンプルかつ格調高い文章だが、そういう訳で採点はギリ7点。 |