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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
西欧の眼の下に
別題「西欧人の眼に」
ジョゼフ・コンラッド 出版月: 1970年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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集英社
1970年01月

集英社
1981年04月

北星堂書店
1989年01月

岩波書店
1998年12月

No.1 6点 クリスティ再読 2021/02/13 15:33
コンラッドというと、スパイ小説の源流にされる作家でもあるので、本サイトの対象に一応、なると思う。名前はいかにものイギリス人の名前なんだけども、実はこの作家、帝政ロシアの統治下のポーランドで生まれ、両親の反露運動のために北ロシアに一緒に流刑になって、成人したら船乗りになり世界を回って、最終的にイギリスに帰化してイギリスで小説家として活動する...となかなか数奇な前半生をひっさげて作家になった人物である。

というわけで、この小説、「英語で書かれたロシア文学」というカラーがあるのが面白いところ。主人公はペテルブルグの大学生だが、革命派のテロ華やかりし時代、ある日下宿に帰ってみると、顔見知りの学生ハルディンが部屋にいる。今学生運動を弾圧する大臣を爆弾テロで殺してきたところだった...主人公ラズーモフは実は出世主義者で学生運動とは一線を画していたのだが、寡黙なキャラから過激派学生の間では「自分たちの同情者で頼りになる人物」と誤解されていたのだった。逃亡の手助けを頼まれたラズーモフは、警察にこの件を届け出てハルディン逮捕に協力してしまう...しかし、この件でラズーモフの運命は狂わされる。ジュネーブの亡命者たちの間でたくらまれる陰謀を調べるためのスパイとして、当局から派遣されることになったのだ。「英雄ハルディンの同志」という虚偽の肩書の威光だけでなく、このラズーモフの斜に構えた冷笑的なキャラが、ジュネーブでの亡命活動家たちの間でも、誤解されてもてはやされる。ハルディンの妹ナターリアとも知り合い、「兄の同志」とナターリアはラズーモフに好意を寄せる...

まあこんな話。筋立てだけだと、とってもエンタメなんだけど、実際の読み心地はこの冷笑的なラズーモフのヘンなキャラ、ジュネーブの亡命者の中心にいるピーター・イヴァーノヴィチのイカサマさ加減、ピーターが寄生する大金持ちのパトロン、ド・S―夫人の奇矯さ、「殺し屋」と異名をとるテロリストでグロテスクなニキタ、などなど、奇人変人オンパレード、というアイロニカルな話である。しかも、この話がハルディンの妹ナターリアの老英語教師の「わたし」によって、ロシアとイギリスの国民性の差を強調しつつ、相対化・客観化して語られる、という仕掛け十分の小説になっている。

なので、この小説、「罪と罰」のパロディみたいな印象を受けるのだ。ウソみたいな話だがラズーモフはナターリアへの愛に打たれてしまって、自罰的な結末を迎えるし、ポルフィーリー判事に相当しラズーモフをスパイに起用する印象的なミクーリン顧問官、さらにあからさまな超人思想は古臭い、と思うのか冷笑的な出世主義のラズーモフのキャラ。何といっても、ラズーモフは素直じゃなくて、その冷笑主義を表に出して、革命家たちを馬鹿にするのだけど、それが逆に「大物」風のポーズと周囲に取られて、一目置かれるさまが、大変馬鹿馬鹿しい。「罪と罰」というよりも「罰と罰」とでもいうみたいなばかげた不条理さを醸し出している。

でもね、ちょっとだけ「意外な真相」も最後には待っている。微妙に、ミステリ?


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