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ガラスの檻
コリン・ウィルソン 出版月: 1967年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
1967年01月

No.1 7点 人並由真 2021/02/14 06:40
(ネタバレなし)
 1964年のロンドン。死体を無残に損壊する9件の連続殺人が生じ、そのうち数件の事件関連現場に、18~19世紀の詩人ウィリアム・ブレイクの詩句が書き残されていた。これに着目した部長刑事ランドは、田舎に在住の青年学者で、英国随一のブレイク研究家デイモン・リードを訪問。異常なブレイク愛好家の情報などを求めるが、成果はなかった。そのあと、年上の友人ユリアン・ルイスと、その姪で自分の恋人である美少女サラと会ったリードは、彼自身がロンドンに赴き、学識を活かして事件の捜査をしようと考えを固めた。リードはその事前準備として、村に住む「魔法使い」こと超能力者の老人ジョージ・ビッキンギルに、以前に自分のもとに送られてきたブレイク愛好家の私信を手渡し、この差出人の中に殺人者がいるかと尋ねた。そして老人は、一通の手紙を指し示す。

 1967年の英国作品。
 ……なに、このオカルト要素(超能力者の老人の託宣)をスパイス程度に効かせながら、じわりじわりとテンションを高めていくスターティングの作劇。
 これはもうキングかクーンツか、F・P・ウィルソンじゃないの! という感じで、予期していなかった序盤の面白さに顎が外れた(笑)。

 いやまあ、掴み所のない才人コリン・ウィルソンの浮き名はこれまでいろんなところで聞き及んではいたが、短編はともかく長編を読むのはコレが初めて。
 例によって積ん読の蔵書の山の中から、大昔にどっかで買った本書(帯付きで500円の古書)が出てきたので、どんなだろ~と紐解いてみたら、これが実にオモシロイ。
 インテリの作品だから晦渋な文体かと思いきや、ダイアローグは多用されてるわ、下世話だけど微笑ましいセックスネタは豊富だわ、リーダビリティは最強クラス(中村保男の翻訳も読みやすい)。何よりストーリーをサクサク進めることを惜しまない攻めの作劇が強烈で、これはとんでもない掘り出し物に出会えたか!? とさえ思った(なにしろ本サイトでもAmazonでも、現時点でこの作品のレビューなんか皆無だし)。

 ただまあ、中盤から、通例のミステリの組み立てとしては明らかにオフビートなことをしてくるので、その辺でスナオには褒めにくくなってくる(もちろん詳しくも、具体的にも言えないが)。
 いや、たとえるなら、ナイター観戦していたら、打者がいきなりバッターボックスでアイスホッケーのクラブを構えて、ポカーンとする観客をヨソに、なぜかそのまま真顔でヒット。平然と、三塁まで進んでしまうような展開なので。
 ここで怒る人はかなり多そうだけど、まあ評者は割となんでもありな方なのでOK(笑)。前半の勢いは堅守したまま、ややあらぬ方向に突っ走るマイペースな後半も、これはこれで楽しんだりする。
 ただし評点はさすがに下げるよ。序盤からの面白さに見合った<ミステリとしての後半~全体の完成度>だったら9点は間違いなし、だったけど。8点にかなり近い、でもやっぱ8点まんまはあげられない、ということで7点。
(しかし、これ一作でものを言うのはナンだが、結局、ウィルソンってミステリが好きな割に、実はミステリがわかってないんじゃないか、とも思ったりした。)

 それでも全体としては十分に、読んで良かった、オモシロかった一冊(嬉)。
 そのうちまた、楽しめそうなウィルソン作品をなんか手にとってみよう。


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コリン・ウィルソン
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